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昭和官能エレジー第22回「博打のカタに差し出された女」長月猛夫

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昭和官能エレジー第22回「博打のカタに差し出された女」長月猛夫

この官能小説は、現在50代から60代の方々の若かりし時代を舞台背景にしています。貧しかったけれど希望に満ち溢れていたあの頃、そこには切なくも妖しい男と女の物語が今よりも数多く存在しました。人と人とが巡り合う一瞬の奇跡、そこから紡がれる摩訶不思議な性の世界をお楽しみください。 編集長

【博打のカタに差し出された女】長月猛夫

「しも」

「わいもしもや」

 車座になった男たちは、座布団の上に札を投げ出して勝負からおりる。

「晃、お前はどうするんや」

 親を務める前田がいう。

「わいはおりれへんで」

 2枚の札を手にして前田を見る晃は、不敵な笑みを浮かべた。

「そうか、ほな勝負や。晃、札見せい」

「おう」

 晃は、黒枠に直線棒の組み重なった株札を披露する。

「三六のカブや」

 満面の笑みを浮かべる晃。しかし前田は鼻であしらい、自分の札を見せた。

 トランプのキングに似た札が2枚。

「悪いな。ジュンジュンや」

 それまで上機嫌だった晃は大きく口を開け、茫然と前田の出した札を見つめる。

「さ、これでお開きやな。清算しょうか」

 前田はいう。

「ま、待ってくれ。もう一勝負」

「なにいうてんねん。晃、カネあるんか」

「女に持ってこさす」

「アホぬかせ。負けのこんでる分も立て替えちゃってるやないか。その分は、どないすんねん」

「その分もふくめてや。電話借りるで」

 黒い電話の受話器を取り、ダイヤルに指を突っ込んでジリジリまわす。ツーツーっと

呼び出し音が鳴り、やがて女のかすれた甘い声が聞こえた。

「はい……」

「おう、真由美、わしや。これから前田の兄貴のとこにカネ持ってきてくれへんか」

「おカネって……。なんぼ?」

「5万……、いや7万や」

「そんなおカネ……」

「ごちゃごちゃいわんと持ってこいや! さっさとせえよ!」

 晃はそう告げると、乱暴に受話器を置いた。

 札が配られる。晃は手札を見る。晃の背後には、心配そうな表情の真由美が正座していた。

「晃、どうや?」

 前田は卑屈な笑みを浮かべてきいた。

「晃……」

 晃の手札を見て真由美はつぶやく。晃は振り向きもせずに、札を投げ出した。

「これで終わりやな」

 前田はタバコを咥えて火をつける。そして、大きく息を吸い込んで煙を吐くと、好色な目で真由美を見た。

 遅咲きのツバキのつぼみがふくらみはじめる季節。真由美は地味な臙脂のセーターに、ひざより少し短いスカートをはいている。

 手入れのされていない長い髪を一つに束ね、顔には紅も指していない。生活に疲れている様子がうかがえ、目の下にはうっすらとクマが浮かんでいた。

 それでも三十路を過ぎたばかりの肌は潤いに満ち、セーターの胸元はほどよい盛り上がりを見せている。

「ほんまにエエんか」

 前田は晃にたずねる。

「男に二言はあるかえ」

 苦虫をつぶしたような表情でうつむき、晃はボソリとつぶやいた。

 真由美は3万円しか用意できなかった。それでは、次の勝負どころか負けの分も払えない。そこで晃は提案する。前田とサシの一発勝負だ。

 勝てば、これまでの負けはチャラ。負ければ真由美を差し出す。そんな条件だった。

 だが、晃は負けた。

「ほな、遠慮なしに」

 前田は立ち上がり、真由美の手を取る。

「あ、晃……」

 立ち上がった真由美は、無駄だと思いつつも晃に助けを求める。

 晃は顔を上げることもなく、あぐらをかいて背中を丸めていた。

 ボロアパートの一室で、晃は畳の上に一升瓶を置き、湯呑に酒を入れてあおっていた。

目の前には12型の小さなテレビ。チャンネルの取っ手がはずれていて、番組を変えようと思えばペンチで挟んで左右にひねるしかない。

晃の足元には、部屋に不釣り合いなガラス製の大きな灰皿。短い吸い殻がたまっている。真由美が晃と知り合う前、知人の結婚式で引き出物としてもらったものだ。

「ただいま」

 玄関の扉が開き、疲れた様子の真由美が帰ってくる。晃は、その姿を見ようともせずに、湯呑の縁に唇を当てて酒をすすり、テレビから目を離さなかった。

 テレビはお笑い芸人のバラエティーを映している。滑稽な動きとしゃべりに、晃は腹をかかえて笑う。

「アホやなぁ。ほんま、アホの坂田はおもろいわ」

 部屋の隅には電気ストーブ。金属の柵の中で、ヒーターが真っ赤になって熱を起こしている。晃はかたわらのハイライトをとって火を着ける。真由美は、流しの前に立ってプラスチックのコップに水を入れ、一気に飲み干した。

「真由美」

 前田は吸いかけのタバコを灰皿に置き、テレビを観たまま声をかける。

「どやった」

「どうって、なにが?」

「前田の兄貴や」

 真由美は晃のとなりに腰をおろす。

「兄貴、チ×ポに真珠入れてるさかい、エゲつないやろ」

「そんなん、わかれへん」

「へえ」

 タバコを咥えて、ミリミリっと音が鳴るほど吸い込み、晃は真由美の顔を見る。

「見てないんか、兄貴のん」

「そら、見たけど」

「ごっついやろ、兄貴のチ×ポ。わいもいれたろかな、真珠」

「そんなんいれんでも」

「なんでや、あのゴリゴリしたやつでこすったら、お前も気持ちええんとちゃうんか」

 フィルター近くまで吸ったタバコをもみ消し、晃はテレビに視線を戻す。湯呑を口に運び、グビリと飲み干すと大きなゲップを吐いた。

「なあ、晃」

「ん?」

「きょうだけにしてな」

「なにを」

「博打のカタにすんのん」

「心配すんなや。きょうは運が悪かったんや」

 コマーシャルが流れる。晃は一升瓶の首をもって湯呑にそそぐ。

「最後にわいと兄貴のサシになって。で、わいはカブやったんやで。それやのに兄貴はジュンジュンや。こんなん、運が悪いとしかいわれへん」

「博打って、結局、運とちゃうのん?」

「そらそうやけどな。カブで負けるやなんて、運以上の……。なんていうんやろ」

「なあ、晃」

 真由美は決心したようにいう。

「仕事はせんでもエエ。ウチが働くさかい。そやけど、博打は……」

「なんやとぉ」

 急に晃の声色が変わる。

「わいに博打すんなっていうんか」

 晃は真由美をにらみつける。臆した真由美は、少し後ずさって言葉をつむぐ。

「し、しても、してもエエけど、おカネなくなるまで……」

「アホぬかせ! カネがなくなったら勝って取り戻すんのんが勝負やろ。お前にわいの何がわかるんじゃ!」

 晃は湯呑の中身を真由美の顔にぶちまけた。

「お前は黙ってわいのいうことだけ聞いてたらええんじゃ。ごちゃごちゃぬかすな!」

 顔から酒をしたたらせ、真由美は拭こうともせずにうつむいてしまう。

「それより真由美。兄貴になにされたんや」

「え?」

「オ×コ舐められたんか? 兄貴のチ×ポしゃぶったんか?」

「……」

「なんや、いわれへんのか。まあエエわ。なあ、真由美」

 晃は突然、真由美におおいかぶさった。

「兄貴ほどごっつないけど、わいのんでも気持ちようさせたるわ」

かすかに抵抗を示す真由美。が、男の体重には耐えられない。

あお向けに寝かされた真由美は、晃の求めを受け入れるしかなかった。

 晃は真由美を全裸にむく。そして乳房を散々もてあそんだあと、自分はズボンと下着だけを脱いだ。

「しゃぶれ」

 あぐらをかいた晃は、真由美に命じた。

 よろよろと身を起こし、前かがみになった真由美は、力のこもらない一物に舌をはわせる。先を舐り、カリを探って茎をなぞる。

 やがて晃の男根に血液が充満しはじめると、真由美は大きく唇を開いて呑み込んだ。

 晃は真由美の髪をほどく。はらりと絹糸のように乱れ、真由美の顔面が隠れてしまう。

 そんな髪の毛をかきあげ、晃は自分をほお張る真由美の表情を見つめる。そして、真由美の頭に手を置き、股間に顔面を押しつけた。

「んぐ……、うん……」

 喉の奥に達する突き入れに、真由美はえずいてしまった。それでも晃は力をゆるめず、真由美の頭を前後に揺らす。

 乱暴な抜き差しに、よだれがあふれてしたたり落ちる。息が苦しくなり、目から涙がこぼれても、晃は許そうとしない。

「ああ、ええわ。舌がええあんばいに絡んでくる」

 晃は根元まで突っ込んで、真由美の頭を左右に回転させた。

 口の中で肉棒が膨張し、口腔をかきまぜる。上あごに先走り汁が付着し、内ほほの粘膜が包皮でこすり取られる。

 晃の動きが激しくなる。乱暴な抜き差しで、ぢゅぼぢゅぽと摩擦の音がひびく。唇がまくれ、唾液があふれてこぼれ落ちた。

「あ、出る」

 晃は射精した。数回に分かれて、勢いのある精子がそそぎこまれる。

 真由美の頭は押さえつけられたままだ。苦い粘液が口の中にたまり、食道を伝って胃の中に落ちる。

 晃が抜き取られたとき、真由美はケホケホとせき込んでしまった。咳と一緒に、ツバと晃の残り汁が畳の上に落ちた。

「あああん、あきら、あきらぁ」

 晃の上に馬乗りになり、背中を弓ぞりにして真由美は喘ぐ。しなやかな白い肢体が舞い、漆黒の髪が部屋に充満するすえた空気をかき混ぜた。

 満足な食事もとらず、酒ばかり飲んでくすんでしまった晃の身体。対照的に、真由美の肌は蜜ろうにも似た光沢を放つ。

 形よい乳房が上下に波打ち、小ぶりの臀部が前後左右に揺れる。晃の男柱で内部が攪拌され、ちゅぷちゅぷと淫らな音がひびく。

「あきらぁ、捨てんといて、ウチのこと捨てんといて」

「わかってる、わかってる」

「なんでもいうこときくさかい、ウチを一人にせんといて、一人ぼっちにせんといて」

「わかってる」

 晃は真由美の乳房に手を伸ばし、力をこめてわしづかみにした。指の食い込む力に比例し、真由美の膣圧も増す。

 窮屈なほどに締め付ける真由美の肉筒。なめらかで窮屈なこすりあげが晃を敏感にさせる。

「あん、あん、あん。あきらぁ、あきらぁ、ウチ、ウチ……」

「真由美、ええ女や、お前はええ女や」

「うれしい……、いやあん、あかん、ウチ、あん」

「真由美、わいも出すで」

「出して。あきらぁ、いっぱい、いっぱい出してぇ!」

 晃は真由美の内部に白濁の欲汁をそそぎ込む。真由美も同時に達し、身を震わせてほとばしりの感触を確認していた。

 晃の博打癖は治らず、それどころか真由美を何度もカタにしはじめる。負ければ真由美を呼び出して、カネの代わりに差し出した。

 真由美は晃に従った。

「バクチのカタに売られたんやろ。もっとあんじょうせんかえ」

「晃のためとかいいながら、しょせんは淫乱の淫売やろが」

男たちの恥辱に耐え、嘲りや侮蔑の言葉にも耐えた。

 一人だけでなく、2人、3人の相手をさせられることもあった。口に咥え、ヴァギナに突き入れられ、玩弄されても、真由美は晃のためだと思ってこらえぬいた。

 そんな日々が続いた。

ある日、仕事を終えて戻ってきた真由美は、部屋の中で晃がうつぶせになって腰を振っている姿を見る。晃の下では、裸の女がよがっていた。

「おう、帰ったんか、早かったな」

 律動を止めずに首をひねって真由美を認め、晃は声をかける。女は真由美を見て、一瞬ひるんだ様子を見せるが、晃がやめようとしないのをいいことに、ふたたび行為に没頭した。

 真由美は呆然と立ちすくんでしまった。

「もうすぐ終わるさかいな。この女はな、前田の兄貴があてごうてくれたんや。お前のバシタばっかりっていうのも風悪いさかい、ていうてな」

 晃は饒舌だった。久しぶりに真由美以外の女を抱くことが、このうえないよろこびだというような素振りだった。

 真由美は靴も脱がずに部屋に駆けあがる。晃は無心に女を攻める。鬼の形相の真由美は、ガラスの灰皿を手にして持ち上げ、満身の力で背後から晃の後頭部にたたきつけた。

 吸い殻が畳に乱れ落ちる、粉になった灰が宙を舞う。

 晃は無言で女の乳房の上に崩れ落ちた。頭からはどす黒い血が噴き出している。

「キャー!」

 悲鳴をあげた女は、ワンピースだけで身体を隠し、部屋を飛び出ていった。

 うつぶせのままの晃は、頭を血まみれにして身動きしなかった。真由美は平然とした表情で少ない荷物をバッグに詰め、無言で部屋をあとにした。

「もしもし、救急車をお願いします。場所は……」

 アパートから少し離れた公衆電話。真由美は119のダイヤルをまわして告げる。

 受話器を置いて、真由美は公衆電話の箱の中から出る。民家の生け垣に沈丁花の花が咲いていた。

春を告げる甘い匂いを嗅ぎながら、真由美は晃と暮らしていた街をあとにした。

【長月猛夫プロフィール】
1988年官能小説誌への投稿でデビュー。1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作。主な著作『ひとみ煌きの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)/『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)/『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)ほか。

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