Catch Up
キャッチアップ

この官能小説は、現在50代から60代の方々の若かりし時代を舞台背景にしています。貧しかったけれど希望に満ち溢れていたあの頃、そこには切なくも妖しい男と女の物語が今よりも数多く存在しました。人と人とが巡り合う一瞬の奇跡、そこから紡がれる摩訶不思議な性の世界をお楽しみください。 編集長
【団地妻の淫惑】長月猛夫
「あした、だんなが帰ってくるの」
加奈子はいった。
「え?」
牧村は驚いた様子で聞き返す。
「まだ2ヵ月先だって……」
「電報が届いたの。予定が変わったって」
加奈子は布団から全裸の肢体を起こし、長い髪をかき上げながらタバコを咥えた。
マッチをすっておもむろに火を着けると、ゆるく紫煙を吐き出す。
「だから、きょうでおしまい」
「そんな……」
「約束でしょ。だんなが戻ってくるまでだって」
透き通るような白い肌、子どもを産んだ経験があるとは思えないほどバランスのとれた細いスタイル。胸のふくらみはつつましやかだが、その盛り上がりは劣情をあおるのに十分な形を整えていた。
加奈子の暮らす団地の近くには小学校が隣接していた。午後4時のグラウンドからは、子どもたちの歓声が聞こえてくる。
「智彦が帰ってくるわ」
畳の上に脱ぎ散らかした衣装の中から下着を取り、加奈子は立ち上がって前屈する。長い脚を折り曲げてパンティをはき、ふたたび前かがみになってブラジャーを拾うと、肩ひもをかけてカップを乳房にあて、背中に手を回してホックをはめた。
耳の後ろに両手を当て、髪の毛をふわりとなびかせながら、加奈子は部屋のテーブルに置いた灰皿でタバコをもみ消す。
「あなたも急いで」
「う、うん」
加奈子の様子を漫然とながめていた牧村はうながされ、加奈子のワンピースと絡まりあった中から、自分の下着を拾った。
大学生の牧村は夏休みを利用し、街の中華料理店でアルバイトをしていた。おもな仕事は皿洗いと出前だ。そして牧村の初出勤の日、加奈子から出前の注文が入る。
「すいません、紅陽軒です」
加奈子の部屋に到着した牧村は、呼び鈴を押してから声をかける。しばらくしてカギの外れる音がし、ドアが開いて加奈子は姿を見せた。
そんな加奈子の姿を見て、牧村は息を呑み込んでしまった。
加奈子はネグリジェ姿だった。胸元が大きく開き、乳房の形がはっきりと見て取れる。薄衣からは素肌が透け、肩から腕までむき出しになっている。
化粧はしていないし、髪の毛も乱れている。それでも牧村は、加奈子に大人の女の魅惑を感じ取ってしまった。
「どうしたの?」
呆然とたたずみ、料理を手渡そうとしない牧村に、加奈子は怪訝な様子でたずねる。
「い、いえ」
我に返った牧村は、おかもちからチャーハンとラーメンを取り出した。
「あなた、初めて見る顔ね」
受け取った料理を部屋の中に運んでから、財布を持ってふたたび姿を見せた加奈子は牧村にたずねる。
「は、はい。きょうからのアルバイトです」
「ふ~ん」
加奈子は、まるで品定めをするかのように、牧村をじろじろとながめる。
「学生さん?」
「はい」
「大学生」
「そうです」
「そうなの、頑張ってね」
加奈子は金を手渡す。牧村が受け取る瞬間、手のひらに加奈子の指先が当たる。
「ふふふ」
加奈子は艶然とした笑みを浮かべた。牧村は背筋の震える感慨を得て、しばらくその場に立ちすくんでしまった。
その日の夜、牧村は食器を下げに加奈子の部屋をたずねる。食べ終わった食器は、ドアの前に置かれていた。
部屋の窓には明かりがともり、中から子どもの声がした。
「人妻なんだ」
牧村は、なんだかがっかりしてしまう。
子どもがいるなら夫もいるのだろう。きょう出前を頼んだのは、何らかの理由で昼食が作れなかっただけかもしれない。
「……」
牧村は食器をおかもちに入れると、しばらく白く浮かぶ窓をながめる。
「あ……、オレはなに考えてるんだ」
食器をおかもちに入れ、牧村は立ち去る。加奈子の部屋からは、夕食の甘い香りが漂っていた。
しかし次の日の昼も、加奈子から出前の注文があった。メニューは前日と同じチャーハンとラーメン。
牧村は呼び鈴を押して声をかける。現れた加奈子は袖のないワンピース姿だった。
金を受け取るとき、加奈子はやはり、牧村の手のひらに指をあてる。
「ねえ」
「はい?」
「あなたが必ず出前にきてくれるの?」
「え? は、はい……」
「ふ~ん。うふふふ」
目を細め、ゆるやかな唇の端をあげ、加奈子は意味ありげに笑う。
「お休みはいつ?」
「火曜日です」
「じゃあ、火曜日は会えないんだ」
「ええ、まあ……」
「そうなんだ」
そういい残して、加奈子はドアを閉めた。牧村は加奈子の言葉の意味が理解できず、しばらく灰色のドアを見つめてしまった。
それから毎日、加奈子は出前を頼む。そして支払いのときは、牧村の手のひらに指をあてる。そのたびに、牧村の身体にかすかな電流が走った。
加奈子はいつも、上半身の露出が多い衣装で姿を現した。肩や腕、鎖骨はむき出しで、乳房の谷間をうかがわせることもあった。
加奈子の素肌は、午後の光を浴びると艶を放つ。まるでゆで卵のようだ、とも牧村は思う。
「ねえ、火曜日に会う方法はないのかしら」
「え?」
「火曜日、お休みでしょ」
「はい」
「学校も夏休み」
「はい」
「会えないの? 毎日、お昼が出前じゃお財布が厳しいの」
いつものように出前を運んだ牧村に加奈子はいう。
「いえ、それは……」
「ダメなんだ」
「ダメっていうわけでも……」
「じゃあ、今度の火曜日、同じ時間にウチにきて」
「え!」
「この時間なら、子どもも学校だから」
上目づかいで牧村を見て、加奈子は妖しくほほ笑む。牧村は言葉を返すことができなかったが、加奈子はそのままドアを閉めた。
火曜日が訪れた。牧村は迷い悩む。
加奈子の意図することは、うすうす理解している。加奈子は大学生の牧村を誘惑している。しかし、牧村はやすやすと応じることができない。
牧村は法学部に籍を置いていた。夫のいる女性との関係が発覚すれば、慰謝料が請求される可能性もある。それが原因で離婚ともなれば、かなりの額を負担しなければならない。
とはいえ、牧村は加奈子の魅力に翻弄されていた。
半睡のまなざしにゆるく開いた唇。匂いたつ色香を放ち、惑乱のオーラで包み込む。甘くかすれた声色は脳髄を震わせ、指先が触れるだけで股間に熱が帯びはじめる。
牧村は異性を知らなかった。できることなら、加奈子のような女性から手ほどきを受けたいとも思っていた。
その願望をかなえる僥倖が、目の前に迫っている。
牧村は新しい下着に着替え、期待と不安をかかえながら加奈子の住む団地へと向かった。
「ごめんください。紅陽……」
呼び鈴を押してから、いつもの癖で店の名前をいいそうになる。それをとどめたと同時に、部屋のドアが開き加奈子があらわれた。
「きてくれたんだ」
加奈子は満面の笑みを浮かべていた。その表情はいつもと異なり、少女の雰囲気すら漂わせる愛らしさだと牧村は思ってしまう。
「さ、中に入って」
肩の部分がひもになったワンピース。乳房が盛り上がる直前まで肌が露出している。夏の熱気にあてられて、汗がじんわりとにじんでいるのがわかる。
牧村は招き入れられ、玄関口に身体を移した。加奈子は部屋の周囲をうかがいながら、静かにドアを閉めた。
全裸の加奈子があお向けに寝た牧村の上で舞い踊る。髪が乱れて乳房が揺れ、肌が紅に染まっていく。
牧村は加奈子を貫きながら、内部のぬめりを感じ取っていた。熱い蜜壺は牧村の雄棒をしっかりと包み込み、細かい肉粒と蠕動する襞で刺激を与える。
「あん、いい、すごい、若いってステキ」
白昼の光が6畳の室内に満ちている。扇風機が首を振り、冷房器具のない空間で温い風を送っている。
部屋に足を踏み入れたと同時に、加奈子は牧村に抱き着いて唇を重ねた。そのまま牧村を押し倒し、馬乗りになると自分で裸になる。
突然のことに牧村はうろたえるが、拒絶する意思は持たない。加奈子は牧村が着ていたTシャツを脱がし、覆いかぶさって胸板を舐めた。
「うん、汗のにおい。好き」
米粒ほどの乳首を交互に吸い、みぞおちから腹へ顔をおろす。そのままへその周りを舐ると、牧村のベルトを外してジーパンを脱がした。
牧村の股間は大きく膨張し、ブリーフを盛り上げる。加奈子は妖艶な笑みを浮かべて牧村を見つめ、下着に手をかけると一気にずりおろした。
「大きい、すごい」
靴下だけを残した状態で牧村は裸になる。加奈子は勃起した牧村を手に取り、舌で先端をぬぐう。
「女は知ってるの?」
「い、いいえ」
「じゃあ、わたしが初めての女。うれしい」
加奈子は牧村に視線を送りながら、唇を肉柱の先にあてる。そのまま首に力をこめると、厚みのある両唇がひろがり、牧村がすっぽりと口腔に納まった。
ほおばったまま頭を揺らさず、加奈子は舌を絡ませる。吸引を加え、頬の粘膜で覆い、サオを舐る。
それだけで牧村は、早くも頂点を察した。うごめく精子の飛び出しを必死にこらえる。だが、加奈子が首を上下させた途端、限界に達していた精液塊が暴発し、ほとばしりを放ってしまう。
「ん、んんうん……」
加奈子は牧村の全部を受け止め、のどの中に流し込んだ。
ザーメンを飲み干しても、加奈子は牧村を放さなかった。しぼみつつある牧村を咥えたまま口戯をあたえ、復活をうながす。
ほどなくして牧村は屹立を果たす。それを知った加奈子は、牧村にまたがり、自ら膣内に導く。
「すごいの、やああん、いい、すごくいい!」
一度の射精で余裕のできた牧村は、加奈子の乳房を揉み、胎内の感触を享受する。
肉筒が締まり、厚い蛇腹状の襞が牧村の節をやわらかにこする。粘膜が包皮に密着し、あふれ出た愛汁が摩擦でびちゅくちゅうと淫猥な音を立てる。
「やん、やん、すごいの。あううん、イキそう、いっちゃう」
あごをあげてのけぞりながら、加奈子はエクスタシーを訴える。
「ぼ、ボクも……」
「イクの、出ちゃうの? うん、いいわよ、いつでも出していいわよ」
「こ、このままで、ですか」
「うん、いいの、きょうは大丈夫な日だから……。やあああん、すごい、あああん、イク、イクイク。出して、中に熱いのいっぱいちょうだい!」
牧村は加奈子の中に吐き出す。注ぎ込まれる勢いに合わせ、加奈子はビクビクと身を震わせた。
休憩時間に入ったのか、小学校の校庭ではにぎやかな声が響いていた。
「智彦の声も混じってるのかな」
牧村のとなりに横たわる加奈子は、気だるい声でつぶやく。
「智彦?」
「わたしの子ども。3年生」
「そうなんですか」
「だんなは出張中。2ヵ月は戻らないわ」
加奈子は起き上がり、テーブルのタバコを手に取る。
「だから、その間だけ、楽しまない?」
「え?」
「あなた、わたしと相性がよさそう。わたしも女よ。いつまでも一人で放っとかれると、頭がおかしくなっちゃう」
煙を吐き、髪の毛をかき上げて牧村に視線を向け、加奈子はほほ笑む。
「あなたは、いや?」
「い、いえ」
「よかった。もう出前は頼まなくてもいいわね。ウチに電話がないから、公衆電話までいくのも面倒だし」
「そうなんですか」
「毎週火曜日のアバンチュール。ふふふ、楽しみ」
それから加奈子と牧村の関係は深まった。牧村は火曜日の午後になると加奈子の団地を訪ね、真昼の情事を交わす。加奈子は牧村を咥えて精液を飲み、そのあと子宮でも受け止める。
「もうやだ、あなたから離れられない」
「加奈子さん、ボクも」
「いいの、わたしみたいな人妻でもいいの?」
「いい、悔しいけど大丈夫」
「うれしい」
行為の最中に、互いの気持ちを確かめ合う。いつしか牧村は、加奈子を手放したくないという感情をいだいてしまう。
夏が終わり、秋も深まる。団地の敷地に植えられたキンモクセイから放たれる、甘い芳香が冷え始めた空気に染み込む。
「ねえ」
終わったあとの脱力した時間の中で、加奈子はつぶやいた。
「わたしと逃げて」
「え?」
「だんなが帰ってくる前に連れて逃げて」
牧村は真剣なまなざしで加奈子を見る。加奈子の目も真剣だ。
「智彦君は?」
「あの子はおばあちゃん子だから預ける。わたしの身体、あなたがいなけりゃダメみたい」
加奈子の目は潤んでいた。だが、牧村は躊躇する。
「でも……」
しばらくの沈黙ののち、牧村はそれだけを口にする。
「ウソ」
とっさに加奈子は笑みを浮かべた。
「試してみただけ。ちょっとがっかり。でも、当たり前よね」
加奈子は身を起こす。
「もうこんな時間。智彦が帰ってくるわ」
「加奈子さん……」
「また来週、楽しみにしてるわ」
その1週間後、夫の帰宅を加奈子は告げた。牧村は加奈子と別れたくない気持ちを押しこらえ、二度と団地を訪れることはなかった。
数日後、牧村は駅前で母親と子どもの親子連れを見かける。子どもは小学生くらい、母親は加奈子だった。
加奈子は子どもと手をつなぎ、楽しそうな表情を浮かべて歩く。牧村は気づかないふりをし、加奈子の横を通り過ぎようとした。
「サヨナラ」
そのとき、牧村の耳に加奈子の声が届いた。
驚いた牧村は振り返って二人を見る。加奈子と手をつないだ智彦は、母親を見あげながら笑い声をあげている。
そんな息子の様子を見おろす加奈子。彼女の視線が牧村に向けられることは、二度となかった。
- 【長月猛夫プロフィール】
- 1988年官能小説誌への投稿でデビュー。1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作。主な著作『ひとみ煌きの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)/『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)/『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)ほか。
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