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【昭和官能エレジー】第18回「仕組まれたポルノ女優――中には挿れないで」長月猛夫

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【昭和官能エレジー】第18回「仕組まれたポルノ女優――中には挿れないで」長月猛夫

この官能小説は、現在50代から60代の方々の若かりし時代を舞台背景にしています。貧しかったけれど希望に満ち溢れていたあの頃、そこには切なくも妖しい男と女の物語が今よりも数多く存在しました。人と人とが巡り合う一瞬の奇跡、そこから紡がれる摩訶不思議な性の世界をお楽しみください。 編集長

【仕組まれたポルノ女優――中には挿れないで】長月猛夫

「カーット!」

 監督の声が響く。カチンコが鳴る。ベッドの上で裸になり、男優と絡み合っていた照美は動きを止める。

 照美に駆け寄る助監督。背中にかけられたガウンをまとい、照美は前を合わせた。

「ダメだなぁ。もうちょっと何とかならないかなぁ」

 苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべ、監督の今泉は苦言を呈する。

 カメラマンはフイルムの残量を確認する。照明ほか、スタッフ全員があきれ顔だ。

「すいません」

 照美はうつむいて、小さな声で謝った。

 倉庫を間借りしたような小さなスタジオ。ラブホテル風のセットが組まれ、照明が煌々と焚かれている。そんな中で、一糸まとわぬ姿の照美は、デビュー作の撮影に挑んでいた。

そんな照美につけられたキャッチフレーズは「処女だけどポルノ女優」。事実、照美に男性経験はない。

「ちょっと休憩しようか」

 今泉はいい、助監督は照美と男優、そのほかのスタッフに休憩を告げる。照美は女性スタッフに付き添われ、スタジオの隅のスツールに座った。

「監督、この調子じゃ、予算オーバーですよ」

「けどさ、あんな表情じゃ、勃起したマラも縮んじゃうよ」

「そりゃそうですけど、ここはさ」

「オレは妥協したくねぇんだよ」

「気持ちはわかりますけど」

 今泉とカメラマンは話し合う。

撮り直しがくり返されると、それだけフィイルムの使用量が増える。限られた予算での撮影だ。できるだけコストはおさえなければならない。

照美はいたたまれない気持ちで、身を縮ませていた。

売れない劇団員の照美にポルノ女優の打診がきた。小柄で幼い顔立ちだが、胸のふくらみは大きい。そんなところに目をつけられたのだった。

70年代も終わりに差しかかると、ポルノ女優も広く認知されはじめていた。中にはポルノを足がかりにして、一般映画に出演する女優もあらわれた。売れっ子になると、アイドル並みの人気を博する女の子もいる。

「脱いだら終わり」

 そんな風潮も、影をひそめつつある時代だった。

しかし、照美は迷う。

20年間生きてきて、男性と肌を合わせるどころか、素肌をさらしたこともない。当然にように羞恥はおぼえるし、嫌悪感も否めない。

「頼む。劇団のことを思って」

 そんな照美に頭を下げたのが、劇団を主宰する影山だった。

 5年まえに小さなアングラ劇団を立ち上げた影山だったが、内情は火の車だ。公演は常に赤字で、借金ばかりが増えてく。

演目の内容はかたよったものばかり。客の入りも少なく、劇団員やスタッフへの支払いも滞っている。

 舞台女優を夢見て上京してきた照美だったが、どの劇団も相手にしてくれなかった。唯一、採用したのが影山だ。

経営能力に乏しく、経済観念もルーズな影山ではあったが、若手の育成には定評があった。影山の劇団から巣立ち、活躍する俳優・女優も多くいる。ただし、すべてが影山との確執で離れていったものばかりだ。

残ったのは照美のような、満足に演技もこなせない役者の卵ばかりだった。

「照美がさ、売れっ子になってくれればウチの評判も上がる。そうなればさ、客の入りもよくなる。頼むよ、助けると思って」

 売れっ子、評判。影山の口から、そんな言葉を聞くとは思ってもみなかった。

 拝金主義、商業主義を何よりもきらっていた影山だ。そのために役者たちと口論になり、多くが袂を分かつ。

 カネの苦労が、いまごろになって身に染みてきたのだろう。照美は思う。それに、多少なりとも演技というものを身に着けてもらった恩もある。

「わかりました」

 照美は承諾する。その時に見せた、影山の野卑な笑みが忘れられない。

 結局、照美たちの撮影は2時間の中断となる。スタッフはいったん散会し、照美も控室へ向かおうとした。

「大丈夫だよ、照美ちゃん。そんなに気にしないで」

 声をかけてきたのは、絡みの相手である男優の中井だ。

「だれだって初めての時は、こんなもんだよ」

 やさしげなほほ笑みを浮かべる中井。照美は、そんな表情を見あげながら、ある決心をする。

「中井さん」

「ん?」

「相談があるんですけど」

「なに?」

 照美は周囲を気にする。その様子を見て、中井はいう。

「ここじゃ、話しづらい?」

 うなずく照美。

「じゃあ、控室で聞くよ」

 中井は照美を連れてスタジオを出る。その様子を今泉は目で追い、軽くうなずいた。

「正直におっしゃってください。わたしって、どうですか?」

 二人きりの控室で、照美は切り出す。

「どうって……、照美ちゃんはかわいいし、スタイルもいいし」

「そんな外見的なことじゃありません。わたしの演技はどうですか?」

 照美も中井も、素肌の上にガウンを羽織っただけ。互いに前張りはつけているも、全裸に近い状態だ。

 中井はガウンの襟元からうかがえる、照美の胸の谷間をながめつつ答える。

「正直にいっていい?」

「はい」

「やっぱり、セックスを知らないっていうのがネックかな」

「そうですか……」

「表情だって、まるで苦しんでいるだけみたいだし、身体のねじり方、声の出し方。映画だから多少のオーバーアクションは必要だけど、なんていうかな、リアリティに欠けるっていうか」

 照美は黙ってしまう。

「え、でもさ、バージンのポルノ女優が売りなんだろ。そこのところは、客も多少は……」

「いやです。そんなの」

 中井をまっすぐに見つめ、照美は毅然と言い放った。

「同情、妥協、そんなのいやです。それに、監督さんやスタッフの皆さんにも迷惑をかけてるし」

「それは……」

「知れば、きちんとした女の表情が出せるでしょうか」

「知る?」

「そうです」

「バージンじゃ、なくなるっていうの?」

「はい」

「でも、それ照美ちゃんに処女性を求めてる客をだますことになるんじゃないの?」

 指摘を受けて照美は言葉をなくしてしまう。その様子を見て、中井は薄い笑みを浮かべた。

「まあ、でも、多少は虚飾も必要かな、この世界は」

 照美は中井を見つめる。

「二人だけの秘密ってことで」

「二人だけ……」

「そう、照美ちゃんとボクの二人だけ」

 照美はつばをのむ。中井は品のない笑みを浮かべて立ちあがり、控室のドアのカギをかけた。

「ボクもさ、この仕事長いから、テクニックはあるつもりだよ」

「え、ちょっと、あの……」

 照美は動揺をあからさまにする。

「どうしたの?」

「いま、ここで、ですか……?」

「そうだよ。ホテルなんかに行っちゃあ、どこでだれにばれるかもわからない」

「でも」

「大丈夫」

 中井はガウンを脱ぐ。下半身は、使い捨ておむつのような前張りにおおわれている。それを中井は、痛みに顔をゆがませながらはぎ取った。

 照美は思わず、顔をそむけてしまった。

「ほら、ちゃんと見て」

 中井は長く垂れさがる一物を照美に示す。

「これが男なんだ。これがきみの中に入るんだ」

「……、いや」

「なにがいやなもんか。だれでもしてること」

「こんなところじゃ、いや」

「時間がないよ。2時間後には撮影再開だ」

「……」

「それとも、なに? きょうの撮影は処女のままで、次からは……、ていう考えでいたの?」

 照美はうなずいた。

「甘いな。そんな考えだから演技がおざなりになるんだ」

「甘いんでしょうか。そこまでしなくちゃ……」

「セックスを知りたいっていったのは、きみのほうだ」

「それは、次からの……」

「きょうはそれなりに済ませ、次はきちんとしよう。そんなのが許されると思ってるの?」

 中井の声が厳しくなる。それと同時に、股間の業物にゆっくりと血液が充満しはじめる。

「もう、面倒な話はやめよう」

 中井は照美に近寄り、ガウンをはぎ取る。照美は両腕で乳房を隠す。無防備な下半身に手を伸ばし、中井は照美の股間を隠していた前張りをとった。

「やめてください!」

「まずは、その口をふさいでやろう」

 中井は照美の鼻をつまんだ。呼吸が困難になった照美は口を開ける。肉厚のある唇に間に、中井はそそり立ちつつある肉棒をねじ込む。

「んん、むううん……」

 口腔で男根がふくれあがる。口いっぱいになり、歯を立てることもできない。中井は無遠慮に奥までねじ入れ、照美の頭を押さえて左右に振った。

「ん、むんん、うん」

 口内の粘膜がこすられ、奥に達する突き入れにえずきをおぼえる。先走り汁が鈴口からにじみ出て、のどの中に垂れ落ちていく。

「ようし、十分大きくなった」

 中井は臨戦状態になった自分を確認すると、照美の口から抜き取った。うつむいてケホケホとせき込む照美。中井は、そんな照美をうつぶせのまま、椅子から床に降ろす。

「やめて、やめてください!」

 照美は身をよじって懇願する。

「中には出さないから」

 そういいながら、中井は赤黒くとがった一物を照美の秘裂にあてがう。

「いや、ダメ、やめて、やめてください、お願い、お願いします、お願い!」

 照美の哀願もむなしく、中井は根元まで突き入れる。破瓜の痛みを感じながら、照美は歯を食いしばって耐えるしかなかった。

「女優さんはまだかよ!」

 焦れた様子で今泉はいう。中井は隅の椅子に座ってタバコをふかしている。

「女優さん、きました」

 助監督がいう。スタジオの入り口には、女性スタッフに抱きかかえられるようにして、ダウン姿の照美があらわれた。

 今泉は中井に目配せする。中井は笑みを浮かべてタバコをもみ消す。

「じゃあ、シーン11の続きだ。照美ちゃん、ベッドの上に」

 照美はベッドにあがり、ガウンを脱いでシーツにくるまった。

「さっきはどうも」

 にやけた表情で、となりに寝転んだ中井はいう。照美は首をねじって何も答えない。

「じゃあ、再開しまーす。5、4、3、2……」

 助監督がカチンコを打ち、カメラがまわった。

 中井はシーツを半分はぎ、たわわに実った照美の乳房を揉んだ。照美は精いっぱいの表情を浮かべ、唇から甘い息を漏らす。やがて、中井は乳房を含み下半身に手を伸ばす。

 シーツに隠れて中井の手の動きは見えない。照美は、そんな中井の動きに違和感をおぼえる。

「え……」

「撮影中だよ」

 中井はだれにも気づかれないよう耳元でささやき、照美の前張りをはがした。

「ダメ……」

 照美はか細く、あらがいの声を出す。だが、中井は台本通り、照美の両脚の間に身体を割り入れ、腰を股間に押しつけた。

「そうだ、そのまま挿れてしまえ」

 今泉はつぶやく。

 中井は生身の一物を、照美の膣内へ押し込んだ。

「あ……」

 さっきほどの痛みは感じない。狭い肉筒が押し広げられ、ずにゅうとした侵入の感触が伝わる。

「いや、あ……」

 中井はゆっくりと抜き差しをはじめた。

「いいぞ、いい顔だ」

 カメラマンも思わずつぶやく。

 中井の動きは早くなる。照美はどうすることもできず、身をゆだねる。ずりゅずちゅと蜜のこすれる音がひびく。照美は背中をそらし、つらぬきの感慨に耐えた。

「違う、こんなの……、やん、約束が……」

「撮影中に、よけいなことはいわない」

 中井は夢中になって抽送をくりかえす。

 まだ、男を迎え入れて2回目の淫穴が男柱を締めつける。膣襞が蠕動しながらまとわりつき、熱をもっておおいつくす。

「いや、ああああん、こんなの、ダメ」

「いいよ、ああ、気持ちいい、出そうだよ」

「ダメダメ、やん、それは……」

「ああ、出る、イキそうだ」

 中井は今泉の表情をうかがった。今泉は静かにうなずく。

「出すよ。このまま」

「やだ、赤ちゃんできちゃう」

「出すよ、出す……」

 照美の身体が伸縮する。胸乳が大きく揺れ、薄紅に染まった肌から汗が噴き出す。

 中井は照美のもっとも奥まった部分に到達させ、子宮の口に向かって白濁の精液をぶちまけたのだった。

「いい女優さんになると思ったなんだけどな」

 映画会社の担当者はいう。

「すいません。まさか逃げ出すだなんて」

 影山はぺこぺこと頭を下げる。

「今回の撮影分は払うけどさ、今度、こんなことあったら、契約違反だからな」

「すいません。けど、お宅の監督さんにも責任あるんですよ。本番どころから、中に出させるだなんて」

「そりゃそうだ。だから、今回の分は黙って支払うんだよ。今度はさ、多少のことなら平気な、肝の座った女の子、頼むよ」

「承知です。団員の中から見つくろっておきます」

 封筒を手渡された影山は、慇懃に受け取って中身をたしかめる。

「これで、団員に少しは……」

「ウソつけ。借金の返済にまわすんだろ」

 卑下た笑みを浮かべる影山。封筒を着古したジャケットのポケットに押し込み、その場から立ち去った。

【長月猛夫プロフィール】
1988年官能小説誌への投稿でデビュー。1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作。主な著作『ひとみ煌きの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)/『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)/『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)ほか。

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