Catch Up
キャッチアップ
この官能小説は、現在50代から60代の方々の若かりし時代を舞台背景にしています。貧しかったけれど希望に満ち溢れていたあの頃、そこには切なくも妖しい男と女の物語が今よりも数多く存在しました。人と人とが巡り合う一瞬の奇跡、そこから紡がれる摩訶不思議な性の世界をお楽しみください。 編集長
【凌辱されたタバコ屋の女子大生】長月猛夫
「ショートホープください」
康夫はタバコ屋の店先でいう。
「はい」
奈美子は康夫に長方形の箱を手渡す。握りしめていた100円玉を康夫は奈美子に渡し、お釣りをもらった。
「お使い? 偉いね」
店の窓から身体を乗り出し、まだ背の低い康夫を奈美子はのぞき込む。康夫はかすかな緊張をおぼえながら、奈美子を見あげた。
いつもなら、店には老婆が不愛想に座っているはずだった。康夫が声をかけても返事をすることもなく、黙ってカウンターの上にタバコを置くだけの老婆が。
だが、その日は違った。見たこともない20代前半くらいの女性が、にこやかに対応してくれる。
伸びた素直な髪を一つに束ね、背中の中ほどまで垂らしている。薄手のセーターの胸元は大きく盛り上がり、カウンターの上で組んだ腕の上に乗っている。
目は切れ長で鼻筋が通り、小さな唇には厚みがある。肌の色は白く清楚な趣だが、ほのかな色香も感じられる。
目を細めて視線を送る奈美子を、康夫はしばらくながめていた。その時、店の奥に置かれた黒電話がジリジリとベルを鳴らす。
「あ」
奈美子は小さな声をあげて電話に近寄り、受話器をあげて耳にあてた。
「はい、はい、はい……。いえ、おばあちゃんは病院に。はい、わたしは孫の……、そうです、代わりに店番を。はい、帰りましたら折り返し電話入れさせます」
両手で受話器をかかえながら、奈美子は何度か頭を下げて話す。康夫はそんな奈美子の表情をしばらく眺め、やがてそっとその場を離れた。
「おう、康夫、タバコ買うて来てくれたか」
康夫の父親、浩司は声をかける。
「うん」
康夫はショートホープと釣りを出した。
「ご苦労さん」
受け取った浩司は早速封を開け、1本取り出してフィルターを咥える。マッチで火を着けミリミリと音が鳴るほど吸い込むと、白い煙をゆらゆらと吐き出した。
康夫は立ちつくして、そんな父親の姿を見た。
ちゃぶ台の上にはプラスチックのコップと皿にのせられたキムチが置かれている。畳の上には一升瓶。まだ日も高いというのに、浩司は泥酔していた。
休みの日は、こうして昼間から飲んでいる。とはいえ、仕事といっても日雇いの土木作業を気が向いた時だけ行うだけ。足りない生活費は生活保護でまかなっている。
そんな浩司に愛想をつかし、母親は2年前に家を出た。康夫がまだ、小学校3年の時だった。
「なんや、なんか用あるんか」
呆然と立っている康夫に浩司はいう。
「お駄賃」
「え?」
「お駄賃ちょうだいや。タバコ買いに行ったら20円くれるっていうたやん」
「なんや、おぼえとったんかいな。しゃあないのお」
浩司は畳の上に10円玉2枚を放り投げる。康夫はそれを拾い、家の外へ駆け出して行った。
駄菓子屋で20円分のお菓子を買い、紙の袋に入れてもらって康夫は空地へ行く。秋も深まった季節。風が吹くと、冷気が康夫の薄いシャツを通り抜け、身体の芯を凍えさせる。
空地の隅にしゃがみ、康夫はお菓子を手づかみで食べようとした。すると、どこからともなく一匹の野良犬が近づいてくる。野良犬は鼻を鳴らし、悲しそうな目つきで康夫を見る。
「あかんで、これボクのぶんやで」
野良犬に人間の言葉はわからない。康夫は身をよじって逃れようとするが、野良犬は執拗に鼻先を近づける。
「もう、しゃあないな」
袋の中から半分を地面に置く。野良犬は口を近づけ、がつがつと食べるがすぐになくなり、ふたたび康夫を見あげる。
「あかんて、ボクのぶんなくなるやん」
そのとき、空地の前を奈美子が通り過ぎようとした。だが、奈美子は康夫を見つけて足を止める。
「ボク、なにしてんのん?」
奈美子の声に、自分のお菓子を守ろうとして野良犬を追い払っていた康夫は動きを止める。
「あ、タバコ屋の……」
そのすきに、野良犬は康夫の袋を咥えて逃げていった。
「こんなとこで、一人でなにしてんのん?」
「べ、別に……」
「お家は?」
康夫は自宅の方向を指さす。
「そういえば、名前まだやったね。ウチは奈美子、伊藤奈美子」
「ボクは中田康夫」
「康夫くんっていうんや」
奈美子は改めて康夫の格好を見る。
食べこぼしのシミがついた薄汚れたシャツに、ひざのすり切れたズボン。ズック靴は泥にまみれ、靴下ははいていない。
――グー…。
康夫の腹が鳴る。あわてて押さえる康夫。
「お腹空いてるんや」
康夫は目をそらして答えない。
「ちょうどええわ。ウチ、買い物しに市場までいくから、ついでになんかご馳走したげる」
「そんなん、悪い……」
「遠慮せんでええから、行こ」
奈美子は康夫の手を取り、立ち上がらせた。その冷たくて温かな感触に、康夫はやはり緊張をおぼえてしまうのだった。
市場の中のお好み焼き屋に入り、康夫は豚玉をほおばっていた。
「おいしい?」
奈美子の問いに、康夫は満面の笑みでうなずく。
「康夫くん、お母さんは?」
「おれへん、どっか行った」
「そうなん……。ごめんな、いらんこと聞いて」
「ううん、別にかめへん」
「家にはだれが?」
「お父ちゃん」
「二人暮らし?」
「そう」
「タバコはお父さんのお使いなんや」
「そう」
「お父さん、きょうはお休み?」
「そうみたい。よう知らんけど」
「知らん?」
「仕事いうても、いったりいけへんかったり。たまに役所の人が家にきて、仕事いってるかどうか聞いてる」
康夫の話で、奈美子は家の事情を察した。
「ご飯はお父さんが?」
「ううん、自分でつくる」
「えらいなぁ、料理できるんや」
「料理みたいなんようせん。キャベツ買うてきて塩かけたり、駄菓子屋で関東だきのあまり買うたりしてる」
奈美子は言葉を失う。康夫は話しながら食べ、全部を平らげた。
「なんか幸せや。お腹がいっぱいになってよろこんでる」
「康夫くん」
「なに?」
空地の時と違い、康夫の顔は溌溂としている。
「きょう、ウチとこでご飯食べよか」
「え、ええのん?」
「お父さんには内緒やで」
「うん、お姉ちゃんありがとう!」
明るい表情で笑顔を見せる康夫。その様子を見て、奈美子はいたたまれない気持ちをいだいてしまったのだった。
「きょうはありがとう。おいしかった」
奈美子の家で食事をとった康夫は、ぺこりと頭をさげて礼をいう。
「気にせんでええから。お腹すいたら、これからもウチにきてくれてええからね」
康夫の自宅まで送ってきた奈美子は告げる。
「ホンマ! やった!」
康夫は小躍りしてよろこびを表現した。
「ほな、また」
「うん、お姉ちゃんありがとう!」
奈美子は帰途につこうとする。康夫はその姿を、いつまでも見送っていた。
「ただいま」
いつもより弾んだ声で康夫はいう。その声に、酔って眠っていた浩司が目をさます。
「康夫か、こんな時間までどこ行ってたんや」
「え? 別に」
「別にやあるかえ。心配するやないか」
身を起こすと、浩司はすぐにコップに酒をつぐ。だが、つぎ終わる前に瓶の中身が空になる。
「なんや、もう終わりか。おえ、康夫」
「なに?」
二人の住む長屋は玄関すぐの六畳と奥の四畳半の二間だけ。康夫は自分にあてがわれた奥の部屋に行こうとしていた。
「酒買うてきて」
「こんな時間に酒屋、閉まってる」
「表の雨戸たたいて開けてもらえ。浩司の息子やっていうたら開けてくれる」
「お金は?」
「置いといてもらえ」
「前のぶんも、その前のぶんも払ろてないやん」
「やまかしわ!」
康夫の口ごたえに激高した浩司は、中身を飲み干したコップを投げつけた。
「なにを偉そうな口ほざいてるんじゃ! 親に言われたら、黙ってさっさと行ってこい!」
浩司の剣幕に、康夫は家を飛び出る。そのまま酒屋へ行き、父親にいわれた通り閉じられた雨戸をたたいた。
次の日、奈美子が店番をするタバコ屋を康夫は訪れた。
「ショートホープください」
康夫は告げる。
「康夫くん、きょうもお使い?」
「うん」
「学校は?」
「お父ちゃんがいかんでええていうた」
「お父さん、きょうもお休み?」
「そうみたい」
奈美子の表情が曇る。
奈美子は大学の教育学部に籍を置いていた。四回生で教育実習も済ませ、すでに単位も取り終えている。
そんなとき、祖母が倒れた。幸いにも軽症で、2、3日入院して店に復帰。だが、毎日通院する必要があるため、時間に余裕のある奈美子が店番を買って出た。
つまり、奈美子は教師の卵である。子どもが好きで、この道を選んだ。
「奈美子、交代しよか」
奈美子の祖母が店の奥から声をかけた。
「うん、おばあちゃん」
少し腰の曲がった老婆が姿をあらわし康夫を見る。
「あんた、中田の浩司とこの息子やろ」
老婆はいう。
「うん」
「浩司、また仕事もせんと昼間から酒飲んでるんか。ほんま、しゃあないやつやな」
「おばあちゃん、この子のお父さん知ってんの?」
「しってるも知らんも、この辺で有名や。むかしから手のつけられへんやんちゃで、何回か警察の世話にもなってる。いっときは極道と杯交わしたとかいうてたけど、しのぎでけんと破門になった」
父親の過去を耳にし、康夫は唇をかんでうつむいてしまった。
「唯一、あの男のえらいとこはヒロポンに手ぇ出せへんかったことくらいや。同じ値段やったらポンより量の多い酒のほうがええていうてな」
「おばあちゃん、ちょっと出かけてくる」
「どこいくんや?」
「ちょっと。なあ康夫くん」
「なに」
「家いこ」
「え?」
奈美子は表に出て、康夫の手を取る。
「奈美子、浩司とこ行くんやったらやめときや。あんな男のとこ行ったら、何されるかわかれへんで!」
老婆は奈美子を引き留めようとする。しかし、奈美子は振り返りもせずに、康夫といっしょにズンズン歩いていった。
「なんやねんあんた、いきなり家に押しかけてきて」
赤黒い顔をした浩司は、あぐらをかいていう。
「ですから、康夫くんを学校へ行かせてくださいってお願いしてるんです」
浩司の向かいで正座した奈美子は訴える。
「学校だけじゃない、ちゃんとご飯も食べさせて、服もきれいなものを着せて……。親としての務めを果たしてください」
「学校にいく、いけへんはこいつの勝手や。飯も食わせてるがな。服は、まあ、買う金ないし」
「お父さんが、ちゃんと仕事をすれば」
「仕事はしてるがな。最近、あぶれてるだけや」
奈美子の後ろで、康夫はひざをかかえて様子をうかがっていた。その日の奈美子は、ブラウスにひざ丈のスカート姿。奈美子の背中をながめ、康夫は腰から尻にかけての曲線を見つめる。
「だいたいやなぁ、あんたなんの権利があってオレに文句いいにきてるねん」
「わたしは来年から教師になるつもりです。直接、康夫くんにかかわる身分ではありませんが、放っておけなくて」
「意味がわからん」
義憤に駆られる奈美子を尻目にして、浩司はコップに酒をつごうとする。
「人が話をしているときに飲まないでください!」
奈美子は浩司からコップを取り上げようとした。その拍子に酒がこぼれ、浩司の下半身を濡らしてしまう。
「なにすんねん、このクソボケ!」
浩司は奈美子を突き飛ばした。その勢いに、奈美子は畳の上に転がってしまう。
「おとなしいに聞いてたら、ええ気になりやがって」
浩司は立ち上がって奈美子を見つめる。奈美子のスカートはまくれあがり、太ももがあらわになっている。それを見て、浩司の目の色が変わった。
「あんた、ええ身体してるやないけ。脚もきれいやし、乳もでかい」
「え……」
「オレもな、長い間、ご無沙汰やさかいたまってるねん」
浩司の目がらんらんと輝きはじめる。口角をあげて品のない笑みを浮かべ、奈美子に迫っていく。
「や、やめて、子どもの前で」
「関係あるかえ、こいつかてオ×コして生まれたんやさかいな」
浩司は奈美子にのしかかっていく。抵抗を示す奈美子だが、男の力にはかなわない。
「お父ちゃん、なにすんねん!」
康夫は浩司を奈美子から引き離そうとした。しかし、浩司は康夫を力任せに振り払う。
「黙って見とけ。お前もそのうち、オ×コする年になるんや。親見てやりかたおぼえとけ」
上着の襟に手をかけ、力任せに広げる。奈美子は逃げ出そうとするが、浩司は馬乗りになってボタンの弾けたブラウスを脱がす。そのままシミーズをまくり上げ、ブラジャーをずらした。
「やめて! お願い、やめて!」
あらがう奈美子。浩司は乳房をわしづかみにしてしゃぶりつく。豊満な白い乳肉は、浩司の指の力でゆがみ、唾液が塗り込められていく。
浩司は奈美子のスカートをまくり、ストッキングを破ると、下着の中に手を入れた。
「オ×コ、ぐちゃぐちゃにしたらあ」
強引に指をねじこみ、攪拌する浩司。
「いやー! 痛い、痛い!」
「そんなことあるかぇ、気持ちええんやろ、な、ええんやろ」
「気持ちよくなんかない! 康夫くん、助けて。だれか呼んできて!」
康夫はうなずき、立ち上がる。
「やめとけ、康夫! そんなことしたら、あとでわかってるやろな!」
浩司は康夫をにらみつける。その目力の勢いに、康夫は身動きすることができない。
陰部をまさぐっていた浩司は奈美恵の下着をはがす。そして、自分の下半身をむき出しにすると、濡れてもいない奈美子の秘部に突き入れた。
「い、痛い!」
「なんや、あんたオボコかいな」
乱暴に腰を振る浩司。奈美子は観念したように抵抗を弱める。だが、その目は康夫に向けられていた。
「康夫くん、助けて、助けて……」
奈美子はうわごとのようにつぶやいたのだった。
哀願する奈美子。この世の中で、もっとも醜悪な存在に映る浩司。
康夫の思考は混乱をきたす。自分は何をするべきか、とも考える。
やさしさに満ちあふれ、自分をいつくしんでくれた唯一の存在。それが奈美子だった。空腹を満たしてくれ、華麗な笑顔も向けてくれた。そのうえ、頼みもしないのに自宅にきて、父親をとがめてくれる。
すべては自分のため、自分が少しでも人間らしく生きるため。
そんな奈美子が凌辱を受けている。裸にむかれ、邪悪な業物で肉体を貫かれている。
「お願い、助けて」
奈美子は涙をにじませた目で訴えた。
「うわ……、うわー!」
康夫は流しに駆け寄り、包丁を手にした。そして、奈美子に覆いかぶさって腰を振る浩司の背中に、満身の力をこめて突き刺す。
「え、て、お……」
衝撃を受けて浩司は振り向く。
「や、康夫、お前……」
包丁を突き立てたまま、浩司は奈美子から離れて寝転がる。浩司の体重から解き放たれた奈美子は、後ずさりしながら手を口に当てる。
「や、康夫くん……」
康夫はたちつくしたまま浩司を見おろし、荒い息を吐く。
「ひ、人殺し……」
目を見開いたまま意識を失った浩司を見て、奈美子は戦慄をあらわにする。
「お姉ちゃん……」
「人殺し……、い、いや、いや、いやー!」
乱れた衣装を直し、奈美子は大慌てで康夫の家から逃げ出した。
「お姉ちゃん……、助けてっていったのに。ボクが助けてあげたのに」
うつぶせになった浩司は血を流して身動きをしない。康夫は立ちすくんだまま、奈美子の残像を、いつまでも目で追っていた。
- 【長月猛夫プロフィール】
- 1988年官能小説誌への投稿でデビュー。1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作。主な著作『ひとみ煌きの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)/『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)/『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)ほか。
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