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昭和官能エレジー第8回「淫乱女との同棲生活」長月猛夫

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昭和官能エレジー第8回「淫乱女との同棲生活」長月猛夫

この官能小説は、現在50代から60代の方々の若かりし時代を舞台背景にしています。貧しかったけれど希望に満ち溢れていたあの頃、そこには切なくも妖しい男と女の物語が今よりも数多く存在しました。人と人とが巡り合う一瞬の奇跡、そこから紡がれる摩訶不思議な性の世界をお楽しみください。 編集長

【不良少女との残念な初体験】

 建付けの悪いすりガラスのはまった扉を開け、下駄箱に靴を納めて上がり框に乗る。ぎしぎしと軋む廊下を歩き、頼りない電球の光に浮かびあがる階段をのぼる。

 部屋にたどり着く途中には、共同の洗面所とタイル張りの流しにガスコンロ。パッキンがゆるんでいるのか、水道の蛇口からはポツン、ポツンと水滴がもれている。

 廊下の突き当りには、やはり共同の便所があり、そこにたどり着く前に熊田の部屋があった。昭和50年代には、ごくありきたりの下宿だ。

 熊田が部屋の戸を開けると、太井の姿があった。しかも女連れだ。

「先輩……」

「おお熊田。カギがかかってなかったから、勝手に入らせてもらったよ」

 壁一面の本棚にはずらりと法律関係の書籍が並んでいて、天井にぶらさがった裸電球が狭い空間をぼんやりと照らす。4枚と半分の畳はくすんでケバ立ち、部屋の隅ではカタカタと音を立てながら扇風機が首を振っていた。

 太井は薄いTシャツを着ていたが、下半身は裸だ。そして、むき出しになった一物をあお向けに寝た女の股間に突き刺し、激しく腰を振っている。

 女も下半身を露出させ、白いブラウスのボタンを全部はずして前をひろげている。ホックのはずされたブラジャーは、ずりあげられて鎖骨のあたりに。

結わえられた両手首は頭上にあり、口にはタオルの猿ぐつわがかまされ、かかえあげられた右足のくるぶしに白い下着が丸まっていた。

「せ、先輩……」

「おお、この女か。拾ったんだ」

「拾ったって……」

「さっきまで学校の連中と飲んでいてさ、一人で帰る途中に道端でうずくまっていたから声をかけたんだ。顔を見ると、なかなかのシャンだし乳もでかい。オレ、ムラムラしちゃってさ。けど、家に連れて帰るわけにもいかないしさ」

 話しながらも、太井は腰の動きを止めようとしない。女は苦悶の表情を浮かべつつ、猿ぐつわを肉厚のある唇でかみ締めていた。

「でも、それって犯罪」

「なにが犯罪だよ。こいつの手を取って引っ張ってもあらがわなかったし、ここにきて裸にしても抵抗しなかったし」

「けど、口と手首……」

「ああ、これか? 口はさ、声が響いちゃお前も困るだろ。下宿の連中に知られるとさ。手は挿れるときになって暴れたから……」

 頂点が間近に迫っているのか、太井の抜き差しは大きく早くなる。そのたびに女の乳房がたっぷりと揺れる。

 女の秘所からは蜜があふれ出し、ちゅぷぢゅぷとこすれ合う音がする。肌は汗に覆われ、卵の白身を塗りこめたような艶を放っている。

 扇風機がかすかな風を送っているだけで、窓も締め切った熊田の部屋は温気が充満していた。その中に、太井と女のオスとメスのにおいが混じりあい、めまいをもよおしそうになるほど濃度が高い。

 額から汗をしたたらせ、シャツを背中に張りつけた太井は、女の身体を伸縮させながら抽送をくり返す。

「あ、出る……」

 太井は女の胎内にほとばしりを放った。女は何度か身を震わせて注ぎこみを受け止める。太井が抜き取ったあと、女の肉裂からはねっとりとした精液がこぼれ落ちて畳を濡らした。

「じゃあな。あとは頼むわ」

 そういい残して太井は部屋を出た。熊田は太井を見送ったあと、脚をひろげたまま四肢をひろげて横たわる女を見た。

 年齢は30歳前後といったところか、白い肌と切れ長の目が印象的で、髪は素直に長く伸ばされている。太井のいうように胸のふくらみは大きく、それでも全体的なスタイルはスレンダーだ。

「大丈夫ですか」

 熊田は声をかけた。女はあわれみを帯びた視線を熊田に向ける。

「んん、んんん」

「あ、すいません」

 熊田は女の猿ぐつわをはずし、両手を縛っていたひももゆるめる。身体の自由を得た女は身を起こし、赤く痕のついた手首をさする。

「大丈夫ですか」

 もう一度、熊田は同じ質問をした。

「はい」

 女は、いまにも消え入るような声で答えた。

 女はブラジャーをおろそうともせず、ブラウスの前もはだけたまま。下半身むき出しの状態で両脚を折って座る。そんな姿を見て熊田は興奮を禁じえなかったが、何かを試みようとする勇気は持たなかった。

 太井は同じ高校出身の2つ先輩で、今年大学に合格して上京してきた熊田の世話を買って出てくれた。下宿を探してくれたのも太井だし、なれない一人暮らしのノウハウを教えてくれたのも太井だ。

 太井は東京に住む叔父の家で暮らしていた。そのため、生活費には余裕がある。一方の熊田は田舎からの仕送りだけが頼りだ。太井は、そんな熊田を頻繁に連れ出して東京を案内し、食事もおごる。

 豪放磊落で細かいことを気にしない太井と繊細な性格の熊田。熊田は太井に恩義を感じていたが、閉口するのは女癖の悪さだった。

 繁華街を出歩いて若い女性を見ると、必ず声をかける。飲みに出かけて女性グループを見つけると、いっしょに飲まないかと誘う。ときには、あとから姿を見せた連れの男ともめることもある。

 腕っ節も強い太井は、ケンカになっても負け知らず。ただ、警察沙汰になることもあり、そのたびに熊田は相手の男や警官に頭をさげ、学校や太井の叔父に連絡しないよう懇願した。

「熊田、女はいいぞ。かわいくって、やわらかくって、温かで。そして最高に気持ちいい。お前も早く経験しな。なんならオレが手配してやろうか」

 太井はいう。しかし、熊田はかたくなな拒絶を示す。

女性をカネで買うのははばかられたし、どこのだれかもわからない相手で初めて体験を済ますことも厭ってしまう。

「ボクはやっぱり、相思相愛の相手でないと」

「理想は結構だが、そんなこといってちゃ、いつまでたっても童貞のままだ」

 とはいえ、太井は無理強いをしなかった。

 そんな太井が街で拾ったという女。手首の痛みが引いた女は、ブラジャーをはめてブラウスのボタンを留め、脱ぎ捨てられていたスカートをはいた。

「ねえ」

「はい」

「チリ紙ないかしら」

 熊田は慌てて部屋の隅にあったチリ紙の束を差し出す。受け取った女は、数枚を股間に押し当て、自分の愛液と太井の精液をぬぐう。

「ありがとう」

 使わなかった分を熊田に返し、女はくるぶしの下着をスカートの中に納めた。

 そのまま女は出て行くものだと熊田は思っていた。しかし、女は所在なげに座ったまま、その場を動こうとしない。

「帰らないんですか?」

 熊田はたずねる。

「もう、終電も出ちゃったし」

「家は遠いんですか」

「家? そうねえ、遠いわね」

 タクシーを呼ぼうかとも考えたが、熊田にそんな金世的な余裕がない。

 扇風機が乾いた音を立てている。天井の電球に、どこからか忍び込んだ羽虫が舞っている。

 四畳半一間の狭い空間。熊田にとって女の存在は、窮屈でもあるし忌まわしくもある。

 さっき、目の前で女が犯されている光景をまじまじと見てしまった。19歳になったばかりの熊田にとっては刺激が強すぎる。興奮が熊田の神経をたかぶらせ、はやく欲情を解消したいと思っている。

 だが、熊田に女を襲う気概はない。一人になって手淫で慰めるのが関の山だ。だから一時も早く、ここから女は出て行ってほしい。そう願う。

「ねえ」

「はい」

「あなたはシないの?」

「え?」

「わたしを犯さないの?」

 女は妖しい視線を熊田に向けた。

「い、いえ、ボクは」

「意気地なしなのね。でも、そんな男の子もいいかも」

 女はそういって、畳の上に寝転んだ。そして横臥した途端、寝息を立てはじめる。

「え……」

 意外な展開に動揺しつつ、熊田は呆然と、その姿を見守るしかなかった。

 次の日、寝不足の熊田は、思考のままならない頭とだるい身体をかかえて部屋を出た。

 前の夜、部屋の中央を陣取られた熊田は、壁にもたれ、ひざをかかえて眠ろうとした。しかし、女の姿が目の前にある限り、悶々とした感情が眠気をさえぎってしまう。

 襲いかかっても、だれにとがめられるわけでもないし、女も抵抗を示さないはずだ。女の柔肌を貪り、隆々と勃起した肉棒を突き入れ、ぬるぬるした摩擦と締めつけで快感を得る。しかし、そのような形で童貞を失うのは避けたい。2回目以降はどうあれ、最初はやはり愛情のともなう交わりを持ちたい。

だが、理想とは別に劣情が湧き起こり、神経を鋭敏にする。

 我慢ができなくなると、部屋を抜け出して便所に駆け込み、自分でしごいた。妄想があまりにもリアルなので、すぐに射精し、この上ない心地よさも得た。

 冷静になって部屋に戻れば、女は変わらぬ姿で横たわっている。そして熊田は、女の衣装に隠された素肌を見知っている。そうなると、ふたたび興奮が舞い戻ってくる。

 部屋の中に女の甘いにおいが漂っていた。それを嗅ぐだけでも、熊田の精神は穏やかでなくなる。

 とうとう熊田は3回便所で射精し、その虚脱と疲労で睡魔を迎え入れる。そしてウトウトしたかと思うと朝が訪れてしまった。

 部屋を出るとき、女は眠ったままだった。熊田は起こさないよう、足音を忍ばせて廊下に出た。

「帰ってくれないかな」

 玄関でそうつぶやいてはみたものの、心のどこかに女がい続けてくれることを願ってもいた。

 教授の話がまったく頭に入らず、授業中にうたた寝までしてしまった熊田は、ふらつく足取りで下宿に戻った。はたして女はいるのか、と不安と期待をいだきながら部屋に入ると、女は所在なげに座っていた。

 安堵をおぼえた熊田は、女が食事を取っていないことに気づく。

「あの、食事は?」

「食べていない」

「お腹、空きませんか?」

「空いてる」

 女は無表情にいう。

 熊田は商店街に走り、食材を購入して戻り、つたないながらも料理をつくる。それをちゃぶ台代わりのミカン箱に並べ、女に食べるよううながした。

 よほど空腹だったのか、女は一心不乱にガツガツと料理を平らげる。そんな様子を見ていた熊田の腹が、ぐうーと音を立てた。

「あなたは食べないの?」

「ボクは」

 仕送り前ということもあり、女の食事を用意する程度しか熊田には手持ちがなかった。だが、もともと食は細いので、一食くらい抜いても大丈夫だ、と思っていたが身体は正直だ。

「ねえ」

「はい」

「いっしょに食べよ」

 言葉をつむいだ女は、初めての笑みを見せた。その表情に、それまでとは異なる印象を熊田は持ってしまう。

 通りすがりの男に身を任せ、犯されて悶える淫乱女。会ったばかりの熊田を誘い、襲われるかもしれない状況で昏睡できる不敵な性格を持っている。

 しかし、女のにこやかな笑顔を見た途端、熊田の心は揺らいでしまう。

 熊田は女と差し向かいになる。女は箸で料理をつまみ、熊田の口に運ぶ。

「おいしい? あ、あなたがつくったのに変な言いかたよね」

 女は声をあげて笑う。熊田は女の仕草と表情に、久しぶりの幸福感を知るのだった。

「あなた、名前は」

「熊田、熊田雄介」

「わたしは香織。雄介くんは大学生?」

「はい」

「だからか、難しい本がいっぱい」

 熊田は司法試験の合格を目指して大学へと進んだ。田舎の両親は、貧乏ながらも入学金や授業料、そして熊田の生活費を工面する。

恩に報いなければならない。そのためには勉学に励み、司法試験に合格し、故郷に錦を飾る必要がある。

熊田は日ごろから、そんなふうに考えていた。

「そうなの。じゃ、お勉強の邪魔しちゃ悪いわね」

「だ、大丈夫です。勉強は学校でするから。だから」

「だから?」

「出て行かないでください」

 自分でも思いもよらない言葉が口から出た。

 授業で得た知識だけで合格できるほど、司法試験は甘くない。しかし、熊田は香織と過ごす時間を選んでしまう。魅入られてしまったというのが、正直なところだ。

 それから香織との生活がはじまった。

 毎日、香織の手料理を食べ、銭湯にもいっしょに行き、寝るときはせんべい布団に並んで転がった。

 部屋にいるとき、香織はシミーズ姿で過ごした。手足が露出し、背中や胸元もあらわになる。前かがみになれば胸の谷間がはっきりと見え、むっちりとした太もももむき出しになる。

 それでも熊田は手出ししない。我慢ができなくなると便所で抜く。そして香織の素性をたずねることもない。

知らなくてもいいことを知ってしまったがために、いまの満足が失われてしまう。熊田は、それを危惧する。大切なのは現在であり未来でしかない。香織といっしょに過ごす時間が、いつまでも続いてくれればいい。

香織も過去を話すことなく、熊田を誘惑することもなく2週間が過ぎた。

 その日、熊田が大学から戻ると、部屋に太井がいた。太井だけでなく、見知らぬ男もいっしょだ。そして、四つんばいの香織が、全裸で二人の男にはさまれている。

「やあ、熊田。久しぶり」

「せ、先輩。なにを……」

「いやあ、まさかと思ったんだけど、まだ女がいたとはな。あ、彼は同級生の樫山」

 樫山と紹介された男は、口角だけをあげて会釈をした。

「熊田、カギかけないと無用心だよ」

「そんなことより、なにしてるんですか」

「樫山と飲みに行くことになってさ、どうせだから熊田も誘おうって思って下宿にきてみたら女がいたから、二人で楽しもうってことになってさ」

 太井は香織の背後から男根をねじ込んでいる。樫山は香織の頭に両手を置き、髪に指を絡ませながら口腔を汚す。

 髪が乱れ、香織の表情はうかがえない。しかし、樫山が香織の髪の毛をかきあげたとき、熊田は顔面に一物が突き刺さっている様子を見てしまう。

 唇がまくれ、よだれを垂らしながら香織は樫山を受け止めていた。頬がくぼみ、吸い込みながら舌を絡ませている。樫山が腰を振るたびに、ぢゅぽぢゅぼと音がする。

 香織はひとみを閉じてまぶたを開けようとしなかった。

 太井は丸い香織の尻タボをかかえ、ガスガスと腰を打ちつける。前後からの衝撃に香織の肢体は圧縮し、ボリュームのある胸乳がたわわに揺らぐ。

「どうせ熊田もさんざん楽しんだんだろう。オレたちも相伴させてくれよ。なあ、樫山」

「あ、ああ」

 熊田は、その場にうずくまる。香織は目を閉じたまま玩弄を受け止めている。

 筋肉質の太井と、痩せた樫山のどす黒い肉体が、純白の香織を串刺しにする。樫山が香織の胸に手を伸ばすと、わしづかみにされた乳塊が指の力でゆがむ。太井は緩急をつけることなく、単調なリズムで律動する。

 太井の一物は香織の愛蜜で濡れ、照りを放つ。樫山の業物は香織の唾液で濡れている。香織の艶美な肢体の曲線が、醜悪な圧力で波打つ。

「なあ、熊田も参加しないか」

「え?」

「いっしょに楽しもうぜ。オレたち穴兄弟だろ」

 太井が大きな声をあげて笑う。同時に樫山も卑屈な笑みを浮かべる。

「やめてください」

 熊田はいった。

「え? なに」

 太井は聞き返す。

「やめてください。帰ってください」

 声を振り絞って熊田は訴える。

「なにいってんだよ。あ、ひょっとしてお前、この女を」

「帰ってください!」

 熊田は叫んだ。

「いいよ。出したら帰るよ。けどさ、熊田、こんな淫売にほれるとろくなことないよ。目を覚ませよ」

「ああ、出る……」

 樫山が達する。香織の口の中は粘り気のある苦い液で満たされてしまう。

「もうちょっと、もうちょっとでオレも」

 太井は腰の動きを早め、香織の膣に白濁の粘液を注ぎ込んだ。

 二人分の精子を受け止め、香織はうつ伏せに倒れこむ。その姿を見た途端、熊田は太井に食ってかかる。

「帰れ! 帰ってくれ! 二度とこの部屋にくるな!」

「なんだよ。お前、だれに向かって口きいてるんだ」

「うるさい!」

 熊田は大いに殴りかかった。しかし太井はそれをかわし、逆に熊田を殴り飛ばす。

「いままでの恩も忘れやがって。さ、樫山、飲みに行こうぜ」

 服を整えた二人は、振り返りもせずに部屋を出て行った。

 熊田は前のめりになっている香織のそばで号泣した。

「か、香織さん。ゴメン、ごめんなさい」

「……、なにを謝るの」

 香織は熊田のほうへ首をかたむけていった。

「あの人がわたしを拾ってくれたから雄介くんと知り合うことができた。そうでしょ」

「けど、けど」

「それよりも」

 よろけながら香織は正座し、熊田と向かい合う。

「どうして雄介くんはわたしを抱いてくれないの? いやらしい女はきらい?」

「そんことはない」

「じゃあ、いまから抱いて」

「え?」

「それとも、汚れた女は抱けない」

 香織は悲しそうな表情で熊田を見る。熊田は香織を見つめて大きく首を横に振り、そのまま覆いかぶさって押し倒したのだった。

 香織の手ほどきで熊田は男になった。それと同時に、熊田は香織との将来を覚悟する。

「ねえ、香織さん」

 熊田は自分に半身を預けて横たわる香織にいう。

「このまま、ずっといっしょに暮らしてくれませんか?」

 香織は髪をかきあげてたずねた。

「大学は?」

「辞めます。辞めて働きます」

「司法試験は?」

「あきらめます。だから」

 熊田は香織の返事を待つ。香織は起きあがり、部屋の隅のチリ紙で部分をぬぐう。

「雄介くん、あなた勘違いしていない?」

「え?」

「二人の男に嬲られて、わたしはいやな思いをしているとでも?」

 熊田はキョトンとした目で香織を見る。

「雄介くんとのセックス、物足りない。わたしは乱暴に犯されるのが好きなの。ケダモノみたいな殿方に、メチャクチャにされるのが好きなのよ」

「そんな……」

「あなたはやさしすぎる。普通の女の子には、それでいいかもしれないけど、わたしは我慢できないの」

 香織は立ちあがり、タオルで濡れた全身をぬぐった。そして衣装を身につけ、部屋を出て行こうとする。

「香織さん、どこへ」

「さよなら」

「え」

「さよなら。あなたはきちんと大学を出て、司法試験にも受かって、立派な大人になるの。わたしみたいなアバズレのことは忘れて」

 香織は扉を開けて立ち去る。

「待って!」

 熊田は全裸のままで香織にすがりつこうとした。しかし、香織は熊田の手を振り払い、廊下に出ると急いで下宿の玄関に向かう。

「待って、待ってよ、香織さん!」

 一糸まとわぬ姿であるにもかかわらず、熊田は香織を追った。香織は振り返ることもなく街に消える。熊田は裸で道端にひざを折り、その場に突っ伏して泣き叫ぶ。

 真夏の下町に人影はなかった。青い月が夜空に浮かび、屋台のラーメン屋のチャルメラが、どこからともなく聞こえてくる。

 ゆるやかな風が湿気を運び、熊田の身体にまとわりつく。熊田は嗚咽をあげ、地面を拳でたたきながら涙をこぼし続けた。

【長月猛夫プロフィール】
1988年官能小説誌への投稿でデビュー。1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作。主な著作『ひとみ煌きの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)/『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)/『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)ほか。

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