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官能小説

【昭和官能エレジー】第5回「一人暮らしの女」

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【昭和官能エレジー】第5回「一人暮らしの女」

この官能小説は、現在50代から60代の方々の若かりし時代を舞台背景にしています。貧しかったけれど希望に満ち溢れていたあの頃、そこには切なくも妖しい男と女の物語が今よりも数多く存在しました。人と人とが巡り合う一瞬の奇跡、そこから紡がれる摩訶不思議な性の世界をお楽しみください。 編集長

「過ちへと導く一人暮らしの女」長月猛夫

 永岡の住んでいた下町に、女が一人で住んでいた。

 名前は聡子、年のころなら30代後半。肌は白く、小さな卵形をした顔には、艶っぽい唇と潤んだひとみ、ツンと上を向いた鼻がこぢんまりと納まっている。そして、高校生の永岡の身体の芯を熱くさせるグラマラスなスタイル。

 パーマのかかった黒い髪を無造作になびかせながら歩く姿を見ると、まだ女というものを知らない永岡は腰のあたりがうずき、触りもしない股間の一物に血液が充満しはじめるほどだった。

 永岡が住んでいた長屋には家ごとに畳一帖半ほどの庭が設けられ、いまにも崩れそうなトタン板や木の塀で区切られていた。長屋の裏には排水を流す溝と糞尿のくみ取りのためにしつらわれた狭い通路があり、ほかの家に忍びこんだり、のぞいたりすることもたやすかった。

 とはいえ、なんといっても下町の貧乏長屋だ。玄関にカギをかける家もなく、暑い季節は風通しがいいように扉が開け放たれている。表の道を歩くだけで他人の家の中が丸見えで、しかも、どの家にも空き巣に入って盗むものなどない。

 そんな路地裏で育った永岡は、女を知りたいけれど、どうすることもできない年ごろだった。

 売春防止法は施行されておらず、歓楽街に足を伸ばせば赤線や青線で女は買えた。だが、18歳の永岡にカネはないし、そんな場所に出かける勇気もない。蓄積した性欲は、想像力をはたらかせ、親の目を盗んでの自涜で解消するのが精一杯だった。

 若い永岡にとって、聡子は青い欲情をたぎらせるにふさわしい存在だった。とくに、薄手のアッパッパーを着て銭湯から帰ってくる姿などを見ると、劣望があおられてしまう。

 ほのかに赤く色づいた素肌にしっとりと濡れた髪、そして見事なほどの盛りあがりを誇示する乳房。

 永岡は頭の中に聡子の様子を刻み込み、家の便所に駆け込んで妄想をふくらませ、すでに大きく屹立した肉棒を激しくしごくこともしょっちゅうだった。

 風もなく、空気は静まり返り、町全体が午睡を貪っているような真夏の昼。自宅の6帖の部屋で、永岡はぼんやりと庭をながめていた。

 すると1匹のノラネコが迷い込み、ニャーと鳴く。腹が空いているのか、と思った永岡は台所に立ち、お櫃に残った冷や飯を茶碗に入れ、カツオ節を振りかける。それを手にして庭に出たところ、ネコは永岡の姿を見て逃げ出した。

「あ、こら!」

 茶碗を手にしたまま、裏の通路をのぞく。ネコは2軒先で立ち止まり、永岡を見る。永岡は足を忍ばせてネコに近づいていく。

「ほら、ご飯だよ」

 間近に迫り、ひざを折って地面に茶碗を置いた永岡だが、ネコは踵を返して姿を消した。

「なんだよ」

 茶碗を置いたまま立ちあがり、その場を離れようとした永岡は、そこが聡子の家の裏であることに気づいた。

 庭と通路は赤サビに覆われたトタンで区切られ、左側の端に勝手口がある。トタンは所々がはがれていて、すき間から中の様子をうかがうことができる。

 永岡は好奇心にあおられ、そのすき間に目を押し当てた。

 庭に面したガラス障子が開けられ、昼寝の真っ最中だった聡子の姿が見えた。部屋の隅では蚊取り線香の煙が立ちのぼり、カタカタと音を鳴らして扇風機が首を振っている。そして聡子はシミ―ズ姿のまま、後ろ向きに身体を横たえていた。

 永岡はその姿を見て、思わずつばを飲み込んでしまう。

 ムチムチッとした太もも、締まった腰、大きく丸い尻。扇風機の風でシミーズの裾が揺れている。

 その姿に興奮をおぼえた永岡は、間近で見たい欲求に駆られた。

 庭の片隅には子どもの背丈ほどの植え込みがある。あそこに隠れていれば、目をさましても見つかることはあるまい。

 そう考えた永岡は、勝手口の扉を押してみる。カギはかかっていなかったものの、立てつけが悪くてなかなか開かない。それを無理にこじ開け、忍び込んでいく。ゆっくりと歩を進め、植え込みの陰に身を隠す。

「ん、うん~ん」

 庭の闖入者に気づくこともなく、聡子は甘い声を漏らし、身悶えするように寝返りを打った。肢体が永岡の方に向き、麗しい寝顔も張り出した胸の谷間もはっきりと見て取れる。

 それだけで永岡の股間は膨張し、ズボンの中で窮屈なほどに勃起を果たした。

「うん、うう~ん」

 聡子はもう一度、身をねじった。その瞬間、シミーズの肩ひもがずれ、しかも胸もとから乳房がこぼれ落ちる。

「……!」

 永岡はあらわになった胸乳を凝視し、驚きを示す。

 光沢を放つように純白で、静脈がうっすらと浮かびあがり、腕に押さえつけられて微妙なゆがみを示す。少し色づいた小さな乳首が乳輪の中で勃起している。

 その姿を見た永岡は股間に手を伸ばし、欲求の赴くまま一物をしごいてしまう。聡子の閉じたまぶたを、赤い唇を、細い喉もとを、乳房を、白い肌を、真綿を詰めこんだような太ももを見つめながらこすり続ける。

「あ……」

 永岡はそのまま、植え込みの中にどろりとした精液を放ってしまった。

「え?」

 そのとき聡子が目をさまし、うつろな視線で永岡を見つめる。

「やばい」

 永岡はあわてて身を伏せた。けれど、聡子は何事もなかったかのように目を閉じ、ふたたび眠りに入ったのだった。

 気づかれないように庭を出たつもりの永岡だった。その夜は、聡子の寝姿と乳房の形を思い浮かべ、何度も何度も自慰をくり返した。

 次の日、永岡が道を歩いていると、前から来る聡子に出会った。永岡は、きのうのことがあるので緊張しつつ、無言ですれ違おうとする。そのとき聡子は手を伸ばし、永岡の腕をつかむ。

「あ……」

 驚いて聡子の顔を見る永岡。ワンピース姿の聡子は、艶然としたほほ笑みを浮かべていう。

「ちょっと、ウチに来てくれない?」

「え?」

「イヤとはいわせないわよ。わかってるでしょ?」

 背の低い聡子は、妖艶なひとみで長岡を見あげる。きのうのことがばれていると察した永岡は、したがうしかなかった。

 腕をつかまれたまま導かれ、永岡は聡子の家の玄関をくぐる。聡子は扉を閉め、カギをかけた。

「さ、あがって」

 うながされるまま、不安にさいなまれる永岡は部屋にあがる。

 間取りは永岡の家と同じだ。6帖の畳の上に正座した永岡は、かしこまってうつむいてしまう。聡子は裏の障子を開け、扇風機のスイッチを入れた。

 ゆるゆるとした風が漂っていく。永岡の背中に汗が伝い落ちる。

「きのう、のぞいてたでしょ」

 永岡の正面に座った聡子はいった。

「え、え~と……」

「とぼけないでね。ちゃんとわかってるから」

 永岡は言葉がつむげない。そんな永岡に聡子は、じりじりとにじり寄っていく。

「お父さんとお母さんにいいつけようかな」

「それは」

「かんべんしてほしい?」

「はい……」

「じゃあ、わたしの言うこと聞いてくれる?」

 恐縮する永岡に顔を近づけ、聡子は告げる。

「は、はい…」

「ふふ、かわいい」

 聡子はそういうと、座ったままで服を脱ぎはじめた。

 永岡は目を見開き、聡子の様子を注視する。永岡に淫靡な視線を向けつつ、聡子はワンピースを身体から抜き取る。

「どう、わたしの身体。もうすぐ40だけど、まだまだ、大丈夫だと思わない?」

「は、はい」

「女の裸、近くで見るのは初めて?」

「はい……」

 ワンピースの下は、ブラジャーとパンティしかつけていない。

「きのう、わたしの寝てる姿見て、イヤらしいことしたでしょ」

「え、いえ……」

「ウソつかなくていいのよ、知ってるから、全部」

「……、はい……」

「じゃあ、ここでやってるとこ見せて」

「え?」

「きのうと違って、きょうは起きてるわたしを見て、やって見せて」

 聡子はそういいながら、永岡のズボンのチャックをおろす。すでに永岡の肉棒は、固く頭をもたげていた。

「すごい、もうこんなに」

 一回り以上年下の男根をながめ、聡子は舌なめずりをする。

「ねえ、早くして」

「け、けど……」

「まだ刺激が足りないのかなぁ。じゃあ」

 聡子は背中に手をまわし、ブラジャーのホックをはずした。

「これでいいの? わたしのオッパイ、見たらできる?」

 聡子は胸の肉塊を両手でささえ、グルグルと揉みまわす。形がゆがむ乳房と艶然とした聡子の表情を見て、永岡はめまいを起こしそうなほどの興奮をおぼえた。

「わたしだけに、こんなに恥ずかしいことさせて。本当にお父さんとお母さんに……」

「それは……」

「じゃあ、やって見せて。おチンチンしごいて見せて」

 永岡は命じられるまま、飛び出した一物を握り締め、上下にこすりはじめる。

「そんなふうにするのね。けど、若い男の子のチンチン、なんだかスベスベしていて、おいしそう」

 聡子は自分の唇を舐めながら、永岡の陽物を見つめる。聡子の裸体と淫靡な雰囲気、そしてまとわりつく視線に興奮の増した永岡は、手の動きも早くなる。

「痛くないの? そんなに握って、強くこすって」

「はい……」

「おいしそう。ねえ、舐めてもいい?」

「え?」

「ちょっとだけ、ちょっとだけね」

 聡子は前かがみになって永岡の股座に顔をうずめ、先端をペロリっとなぞった。

「あ……」

「きゃ」

 永岡は、その感触だけでほとばしりを放ってしまう。飛び出した精液は、聡子の顔を目かけて飛び散る。

「もう、やだ……」

 だらりとしたたり落ちる粘汁。聡子はチリ紙を取り出し、丹念にぬぐった。

「すいません、ごめんなさい!」

 思わぬ失態に、永岡は土下座をして謝る。

「許さない」

 聡子は永岡をにらみながら、残されていた1枚を脱いだ。

「罰よ。わたしのココ、舐めて」

「え?」

「ほら、ココに顔を突っ込んで、舌を伸ばして舐めるの」

 永岡の前で大きく足をひろげ、聡子は指図をする。永岡は太ももの付け根にある秘部を見て、言葉をなくしてしまった。

「どうしたの?」

 すべてをさらけ出して感情がたかぶりつつある聡子は、うわずった声でたずねる。永岡は身体を近づけ、四つんばいになる。

 生まれて初めて見る女性の部分は、永岡にとって美しいと思える代物ではなかった。ぐにゃぐにゃにゆがみ、内臓が飛び出ているような錯覚すらおぼえる。こんな部分を舐めるのかと思うと、永岡は嫌悪をいだいてしまう。

「はやく、ねえはやく」

 聡子はねだる。しかたなく、永岡は勇気を振りしぼって顔をうずめる。

「あうん!」

 肉の感触が舌を伝い、ツンとしたにおいが鼻を刺す。とろりとした汁がにじみ出し、永岡はすすり取る。

「ああん、そう、それ、気持ちいい。ああん、いい、じょうず」

 聡子は永岡の頭を押さえつけてよがった。

 初めは嫌悪をおぼえていた永岡だったが、あこがれだった聡子が歓喜を示すのに気をよくし、ペチャペチャと懸命に舐め続ける。

「ああ、いい、そう、もっと、もっと舐めて!」

 股間から目線を上に向けると、聡子は乳房を握り締め、髪を振り乱して悶えていた。肌を紅潮させ、ぽってりとした唇から厚ぼったい舌をのぞかせ、悩ましげな表情を浮かべている。

「あうん、もう我慢できない。ねえ、挿れたい? わたしの中に挿れていいのよ。うんん、挿れさせてあげる、わたしの中におチンチン、挿れさせて」

 聡子は永岡を抱きかかえ、唇を重ねた。そして永岡にまたがって腰と腰を密着させると、唾液と愛液で濡れそぼった秘部に業物あてがったのだった。

「女は初めて?」

「はい」

「うれしい。わたしが初めての女になるのね」

 聡子はそういって腰をあげ、永岡のそそり立った硬直を誘導する。

「ふふふ、入った」

 ゆるく閉じた肉ビラをかき分け、膣筒の奥まで侵入を果たす。

「うん、わかる? 入ってるの、わかる?」

「は、はい」

「どう? 気持ちいい?」

「はい、すごく」

「どんなふうに?」

「温かくて、ぬるぬるしていて……」

「それと?」

「なんだか、なんだか……」

「うん、わたしもいい、気持ちいい。うん、好きに動いてみて、好きにしてみて」

 永岡はいわれたとおり、思ったままに腰を振った。

 やわらかな蛇腹となった壁が肉柱の節と絡まりあい、出し入れのたびに厚みのある刺激をあたえる。あふれる愛液やぜん動する肉襞の感触が、一部分だけでなく身体全部にまとわりついてくるような気になる。

「そう、最初はゆっくり……。あん、そう、もっと思いきり突いていいのよ。もっと奥まで」

「こ、こうですか」

「そう、うん、届いてる、届いてるのわかる?」

「は、はい」

「どんなの、どんな感じ?」

「先にコリコリしたのが」

「そう、それが子宮の入り口。ああん、こんなの久しぶり、あん、いい、気持ちいい」

 聡子は永岡の背中に腕をまわし、両脚を腰に絡みつけた。永岡は根元まで納めながら、思うがまま抽送をくり返す。

「うん、オッパイ揉んで、吸って。あん、わたしの身体、もう好きなようにしていいのよ。遠慮しないで……。ああん、好き放題にして。ああん、もっと、もっとぉ!」

 永岡は眼前でたぷたぷと揺れ惑う乳房をわしづかみにし、手のひらに吸いつく感触と、指の食い込む柔軟さを堪能する。

 乳肌にしゃぶりつけば、舌腹をなめらかな質感が伝わる。乳首を吸うと、かすかな甘味が浸透し、甘く濃厚な香りが鼻腔をくすぐる。

 下半身は湿り気のある温かさで覆いつくされていた。聡子の内部は永岡を締めつけて離そうとしない。膣厚が雄の芯を絞り、腰を回転させるとねじりが加わる。

 永岡は、せりあがってくる精子の塊を必死に堪えていた。暴発させて発射の快感を得たいという衝動と、このままいつまでも甘美な快楽に酔っていたというジレンマを得る。

「ああ、ダメだ、もう……」

「うん、イクの? 出るの? いいのよ、そのまま出していいよ」

「ああ、ああ……!」

「出して、そのままきて。うん、わたし、わたしも、わたしもぉ!」

 そのまま聡子の中に永岡は射精した。聡子は何度か体を震わせ、永岡を全部受けとめたのだった。

 その後も聡子は永岡の姿を見つけると誘惑し、家に連れ込むようになる。聡子は四十路前のうずく肉体を、若い筋肉で解消していたのだ。永岡も誘惑されたい思いが募り、用もないのに聡子の家の前をうろうろした。そして、聡子は永岡の姿を見つけると、手招きして迎え入れる。

 しかし聡子は、ある日、驚愕の事実を口にした。

「赤ちゃん、できちゃった」

 永岡は目の前が真っ白になり、ガタガタ身体が震えはじめる。

「心配しないで。迷惑はかけないから」

「でも……」

「いいの、けど、これで終わりにしましょ。この町も出て行くから」

「そんな……」

「まだ若いんだから、わたしみたいな女のこと、すぐに忘れてね」

 畳の上に座ったままの永岡は、立ち上がる聡子を見あげる。聡子は永岡の頭を抱え、額に軽く唇を押し当てた。

 告白の日の夜、聡子は荷物をまとめて町を出た。だれにも告げず、一人きりで。

 永岡が気づいたのは、その次の朝。ガランとした部屋の中でたたずむ永岡は、庭にまぎれ込んだ野良ネコを見つけた。

「ニャー」

 ネコは鳴く。永岡の目にはにじんで映る。ネコはしばらく永岡をながめていたが、やがてトタンの塀を乗り越えて姿を消した。

【長月猛夫プロフィール】
1988年官能小説誌への投稿でデビュー。1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作。主な著作『ひとみ煌きの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)/『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)/『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)ほか。

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