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昭和官能エレジー第3回「変わってしまった女との手痛い別れ」長月猛夫

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昭和官能エレジー第3回「変わってしまった女との手痛い別れ」長月猛夫

この官能小説は、現在50代から60代の方々の若かりし時代を舞台背景にしています。貧しかったけれど希望に満ち溢れていたあの頃、そこには切なくも妖しい男と女の物語が今よりも数多く存在しました。人と人とが巡り合う一瞬の奇跡、そこから紡がれる摩訶不思議な性の世界をお楽しみください。 編集長

【変わってしまった女との手痛い別れ】

 明美は、かなり淫乱な女だった。もちろん、中畑と付き合いだしたころは、そんな素振りも見せず、純情を気取っていた。

 中畑が25歳のとき、高度経済成長期も終わって、しばらくたったころだった。

 出会ったのは、中畑が当時勤めていた工場の近く。明美は大衆食堂で働いていた。

 関西の田舎から出てきたばかりの明美は19歳。あか抜けない小太りの、背の低い色黒の女だったが、笑顔が可憐で、中畑の仕事仲間の間でも評判だった。

中畑はその店にかようたびに思慕を募らせ、明美も中畑に好意をいだいた。

 偶然知った明美の誕生日に、中畑は思い切ってプレゼントをわたした。すると明美は涙を流し、中畑の胸に飛び込んだ。

それから二人の関係は深まった。

明美と中畑が懇意になったと知ると、工場の連中はやっかみはじめる。なかにはあからさまに、明美をからかう男も出はじめる。

「明美ちゃん、中畑とはどこまでやったの?」

「あいつ、ああ見えて、実はとんでもない男だぜ」

「あいつの裏の顔、教えてやろうか?」

そんな言葉で、二人の邪魔をする。

うっとうしさを感じた明美は食堂を辞めた。それと同時に、中畑たちは狭いアパートで同棲をはじめるようになった。

中畑は明美が部屋で待っていてくれることがうれしくて、残業もせず、飲みにも出かけず、仕事が終わると一目散にアパートに戻った。明美も女房気取りで夕飯をつくり、食べ終わると二人で銭湯に通う。

 中畑にとって、まさに夢のような毎日が続いた。

 それまで中畑は、女性と付き合った経験がなかった。初体験は先輩に連れて行かれたチョンの間で終えていたが、好きな相手とするのとはわけが違う。

 明美は男を知らなかった。二人が同棲をはじめて初めての夜、中畑は緊張と不安にさいなまれる明美を抱く。

「やさしいにしてね」

「うん」

挿入を果たすと明美は痛みを訴えはしたが、コトを終えると中畑に抱きつき、世界で一番幸せだ、といった。中畑も、この世の中でこんなに気持ちのいいものがあったのかと、それこそ生きていることに感謝したくなるような幸福感を味わったのだった。

 だが、時がたつにつれ、明美は変わった。最初は肌をさらすのも恥ずかしがっていた明美だが、次第に大胆になっていったのだ。

毎晩のように中畑を求め、疲れているといって断ると、布団の中に頭を入れて中畑をふくむ。休みの日ともなれば、それこそ朝から晩まで中畑を求める。

それが原因で中畑は疲れ果て、仕事にも身が入らなくなった。けれど中畑は、明美と別れようとは思わなかった。

 男の味を知った明美は、それこそイモムシがチョウになるかのように、美しさを増幅させていった。色気をただよわせ、肌も白くしっとりと潤い、部分の具合もよくなってくる。

中畑は明美の身体に溺れた。

「なあ、あんた。ウチから離れたらアカンよ」

 中畑に馬乗りとなった明美はいう。

「もちろんだ」

 自分の上で躍る明美を見て、中畑は答える。

「もし、ウチのこと捨てたら」

 明美は腰を振りながら首に手をまわす。

「このまま、キュッって」

「やめとけ」

「ふふふふ……、ああん、気持ちいい」

 ポッチャリとしていた肉体から贅肉が落ち、腰のあたりが艶めかしい。身体の線が細くなっただけ、乳房も大きくふくらんで見える。

 中畑は、ゆさゆさと揺れる胸乳に手を伸ばしてわしづかみにする。明美は中畑の手の上に自分の手のひらを重ね、もっと力を込めるようにうながす。

指を食い込ませると明美の柔らかな乳房はゆがみ、それでも力をゆるめると、張りをもって元の形に戻る。

「あんた、アンタぁ」

 小さな身体を上下に振り、腰を前後左右に回転させる明美。中畑の肉棒が明美の内部をかき混ぜ、子宮の入り口まで貫き通す。

「ああん、イイ、イクぅ、アンタ、ああんアンタぁ!」

「明美、気持ちいいよ、明美」

「ウチも、あああん、ウチも! やあん、イク、変になる、アホになるぅ!」

 中畑はいつも明美の中に吐き出していた。孕みにくい体質なのか、明美に子どもが宿ることはなかった。それをいいことに、中畑は明美の求めに応じて、日に何度も膣中に射精した。

1回や2回では満足できない明美は、ほとばしりを放ったばかりの中畑の股間に顔をうずめ、しなびた一物をしゃぶる。

「うん、おいしい、アンタの、おいしい」

「オレ以外の、知ってるのか?」

「知ってるわけないやん。ウチはアンタだけ。そやから、アンタもウチだけにしてや。もし、浮気したら」

 明美は中畑を咥えて歯を立てる。

「食いちぎったるさかい」

 そういいながら、明美はなめらかに舌を絡めてくる。ねっとりとした温かな感触に、中畑の業物はすぐに大きくなる。

「ふふふ、大きなった。これはウチだけのオチンチン」

 明美は満面の笑顔を浮かべ、ふたたびまたがる。中畑は明美の蜜壷にめり込ませたまま、腰を突きあげ、快楽にむせぶのだった。

 そんな日々を送っていると、朝起きられないことが頻繁となる。最初のうち、中畑はそれなりの言い訳を考え、工場に連絡していた。だが、部屋に電話はなく、わざわざ公衆電話まで出向かなければならない。

面倒になってきた中畑は、とうとう欠勤を告げなくなった。

 無断欠勤が1日、2日、そして3日、1週間。久しぶりに工場へ顔を出すと、中畑は解雇をいいわたされた。

「かめへんやん、そのかわり、いつもこうやって」

 明美は服を脱ぐのももどかしそうに、中畑にしゃぶりつく。中畑も明美の誘惑から逃れることができずに、しっとりときめ細やかな肌に吸いついていく。

 肉筒の中のやわらかな襞。回数をこなすたびに明美の感度は増し、締まりも淫汁の出具合も申し分ない。

中畑が面倒でも、明美は馬乗りになって迎え入れる。朝は、頬張って中畑の目覚めをうながす。

朝勃ちの一物をしゃぶらせながら、そのまま中畑が出してしまうこともある。明美は目覚めのコーヒー1杯を飲むよりも、先に中畑の精液を飲み干してしまう。

「おいしい、目が覚める」

 うれしそうに告げる明美。

中畑はそれだけで満足だった。このまま死んでもいいとさえ思っていた。

 けれど、お互い無職の身では、やがて食料も事欠きはじめる。二人は近所のパン屋に食パンの耳をもらいにいったり、八百屋でくず野菜を恵んでもらったりしていた。だが、それだけでは身が持たない。

中畑は行為のあとにめまいをおぼえ、意識を失い、昏睡することもたびたびになっていた。

「オレ、仕事に行くよ」

 ある日、中畑は明美に告げた。

「なんで? ウチはいつでも、アンタのチンチン、しゃぶったりしてたいのに」

「死んじまうよ。このままだと」

「死んでもエエよ。アンタとウチが抱き合うて、一番気持ちエエときに死ぬの」

「オレはダメだ。死ぬよりも、生きてお前を抱いていたい」

 明美は渋々、中畑が仕事に出ることを承諾した。

 中畑は次の日から現場仕事に出るようになった。オイルショックの時代だったが、探せばなんとか仕事にありつけた。

しかし、仕事を終えてアパートに戻ると、待ちかねていた明美は中畑を求める。肉体労働で身体が酷使され、そのうえで明美の相手も務めなければならない。

中畑は部屋に戻ると、そのまま食事もしないで気を失うように寝てしまうことが多くなった。

明美は不満を漏らしはじめた。中畑にしゃぶりついて、勃たせて、自分で自分の中に入れても、中畑は大の字になって寝ている。朝は朝で、舐って起こしても、仕事に行くため途中で終わらせてしまう。

 とうとう明美は、中畑に見せつけるように自分で股を開き、部分をいじくるようになっていた。

 けれど、中畑は見慣れた明美の裸に興味を示さず、悶え喘ぐ明美の横でテレビを平気で見るようにもなっていた。

「ウチも仕事に出るわ」

 とうとう、明美はそういった。

「アンタばっかりにしんどい目、させるわけにもいかへんし」

「そうか」

「その代わり、アンタもあんまりきつい仕事しいないや。ウチも稼ぐことができるんやさかい。もっと楽な仕事に移りや」

 明美は、どこで見つけてきたのか、事務の仕事に就いた。もともとそろばんが得意だったので、仕事先では重宝された。

中畑も土方を辞めて、もとの工員に収まった。もちろん、前と違う工場だが、仕事は楽で、5時になればきっちりと終わった。

 中畑と明美の淫靡な生活が復活した。けれど、自分も朝早く起きて通勤しなくければならない身だ、明美はむかしほども中畑を求めなかった。

ところが次第に、求めるどころか、中畑が手を伸ばしても拒否するようになったきた。

「明日、朝、早いんやから」 

 最初は、こいつも働いてるんだから、とあきらめもした。が、それが1ヶ月、2ヶ月ともなると、いぶかしく思えてくる。

 あれだけ、まるで中毒のように求めてきた女が、仕事をはじめたくらいでよそよそしくなれるものだろうか。自分が納得しないと、中畑が横にいても股間をいじくる女が、こんにも急に淡泊になれるものだろうか。

 中畑は思ってしまう。

「あした遅なるから。会社の送別会。同じ事務員の子が辞めはんねん」

 中畑は不審に思う。そういえば、帰りが遅くなるのも頻繁になっていた。それに、事務の仕事に行くだけなのに化粧も濃くなりはじめているし、見たことのないネックレスやイヤリングもつけている。

「給料の中から買うたんやよ。これくらいエエやん」

 明美はいう。しかし、どうしても中畑は腑に落ちない。とうとう中畑は工場を早退し、明美の帰りを待ってみた。

 明美の会社はアパートから自転車で10分ほどの場所にある。中畑は気づかれないよう、電柱の陰に隠れて明美を待った。

 午後5時、定時になって会社から人が出てくる。明美は最後あたりになって姿をあらわした。

 声をかけようと思ったが、驚かしてやろうと黙って後を尾けた。すると明美は、アパートと逆の方向に歩いていく。不審に思った中畑は、こっそりとついていく。すると明美は、近くの空き地に停められた車のそばに近づいていった。

 外国産の高級車。その中から3つぞろいの背広に身を固めた男が降りてくる。

「お待たせ」

 明美は、ここ最近、中畑に見せたことのない笑みを浮かべて近づいていく。

 男は背の高い優男。助手席のドアを開けると、明美は躊躇せずにその中に納まった。

 あとを追いたいが、自転車じゃとうてい無理だ。中畑はしかたなく、一人部屋の中で明美を待つ。

 明美は10時近くになってようやく戻ってきた。

「ごめんなさい。遅なってしもて」

 悪びれた様子もなく明美はいう。

「晩ご飯は? まだなん? きょうは遅なるていうたのに」

「どこに行ってたんだ」

「そやから、送別会」

「外車の兄ちゃんと二人だけでか」

 中畑がそういうと、明美は凍りついたように身動きしなくなった。

「なんで知ってるん? 見てたん?」

「心配でな。工場を早引けして……」

「こそこそとかくれて見てたん? いやらしい」

「なにがいやらしいんだ!」

 激高した中畑は声を荒げていう。けれど、明美も負けてはいない。

「ほな、ちょうどエエわ。いつかいわんとアカンと思てたとこやし。ウチな、あの人と結婚すんねん。向こうの親御さんにも会わせてもろたし。あの人は大学出の、ウチの会社の跡取りや。しがない工員のアンタとは、それこそ月とスッポンや。それにな、アンタみたいに寝そべってるだけと違て、ちゃんとウチのことかわいがってくれる。ウチのこと、カワイイ、きれいやっていうてくれる。アソコの大きさも固さも雲泥の差や。ウチな、あんたと別れて、あの人のとこいくねん」

「あの男とやったのか」

「アカンの? ウチがスケベなんは、あんたが一番……」

 中畑は思わず明美の頬に平手打ちを食らわしてしまった。泣き崩れると思っていたが、明美は気丈夫に中畑をにらみつけ、そのまま部屋から出ていった。

 取り残された中畑は、その晩、一人で酒をあおって愚痴を吐いた。

「なにがいけなかったんだろう」

 中畑は明美とのこれまでを思い返してみた。

 明美と出会い、懇意となり、二人で暮らすようになった。明美は純粋無垢なほほ笑みを浮かべ、中畑に尽くしてくれた。

 やがて二人は情を交わすようになり、明美は天女のような麗しさで悶え、喘いでいた。

 そう、全裸になって中畑を迎え入れてくれた明美は、まさに神々しいほどの美しさだった。

 中畑はいつしかそれを忘れていた。中畑は自分だけのわがままで欲望をぶつけ、処理しているに過ぎなかったことに気づいた。

「そうか、もっと大切にしてあげれば……」

 後悔してもはじまらない。中畑は鴨居にかけてある明美の服や、鏡台に並んだ化粧をながめ、たいしてうまくもないカップ酒を一気に飲み干したのだった。

【長月猛夫プロフィール】
1988年官能小説誌への投稿でデビュー。1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作。主な著作『ひとみ煌きの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)/『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)/『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)ほか。

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