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岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第31回「輪になって殺そう」

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岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第31回「輪になって殺そう」

 男の刑務所は、犯罪傾向が進んでいない者、累犯、長期刑、反社会的勢力の構成員、等々の細かい分類で振り分けられるが、女はそのような区分がない。ぎりぎり死刑を免れた無期懲役囚から、万引き、寸借詐欺といった短期刑まで一緒くたに収容される。

 朱美が二十歳過ぎて初めて薬物と窃盗で二年の服役となり、半年後に出所という頃、カオリは入ってきた。噂でも聞いたし、本人も淡々と答えたが、傷害致死で十年だった。

 カオリはすぐキレて暴れるなんてこともないし、名のある親分の身内で睨みが利く、というのでもないが、なんとなくみんなに怖がられ、遠ざけられた。

 色黒の肥満体で目鼻口が大きく、痩せれば南洋美人になれるかもしれないが、なんかオッサンみたい、というしかなかった。怒っているのでも不機嫌なのでもないが、自分から話しかけることはなく、誰かに聞かれたときだけ、無愛想に無表情に短く答える。

「仕事してたの」「たまにキャバとか」「生活費どうしてたの」「男から」「風俗もしてたの」「食事つき合うだけ」「ずっと実家暮らしだったの」「友達とシェアハウス」

 都内の有名な風俗街にいた女達が、カオリはホームレスで漫喫に寝泊まりして、いわゆる立ちんぼしてるのをよく見かけたといっていた。こちらの方が、信憑性がある。

 にこりともせず、会話も続かない。しかもあの容姿。キャバ勤めができるとも、食事だけで金を払う男がいるとも思えない。同居するほどの友達もできないだろう。

 キャバ、ただのナンパ、友達との同居、多くの女には現実だったことが、カオリには憧れなのだ。だから芸能人の彼氏がいた、人気ブランドのデザイナーだった、タワマン最上階に住んでいた、みたいな嘘はつかない。そんなのカオリには、まさに絵空事なのだ。

 カオリは何を考えているかわからない、どんよりした不気味さ、底知れぬ暗さがあった。

 そんなカオリを一目見たとき、この女を知ってる、と朱美は直感した。

 朱美が母の再婚相手に性的暴行をされ続けていた高校生の頃、よく先輩の蘭子の家に逃げていた。庭の隅に蘭子のための離れがあり、不良の溜まり場となっていた。

 あるとき、新しい彼氏を紹介すると呼ばれたら、当時は人気絶頂だった俳優のKOUに似た彼氏と、初めて会う同い年の子がいた。どんより暗い、肥った家出少女だった。

 KOU似は、とても怖い話をしてくれた。今まで聞いたことがない、嫌な話だった。

 その後すぐ朱美の母は離婚し、高校もやめて同じ中国地方の隣県に引っ越した。携帯なき時代、すぐに蘭子とも疎遠になり、KOU似の怪談も忘れたが、猛烈に怖かったことだけを覚えていた。ちなみに本物のKOUは徐々に人気が下降し、引退状態になった。

 そして刑務所でカオリに会い、絶対あのとき蘭子の部屋にいた子だと確信していった。

 以前にも会ってるね、とはいえなかった。KOU似の怖い怪談を、隅々まで思い出しそうだった。カオリは朱美など、まるで眼中にないようだった。あの頃と同じく。

 出所後の朱美は不摂生で老け込み、四十代に入って薬欲しさではなく生活苦の窃盗で捕まった。以前とは別の刑務所だったが、なんとここでは蘭子に再会してしまった。

 年月が経ちすぎていて最初はわからなかったが、運動時間に隅っこで雑談しているうちに、妙に地元の話など共通するものが多いことから、互いに気づいたのだ。

「蘭子さん、KOUそっくりのかっこええ彼氏いましたよね」

「ああ、あれ。カオリって後輩に殺されたんよ」

「……嘘みたい。昔いた刑務所に、カオリおりましたよ。確かに罪名は傷害致死じゃというとったけど、まさか先輩の彼氏を殺しとったとは」

「そんなあたしゃ、カオリを殺してここに来たんよ」

 絶句する朱美を無視し、他の女達がバレーに興じるのを眺めながら、朗らかに笑った。

「カオリに弱みを握られとってな、出所してからもちょいちょいうちに来とった。口止め料、じゃない、小遣いせびられて。もう勘弁してぇな、で殺してしもうた」

 KOU似を殺したのは蘭子で、身寄りも行き場もない貧しいカオリに、お前がやったことにしてくれたら出所後は金をやると、罪をかぶってもらったのではないか。

 ボールが足元に飛んできたとき、不意に思い出した。KOU似の彼氏は、こうもいった。

「わし、未来が見えるんじゃで。今ここにおる全員が、殺される」

 徐々に、怪談の細部を思い出していく。自分が蘭子を殺すのだ。では、自分は誰に殺される。それもあのKOU似の彼氏は、いっていた。そこがまだ、思い出せない。

【岩井志麻子先生のプロフィール】

  • 1964年12月5日、岡山県生まれ。1982年に第3回小説ジュニア短編小説新人賞佳作入賞。
  • 1999年『ぼっけえ、きょうてえ』が日本ホラー小説大賞を受賞し、翌年には山本周五郎賞を受賞。2020年現在、作家のほかタレントとしても活躍するマルチプレーヤーに。夕やけ大衆編集とは長年の飲み仲間でもある。
  • 岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第31回「輪になって殺そう」

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