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岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第26回「ゴミ屋敷のアイドル」

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岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第26回「ゴミ屋敷のアイドル」

 倫子は幼い頃から、小さな田舎町では賢く可愛いといわれていた。しかし父は倫子が生まれる前に蒸発し、母は男をしょっちゅう変え、兄は半グレとなり、何より本人の賢さ可愛さも、有名大学に入れるほどでもなく、芸能界にスカウトされるレベルでもなかった。

 田舎町で多少ちやほやされても、そんな背景を知られたら良縁も吹き飛ぶだろう。強引な男や不良とは不本意ながらも関係を持たされてしまったが、あんなのと一緒に貧乏暮らし、不安定な生活を送るのは御免だ。

「宝の持ち腐れになるなら、最初から宝は要らんわ」

 けっこう賢かったのにショボい末路じゃ、とか。あのオバサンああ見えて昔は可愛かったんよ、みたいなことを田舎町でいわれ続けるのも、想像しただけで目の前が暗くなる。

 そんな訳で結局、高校を出た後は一か八かで都会に出た。ガールズバーやキャバを掛け持ちし、いわゆるパパ活などもしながら、小ぎれいなワンルームにたどり着けた。

 同じマンションに住む、一回りほど上の真理と何度か顔を合わせるうちに、話すようにもなった。風俗勤めの真理は、いつも香水がきつかった。それでも隠しきれない、饐えた体臭を漂わせていた。何かの病気が原因なのはわかるが、面と向かって指摘はできない。

 隣の県出身なので訛りも近い真理は、田舎町ではイケてたのに家出し、悪い男に次々だまされたという。なんだか、嫌な親近感を覚えさせられた。

「貧乏な親から逃げたのに、貧乏な男達に捕まって、もっと貧乏な生き地獄を味わわされた。じゃけど今は素敵な旦那と、幸せになれた。なぁ、うち来て旦那に会うてぇな」

 真理宅のドアを開けた途端、来たのを後悔した。ここを都会的ワンルームマンションと思い込んでいたが、安普請の狭い一間きりの住居であるのを突きつけられた。倫子の実家もなかなかのゴミ屋敷だったが、上には上が、いや、下には下がいるというべきか。

 足の踏み場もない猛烈な悪臭漂う部屋に、人のような豚、あるいは豚のような人がいた。

 百キロ、いや、二百キロ近いかもしれない男が全裸でゴミに埋もれ、テレビを観ながらお徳用袋のスナック菓子と、バケツみたいな容器に入ったアイスクリームを交互に貪っていた。合間に1リットルのジュースをがぶ飲みし、空になるとベランダに投げる。

 肩より伸びた髪は脂ぎって固まり、いろんな食べ滓が付着した髭に浮腫んだ顔は覆われ、体は虫食い痕だらけだ。極度の肥満体に加えてゴミに埋もれているから、おぞましい部分は隠れているのだが、あまりの衝撃に倫子は玄関先で固まってしまった。

 しかもそいつは倫子に気がつくと、舐め回すように見た後でニタァと笑い、

「姉ちゃん、チン×見る? 見たらあんたのそこに入れさせてくれよ、ゲヘへッ」

 とんでもない第一声を発したのだ。見た目は酷くても金があるとか性格が良いとか教養があるとか、一瞬そう考えようとした自分を殴りたくなった。

 どう見ても無職だし、とうてい金があるようにも思えず、しかも下品でバカとしかいいようがない。いいところ、一つも無し。見つけられないし、見つけたくもない。

「すみません、急用を思い出しました。帰ります」

 しばらく真理に会うのも怖かったが、同じマンションなのだ。次に会ったとき屈託のない笑みを向けられたが、例の体臭が強まり、それは死臭に近づいている気がした。

「素敵じゃろ、うちの旦那。あたしの田舎町じゃ超イケてるスターでな、高校のときちょっと交際したけどすぐ振られて、それもあって上京したんじゃ。そしたら向こうからヨリを戻そうて、連絡あったんよ。再会したら全っ然、高校のときと変わらんかった」

 あいつは過去の栄光を捨ててああなったのか、今も過去の栄光の幻の中にいるのか。真理も過去の彼を重ねて見ているのか、あの人豚そのものを素敵と見ているのか。

 とりあえずまだ若さと容姿を保っているうちに、とっとと田舎に帰ろうと決めた。新たな地獄に流れ着くより、なつかしい煉獄に戻る方がましだ。しかし倫子も、嫌味ともお世辞とも、何かしらの恐怖から逃れるための媚びともつかないことをいってしまった。

「旦那さんは、真理さんを引き寄せるフェロモンみたいなものが出とるんですね」

「倫子ちゃんには教えるわ。旦那は、アレの先っちょから緑色のどろっとした汁が出るんよ。あたしそれ、舐めるの大好きでな。もう、身も心もとろけそうになるんじゃ」

 それは性病の膿で、真理の口にだけでなく性器にも注ぎ込まれていると想像し、臭いの正体を知ると同時に吐き気が込み上げ、えずいたら倫子の口からもその臭いが漏れた。

【岩井志麻子先生のプロフィール】

  • 1964年12月5日、岡山県生まれ。1982年に第3回小説ジュニア短編小説新人賞佳作入賞。
  • 1999年『ぼっけえ、きょうてえ』が日本ホラー小説大賞を受賞し、翌年には山本周五郎賞を受賞。2020年現在、作家のほかタレントとしても活躍するマルチプレーヤーに。夕やけ大衆編集とは長年の飲み仲間でもある。
  • 岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第26回「ゴミ屋敷のアイドル」

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