• twitter
  • RSSリーダーで購読する

icon
Popular Keywords
現在人気のキーワードタグ

icon

岩井志麻子

  • TOP
  • エンタメ
  • 岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第23回「暗い交差路」

岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第23回「暗い交差路」

icon
Catch Up
キャッチアップ

岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第23回「暗い交差路」

 四半世紀ほど、昔のことになる。若いとき洋子はいくつかのバイトを経験したが、ある飲食店の店長と、芸能事務所スタッフを奇妙なほどよく覚えている。

 特に彼ら自身と何かあった訳ではないが、どちらも故郷が近いので訛りも似ていた。

「バイトや社員の面接をしたら、不思議じゃなぁと思うことがいろいろある。たとえば地方の高校を出て、ちょっと都会の近県の専門学校に進んで、早い結婚で中退。子ども連れて離婚と再婚して、次の旦那も失業。ストレスで出会い系にハマって、若い男に金むしられる。親が小さな店をやっとるけど、食うのがやっとの自転車操業。そこで御社の面接に来ました。そう語る別々に面接した二人の女が、とにかく履歴、身上がぴったり同じ。何の関係もない赤の他人じゃで。その後も二人は、そっくりなその後を送る。どちらも、再婚相手への殺人未遂で刑務所。出所してすぐ、どっちも自殺じゃ。本人なりに幸せを求めとるけど、なんともいえん貧乏臭さが呪いのように染みとる」 「あまり成功せんかったタレントって、似た子が多いんよ。ちょい売れかけの頃に担当マネージャーとデキて、現場のドタキャン、駆け落ちみたいなことやらかして干される。じゃけど変に彼女を気に入ったちょっと偉い男が、セミヌードのグラビアで復活させる。直後に、薬で捕まる。出所してAVやって、ファンと結婚。太ってから、地方の温泉町に引っ越す。この経歴、自分が知るだけで二十人くらいに当てはまっとる。この子はもうすぐマネージャーと逃げる、と新人のその後を予想できるようになった。本人なりに幸せを求めとるけど、なんともいえん貧乏臭さが呪いのように染みとる」

 そういう店長とスタッフが、まさに赤の他人なのに酷似した過去を持っていた。どちらも幼い頃に母が失踪、父の再婚相手に子どもができてから放置されるようになり、高校中退で水商売に入り、離婚二回。金持ちの年上女に可愛がられ、まあまあ更生している。

 そんな洋子も、ゾッとするような女を知ってしまった。洋子自身は親も経歴も平凡、夫とも円満、子ども二人もまずまずの出来だ。平穏に専業主婦をしていたが、SNSで親しくなった同い年の男と、なんとなくラインや電話でやり取りをするようになった。

 その光司にはまだ会ってないが、本人が語る半生も平凡なものだ。ただ洋子も光司も少し困った姉がいて、その姉同士がそっくりなのだ。

 洋子の姉、由利。光司の姉、美恵。どちらも高校二年で勉強についていけないと不登校になり、中退。自宅の二階の四畳半に引きこもった。

 たまに老親と買い物や美容院も行くが、高校生の頃に流行った髪型や服にこだわり、好きな芸能人も漫画も音楽も、新しい人や物にまるで興味がなく、時が止まっている。

 ずっと家にいて友達もいないので、スマホは持たない。本人が意図的に、あるいは無意識に、新しい情報を遮断している。家庭内暴力だの自殺未遂だの、それらはない。

 贅沢や浪費もないが、飲食店の店長と芸能事務所スタッフが口を揃えた、本人なりに幸せを求めとるけど、なんともいえん貧乏臭さが呪いのように染みとる、という感じだ。

 ともあれどちらの姉も、いつからか妙な妄想に取り憑かれるようになった。

 洋子の姉の由利は、それこそ高校生の頃から人気を保ち続けている歌手と、ハリウッドスターと付き合っていて、どちらにも熱烈に求婚されているといい出した。

 光司の姉の美恵も、長い人気を維持する世界的デザイナーの日本男性と、香港の人気俳優に求婚されていて、どちらを取るか真剣に悩んでいるという。

 どちらも知識や情報がアップデートできないので、彼らとどのように出会うかは想像できず、突然に彼らが家まで来て自分の部屋の前に立つ、と妄想するしかないのも同じだ。 

 そんなある日、夫も娘達も出勤し、家事を終えてテレビなど観ていたら、ただならぬ様子の光司から電話があった。息絶え絶えで、背後に女の悲鳴が聞こえる。

「大変じゃ……姉ちゃんがついに、一線を超えた。やっと部屋から出てきたと思うたら、お前のせいで彼にふられたと、刺された。今、救急車と警察に電話したとこじゃ。洋子さんも気をつけて……ああ、血が止まらん……」

 通話の切れたスマホを持ったまま呆然としていたら、玄関ドアが激しく叩かれた。うちのお姉ちゃんもようやく、狭い部屋を出てこられた。でも。

「あの人に捨てられたんは、お前のせいじゃあ。お前を殺す」

 強風の中、玄関先で髪振り乱し、開けろと金切り声で叫んでいるのは姉だった。

【岩井志麻子先生のプロフィール】

  • 1964年12月5日、岡山県生まれ。1982年に第3回小説ジュニア短編小説新人賞佳作入賞。
  • 1999年『ぼっけえ、きょうてえ』が日本ホラー小説大賞を受賞し、翌年には山本周五郎賞を受賞。2020年現在、作家のほかタレントとしても活躍するマルチプレーヤーに。夕やけ大衆編集とは長年の飲み仲間でもある。
  • 岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第23回「暗い交差路」

icon
Linkage
関連記事

icon
FANZA新着動画
特選素人娘マル秘動画

FANZA新着動画一覧 >>
icon

このサイトにはアダルトコンテンツが含まれます。18歳未満の閲覧を禁止します。当サイトに掲載されている画像、文章等の無断転用・無断掲載はお断りします。
ご使用のブラウザによってはご閲覧いただけないサイト内のコンテンツがある場合もございますのであらかじめご了承の上ご閲覧ください。

Copyright(C) 夕やけ大衆 All rights Reserved. 風営法届出番号 第8110800026号

当サイトにはアダルトコンテンツが含まれます。
18歳未満および高校生の閲覧を禁止致します。

ENTER
LEAVE