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岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第19回「死んでも見栄っ張り」

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岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第19回「死んでも見栄っ張り」

 確かに、かつては同級生だった、同僚だった、近所付き合いをしていた。しかし現在は、付き合いは切れている。そのような人が突然、連絡してくる。

 それはたいてい、連絡された方としてはあまりいいことはない。興味もなく賛同もしたくない投票や署名、新興宗教やマルチ商法の誘い。そして、切実な借金の申し込み。

 来年は、ついに三十歳になる。それが常にどんより、体にも頭にも澱のように溜まっている真澄は、高校時代の同級生だった明日香からSNSにダイレクトメッセージをもらい、さらにその澱が泥に変わったような気分になった。

 私達お友達よね。白々しい。ご活躍ねと今さらお世辞をいわれても、さらに白々しい。

 会って話したいと、日時や場所まで決めてきている。昔、水商売のバイトで出会った五つほど年上の明日香は、客だった金持ちとデキ婚し、早々に優雅な奥様になった。

 真澄が小説で新人賞を取ったと連絡しても、知らん顔だったくせに。明日香は高級マンションに住んで外車に乗って子どもを名門幼稚園に入れ、我が世の春だった。貧乏ったらしい昔のバイト仲間など、たかられたら困る、くらいの無視っぷりだった。

 真澄は中学時代から小説家を目指し、二十代半ばでようやく小さな新人賞の佳作を取ったものの、短編が五作ほど掲載されただけで、単行本は一冊も出せていない。

 担当者とも切れ、細々と自身のSNSで作品を公開しているが、開店休業状態だ。生活費は、日払いのバイトで賄っている。それも、毎日はない。貯金は0に等しい。

 父は早くに家を出ていき、もう顔すら覚えていない。小説は趣味にして、早う稼げ。そればかりを願う、愚痴と人の悪口しかいわない母との暮らしは、常に息苦しかった。

 そして、貧しかった。いつも母は、借金していた。無人機でも借り、親戚にも借り、怪しげなところからも高利で借りていた。よく居留守を使い、電話の電源を切っていた。

 なのにすべて外食で、パチンコ店には平然と何万も使う。ときおり現れるちょっとましな男に食べさせてもらうか、同じ頻度で現れるクズ男に国からの保護費を貢いでいる。

 だから高校を出てすぐ上京し、いろんなバイトをしながら小説を書いた。新人賞の佳作を取れたときも母には、それで食べられるわけじゃなし、と吐き捨てられただけだった。

 今はほぼ、絶縁状態だ。母も娘が案の定といっていいのか、小説で食べられずバイトを転々として困窮しているのを知り、助け合おうではなく、こっちに戻るなよ、という態度を見せてきた。どうも、今は年下のクズ男と住んでいるようだ。

 ともあれ、明日香だ。あちらから誘ってきているんだし、SNSを見る限り羽振りもよさそうだし、高級店で御馳走してもらえるかも、という理由で会うことにした。

 なのに指定してきたのは、庶民的なファミレスだった。といっても今の真澄には、高い店だ。安売りの小麦粉と米とパスタで炭水化物まみれの食生活を送っている真澄は、肉や脂に飢えていた。一食おごってもらえるならと、会う気になっただけだ。

 やってきた明日香は、一応はブランド服と靴とバッグに身を固めていたが、明らかにやつれてくたびれていた。傷んだ髪の毛と荒れた肌にも、確かな疲れがにじみ出ている。

 そうして驚いたことに、真澄に借金を申し込んできたのだ。故郷の言葉を丸出しで。「旦那が病気で退職してな、私も具合が悪いんよ。子どもも、食べるにも困っとるで」

 厄介払いがしたくて、なけなしの一万円を渡した。当然、食事代も真澄が払った。

 明日香は、逃げるように立ち去った。そしてSNSもブロックされた。後で共通の知人に聞けば、軒並み明日香に金を貸していた。もちろん、断った人もいたけれど。

 真澄も含め、誰も返してもらえなかった。明日香はしばらくして、子どもと無理心中したからだ。とうに離婚され、人妻風俗でしのぎ、さらにホストに貢いでいたと聞いた。「明日香、死ぬ少し前に子どもと旅行とかしてたって。最後の贅沢、最後に楽しい思い出を作ってやった、みたいにかばうお人好しもいたけど、返す気0の人の金でだよ」

 さらに真澄が怒ったのは、明日香が幽霊になって現れたことだった。半透明とか白い靄に包まれて、みたいなんじゃなく、生きているのかというほど生々しくはっきりと存在感を持って、窓辺に立っていた。生前と同じく、傷んだ髪と荒れた肌をして。

 共通の知人の間でも、明日香の幽霊は噂になっていた。たぶん死んでも見栄っ張りで格好つけの明日香は、ホストの前には表れていない気がする。これを小説に書きたいが、なんだかもう気力も創作意欲も失せてしまった。自分も誰かのところへ、化けて出たい。

【岩井志麻子先生のプロフィール】

  • 1964年12月5日、岡山県生まれ。1982年に第3回小説ジュニア短編小説新人賞佳作入賞。
  • 1999年『ぼっけえ、きょうてえ』が日本ホラー小説大賞を受賞し、翌年には山本周五郎賞を受賞。2020年現在、作家のほかタレントとしても活躍するマルチプレーヤーに。夕やけ大衆編集とは長年の飲み仲間でもある。
  • 岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第19回「死んでも見栄っ張り」

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