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岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第16回「姿より声が危険」

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岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第16回「姿より声が危険」

「見えた、いうより、聞こえた、いうほうが怖いんよ」

 生まれ故郷が近いと知って、あさ美はときおり眞人に田舎の訛りで話しかけてくるようになった。それは眞人に気を許しているようでも、甘く見ているようでもあった。

 なんじゃそりゃ、と聞けば。顔の皮膚は引っ張れるだけ引っ張ってどうにか三十代に見えるあさ美は、声だけは隠せない四十路の、しかし心地よい艶っぽい声で囁く。

 そうだ、同い年なのだった。それも親近感の一つといっていいのか。人前でそれをいうと、歳を誤魔化しているあさ美にものすごく嫌な顔をされるので、いわない。

「幽霊よ。私には霊感があるいうて、教えたじゃろ」

 あさ美は十代の頃に家出してきてから、深夜のお色気番組にその他大勢のお色気要員として出たりもしていたが、本業はそのときどきで世話をしてくれる男の愛人だった。

 そういう眞人も華やかな世界に憧れ上京してきたが、あさ美と似たようなものになっている。金持ちの男達の取り巻きとなり、いろんなおこぼれを拾っていく。

 あさ美は最初から眞人自身には金も地位もないのは見抜き、それでも人脈はありそうなので、出会ったときから親し気な態度を取ってきた。似た者同士だ。

 二人とも、複雑で貧しい家に育った。あそこに帰りたくない。それだけで、都会にとどまっている。都会で表面的には華やかで豊かな暮らしをすること、それそのものが目的だ。

 何者かになりたい、何かを成し遂げたい、というのはない。無理なのも、わかっている。

 利害関係が成り立つから親しくしているだけで、色恋はない。だからあさ美は、あまり他の人にはいわないこともいう。眞人は、そこまであさ美に気を許していない。

「私、いっつも霊感を発揮はできんのよ。なんかでスイッチ入ったときだけ」 

 あさ美によると、いつの間にか眞人の背後に女がついてきているという。はっきりと容姿や年齢などもわからず、ただ女とだけわかるとか。

「まだ、声は聞こえんわ。今のうちに供養して、祓ってもらった方がええよ」

「心当たり、ないな。わし、さすがに女を殺したことはないで」

 恨んでいる女は何人もいるはずだが、眞人のせいで死んだ女はいない、と思う。

「わからんよ。逆恨みとか、可愛さ余って憎さ百倍とか、女心もいろいろじゃけ。眞人くんは忘れてしもうとることでも、あっちは強う恨んどることもあるけん」

 故郷の母か姉でも死んだかと思ったが、どちらもそこまで眞人に執着はなさそうだ。

「あ、いけん。ついに聞こえてしもうたわ」

 あさ美が耳を塞ぐポーズを取り、眞人もさすがに背筋が冷えた。

「その女は、何か聞いてきたわ。よう聞き取れんかったけど、確かに。でもここで、聞き返したら、いけん。幽霊に返事をするんは、ほんま危険じゃけ」

 築五十年近いマンションの部屋に戻った辺りから、眞人は確かな悪寒に襲われていた。 

 散らかり放題の一間の部屋に、うずくまる。誰もいないのに、女の声がした。耳たぶに冷え切った唇をべったりとくっつけられ、何かいわれた。

 そういえばここは、数えきれないほど住人が入れ替わっていると聞いた。いわゆる事故物件になったときもあっただろう。そんなの気にせず、ただ家賃の安さで選んだ。あさ美と違って自分には霊感などなかったし、今までは怪しいことなど何もなかった。

 唐突に、霊感が芽生えたか。いや違う。あさ美がいう、霊障なんてものではないようだ。

もっと現実的な節々の痛み、生々しい不調があった。

「私、コロナちゃん。新型肺炎のウィルスの妖精よ」

 ふざけんな馬鹿。あれほどあさ美にいわれていたのに、つい返事をしてしまったどころか、怪しい何かを罵ってしまった。しかし、こいつはそもそも幽霊なのか。

 仮死状態になっていた眞人を見つけてくれたのは、お宅の部屋が臭いだの、深夜のテレビの音がうるさいだの、文句をいいあっていた隣の不仲な中年男だった。

 眞人の部屋からものすごい女の金切り声が響いてきたと怒鳴り込んで来た隣人は、一人きりで死にかけている眞人を不本意ながら助けてしまったわけだ。

 眞人の退院と入れ替わりのように、あさ美が入院した。あさ美も死は免れたが、二人とも後遺症として難聴になってしまった。

「眞人くんは、幽霊の声も聞こえ難くなったかな。私、幽霊の声だけ鮮明に聞こえる」

【岩井志麻子先生のプロフィール】

  • 1964年12月5日、岡山県生まれ。1982年に第3回小説ジュニア短編小説新人賞佳作入賞。
  • 1999年『ぼっけえ、きょうてえ』が日本ホラー小説大賞を受賞し、翌年には山本周五郎賞を受賞。2020年現在、作家のほかタレントとしても活躍するマルチプレーヤーに。夕やけ大衆編集とは長年の飲み仲間でもある。
  • 岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第16回「姿より声が危険」

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