2022 年 2 月にＡＶ女優を引退し、今後は俳優として活躍の場を広げる川上なな実さん。これまでの活動の集大成ともいえる写真集『すべて光』と自伝的小説 『決めたのは全部、私だった』が1月12日に出版されました。

それに伴い、写真展『すべて光』が、1 月 2 日～16 日まで「渋谷ヒカリエ 8 階 8／CUBE1・2・3」と「BAR ダイトカイ」の二ヶ所で開催。こちらの写真展に伺うとともに、川上さん自身にインタビューを決行。今のありのままの気持ちを語ってもらいました。

――AV女優引退が2月に迫っていますが、現在の心境は？

「まだ引退作を撮っていないせいか、何も実感がないんですよね。でも写真展に関しては、開催されてようやく沸いてきました。もう何日目だよって感じですけど（笑）」

――今日、すでに5日目（1月7日）ですよ（笑）。

「みんなの評価が返ってきてやっと実感が沸いてきてる。たぶん、私ってそういう人なんでしょうね。きっと引退後もみんなから『あー、みぃなな引退したねー』って言葉を聞かないと実感しないと思う。本当に今は今で、ヒカリエの会場を開けるだの閉めるだの、釣銭用意するだの、受付スタッフ準備するだの、あと振込振込……」

――話が現実的すぎる（笑）。それだけ目の前のこと一つひとつに真摯に取り組んでいるのでしょうね。では、改めて。今回の写真集および写真展のタイトルである『すべて光』。その意味を聞かせてもらえますか？

「このタイトルを決めたのは、カメラマンのくまこ（熊谷直子さん）です。私の中でのタイトルは『コントラスト』だったんですよ。私から私を見るとしたら、そうなのかなって。でも、くまこにとってレンズを通して見た私は『暗いものも明るいものも、すべて光に見えた』と。それで『すべて光』なんです」

――かっこいい……！

「普通だと写真展というと被写体が前に出るか、もしくは写真家が前に出るかのどちらかなんですけど。今回は合作写真展ということで、名前の並びが同じ大きさなんですよね」

――発表された写真は、仕事中もプライベートも含めた二年間に渡っての、謂わば集大成のようなものだったと聞いています。その間、撮られることに対して「嫌だ」「辛い」などと感じたことはありましたか？

「今回、初めて女性に撮ってもらったんですよ。これまで男性に撮ってもらったり、AVで男性に向けてヌイてもらうための撮影はしてきたんです。お色気やセクシーさ、たまには甘えてみたり。それが女性カメラマン相手だとできないわけですよ。だから、どうしたらいいんだっていう凄い葛藤はありました。撮影を開始した頃は、照れ臭くてとにかく笑っていた自分がいましたね。それはそれで撮れたものもありますけど」

――それ以外の表情がなかなかできなかった？

「ですね。今回の写真では、私の喜怒哀楽をぜんぶ撮りたかったんです。でも撮っていく中で『怒』と『哀』がない、となってしまって……。よーい、アクション！となれば撮れたかもしれない。でも、プライベートを撮ろうとして始まった二人だったから、それは違うと思いました。そうやって悩んでいたら、ディレクターさんから『意図的に二人で向き合って哀しみを撮ろうとするしかない』と。二人で考えてみてくれないか、と。だから後半は二人でけっこうぶつかりましたよ（笑）」

――どんな風にぶつかり合ったのか。印象深い思い出があれば聞かせてもらえますか？

「大阪の『東洋ショー劇場』に立った時が、けっこう厳しかったですね。くまこから『私はここまでみぃななを撮りに来たんだよ。やってくれるでしょ？私、あなたを撮りに来たの』って言われて、わぁーってなりましたよ。でも、それがくまこのアクションの仕方で、一緒に撮ろうと決めたから私も信頼して受け止めないと、と思って。それが、今座っている後ろの……」

――ああ、ここに大きく飾られた写真ですね。

「これが、哀しみと悔しさの涙です。でも、私はそういう表現で終わるのが嫌で。くまことドキュメンタリー映画の方の監督（灯敦生さん）に地元の福井に来てもらった時に、どうにか自分の中に哀しみが沸き上がらないかを考えて、小説の中にも出てくる友達の”さゆみちゃん”との記憶をくまこに話し出したんですよ。その時になんか……『あれは悲しかったし悔しかった』って言ったら、くまこがレンズを向けながら優しく『うんうん』って返事をしてくれて、そこで自然と涙が流れたんです」

――その涙こそが、川上さんの中から溢れた哀しみの感情だったんですね。

「でも、その後にくまこが急に『走ろう！』って言ってきて。田んぼのど真ん中で凄い泣きながら走りました（笑）。もう『なんだこれー！』ですよ。あれは凄く面白い写真が撮れましたね！」

――まさにそれは、熊谷さんしか撮ることのできない川上さんですよね。

「そこでこれからもくまことはずっと一緒にいい関係で繋がってるんだろうなと思いました。あとは家族とくまこが会ったこと。くまこ、うちのお父さんをイジリ倒して、お母さんから『可愛いねぇ、この子たち』と言われて。私、うちの家族はこんな顔をするんだってハッとしました」

――川上さんは確かAVに出るにあたってご家族とちょっと疎遠になったという話を聞いたことがあるのですが……。

「はい。AVの世界で生きると決めた時に親から縁を切ると言われてしまって。だから、私は自分の中で親からの愛を受けていないことにしてしまったんですね。でも、あの時に思い出したんです。小学校の時にお母さんが私の友達にあんな風に笑ってたこと。毎年ディズニーランドとかユニバとか、家族旅行に連れていってもらってたこと。お父さんがよくカメラを回していて照れ臭かったことも。本当に幸せな家族だったんだなって」

――今の川上さんだからこそ、気付けたことなんでしょうね。そうなると、自己肯定感もだいぶ変わってきませんか？

「変わる！本当にそうなの。やっぱり家庭環境って大事なんでしょうね。その上で愛に気づくことも大事で、それがたぶん一番難しい。ただ今回の企画、親との関係の修復にちょっぴり使わせてもらったのは、あります」

――なるほど。だから敢えて一人で行くのではなく、熊谷さんと灯さんを連れていった。

「東京でできた知り合いを親に紹介したのは初めてだったんです。でも、その中で友達のさゆみちゃんに会うことだけは上手くいかなかった。メールをしたんですけど、彼女はプライベートの私と会いたかったわけです。撮影が入るならちょっと違うって。でも、私も彼女には一人で会いに行けなかった。それが彼女に失礼にあたってしまった……」

――その時の川上さんの心境は、写真だけでなくドキュメンタリー映画でも記録されているわけですよね。2023年公開予定ということで、そちらも楽しみです。

「写真のくまこ、映像の敦生ちゃん。二人とも違うタイミングで撮っていたりするので、自分の見ていない部分をそれぞれ捉えてくれているのは本当に有難いと思っていますね」

――2月1日～28日まで浅草のロック座で引退公演が行われるとのこと。

「今回はどうなるんでしょうね～。正直、無謀な挑戦をしています。ヒントは”歌”！」

――そして、今回の写真展は16日まで！今ちょうどインタビューをしている『ヒカリエ』と、色っぽいお写真がメインの『Barダイトカイ』で開催中です。今回、写真展を『ヒカリエ』という大きな場所で開催したことには何か意味はあったのでしょうか？

「それはもう、一人でも多くの人に見てもらいたかったから。ここなら老若男女、色んな人たちの目に触れることができるので。私は一人でも多くの人の心を動かす俳優になりたいから……自分の名前をもっと知ってもらう必要性を感じてここを選んだんです」

――『すべて光』を『ヒカリエ』で……ちょっと名前がリンクしてて面白いですよね。これは偶然なんでしょうけど、ただならぬ縁を感じました。

「そういえばそうですね。ブレてないなぁ～私（笑）」

――アダルト業界を卒業した後も、きっと川上さんはブレないんでしょうね。

「でも、前にちょっと誤解があったんです。けっこう各所で、私は脱いでいたことを無かったことにして俳優業に進むと勘違いされていたんですよ。何度も言ってるんですが、私はAV女優でありストリッパーであったことを武器にして、これから俳優業に専念するんです」

――昔のAV女優さんは、そういったスタンスの方が多かったがゆえに、誤解を生んでしまったのかもしれませんね。

「『私はみんなのセックスシンボルで～す！』って言って、これからもやっていくつもりですよ。ヌードを消費させない表現で脱いでいく、お芝居をしていく。そうしていくことによって、後輩のAV女優さんたちの『脱いだことがマイナスにならないか』と感じている不安を和らげることができたら、と思っています」

――ありがとうございました！

写真展『すべて光』を拝見している時、笑っている川上さんを見ると目じりが下がっていたり、苦しい表情をしていると川上さんを見ると眉間が険しくなっている自分がいました。

もうすぐAV業界を卒業して、新しい活動の場に足を踏み出す川上さん。これからもブレない”みぃなな”のまま、羽ばたいてくれることを期待しています！

• 取材＆記事：もちづき千代子