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岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第11回「誰かの子と自分の子」

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岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第11回「誰かの子と自分の子」

 幼い頃から健治は、生まれ育った田舎町の貧しい家と、その貧しさに満足はしていなくても受け入れて無気力に暮らしている、と思えた家族が嫌で仕方なかった。

 父は職場を転々とし、母は病弱なふりをして何もせずごろごろし、歳の離れた兄は働かずヒモになってしまった。水商売の兄嫁はなかなかしっかり者で、

「良かったのう、逆玉じゃがな」

 などと親は笑っていた。健治はわりと勉強ができたので、ここから抜け出して成功したいと切望した。いったん高校を出て働いて金を貯め、大学に行こうと決めた。

 そして都会に出て堅実な会社に入り、向上心と向学心ばりばりでがんばった……つもりだったのに。気がつけば、一家の中で誰よりもダメな奴になってしまっていた。

 息抜きの夜遊びで悪い友達ができ、マルチ商法に引っかかって美人局にだまされ、そのストレス解消でギャンブルにハマり、借金まみれとなった。大学など、もう行くことはできない以前に、行きたい気持ちも失せていた。

 三十になる直前、すべてを投げ捨て実家に戻った。ここから出ていきたいとばかり願い、実際に出て行ったのに、いざとなれば帰るところは実家しかないのだった。

 さして文句もいわず受け入れた親と、たまに遊びに来る兄夫婦を見て、実は家族は平穏に生きる人達なのだとわかった。誰も犯罪とは縁がなく、家族仲や夫婦仲は良いのだ。

 健治もしばらく家でゴロゴロしていたが、年が明けると軽くバイトなどには行けるようになった。それでも同級生達に会うのは、まだ躊躇いがある。

 気晴らしで駅前のパチンコ店に行き、そこで同い年の緑と知り合った。

 のっぺり大きな顔に、浮腫んだような目。ずんぐりむっくりな中年体型。そこへ舞台女優みたいな化粧と、十代のギャルみたいな派手な服装だ。それが逆に、良くも悪くも田舎っぽさを醸し出し、本当は地味な大人しい子だというのを際立たせていた。

 この子も何者かになりたくてなれない子だ、ここから出ていきたくて出ていけない人だ、と思い込んだ。そこには温かな共感や連帯感などはなく、鈍い嫌悪感すらあった。

 そして小さく勝っていた健治に、緑はおどおどしながら援助交際を誘ってきた。長らく女と遠ざかっていたし、家族以外の誰かと密に接したくもあり、受け入れた。

「あの~、ホテル代は別で二万な。生でやるなら、二千円プラスじゃ」

 緑は店に所属せず客を取り、すべて避妊なしでやっているようだった。説教できる立場にないのは承知で、いろいろ危険じゃろうとやんわり心配してやったら、苦笑された。

「一目でわかるじゃろ。ほれ、この通りデブスで三十過ぎとって、高う買うてもらえん。じゃけど家族のために、うちが稼がにゃならんのよ」

 わし以上に、緑は自分というものを知っとる。健治は何やら、打ちのめされもした。

 緑の母は失踪し、まったく働かない父と、心の病気で働けない弟と、前夫との間にできた幼い娘と古い借家に暮らし、自分しか稼げる人がいないとのことだった。

 緑はここから出ていきたいとは願わず、自分はここにいるしかない、いなければいけないと覚悟をしているのだった。何者かになりたい、とも願っていない。うんざりするような貧しく陰気な暮らしでも、それを維持することだけに努めているのだ。

 なんともいえない気持ちになったが、健治も何をしてやれるわけでもない。ときおり緑に会って、二万と二千円を払ってやるだけだ。

 季節が暖かくなるにつれ、緑はますます肥えていったが、本人にはいえなかった。

 そして夏になった頃、連絡が取れなくなった。顔見知りのパチンコ仲間に聞けば、

「また腹がデカくなっとったけぇ、姿を消したで。戻ってきたら、腹は引っ込んどる」

「じゃけど、近所周りであの女の赤ちゃんを見た者は居らん。何べんもそれを繰り返しとる。赤ちゃんはと聞いたら、妊娠なんかしとらんて、とぼける」

 などといわれた。思いがけず緑の消息を知ったのは、秋風が吹く頃のテレビのニュースによってだった。緑の家から、何体もの新生児の遺体が発見されたという。

 その中には、時期的に考えれば自分の子はいないはずだが、自分自身が緑に産み落とされ、直後に絞殺され衣装ケースに入れられていた記憶がよみがえるのだった。

 パチンコ店の常連客、おそらくは緑の客でもあった一人がつぶやいた。

「あの中にゃ、実の父親や弟との間にできてしもうた子も混ざっとる。わしの子もな」

【岩井志麻子先生のプロフィール】

  • 1964年12月5日、岡山県生まれ。1982年に第3回小説ジュニア短編小説新人賞佳作入賞。
  • 1999年『ぼっけえ、きょうてえ』が日本ホラー小説大賞を受賞し、翌年には山本周五郎賞を受賞。2020年現在、作家のほかタレントとしても活躍するマルチプレーヤーに。夕やけ大衆編集とは長年の飲み仲間でもある。
  • 岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第11回「誰かの子と自分の子」

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