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岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第14回「本物の人生と偽物の指輪」

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岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第14回「本物の人生と偽物の指輪」

 友里はごく平均的な家に生まれ育ったが、見方によってはむしろ恵まれていると見る向きもあった。社内恋愛から始まった相手の隆も、見た目も中身も温和、将来有望だ。

 誰からも反対されてないが、なんとなく結婚は先延ばしにしている。そんな友里は、

「もっと私は美人扱いされて、もっといい男と結婚してセレブな奥様になるか、もっといい会社で高収入になれるんじゃないの。こんな地味な人生でいいはずがないわ」

 といった、子どもじみた不平不満がくすぶっていた。といって思い切って整形するとか積極的にキャリアアップするとか、こっそり婚活に励むとかはない。

「いっそもっと醜くて貧乏に生まれてたら、なりふり構わず這い上がれたかも」

 そんな友里がある鬱陶しい残暑の宵に、なぜか真っ直ぐ家へ戻る気になれず、隆に会いたい思いもなく、それでも何かを求め、誰かを探してぶらぶらするうちに、いつもは通らない路地に入り込んでいた。

 どこにでもある特徴のない路地で、歩いているのも色のついた影法師とでもいうような、平凡な人達だった。そして不意に、呼びかけられた。電柱の陰に、女がいたのだ。

 簡素な机と椅子に、不吉な暗い照明。黒っぽいぞろっと長い服を着た女は、

「占い、どうじゃろ。あたしゃもう、あんたの未来が見えかけとるで」

 西の訛りで誘われた。実際は老人というほどではないのかもしれないが、お婆ちゃんだ。

 なんともみすぼらしく貧相、独りでいるからという理由だけでなく寂しそうで、こんな人に未来を占われたりアドバイスなんかされてもなぁ、と苦笑いした。

 なのに、なぜか見てもらった。ぼんやり、誰かに似ている、どこかで会った、という気もした。皺だらけの顔と手に痩せこけた体つき、灰色の髪も薄くなってしまっている。

 左手の薬指に、指輪があった。偽のダイヤ、夫もいないのに結婚指輪、二重に嘘と見栄、みたいに決めつけた友里は、寒々しい気持ちにもなった。

 誰にでも当てはまる適当なことをいわれ、適当にお金を渡してその場を離れた。

 翌日、社員食堂で何人かと昼ご飯を食べながら壁のテレビを見上げていて、あれっと声を出してしまった。華やかできれいな、熟年女性。

 昨日の占い師が、出ているのだ。似た人ではない。絶対、同一人物だ。しかし肌艶もよく上品な化粧が映え、一目でわかる高級ブランド服に身を包み、社長という肩書だった。

 昨日、占い師をしていたこの人に会った。という話は、できなかった。

 以前にもこの人をどこかで見ていて、昨日の占い師に似ている、と今気づいただけか。

 ところが後でどんなに検索しても、きれいな老婦人は正体不明だった。ヒットする人が出てこない。テレビ番組を調べても、そんなゲストは出ていなかったのだ。

 一緒にテレビを観た同僚も、そんな番組は見てないし、そんな人は知らないという。

 もう一つ不思議なのが、友里は占い師に占ってもらった内容も、テレビの老婦人が話していた内容も、何一つ覚えていないことだった。

 なのに友里は何かに取り憑かれたか急かされたかのように、その日のうちに退職と隆との別れを決めてしまった。特にどちらにも揉め事や問題はないどころか、円満な関係だったのに。まるで記憶にはないが、占い師に強く命じられたようでもあった。

 その後、占い師にもテレビに出ている女社長にも、会うことはなかった。

 それから友里は悪い男に次々とだまされ、主に西日本をさ迷うようになり、家族とも絶縁し、困窮生活を送った。いつの間にか染みついたのは、貧乏と西日本の訛りだった。

 そして、流れ着いた町の路地でインチキな占い師をするようになった。

「あのとき路地で会うたのも自分なら、その後テレビで観たのも自分じゃったわ」

 若くて希望に満ちた自分が、ふらっと立ち寄らないか、待ち構えている。それにしても、もし隆と別れていなければ、今頃はテレビに出ていた裕福で上品な老婦人になれていたか。

 本物の高価なダイヤの輝く、結婚指輪をつけて。

 隆にもらったという体で、今は露店で買ったおもちゃの指輪を薬指にはめている。

 四畳半一間のアパートには、戻りたくない。路上生活をしていた男に住み着かれ、

「事故に見せかけて、この指を切り落とそうや。そしたら保険金も入って、この胸糞悪い未練がましい指輪も外せるで」

 そう、迫られている。なんとなくこいつは隆のような気もして、切る前から指が痛い。

【岩井志麻子先生のプロフィール】

  • 1964年12月5日、岡山県生まれ。1982年に第3回小説ジュニア短編小説新人賞佳作入賞。
  • 1999年『ぼっけえ、きょうてえ』が日本ホラー小説大賞を受賞し、翌年には山本周五郎賞を受賞。2020年現在、作家のほかタレントとしても活躍するマルチプレーヤーに。夕やけ大衆編集とは長年の飲み仲間でもある。
  • 岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第14回「本物の人生と偽物の指輪」

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