Catch Up
キャッチアップ

この官能小説は、現在50代から60代の方々の若かりし時代を舞台背景にしています。貧しかったけれど希望に満ち溢れていたあの頃、そこには切なくも妖しい男と女の物語が今よりも数多く存在しました。人と人とが巡り合う一瞬の奇跡、そこから紡がれる摩訶不思議な性の世界をお楽しみください。 編集長
【捨てられた女・捨てられた男】長月猛夫
安普請のアパートは壁が薄く、となりの部屋の音が丸聞こえだ。そんな4畳半の一室で安田は暮らしていた。
その日は雨が降っていた。長かった残暑も、ようやく終わりを告げ、窓を開けると涼しい風が忍び込んでくる。
「あ、やん、そんないきなり」
隣室から、女の湿った声が伝わってくる。安田は壁に耳を押しつけ、その声を聞く。
「そこは……、やん、まだ、日も高いのに……」
秋雨はしとしとと降りそそぎ、曇天ではあるが外は明るい。
大学生の安田はズボンを脱ぎ、下着をおろし、すでに充血していた一物を握りしめた。
ガサガサと服を脱ぐ音がする。女の声は切なさを増し、安田の興奮をあおる。
「ダメ、そこ、そこは感じすぎちゃう。やん、乱暴にしないで」
やがて、ぴちゅ、ぴちゅと湿り気のある音がひびく。女は蜜の量が多いのか、摩擦でにじみ出る淫猥なひびきが、はっきりと耳に届く。
「あ……、く!」
挿入がなされたようだ。女は言葉を失う。単純な「あ・い・う・え・お」の連続。そこに男のはく息の音が重なる。
「あん、あ、い、やああん、あん、あん」
量を増す淫汁が肉棒の律動で、くちゅ、くちゅとあふれ出る。男の息の音が早く、大きくなり、ギシギシと床のきしむ音がする。
「あん、やん……、いい、好き、好きよ、大好き」
女は感情を訴えた。男からの返答はない。
男は黙って腰を振る。女は両脚をひろげて掲げ、男の背中に腕をまわす。そんな光景が、はっきりと安田の脳裏に浮かんだ。
白い肢体をくねらせ、豊かな乳房を揺らし、男の劣情を受け止める女。長い髪が波を打ち、厚みのある唇をだらしなく開けて悦びの吐息を漏らす。
「やああん、好きぃ、大好きぃ、イク、やん、イッちゃう、いく!」
女は果てた。男も達したであろう。しばらく沈黙がつづく。そして、男が女から離れ、身を横たわらせるドサリという重い音がする。
「ふう……」
安田も射精を終えた。チリ紙で処理をしながら、虚脱をえる。それと同時に、心をむしばむ悔恨。
「くそ」
安田は精液の付着したチリ紙を丸め、ゴミ箱に投げ捨てた。
雨はやむ気配を見せなかった。
安田が、このアパートで下宿生活をはじめて2年になる。風呂は付いていないが、トイレと炊事場はそなえられている。
となりのアベックが越してきたのは1年前。午前中に女がひとりだけで、引っ越しのあいさつに訪れた。
「今度越してきた浅田といいます」
腰まで伸びた素直な髪を、頭の真ん中で左右に分けている。化粧気のない、幼さの残る顔立ち。背丈は高くも低くもなく、細身のスタイルだが胸のふくらみは大きい。
女はペコリと頭をさげ、顔をあげる瞬間、垂れ落ちた髪をかきあげる。
「これ、つまらないものですけど」
女は菓子折りを差し出した。
「これは、ご丁寧に」
安田は両手で受け取る。
「それと、初めてお会いしたばかりで恐縮なんですけど」
「はい?」
「お風呂屋さんは、どこにあるんですか?」
「あ、ああ、銭湯なら」
安田は銭湯の位置を教えながら指で示す。女は安田の指先を見て、何度かうなずいた。
「ありがとうございます」
女は深くお辞儀をし、髪の毛を耳にかけながら頭をあげた。
「では、これからもよろしくお願いします」
にこやかな笑みを浮かべ、となりの部屋に入っていく女。
「なかなかの美人だな」
安田は、女の態度と容姿に魅力を感じてしまった。
夕方、安田は銭湯に向かう。すると、前からアベックが歩いてきた。
無造作な髪を肩まで伸ばした男と、ロングヘアーの女。女はあいさつにきた、となりの部屋の住人だ。
肩を寄せ合い、親しげに男と歩く女は安田に気づかない。
「でさあ、美也」
「なに?」
すれ違いざま、安田は二人の会話を耳にした。
「美也っていうのか」
通り過ぎる二人の後姿をながめつつ、安田は落胆をおぼえたのだった。
その日の夜から、美也と男の睦事の声が聞こえてくるようになった。
まだ20代前半の安田は、女性との経験はない。性欲は、男性雑誌のグラビアか妄想で処理する。
体験したい気持ちはやまやまだが、決まった相手はなく、あこがれをいだいたとしても告白する勇気もない。親の仕送りが頼りの貧乏学生なので、プロに相手してもらう余裕もなかった。
そんな安田に、美也のよがり声は刺激が強い。薄い壁に耳を当てると、二人の息づかいや粘り気のある体液の音まで伝わってくる。
興奮をうながされた安田は、二人がセックスをはじめると、美也の淫らな姿を思い描きながら自涜に耽った。
あの可憐な表情が歓喜にゆがむ。豊かな乳房があらわになって揉みしだかれ、唇を貪り合う。
白い肌が桃色に染まり、長い手足を男の身体に巻きつける。男はそそり立った男根を、美也の股間にあてがってめり込ませる。
一部始終が、脳裏に浮かぶ。そして、自分自身をしごいているあいだに、まるで美也と交わっている錯覚におちいるのだ。
ただ、吐き出したあとの虚脱と鬱々とした気持ちには耐えがたいものがあった。
人の行為を盗み聞きして、寂しく自分をなぐさめる。第三者の目から見れば、こんなにみじめな姿もない。
「いったいオレは、なにをしているのやら」
だが、男と美也は夜ごと求め合う。二人が何をして収入を得ているのかは知らないが、昼間から、もしくは朝から一日中、行為に没頭するときもあった。
悩ましい声をあげて安田を困惑させる美也だが、普段の姿は、そんな淫欲さを感じさせないものだった。
お互いの部屋の前で顔を合わせるときもあったが、美也は清楚な笑顔で挨拶をしてくれる。立ち振る舞いも上品で、気品にも満ちている。
そのギャップが、よけいに安田を惹きつけた。
安田の憧憬も知らず、美也は男と乳くり合う。欲望にあらがおうとする安田だが、美也の声で性を吐き出す日々をくり返していた。
美也を自分だけのものにしたいという気持ちは高まる。あの男ではなく、自分が美也の淫らに導きたいと考える。
しかし、安田にその資格はない。美也にとって、安田はただの隣人にしか過ぎない。
素肌をさらして肉体をゆだね、はばかることなく喜悦の声をあげる。セックスのたびに好意を伝え、劣情を胎内で受け止める。
安田は美也にとって、その相手ではない。奪い取れるだけの何かがそなわっているわけでもない。
秋は深まりつつあった。安普請の一室には、そろそろとしたすき間風も染み込んでくる。
「しかたないんだ。仲間は裏切れない!」
某日早朝、隣室から男の声がひびいた。
「どうして、どうしてなの! もうセクトの仲間とは会わないっていってたじゃない!」
美也の悲痛な声。
「裏切れないんだ。わかってくれ」
ドタドタとした物音のあとに、となりの部屋のドアが開き、男は出ていったようだ。
目を覚ました安田は、自分の部屋の扉を開けてとなりのようすをうかがった。男は荷物を手にして背中を向け、足早に立ち去る。その後ろ姿を見つめながら、美也は叫ぶ。
「バカー! 直人のバカー!」
美也はその場にうずくまり、顔をふさいで泣き出した。安田は部屋を出て、美也に近寄る。
「直人のバカ、バカ、バカバカバカ……」
嗚咽をあげる美也。安田は声をかけることもできず、立ちつくして見守るしかなかった。
部屋に戻った美也は、直人を罵倒しながら泣いていた。泣き声は、壁を通して安田の耳に届いた。
午後になると、鼻水のすすりあげる音と、かすかに直人を呼ぶ声が聞こえる。やがて、疲れて寝てしまったのか、美也の部屋からは何も聞こえなくなった。
「あいつ、セクトとかいってたな。全学連か?」
安田は、直人の言葉を思い出す。
「学生運動に身を投じ、好きな女を置き去りか。いい気なもんだ」
それから数日、となりからは美也のすすり泣く声しか聞こえない。男がいなくなったのだから、いままでのような嬌声が伝わることはなかったが、泣き声はやむことがない。
「食事もしていないんじゃないか」
安田は不安になる。不安になっても、食べ物を届ける気にはなれない。美也のことを魅力的だと思ってはいたが、その気持ちを行動に移す勇気はなかった。
だが、ある夜、美也の奇妙な声が聞こえてきた。
「あん……、直人ぉ、やん、直人ぉ……」
それは明らかに喘ぎ声だった。
だれかがいる気配もないし、出て行った男の名を呼んでいるのだから、一人で自分をなぐさめているのだろう。
久しぶりに、安田の興奮があおられる。美也が乳房を揉み、部分をなぞっている光景を妄想し、安田も自慰におよんでしまう。
次の日も、その次の日も、昼夜問わず、美也は独戯にふける。静かになるのは、美也が寝ているであろう時間だけだ。
「オレは、オレは……」
何をすべきか。いま美也を助けられるのは、自分だけではないのか。
では、何をすればいい。話を聞く。つらい気持ちを吐露させて、気持ちを落ち着かせる。それから、新しい生活を送れるように示唆する。
「そんなことができるのか」
美也は直人を求めているのか。直人からあたえられた快感が忘れられずにいるのか。であれば、直人でなくともよいのではないか。
欲情が解消されるのであれば、相手はだれでもいいのではないか。
「オレが……」
経験はないが知識はある。本能にしたがえば、大きく誤ることもないだろう。
「オレが……」
美也の声が大きくひびく。それは、安田の理性を払拭させるに十分すぎるボリュームだ。
「よし」
決意を固めた安田は、部屋を出た。
美也の部屋の前に立ち、安田は扉をノックする。しばらくして美也が姿をあらわした。
怪訝な表情で安田を見る美也。このとき、たかぶっていた安田の気持ちは鎮まりつつある。
もともと、強引に女性を襲えるような気性ではなく、腕力にも自信はない。そして、冷静になると罪の意識にさいなまれる。
美也は黙って安田を見つめた。
頬がこけ、まぶたの下にくまができている。身に着けているのは男物のTシャツ。裾はひざの辺りまである。
そのとき、安田は美也がノーブラなのを知る。シャツの胸もとに、乳首の突起が浮かびあがっていたからだ。
安田は美也の乳房の先を見て言葉を失った。視線を察した美也は、いきなり安田の手を取って部屋の中へ引きずり込む。
「え、え、ちょっと……!」
狼狽する安田。美也は安田を畳の上にあお向けにすると、腰にまたがってシャツを脱いだ。
「……!」
安田は動揺をおぼえつつ、美也から目を離すことができなかった。
あらわになった胸乳は形よく盛りあがり、頂点の小さな乳首はピンク色をしている。透き通るような肌は艶やかな光沢を放ち、股間の茂みは薄い。
髪の毛を大きくかきあげた美也は、性急に安田のズボンと下着をおろすと、まだ力のこもらない一物を手にした。
「え、その、ちょっと待っ……」
安田は、突然の出来事に平常心を失う。美也は安田を見おろしながら、握った肉棒を激しく上下にしごく。
冷たい手のひらの感触と摩擦の刺激で、安田はまたたく間に勃起する。すると美也は腰を浮かせ、そのまま自分の内部に導いたのだった。
思わぬ形で初体験を済ませ、しかもあこがれをいだいていた人から手ほどきを受けた。安田にとって、まさに僥倖である。
その日から安田は美也の部屋に通い、互いに求め合う。自炊歴の長い安田は、料理もつくった。
「おいしかった。じゃあ、お礼を」
そういって美也は安田にしゃぶりつき、挿入を受け止める。
安田は美也に溺れる。ただ、美也も快く応じてはくれるが、一緒に暮らそうとはしない。
「この部屋からは離れられない」
それは、美也がまだ直人を待ちわびている証だと安田は思う。それでもいつかは、自分になびいてくれる。
そう信じて、安田は自分の部屋で暮らし続けた。
秋が、そろそろ終わりを告げようとしていた。安田と美也の関係は相変わらずで、進展もない。それでも安田は、幸福感に満ちあふれていた。
そんな時だった。
美也の部屋のドアが開いた。安田は、それを自分の部屋で知った。
「直人!」
美也の声。
「美也、逃げてくれ」
「え?」
「一緒に逃げてくれ。理由はあとで話す」
安田は耳をそばだてた。心の中で、断れ、断れと何度も願う。
「うん、わかった」
美也はいった。
ガタゴトと物音がする。逃げる準備が整ったのだろう、あわただしい足音がして、ドアの閉じる音がする。その後、静寂がアパート中にただよった。
一部始終を耳にして、安田はひざを抱えてうつむいた。
「なんだよ、もう……、女ってわかんねえよ」
やっとそれだけをつぶやくと、安田は唇をかんで涙を流した。
- 【長月猛夫プロフィール】
- 1988年官能小説誌への投稿でデビュー。1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作。主な著作『ひとみ煌きの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)/『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)/『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)ほか。
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