Catch Up
キャッチアップ

この官能小説は、現在50代から60代の方々の若かりし時代を舞台背景にしています。貧しかったけれど希望に満ち溢れていたあの頃、そこには切なくも妖しい男と女の物語が今よりも数多く存在しました。人と人とが巡り合う一瞬の奇跡、そこから紡がれる摩訶不思議な性の世界をお楽しみください。 編集長
【惑乱された父親の愛人】長月猛夫
池田の父親は小さな織物工場を神武景気の波に乗せ、それなりの企業にのし上げた。使い慣れない大金を手にした途端に郊外に家を建て、クルマをミゼットから外車に乗り換え、そして愛人を囲った。
典型的な成り上がり者だ。
当時、池田は大学生で真面目だけが取り得の堅物男。遊びをおぼえず、飲めばだれかれかまわず議論を吹っかけるという、硬派を気取った思想家かぶれだった。
そんな池田なので、妻帯しているにもかかわらず、ほかの女を養うという父親の行為が許せなかった。
父親は一人息子の池田に跡を継がせるつもりだった。しかし、池田は父親に反発をいだき、弁護士か検事、判事、官僚もしくは政治家を志す。在籍しているのも法学部だ。そして何かにつけて父親とぶつかり合い、ときにはつかみ合いのケンカになることもあった。
そんな二人の間に立って取り成してくれたのは母親だった。
池田の母親は田舎出の純朴な人で、父親とは見合い結婚。戦中、戦後の混乱期を乗り越え、二人で苦労してここまで漕ぎ着けた、と父親との思い出話を池田によく聞かせた。
「そのかいがあって今があるんだから、お父さんには好きなようにさせてあげなさい」
池田はいつしか、そんな母にも反感をいだくようになった。
「二人で苦労したんなら、二人で成功を甘受すればいいじゃないか。なにも、男である父さんだけが好き放題していいという理屈は成り立たない!」
母親の助けがあって父親は財を築いたはずだ。そんな母親を裏切る父親は許せないし、耐える母親もおかしい。
それが池田の主張である。
3人3様の思いが交差し、家の中は重い空気が漂うようになっていた。父親もそれが我慢できなくなったのだろう。いつしか家に戻らなくなり、愛人宅へ入り浸りになった。
ある日の午後、池田が何気なく町を歩いていると父親のクルマが止まっているのを見つけた。そこはこぢんまりとした一軒家で、しばらくすると父親が姿を見せた。
池田は気づかれないように電柱の陰に隠れて様子をうかがう。父親のうしろからは、色白の女が笑みを浮かべてあらわれた。
年齢は20代後半といったところか。自分よりも年上だが、父親よりは親子ほど年齢は離れている。池田はそう思う。
二人は軽く言葉を交わし、父親はクルマに乗って、その場を去る。女はしばらくあとを見送り、軽く周囲をうかがいながら家の中に戻った。
「あれが親父の愛人か」
カネで囲われた女だから、もっと派手な玄人風を池田は思い描いていた。しかし女は、どこにでもいそうな地味な印象をあたえる。
遠目であるし、物陰から垣間見た程度なので、容貌ははっきりと判別できない。とはいえ、父親が中古といえども家を1軒買うか借りるかするくらいだから、それなりに面立ちは整っているのだろう。
「よりによって、あんな若い女と」
池田は憤りをおぼえた。
幼いころは、つましいが平和な家庭だった。それがいつの間にか、家族全員ギクシャクした関係におちいっている。
「原因のすべては、あの女にある」
たしかに、もっとも悪いのは父親だ。だが、なぜか池田は、あの女こそが元凶のように思えてならない。
「ここは1つ」
池田は意を決し、女の家に乗り込んだのだった。
「すいません、ごめんください」
玄関の前で池田は声をかける。
「はい」
しばらくすると返事があり、扉のカギがはずされる。女は池田を見て、不審な表情を浮かべた。
「あの、どちらさま……」
「お、オレは」
池田は名乗り、父親の名も告げる。女は途端に狼狽の色を浮かべ、しばらく池田を見つめて黙っていた。
「お一人ですか?」
ようやく口を開いた女はいった。
「ああ、そうだ」
池田は横柄に答える。
「立ち話もなんですから」
女は池田を招き入れる。池田は上がり框に靴を脱ぎ捨て、部屋にあがった。
裏庭に面した部屋の真ん中で、池田はあぐらをかいて座る。扉の開け放たれた縁側からは、初夏の風が季節の香気を含んで流れ込んでくる。
手入れの施された庭には、白いクチナシと薄紅のシャクヤクの花。花をめでるようなたしなみを父親は持ち合わせていないので、女の趣味であることがわかる。
やがて女がお茶を運んできた。池田の目の前には南部鉄の灰皿があり、父親が愛用するピースの吸殻が残っている。
「いけない、取り替えます」
「いや、オレは吸わないから」
女は長い髪をかきあげると、うつむき加減で池田の前に座った。
女の名は康代という。花柄のワンピースを身につけた康代は肌艶がよく、細身の体型ながら胸のふくらみは大きい。
垣間見たときの印象どおり、派手さのない、清楚な面立ちをし、言葉づかいも丁寧だ。もし違った状況で出会っていたなら、池田も恋慕をいだいてしまうかもしれない。そんな魅力が感じられる。
「いやいや……」
「え?」
「いや、こっちの話」
池田は出されたお茶をすすり、何から話したものか、と考えあぐねていた。
康代は黙って正座し、ひざに手を置いていた。長い指はかすかに反り返ってそろえられ、光沢のある爪は短く切られている。
池田は緊張をおぼえた。
物心ついたときから、異性と間近に向かい合ったことなどない。もちろん女性とは未経験で、手を握ったことすらなかった。
池田は、あれこれいうべきことを思いめぐらせる。が、なかなか言葉として出てこない。すると沈黙に耐えられなくなったのか、康代のほうから池田に語りかけてきた。
「あのう」
「はい?」
思わず声がうわずってしまう池田。
「なんのご用……」
「ご用って、ご用は……、わかってるでしょう」
「お父さまとのこと、ですか」
「そう、です」
「申し訳ございません!」
康代は、いきなり両手をついて頭をさげた。
「悪いことだと思いつつも、どうしても甘えてしまって」
「時期がくれば、きっぱりいおうと思ってたんです。でも、どうしても……」
「なにを? いや、そうですね」
何をいってるんだ、オレは。池田は思う。
目の前にいるのは母を困らせ、家庭不和を招いた憎い相手だ。もっと口汚くののしっても許されるはずだ。
それなのに池田は、若くてきれいな女だということだけで、心をやわらげてしまっている。
「いけない、いけない」
「は?」
「いや、こっちの話です」
「お父さまに似て、おやさしいんですね」
「そう、ですか?」
「はい。わたしはもっと怒られるものかと思ってました」
池田も、そのつもりだった。けれど、できない。女に甘いのは父親譲りなのだろうか。
「失礼ですがお歳は?」
「21です」
「あら、あまり変わりませんね。わたしは23です」
「そうなんですか」
落ち着いたたたずまいと愛人というイメージから、もっと年上だと感じていた。しかし、こうして話していると、同世代の女の子らしい雰囲気も感じられる。
「お仕事は?」
「学生です」
「大学生? ステキ、頭がいいんですね」
「いや、そんな」
康代のペースに乗ってしまい、池田は笑みを浮かべて頭をかいた。
それからはお互いの事を話し、世間話に花を咲かせてしまった。康代も快活に、あれこれ談笑する。
「あら、お茶が冷めちゃいましたね。入れ替えてきます」
「いや、お気づかいなく」
康代は立ちあがり、台所に消える。
「キャー!」
そのとき、湯呑の割れる派手な音とともに悲鳴があがった。
「ど、どうしたんです」
池田はあわてて立ちあがり、台所にいる康代に駆け寄る。
「ゴ、ゴキブリが」
床にうずくまり、康代は顔をふさいでおびえていた。池田は康代のそばに寄ってひざを折る。
「なんだ、ゴキブリくらい。もう、姿は見えませんよ」
「ほ、本当ですか」
康代は、恐る恐る手のひらを鼻に移動させる。その目は床をうかがい、そして池田を見た。
おびえた表情のままの康代。池田は間近に迫る表情を注視してしまう。
距離は近い。女性特有の甘い香りが鼻腔をくすぐる。鼓動が激しくなり、体温が上昇する。さほど暑くもないのに、首筋と額に汗がにじみ出た。
康代は池田を見つめた。恐怖の視線は潤んだものに変わっている。
康代はいきなり池田の腕をつかむと、顔を近づけた。そして、ゆっくりとひとみを閉じて唇を突き出してきたのだった。
池田は康代の求めを察知する。しかし、何をどうしていいものか迷う。苦しいほどに心臓が早鐘のように打つ。呼吸が荒くなり、筋肉が震えだす。
業を煮やした康代は池田のほほをはさみ、唇を重ねてきた。
「……!」
池田にとっては、初めての体験だった。ぬるりとした、やわらかくて温かな感触に、自分を見失ってしまう。
「お父さまとはきっぱり別れます」
唇を離した康代は、視線をそらさずにいった。
「お父さまからも聞きました。わたしのせいで、家の中がおかしくなったって」
「いや、なにも康代さんのせいじゃ」
「いいえ、わたしのせいです。だから、縁を切ります。その代わり」
「その代わり」
「あなたがわたしを慰めてください」
そういうと、康代は立ちあがり、身につけていたものをすべて脱いだ。
庭から差し込む白昼の光を背にし、全裸の康代のシルエットが浮かぶ。なだらかな肩に長い腕。豊満な胸元から腰にかけての扇情的な曲線が、空間をはっきりと切り取る。
きめ細やかな肌が光沢を放つ。胸乳の乳首が妖しい彩りを添え、股間の茂みが淫靡な装いを呈する。
「あなたも脱いで」
うながされるままに、池田も裸になった。股間の一物は、すでに大きくとがっている。
康代は池田の前に立ち、手をいざなって乳房に押しつけた。
「どう? やわらかいでしょ」
「は、はい」
「忘れさせて。いままでのわたしを」
静かに押し倒された池田の上に、康代はおおいかぶさってきた。
池田は欲望の赴くままに乳房を揉み、乳首を舐める。そして、指を陰部に挿入させ、内部をこねくりまわす。
「そう、ああん、そう、いい」
背中を反らせてあごをあげ、康代は湿った声をあげる。髪の毛が垂れ落ち、さらりと池田をかすめた。
肉柱は、ますます大きく固く屹立する。劣情にまみれた池田は、体勢を入れ替え康代にかぶさる。そして、自分の中心を膣口にあてがうと、根元まで埋没させたのだった。
なめらかな感触が池田を覆いつくす。蜜の潤滑と温度が全身の神経に伝わり、脳髄をしびれさせる。
「やあん、ああん、ダメ、ううん、だめぇ!」
両脚を大きくひろげた康代は、池田を迎え入れながら、自らも腰を振った。
内部の襞がうごめき、包皮に絡みつく。やさし気な圧力が、芯棒を締めつける。
ただ、童貞だった池田には、康代の美肉を堪能できるほどの余裕がない。すぐに我慢の限界が訪れ、康代の胎内で果ててしまった。
池田が抜き取ると、康代は身を起こし、チリ紙で後始末をしてくれる。
「もっといろんなことしてくれて、よかったのに」
少しすねた素振りで康代はいう。その仕草は妖艶かつ淫靡であり、父親が家族をないがしろにしてまで溺れる理由もわかるような気がした。
「まだ、大丈夫ですよね」
「え?」
「だって、わたしはまだ……」
艶然とした眼差しで池田を見た康代は、始末したモノをながめつつ、前かがみになって顔面を股間に近づける。そのまま口にふくむと、唾液を塗りこめながら舌を絡ませた。
「あ、ああ……」
舌の縦横無尽な動きと、吸い込みによる内ほほの粘膜の密着で、しなびていた池田は徐々に復活を遂げる。
「ふふふ、今度はゆっくりと楽しませて」
前足を投げ出して腰をおろしていた池田に、康代はひざだけでにじり寄る。そして股座にまたがると、自ら挿入に導いたのだった。
それ以後、池田は父親同様、康代に耽溺してしまった。康代も壮年の父親より、若い池田との行為を望んだ。
だからといって、父親と疎遠になることはない。生活の面倒を見てもらっているのだから当然だ。二人は父親の目を盗んで逢瀬を重ねることとなる。
二人がいつものように至福の時間を過ごそうとしていたとき、康代の家の前でクルマのエンジン音と派手なブレーキ音が聞こえた。
「まさか……」
康代は動揺する。と同時に、池田に押し入れへ隠れるよう告げる。池田も、クルマの主がだれだかわかった。
「康代、きたぞ」
扉がガラガラと開けられ、野太い声がひびく。池田は身を隠し、康代は慌てて迎えに出る。玄関では、池田の父親が靴を脱いでいる最中だった。
「きょうこないって」
「気が変わった」
父親はまったくの遠慮を見せず、部屋にあがる。そして、康代の腕をつかんで座る。腕を引っ張られた康代も腰をおろす。父親は、そのまま康代を畳の上に押し倒した。
「いや、やめて」
「どうして」
「まだ、気分が」
「なんだ? 珍しいじゃないか。スケベなお前らしくない」
「わたしだって……」
「いつもはお前のほうからねだってくるくせに」
父親は康代のワンピースをまくり、下着を脱がす。ズボンとパンツだけを脱いだ父親は、服を着たままの康代に挑んでいった。
挿入を果たし、腰を振りながら父親はシャツと肌着を脱いでいく。康代は唇をかみしめ、顔をそむける。
「どうした、いつもと様子が違うな」
康代は答えない。父親は康代を抱きあげ、ひざの上に置いた。そして、ワンピースをはぎ取り、ブラジャーを取る。
素肌をさらした康代は、父親の突き上げに合わせて身を躍らせる。池田は、押し入れのすき間から一部始終を見つめた。康代は、ときおり押し入れの方向に眼差しを向ける。
「おい」
康代を辱める父親は、行為の途中でいった。
「押し入れに隠れているのか。出てきてもいいんだぞ」
驚愕する池田。そして康代。
「気づかれていないとでも思ったのか。浅はかな奴だ。お前と康代がねんごろになっていることくらい百も承知だ。親の女を盗むだなんて、とんでもない奴だ」
父親は腰を止めない。康代もいつしか光悦の感情をあらわにしはじめる。
「康代はな、わしの女だ。そして、お前も知ってのとおりスケベな女だ。惚れられているとでも勘違いしたか。うぬぼれるな」
父親は康代を四つん這いにし、押し入れの方向へ顔を向かせる。
「チ×ポを挿れるとな、この女はこんな顔をするんだ。わしだけじゃない、お前だけでもない、だれのチ×ポでもだ。だからわしが引き取って、わしだけの女にした。こいつはそれが不満だったようだな」
悶える康代の顔が池田の視界にひろがる。最初はいやがっていた康代だが、歓喜を満面に浮かべている。
「いいか、こいつはわしが養っている。自分だけのものにしたけりゃ、わし以上のカネで面倒を見ろ」
父親は激しい抽送をくり返した。康代は甲高い声をあげ、父親の射精と同時に気をいった。
すべてが終わった時、康代は両手両脚をひろげて横たわっていた。父親は、そんな康代を残して家から出て行く。
押し入れから出てきた池田は、呆然と康代を見下ろした。
康代の股間からは、父親の精液がこぼれ落ちている。乳房が父親の唾液で濡れている。
「康代さん」
池田は声をかける。
「オレと一緒に逃げないか?」
康代は表情を変えずにたずねた。
「わたしを養ってくれるの? 面倒を見てくれるの? いままで以上に」
康代の視線は宙をさまよっている。池田は言葉をなくす。そして、何も言い残さずにその場を去った。
- 【長月猛夫プロフィール】
- 1988年官能小説誌への投稿でデビュー。1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作。主な著作『ひとみ煌きの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)/『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)/『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)ほか。
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