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【昭和官能エレジー】第36回「人生をあきらめた細い身体の女」長月猛夫

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【昭和官能エレジー】第36回「人生をあきらめた細い身体の女」長月猛夫

この官能小説は、現在50代から60代の方々の若かりし時代を舞台背景にしています。貧しかったけれど希望に満ち溢れていたあの頃、そこには切なくも妖しい男と女の物語が今よりも数多く存在しました。人と人とが巡り合う一瞬の奇跡、そこから紡がれる摩訶不思議な性の世界をお楽しみください。 編集長

【人生をあきらめた細い身体の女】長月猛夫

 その通りの道は、いつも濡れていた。水のたまったコンクリートのくぼみは、繁華街のネオンを受けて陰鬱な光沢を放っていた。

 店はにぎやかな通り面した雑居ビルの地下にあった。そこに女はいた。

 店の隅のソファー席。吸い殻とマッチでいっぱいになった灰皿をテーブルに据え、壁にもたれた女は、首を垂れてゆらゆらと左右に振っている。ときおりあごをあげて顔を天井に向けるが、ひとみは閉じたままだ。

 真っ青に彩られたまぶたに、反り返った長いまつ毛。肉厚のある唇には真紅のルージュが塗り込まれていた。

 闇に等しい店内に流れるロックの音。ハ虫類の声をした男の声が、シタールをまねたギターの音色におおいかぶさる。

 カウンターの上には、バナナが描かれたLPレコードのジャケット。バナナに浮かんだ黒いシミは、人生を嘲笑する愚衆の顔に見える。

「いいものがあるんだけど」

 山中はテーブルに手をつき、女の前で前屈みになって告げた。

 女はうっすらと目を開ける。その表情は、まどろみから目覚めた赤ん坊のようだと山中は思った。

「なに?」

「これ」

 山中は周囲をうかがってから、小さな茶色の小瓶をアロハシャツのポケットから取り出す。

「なに?」

 女は表情を変えずに同じ言葉をつぶやいた。

 腰まである長い髪。上半身にぴっちりと張りついたシャツを着て、床に裾の届くスカートをはいている。

 灰色の煙が立ちのぼる灰皿の横には、緑色のリキュールが入ったロックグラス。女はそれを手に取って口に運び、細いのどをコクリと鳴らした。

 グラスを唇から離した女は、水色のパッケージからタバコを取り出して口に咥える。

「変わったタバコだね」

「ゴロワーズ」

「アメリカ?」

「フランス」

 マッチをすって火をつけ、女は薄い紫の煙を吐いた。

「悪いけど、興味ない」

「そう? 意外だな」

「意外なんだ」

 女はグラスの残りを飲み干す。

「シンナーとかトルエンよりも酒?」

「そう」

「なに飲んでるの?」

「シャルトリューズ」

「なに、それ?」

 女は山中をにらむ。

「あんた、だれ? アタシになんの用?」

「これは失敬。オレは山中。きみみたいな女の子に興味があって」

「アタシのなにに?」

「人生をあきらめていそうなところ」

 女は突然、けたたましく笑い出した。

「おもしろい。アンタの目はたしかだよ」

 女はタバコを吸い殻の山に押し当てて火を消すと、ふらふらと立ちあがる。

「どうしたの?」

「興味があるんだろ、アタシに。教えてあげるよ、アタシを」

 おぼつかない足取りで、店を出ようとする女。山中は、スカートに隠された小さなヒップラインを見つめながら、あとを追った。

通りから少し離れた寂しいところに、女の住むアパートはあった。繁華街とは数十メートルしか離れていないのに、喧騒の猥雑は届いていない。

 ほのかな街灯に照らされた建物の1階は、住民の植木鉢が並んでいる。自分たちのテリトリーを誇示するかのように。

 季節は早い秋。か細い声で、気の早い虫が鳴いている。いくつかの部屋の窓からは白い明かりが漏れているものの、生活を感じさせる趣はない。

 女は振り向きもせず、赤さびた鉄の階段をのぼる。空には満月が浮かんでいて、青い光が細い女の姿を浮かびあがらせていた。

 山中は黙って女に続いた。2階にあがって、角の部屋のカギを女は開ける。

 蹴とばせば簡単に穴が空くであろう扉が開き、女は室内に姿を消す。しばらくして明かりがついた。

 山中は躊躇した。照明が灯っていなかったので、中に人はいないはずだ。だからといって、一人暮らしとは限らない。あとから、こわもての男が戻ってくる可能性もある。

「なにしてるの?」

 扉から顔だけを出して女はいう。

「い、いや……」

「心配してるんだ。安心しなよ、だれとも住んじゃいないよ」

 女は山中の気持ちを読み取った。

「まあ……、それもあるけど」

「なんだよ、もうアタシには興味がなくなったの?」

 ドアの影から出てきた女はいう。

「それは……」

「じゃあ、帰んな」

 女は部屋に入ろうとした。

「あ、待って」

 山中は、あわてて閉まろうとする扉に手をかけた。

 4畳半の部屋には布団が敷きっ放しになっていて、菓子の空き袋や酒の瓶、底に汁がたまったままの丼が乱雑に置かれていた。鴨居には派手な衣装がぶら下げられ、その下に下着が脱ぎ散らかされている。

 天井からぶら下がった裸電球が、それら一つ一つに陰影をあたえ、存在感を導き出す。

 家具はない。テレビもラジオもない。電気製品といえそうなものは、壊れかけた扇風機くらいのものだ。

 山中は、そんな部屋のようすを見て立ちつくしてしまう。女はスカートだけを脱ぐと、布団の上にあぐらをかいてタバコに火をつけた。

「そんなところに立ってないで」

 マッチ棒を上下に振って火を消すと、女は山中を見あげていう。

「いや、立ってないでといわれても……」

 部屋に足の踏み場はない。唯一、腰をおろせそうなスペースがあるのは布団の上だけだ。

「ここ、ここに座りなよ」

 女は自分の横を指で示した。

「ここって……」

「ヤなの? アタシが寝ている布団はヤなの?」

「いや、別に……」

「じゃあ、ここに座りな」

 ゴミを踏まないように用心しながら足を進め、山中は女のとなりに座った。

「じゃ、はじめようか」

 女は、そういってシャツを脱ごうとする。

「いや、いや、いや、いや……、ちょ、ちょっと」

「どうしたの?」

「どうしたも、こうしたも」

「アタシに興味あるんだろ。教えてあげるよ、アタシを」

「それは……」

「手っ取り早いジャン。セックスが」

 山中は改めて、女を確認した。

 化粧は濃いが、素顔には幼さが残っていそうだ。少し左右に離れた目は、大きくてかすかに吊りあがっている。鼻は小さく、ツンと上を向き、厚い目の唇は小さくこぢんまりとしている。

 病的なほどに肌の色は白い。胸のふくらみはかすかだ。

「なんだよ、じろじろ見るなよ」

 女は恥ずかしそうにほほ笑んだ。

「きみ、名前は?」

「エダ子」

「エダ子?」

「エモーショナルでダウナーな子ども」

 本名なのか違うのか、判断はつかない。しかし、詮索するのも面倒なので、山中は女をエダ子と呼ぶことにする。

「歳は?」

「14から数えるのはやめた」

 見た目から二十歳前後だと推測できる。

「クニは?」

「ロンドン」

「え?」

「あ、ニューヨークの方がいいかな。いっそチベットっていうのもおもしろいかな」

「仕事は?」

 その瞬間、エダ子は山中のほほをぶつ。いきなりのことに狼狽える山中。するとエダ子はシャツを脱ぎ捨て、下着1枚姿で山中に伸しかかっていった。

「面倒なんだよ。ごちゃごちゃ聞くなよ。さっさとアタシで気持ちよくなりなよ」

 エダ子はそういって山中の唇に、自分の唇を押しあてる。そして、山中のズボンのベルトをはずしてチャックをおろし、下着の中に手を入れて、まだ力のこもらない一物を握りしめた。

 エダ子の肌はカサついていて、手触りがよいとはいえない。あまり食事をとっていないのか、脂肪も筋肉の量も少ない。

 上に乗られても、体重を感じることはない。上下に腰を振るときの振動だけが伝わってきた。

 肉づきがよくないためか、内部の締まりがゆるく、蜜の量も少ない。ゴムもはめずに挿入しているにもかかわらず、山中は心地よさを得ることができなかった。

「どう? つまんないだろ、アタシのオ×ンコ」

 自分の身体を自覚しているエダ子は、髪をかきあげて山中にたずねる。その表情には、自嘲と寂しさが浮かんでいる。

「……」

 山中は答えることができない。身体を許してくれている相手に、あからさまな不満を伝えるほどデリカシーのない性格ではない。

「もう、いいか」

 なかなかイかない山中に、エダ子はあきらめたようにいった。

「これがアタシだよ。つまらない女。男一人、イかすこともできない」

 全裸のままあぐらをかき、エダ子はタバコに火をつける。

「いや、そんなことはないよ」

 やはり裸の山中は、身体を起こしてエダ子にいう。

「いいよ、慰めてくれなくても。同情はゴメンだ」

「同情なんかじゃない」

「じゃあ、なに?」

 山中は、この場に適した言葉を探す。

「きみは、エダ子は……」

「呼び捨てだ」

 エダ子はケラケラと声をあげて笑う。

「ボクが知り合ったなかで初めてのタイプ。そう、初めてだ。だから、もっと知ってみたい」

「なにを?」

「何が初めてと感じさせるのか」

 エダ子は真剣なまなざしで山中を見る。

「イきたい?」

「え?」

「出したいだろ、スペルマ」

「ああ、まあ」

「口でしてやるよ。自信あるんだ」

 エダ子はジリジリと音を立ててタバコを吸い、天井に向かって煙を吐き出すと、布団のそばの丼に吸い殻を投げ入れる。残り汁がジッと音を立てて、吸い殻の火を消した。

 とくに約束はしない。約束をしても、守ってくれる可能性は皆無に近い。だから、エダ子に会いたくなると、山中は初めて会った店に足を向けた。

 エダ子はいるときもあったし、いないこともあった。いるときは、吸い殻が盛られた灰皿を前にしてシャルトリューズを飲んでいた。

「会えたね」

「うん」

 エダ子は笑みを浮かべる。

 季節は秋も終わりに差しかかっていた。エダ子の態度は、最初とまったく変わることはなかった。

 必要以上のことは話さない。話す内容も、本当かどうかわからない。そんな女に、どうして興味を持つんだろう。この女の何に惹かれるんだろう。

「目、かな?」

「え、なんかいった?」

「いいや」

「いこうか」

 店を出て、エダ子のアパートに向かう。相変わらずの部屋の中で、山中はエダ子を抱く。

 心地よさはない。かすかに粘ったゴムの膜が芯棒をおおい、スコスコとこすっているような感覚だ。自分の手でしごいたほうが、刺激は強い。

 互いに達しない儀式のようなセックスを終えると、エダ子は前屈して山中の股間に顔をうずめ、屹立を維持している肉棒をしゃぶった。

 自信があるというだけあって、エダ子の口戯は巧みだった。

 先やサオをなぞることなく、エダ子はいきなり山中をほお張る。鼻の先を陰毛の茂みに押しつけ、根元まで口腔に納める。

 そのまま、エダ子は動きを止める。ただし、口の中では舌が縦横無尽に蠢いて絡みつき、カリのくびれや裏筋などの敏感な部分を探る。

 咥え込みながら唾液を十分にたくわえ、陰茎を口内の沼に溺れさせる。その後、ゆっくりと振幅のひろいストロークをくり返せば、よだれが糸を引き、ヂュブチュプと淫猥な音がひびく。

 やがて吸い込みを強めると、頭の動きが早くなる。首を振り、回転させ、髪の毛を揺らしながら全身を使って抜き差しを加える。

 その間も、舌は動きを止めない。

「んん、ふうん、うううん……」

 髪をかきあげて、咥えているようすを山中に見せつける。首をかしげると、内ほほに当たる尖端の形が浮かびあがる。

 うっとりとした上目づかいで山中を見つめるエダ子。唇をすぼめてカリ首をはさみ、一切手をつかわずに、山中の興奮をうながす。

「ああ、出る、出るよ、エダ子」

 山中はエダ子の頭を押さえ、喉の入り口まで突き入れると、そのまま白濁の液を吐き出す。エダ子は最後の1滴まで受け止め、残汁を絞り取ると、たまった精子を飲み干した。

「なあ、エダ子」

 ある日、終わったあとの虚脱に甘んじていた山中はたずねた。

「エダ子はいいのか?」

「なにが?」

「だって、気持ちよくないだろ」

「うん。でも」

「でも?」

「アンタが帰ったあとに自分でする」

「いいのか? それで」

「じゃあ、どうしてくれる」

「それは」

「いいかげんなこといわない。同情はきらいだ」

「エダ子さあ」

「質問?」

「うん」

「じゃあ、やめて。人にいろいろ聞かれるのはきらいだ」

 エダ子はゴロワーズを取って、口に咥えた。そんなエダ子を見て、山中は逡巡する。

 仕事は何をしているのか。無職なら生活費や飲み代はどうしているのか。年齢はいくつなのか。これまで、どんな生き方をしてきたのか。

 男は自分一人だけなのか。

 エダ子は、考えを巡らせる山中の目をじっと見つめた。

「なに考えてるの?」

「い、いや……」

「アタシのこと?」

「うん、まあ」

 困惑の表情を浮かべるエダ子。それから小さな吐息をひとつ漏らし、無理な笑顔を浮かべる。とてつもない寂しさをにじませながら。

 その日を境に、エダ子とは会えなくなった。何度も店に足を運んだが、エダ子の姿はない。店の人間にたずねてみても、最近はごぶさただ、としか答えない。

 アパートを訪ねてみても、カギがかかっていてドアは開かないし、明かりも灯っていない。ノックをしても、声をかけても返答はない。

「なんだよ」

 秋が終わって冬が訪れた。山中は久しぶりに雑居ビルの地下に店をたずねてみた。が、扉が閉じられ貸し物件のプレートがかかっていた。

 山中がエダ子と出会うすべは、失われた。

【長月猛夫プロフィール】
1988年官能小説誌への投稿でデビュー。1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作。主な著作『ひとみ煌きの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)/『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)/『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)ほか。

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