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昭和官能エレジー第30回「女になれずに逝った少女」長月猛夫

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昭和官能エレジー第30回「女になれずに逝った少女」長月猛夫

この官能小説は、現在50代から60代の方々の若かりし時代を舞台背景にしています。貧しかったけれど希望に満ち溢れていたあの頃、そこには切なくも妖しい男と女の物語が今よりも数多く存在しました。人と人とが巡り合う一瞬の奇跡、そこから紡がれる摩訶不思議な性の世界をお楽しみください。 編集長

【女になれずに逝った少女】長月猛夫

 美智子は高校2年生。幼いころから病弱で、学校は休みがちだ。そんな美智子にあこがれをいだいてしまったのが、同級生の晃だった。

 美智子がたまに登校してくると、その姿を見て、晃は心臓が苦しくなるほど胸の痛みをおぼえる。

 背中の中ほどまで伸ばした漆黒の髪に、透き通るような素肌。涼しい目もとや少し上を向いた鼻先、小さくて厚みのある唇が端正にまとまっている面立ちを見ると、思わずため息が出てしまう。

 それほど晃にとって、美智子は可憐で華麗だった。

 しかし16歳の晃はウブで純情だ。女子に告白する勇気など持ち合わせていない。

 晃は強烈な恋心を抱くだけの、切ない日々を送っていた。

 そんな美智子と晃は、席替えでとなり同士になった。そのころ体調もよかった美智子は、ほとんど毎日、出席するようになっていた。

 晃は、自分のすぐとなりに美智子がいるというだけで、毎日の通学が楽しくて仕方がない。

 美智子と晃が初めて言葉を交わしたのは、英語の授業中のこと。教師は「何が彼をそうさせたのか」という和文の英訳を晃に命じたときだ。

 英語が苦手な晃は、起立したままで答えることができない。どうしたものかと立ちすくんでいたとき、美智子がそっとささやいた。

「What makes him so」

 晃は聞こえてくる英文をそのまま口にする。教師はうなずき、晃を座らせる。晃は席につく瞬間、美智子の顔を見た。

 美智子は微笑を浮かべて晃を見つめ、そのまま教科書に目を戻した。

 それがきっかけとなって、晃と美智子は会話を交わすようになった。とはいえ、朝のあいさつや、ちょっとした勉強の質問ぐらいで、それも二言三言を話す程度。それでも晃は無上のよろこびをおぼえ、充実した日々を実感していた。

 しかし、そんな日々は長く続かなかった。

 5月の中ごろ、美智子は突然、入院を強いられた。美智子と会えなくなった晃は、それまでの楽しみが大きかっただけに落胆も大きく、通学するのも億劫に感じられるほどだ。

 授業は身に入らず、行われた中間試験の結果は散々。しかし、忘れることなど到底できない。

「どうしよう。このままではダメになる。けど、いったいどうすればいい」

 晃は考え悩む。成績や毎日の空しさはもちろんだが、なによりも美智子に会いたい、美智子の声を聞きたい、美智子の姿を、笑顔をひと目みたい。

 晃は一大決心をし、美智子が入院している病院へ見舞いに行くことにした。

 病院は郊外にあり、周囲の深い緑と対照的なくすんだ白い建物だ。大きなひさしのある玄関に入り、受付で病室を聞くと1階の奥の個室で美智子は療養しているという。

 花束を手にした晃は、長い廊下を進む。木製の床は、歩くテンポに合わせてギシギシときしんだ音を立てる。

 廊下に照明は灯されず、突き当りの出口が四角形に白く切り取られている。どこからともなく、薬品の鼻をつくにおいが漂ってくる。

 部屋に近づくにつれ、晃は極度の緊張にさいなまれた。

 突然の来訪を美智子は、どう思うだろう。いつものように笑顔で迎えてくれるのか。それとも……。

 閉ざされたドアの前に立った瞬間、どうしてもノブが握れずにちゅうちょしてしまう。

「ここまできながら情けない」

 自分を叱咤する晃。ズボンで手のひらの汗をぬぐい、扉を開けようとするが手に力が入らない。

 そのとき、ドアが勝手に開き、中から美智子の母親が姿をあらわした。

「あ……」

 晃は思わず絶句してしまう。母親は花束を手にした晃を見て察し、笑顔で室内に声をかけた。

「美智子、お友だちがお見舞いにきてくれたわよ」

 晃は身体中の筋肉が硬直してしまい、一歩も前に進むことができない。

「お友だち? だれ?」

 中からは懐かしい美智子の声が聞こえる。母親は明るい口調で晃に告げる。

「さあ、中に入ってください」

 晃は招かれるまま室内に入った。ベッドの上で入り口をのぞき込んでいた美智子は、晃の姿を見てパッと表情を明るくする。

「晃くん!」

「あ、あの、その……、お、お見舞いに」

 晃は仰々しい態度で花束を差し出す。

「わあ、きれい!」

「ありがとうございます。早速、生けなきゃ」

 母親もそういってよろこび、花瓶を持って廊下に出て行った。

「座って」

 身体をガチガチにさせて立ちすくむ晃に、美智子は席をすすめる。

「でも、晃くんがお見舞いにきてくれるだなんて、うれしい」

「い、いや、その、あの……」

「学校はどう? みんな元気にしてる」

「は、は、は、はい、げ、元気であります」

「やだ、晃くん、おかしい」

 口に手を当ててほほ笑む美智子。晃はその笑顔を見ただけで緊張がほぐれ、もう十分だと思えるほどの幸福感を味わった。

 美智子も美智子の母親も晃の見舞いを歓迎し、何度でも訪ねてくるよううながした。言葉に甘えた晃は、午前中に授業が終わる土曜日と休日である日曜日のたびに、花束を持って美智子の病室をおとずれる。

 病室で晃は学校のこと、最近見たテレビや雑誌のことなどなどを伝える。話は弾み、面会時間ギリギリまで長居したこともある。

 晃を前にして、美智子ははつらつと話し、大きな声で笑った。それは晃が、いったいどこが病気なんだ、と思えるくらいの明るさだった。

 しかし、6月になると晃は頻繁に通えなくなった。理由のひとつは小遣い不足だ。

 美智子の入院する病院には、電車に乗って最寄り駅からバスに乗り換える。週に2回といえども、高校生の晃にとっては大きな出費だ。そのうえ毎回、花束を買う。美智子も、それを楽しみにしている。

 仕方なく晃は、毎朝、毎夕の新聞配達をはじめた。だが、月末にならないと給料は入らない。親に頼んで前借りはしたが、そうたびたび無心するわけにもいかないし、理由を聞かれても答えに窮してしまう。

 次第に晃の足は遠のいてしまった。

 7月に入り梅雨も終わろうという季節、新聞配達の給料が入った晃は、意気揚々と病院にくる。大きな花束を両手でかかえて。

「晃くん!」

 美智子は満面の笑みで晃を迎えた。

 病室には美智子しかいなかった。

「ママはすぐに戻ってくるから」

 花束を抱いた美智子は、鼻を近づけてにおいをかぐ。

「いいにおい。晃くん、いつもありがとう」

「ううん」

 晃は椅子に座って、そんな美智子の様子をながめる。しばらくぶりに見る美智子は、より身体が細くなり、顔色も少し黄ばんで見えた。

 美智子は花束を花瓶のそばに置く。晃はいままでどおり、学校やテレビの話を口にする。美智子は表情をほころばせて聞いていた。だが、弱々しい雰囲気は否めない。

 やがて話題がつき、沈黙が流れた。すると突然、美智子はいった。

「晃くんは好きな女の子、いるの?」

 晃は動揺し、答えられない。

「わたしはいるよ、好きな男の子」

「え? だれ?」

 美智子は小さく笑う。

「ねえ、晃くん」

「なに?」

「キスしたこと、ある?」

 晃は驚き、思い切り首を横に振る。

「わたしも、でも……」

 見つめ合う目と目。美智子は、そっとひとみを閉じると軽く唇を突き出した。

 晃は周囲をうかがい、美智子のそばに寄る。そしてゴクリとつばを飲み込むと、そっと唇を重ねたのだった。

 気持ちの通じ合えた二人は、それから会うたびに口づけを交わすようになる。晃は有頂天になっていた。

 7月も半ばになると期末試験がはじまる。晃は準備に追われ、ふたたび病院に通えなくなった。

 美智子に会いたいという気持ちが募る。できればキス以上に発展させたいという気持ちも起こる。

 性欲が旺盛な青い年齢。当たり前の感情ではある。

 ようやく試験も終わり、夏休みとなった。その日、晃は夕刊配達を休み、美智子のもとへ急いだ。

 病室に母親の姿はない。これまで通りに二人は唇を重ねる。その日、晃は思い切って美智子の胸に手を伸ばしてみた。

「きゃ!」

 その瞬間、美智子は驚きの声をあげて身をすくめてしまった。

「ご、ごめん」

 晃はあわてて身体を離す。

 沈黙が流れる。せっかくここまで仲よくなれたのに、これで終わりだ、との後悔をあおる。

 しかし、美智子は意外な言葉を口にした。

「晃くん、ママがいない夜にきて」

「え?」

「土曜日の夜は、ママ、忙しいから朝まで一人ぼっちなの、だから」

「美智子、お待たせ。あら、晃くん、きてたの」

 そのとき、美智子の母親が部屋にはいってきた。

「あ、すいません、ボク、もう」

 晃は逃げるように部屋をあとにする。頭の中では、美智子の言葉が何度も何度もこだましていた。

 次の土曜日、晃は美智子に教えられた裏口から病棟に忍び込んだ。

 蛍光灯はか細く灯っているが廊下は薄暗い。白い壁のシミが不気味な模様を浮かびあがらせる。キシキシという床の音が、必要以上に大きく聞こえる。

 期待と不安でみぞおちが痛くなる。冷房の効かない空間で、汗が身体中をじっとりと濡らす。

 周囲に気を配りながら、晃は美智子の部屋に赴いた。美智子は照明が落ちた中で、身を起こして晃を待っていた。

「きてくれたんだ。うれしい」

 美智子はそういって、ベッドの脇に立つ晃に抱きついた。

「この前はごめんね。いきなりだからビックリしちゃった」

「いや、こちらこそ」

「晃くん、わたしね」

 美智子は顔をあげて晃を見る。

「わたしね、晃くんのことが好き」

 晃は黙ってうなずく。

「晃くんは?」

「もちろん」

「もちろん、なに?」

「え?」

「ちゃんといって」

 真剣な眼差しの美智子。

「好きだよ」

「うれしい」

 美智子はふたたび抱きつき、晃の胸に顔をうずめる。

「でも晃くん、きょうのわたしを見たら、きらいになるかもしれない。だって、わたし……」

 美智子は悲痛な表情でうつむいた。

「どうして? きらいになったりするわけないじゃないか」

「でも、でもね」

 美智子はそうつぶやき、パジャマのボタンをはずしはじめた。

 晃は突然の行動に目を見開いてしまう。きめ細かい純白の素肌があらわになる。美智子は上着を脱ぎ、ブラジャーを取る。

「これでも?」

 美智子は身をよじって背中をしめす。背中には、くっきりと生々しい手術痕が浮き出ていた。

「わたし、腎臓がひとつしかないの。これはそのときの傷なの」

 晃は絶句してしまう。美智子は前を向き両腕で乳房をかくす。

「こんなわたしでも好き? きらいにならない?」

 晃は黙って美智子を抱きしめる。美智子は涙を流し、晃の胸板を濡らした。

 そのまま晃は美智子に口づけし、ベッドに倒れこむ。美智子は晃を強く抱きしめる。晃は美智子の乳房を揉み、乳首を吸い、全裸にむいた。

「やん、恥ずかしい」

 美智子は両手で顔を隠す。晃は美智子の全身を舐め、自分も裸になった。

 経験はなかったが、知識は雑誌から得ていた。そして、初めてなのに気持ちは落ち着いている。

 それは女性の身体を堪能するというよりも、美智子全部を慰めるという使命感があったからかもしれない。

 晃はできるだけ丁寧に美智子のすべてをなぞった。それは背中の傷もふくめて。

「ねえ、わたし、普通? みんなと同じ身体してる?」

「いや」

「え?」

「だれよりも、かわいくてきれいだ」

「やだ、照れくさい」

 美智子はほほ笑みながら涙をにじませている。

 晃は美智子の全部をなぞり、さすり、陰部を愛撫する。美智子は身をのけ反らせ、甘い吐息を漏らす。

 晃の一物は、すでに隆々と勃起していた。美智子の部分も潤っている。

「挿れてもいい?」

 しかし、美智子はかたくなにこばんだ。

「だめ」

「どうして」

「どうしても、お願い」

 かすかな憤りをおぼえた晃だったが、無理強いするのもはばかられる。消灯時間が過ぎたといっても、病室では万が一のこともある。

 そう思い直した晃は、光沢を放つなめらかな肌を舐り、乳房と乳首、秘所をいじくり、その日は夜明けと同時に病院を抜け出した。

 しかし射精できなかった不満が、晃のなかにくすぶり続けた。家に戻って自分で慰めると、余計にそんな感情がわきおこる。

「なんだっていうんだよ」

 次の土曜日の夜も、晃は病院に忍び込む。だが、美智子は最後までを許してくれない。欲求不満の重なった晃は、見舞いにいく気も失せてしまい新聞配達も辞める。

「まあ、新学期がはじまれば」

 美智子も元気になって、学校に復帰するだろう。そのときは普通の恋人同士として、楽しく過ごせる。病室でなければ、さすがの美智子もすべてを許してくれるだろう。

 晃はそう思っていた。

 夏本番の8月。連日、暑い日が続いた。休みといえども、どこに出かける予定もない晃は、一日中家でだらだらと過ごしていた。

 そんな日、家の電話が鳴る。晃の母親は、美智子の母からだと告げる。

 胸騒ぎがする。晃は受話器を取って耳に当てる。聞こえてきたのは、美智子の母親の泣きむせぶ声だった。

 晃は慌てて病院に駆けつけた。ベッドに横たわる美智子の顔には、すでに白い布がかぶされていた。

「まさか、そんな……」

 晃は頭の中が白くなり、脱力してしまう。その場にへたり込んでしまい、現実を素直に受け止めることができない。

 美智子の母親は、晃に1通の手紙を渡した。

 手紙には、晃と知り合えてよかったこと、自分の身体をきれいだとほめてくれてうれしかったことなどが綿々とつづられている。

 そして、文末には次のように記されていた。

「晃くんと知り合えて幸せでした。ずっと忘れません。晃くんの大切な初めては、ずっと好きでいられる人と交わしてください。わたしが初めてだと、わたしのことを忘れられなくなるでしょ。そんなの、もったいないです。けど、わたしは晃くんと肌を合わせられただけで幸せでした。最高の気持ち。恥ずかしかったけど」

 晃は周囲に構わず号泣した。何度も何度も美智子に謝りながら泣き伏した。

 通夜が終わり、葬儀が終わると、美智子の母親は晃に伝えた。

 美智子は思い腎疾患で助からない。それを美智子自身も知っていた。そして、土曜日の夜、美智子の母親は晃が忍び込んでいるのを知っていた。

「仕事が意外と早く終わって駆けつけたんです。でも、部屋の外から美智子と晃くんの声が聞こえて。母親としては止めるべきだったんでしょうけど、何も知らないで天国へ召される美智子もかわいそうだし」

「お母さん」

「美智子、あなたと会えてすごく幸せそうでした。あんなに明るいあの子の笑顔を見たのは子どものとき以来でした。ありがとうございます。美智子に代わってお礼をいいます」

 どうして最後の最後まで、美智子のところに通ってあげなかったのか。美智子を抱きしめるだけで満足できなかったのか。

 自分勝手な行動を悔い、もはやどうすることもできない無力を味わう。後悔の念は、その後もずっと晃を苦しめた。

【長月猛夫プロフィール】
1988年官能小説誌への投稿でデビュー。1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作。主な著作『ひとみ煌きの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)/『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)/『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)ほか。

  • 昭和官能エレジー第30回「女になれずに逝った少女」長月猛夫

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