Catch Up
キャッチアップ

この官能小説は、現在50代から60代の方々の若かりし時代を舞台背景にしています。貧しかったけれど希望に満ち溢れていたあの頃、そこには切なくも妖しい男と女の物語が今よりも数多く存在しました。人と人とが巡り合う一瞬の奇跡、そこから紡がれる摩訶不思議な性の世界をお楽しみください。 編集長
【緊縛をせがんだ淫乱少女】長月猛夫
梅雨がはじまったばかりの季節。シトシトと降る雨は止むことを忘れ、身体にまとわりつく湿気と温気で部屋は充満している。カタカタと羽根をまわす小さな扇風機は、重苦しい空気を攪拌するだけで、本来の役目を果たさない。
古ぼけたアパートの、そんな一室で高橋は雑誌を読みふけっていた。
4畳半の狭い部屋。トイレは共同で、申し訳程度の流しが玄関わきにすえられている。畳の上には敷きっぱなしのせんべい布団と脚の短い文机。壁は本棚で囲まれ、あふれ出た専門書や大学の教科書が机の周囲にうずたかく積み上げられていた。
「これは、すごい」
ランニングシャツにステテコ姿で布団に寝転がっていた高橋は、雑誌のページを開いて思わず声を上げる。そこには夏の制服を身につけた少女が縛られ、哀れむ目を目を向けている写真が掲載されていた。
高橋が見ていたのは新しく手に入れたSM雑誌だ。高橋は中学時代に偶然見てしまった緊縛写真の影響を受け、SMに興味をおぼえるようになっていた。
その写真は、手足の自由を奪われ、柔肌に荒縄が食い込み、ロウのしたたる白い肉体がムチで赤く染まっていく姿を写したものだった。
モデルが美しければ美しいほど、エロスは増幅されるように思える。もしくは、可憐な制服姿の少女が縛られ、座している写真などを見ると、頭の中がクラクラするほど欲情があおられる。
このときの雑誌の少女も、肌を露出しているわけでも、縛られる以上の責め苦を受けているわけでもないにもかかわらず、溜まらないエロティシズムを感じ取ってしまった。
興奮と熱気で汗がしたたり落ちる。高橋は身体を起こし、首にかけたタオルで何度も額を拭く。
「はあ、はあ、はあ……」
高橋は昂る気持ちにあおられて、下着の中に手を入れ、勃起した一物を握りしめる。
その時だった。
「お兄ちゃん、いる?」
ドアがノックされ、だれかが声をかける。
「ちょ、ちょっと待って」
高橋は慌てて本を布団の下に隠し、ズボンを穿いて立ち上がる。そして、玄関にいき、扉を開けた。
「お兄ちゃん、来ちゃった」
そこには白いセーラー服姿の千春が、満面の笑みを浮かべて立っていた。
家賃は安いが、今にも崩れそうなアパートには、昼真っから酒ばかりあおっている中年男や身寄りのないの年寄り、そして子だくさん家族などがひしめき合って暮らしていた。
千春はそんな住人の一人で、近所の高校に通う18歳。うりざね顔と切れ長の目が印象的な、おさげ髪のよく似合う愛らしい少女だ。
父親はなく、母親が夜の商売で口を糊している。母一人、子一人の生活で寂しかったのか、それとも兄が欲しかったのか、千春は高橋の部屋によく遊びに来た。
そこそこ名の知れた大学に通っていた高橋に、母親も安心していたのだろう。別段、娘の行動に対して注意をあたえていなかった。それよりも、自分の留守に面倒を見てくれるだれかがいることに安心していたふうでもある。
千春は向学心が強く、そのうえ好奇心旺盛で、高橋の部屋に来ると専門書や大学の教科書を手にとって読んでいた。高橋も試験前に家庭教師をかって出る。そのせいもあって、千春の成績は優秀だった。
そういったところも、母親が高橋を不審に思わない理由だった。
「お兄ちゃん、中に入っていい?」
千春は小首をかしげ、上目づかいで高橋を見ていう。
「あ、ああ」
高橋は千春を招き入れる。千春はいつも通り、何の不信も抱かず部屋の中に入ってきた。
エアコンなど一部の家庭にしか普及していない時代だ。高橋は閉めていた窓を開けて空気を入れ替える。少しは涼しく感じられるものの、じめっとした湿り気は残されたまま。
そんな空間の中で、高橋は千春と2人だけになった。
千春は早速、部屋中の本を物色する。半袖から伸びた腕には汗がにじみ、薄い産毛がきらめく。うなじの後れ毛が湿り、セーラー服も湿気で潤って背中に張りつき、ブラジャーのラインがはっきりと浮かんでいる。
あぐらをかいて千春の姿を見ていた高橋の頭の中で、さっき見ていた雑誌の少女と姿がオーバーラップしてしまう。
千春は本棚の本を取り出しては表紙をながめ、首をかしげてもとに戻す。腰をおろして積み上げた本を見て、また元に戻す。
「もう、全部読んじゃったなぁ。なにか新しいのないの?」
「いや、いまあるのはそれだけ」
「つまんない。本棚のほかに隠していない?」
千春は押入れを開けようとした。押入れの中には、これまで購読したSM誌が積み上げられている。
高橋はあわてて、千春の手を止めた。
「そこは、ダメ」
「どうして? そうだ、いやらしい本、隠してるんでしょ」
「そんなもの、ないよ」
「じゃあ、見せてよ」
「ダメだ、洗濯物とかつまってるし」
「洗濯物? 千春が洗ってあげようか」
「いいよ、そんなの」
高橋はどうにかこうにか、千春を押入から離れさせる。
「つまんない。せっかく遊びに来たのに」
両脚を投げ出し、千春はちょこんと畳の上に座る。
「お兄ちゃん」
「なんだ?」
「お布団、たたんだほうがいいよ。臭いし、カビがはえちゃうよ」
「あ、ああ、そうだな」
「たたまないの?」
「え?」
「千春が、たたんだら? ていってるのに」
布団をたためば、さっきの雑誌が見つかってしまう。それだけは、避けたい。
「たたむよ、たたむ」
「千春がたたんであげる」
高橋が止めるよりも早く、千春は布団をまくりあげる。
「やだ、何これ」
隠していた雑誌を千春は手に取る。奪い返そうとする高橋だったが、千春は身をよじって逃れ、ページをめくった。
「お兄ちゃん、こんなの読むんだ」
「い、いや、友だちが、その……」
恥ずかしさで、しどろもどろになる高橋。だが、千春は嫌悪の表情を浮かべることなく、次から次へと読み進んでいく。高橋は、そんな千春の姿をながめているしかない。
「ねえねえ、こんなことして女の人って気持ちいいのかなぁ」
誌面に目を落としながら、千春はつぶやいた。
「え? さあ……」
「でも、痛いのって、ときどき気持ちいいよね。歯が少しだけ痛いときって、ちょっと気持ちよかったりするよね」
千春は視線をあげ、高橋を見る。そのひとみは、かすかに潤んでいるように見える。
高橋は、千春に少女以上の妖しさを感じ取ってしまった。
「ねえ、お兄ちゃん」
「な、なんだ」
「千春も、こんなふうにして。縛ってみて」
高橋は驚愕する。
「なにバカなこといってんだよ」
「だって、縛るだけなら大丈夫でしょ」
「え……?」
「裸になるわけでもないし。この子みたいに」
千春が開いたページには、高橋が興奮を覚えた少女の写真があった。
確かに、この少女は裸体でない。衣装をつけたまま縄が巻かれているだけだ。だが、着衣が全裸よりも勝ることはある。
「けど」
「ダメなの?」
千春は寂しそうな表情でいった。
千春の旺盛な好奇心が、新しい感覚を求めている。手足の自由を奪われ、身動きできない状態が、どんなものなのかを知りたがっている。そこに、性的な欲求はないのだろう。
高橋は思う。
だが、自分はどうだ? 生身の少女が縄をまとった姿で眼前にいる。幼くて、愛らしくて、それでも花咲く直前のつぼみの色香をたたえた少女が、すぐそばにいる。
こらえきることができるのか。手を出さずに入れるのか。
「いや、それはそんな下劣な人間じゃない」
「ん? なにかいった?」
愛玩用の小動物のような目で千春は訊く。高橋は冷静を装い、わざと作り笑顔を浮かべた。
夕刻が近づき、薄い闇が漂いはじめる。雨音は聞こえてこない。いつもならアパートのあちこちから騒がしい声や物音がひびいてくるのに、だれもいないかのように静かだ。
この世の中に千春と橋本しか存在しないかのように。
「いいのか」
「うん、どんな感じか味わってみたい」
衣裳を乱すことがなければ、高橋は性的な興奮を持つことがないと思っている。そして千春は、高橋を安全な人間だと信じている。
高橋は、引っ越してきたときから捨てずにいた荷造り用のロープを用意した。
「正座して。手を後ろにまわして」
長いスカートの後ろを尻のラインに当て、千春はひざを折る。両腕を背中にまわし、右手で左手の手首をつかむ。
高橋は、ロープの先で両手首を固定した。
「痛くない?」
「うん、大丈夫」
千春は笑顔だが、緊張がうかがい知れる。
残ったロープを、千春のセーラー服姿に絡めていく。乳房の上下が縛られ、盛り上がりが誇張された。
「大丈夫?」
「大丈夫」
そう口にする千春だが、徐々に表情が強張りつつあった。
高橋はこれまで、千春をこんなに間近にしたことはなかった。本を読んでいるときは距離を開け、勉強を教えているときも必要以上に近づかない。
それは異性に対するマナーであり、自分自身を冷静に保つためでもあった。
だが、いまはすぐ近くにいる。手を伸ばせば乳房や腰にも触れることができる。
ロープをすべて使い、高橋は千春を縛り終えた。素人なので専門家のようにうまく結ぶことはできないが、それでも見よう見まねでそれらしい姿に千春を作りあげる。
「どうだ、気分は?」
「う~ん、別にどうもない」
「そうか、けど……」
「けど?」
「すごくいやらしいよ、いまの千春は」
高橋はそういってからハッと我に返る。千春は言葉に対して敏感に反応し、脅えに似た表情を浮かべる。
その表情を見た瞬間、高橋の頭の中でプツンと小さく弾ける音が鳴るのを知った。
闇はますます深くなる。窓の外には何も見えない。世界が隔絶されている。高橋は、舞い降りてきた万能感に身震いしてしまう。
「千春」
「え?」
「千春、そのつもりなんだろ」
「え? なに?」
「正直になれよ」
高橋の目淫欲が滾っては血走る。いままで見たこともない高橋の表情に、千春は恐怖をいだいてしまう。
「やめて、お兄ちゃん、ダメ、やめて」
脚を投げ出し、後ろ手のままで千春は退く。だが、高橋は卑劣な笑みを浮かべて千春ににじり寄ると、畳の上に押し倒した。
「い、いや、やめて!」
千春は抵抗を示すが、腕が使えず足をバタつかせるしかすべがない。それをいいことに、高橋は千春のスカートをまくりあげ、パンティをズリおろした。
「いやいや、やめて! お兄ちゃん、きらいになるよ!」
そんな言葉も、高橋の耳には届かない。とはいえ、薄板1枚だけで隣室と隔てられた安普請だ。だれかに気づかれる恐れがある。
高橋は首にまわしていたタオルを取り、千春の口にかませた。
「うううんん、んん、んん!」
猿ぐつわをされ、千春はうめく。高橋は劣情の赴くまま下半身をむき出しにし、千春の両脚をひろげ、屹立した肉柱をあてがった。
「んんん、んん、ん!」
大きく首を横に振っていた千春は、挿入の瞬間、動きを止めた。
高橋は千春の乳房を制服の上から揉みながら、抽送する。潤いの少ない千春の部分だったが、窮屈なほどの締まりとほどよい温度で高橋をおおいつくす。
「ああ、千春、千春……」
抜き差しをくり返し、高橋は千春を堪能した。眉根にしわを寄せ、苦悶の表情を浮かべる千春だが、高橋には光悦を示しているように見える。
「いいんだろ、気持ちいいんだろ。オレは、すごくいい。こうされたかったんだろ、こんなことをしたかったんだろ。だからオレのところに」
千春は激しく大きく首を横に振った。涙がこぼれ、頬を濡らす。高橋は、それすら喜悦の表れだと錯覚する。
「ああ、気持ちいい。出そうだ、出る」
千春は精いっぱいのあらがいを試みる。しかし、高橋は生身のままの状態で、千春の内部に迸りを放った。
すべてが終わったとき、千春は嗚咽を上げて号泣する。射精と同時に理性を取り戻した高橋は、畳に転がる千春を見て、耐えがたい悔恨に襲われていた。
その後、二度と千春は高橋の部屋に訪れることがなかった。アパートの通路ですれ違っても、侮蔑の視線を向けるだけだ。
いたたまれなくなった高橋は、こっそりとアパートを引き払った。
- 【長月猛夫プロフィール】
- 1988年官能小説誌への投稿でデビュー。1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作。主な著作『ひとみ煌きの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)/『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)/『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)ほか。
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