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昭和官能エレジー第26回「下宿住まいの浪人生と自殺願望の女」長月猛夫

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昭和官能エレジー第26回「下宿住まいの浪人生と自殺願望の女」長月猛夫

この官能小説は、現在50代から60代の方々の若かりし時代を舞台背景にしています。貧しかったけれど希望に満ち溢れていたあの頃、そこには切なくも妖しい男と女の物語が今よりも数多く存在しました。人と人とが巡り合う一瞬の奇跡、そこから紡がれる摩訶不思議な性の世界をお楽しみください。 編集長

【下宿住まいの浪人生と自殺願望の女】長月猛夫

 サクラが散った。花のサクラが散っただけではない。君彦も大学受験に失敗した。

 地方出身の君彦は東京で下宿をし、予備校へかようことになる。住まいは古びたアパートで、トイレと洗面、台所は共同。玄関先で靴を脱ぎ、2階にあがった廊下の突き当りが君彦の部屋だった。

「よし! 心機一転頑張るぞ!」

 畳が6枚敷かれた部屋の家具といえば、脚の低い文机と本棚だけ。押し入れもなく、布団は敷きっぱなしで、衣服はハンガーにかけて鴨居にぶら下げた。

 気合を入れるために「必勝」と書いたハチマキを頭に巻き、壁には「絶対合格!」「捲土重来」「臥薪嘗胆」と書かれた紙を貼る。天井には裸電球。机の上には電気スタンドと実家から持ってきたトランジスタラジオを置いた。

 予備校の入学式が終わったその日の夜、受け取ったテキストを机のわきに置き、問題集に取り組もうとする君彦。その前に、ラジオのスイッチを入れ、ザーという雑音を聞きながらチューニングをまわし、周波数を目的の放送局に合わせる。

「は~い、みんな元気かな? ごっきげんなグッドミュージックと、ごっきげんなおしゃべりをお贈りする、この番組。DJは……」

 田舎でも聞いていた番組だ。ただ、ラジオをつけて勉強することを親はとがめるので、イヤホンをつけてこっそりと聞いていた。

 いまはだれに遠慮することもない。ラジオだけではない。どんな雑誌を読もうと、その雑誌を見ながら何をしようと、だれはばかることはない。

 君彦は大学に落ちた挫折を感じるどころか、18年生きてきて初めて手に入れた自由に心を弾ませていたのだった。

 とはいえ、生活費は親の仕送りだし、もちろん予備校の学費も支払ってもらう。父親は農協に勤めるサラリーマン。母親は専業主婦で、高校生と中学生の弟もいる。貧困家庭ではないが裕福でもない。両親の負担を考えると、2浪は避けなければならない。

「この1年は頑張らないと」

 ラジオから流れるDJの軽快な声と流行りの音楽。それを聞き流しながら、君彦は鉛筆を握って机に向かった。

 環境が変わることによって、集中力が増すということはある。君彦はラジオの番組が変わったことも気づかないほど、勉強に没頭していた。

 アパートのつくりは安普請で、壁も薄く、合板を張り合わせただけの扉は隙間が空いている。それでも、アパートは静かだ。

 どれだけの人数が住んでいるのかはわからないが、まったく音がしない。ひょっとしたら、自分だけしか入居していないのでは、と思えるほどだ。

 2階建てで部屋数は全部で10室。トイレと洗面は上下階に設置されているが、台所は1階だけにしかない。一番奥に位置しているので、君彦の部屋の前を人が通ることはない。それにしても静かすぎる。

「まあ、静かにこしたことはないか」

 ぼそりと、そうつぶやいた時だった。

――ガシャーン!

 食器の割れる音が響き、同時にドスンという人の倒れるような音がする。君彦は驚いて耳をそばだてる。

「んんん……」

 小さく聞こえるうなり声。

「大変だ!」

 音はとなりの部屋からだった。あわてて廊下に出た君彦は、隣室のドアをノックする。

「どうしました? 大丈夫ですか?」

 ノックをしてたずねる。返事はない。

「開けますよ」

 カギはかかっていなかった。扉を開けると、折り畳み式の小さなテーブルが倒れ、グラスや皿の散乱している様子が見えた。そして、畳の上には錠剤が散らばり、一人の女が手首から血を流して突っ伏していた。

「大変だ……」

 狼狽した君彦は迷う。救急車を呼ぶべきだろうが、アパートに電話はなく公衆電話を探さなければならない。とはいえ、住んだばかりの街は不案内でもある。

「たしか銭湯近くのタバコ屋に」

 君彦は部屋を出ようとした。そのとき、君彦を呼び止める声がする。

「ま、待って。大丈夫だから」

 振り返る君彦。部屋では倒れていた女が気だるそうに身体を起こし、座ったままでうなだれていた。

「大丈夫ですか」

 君彦は女に近づいてたずねる。

「大丈夫。そこの包帯取って」

 女の示す方向を見ると、白い包帯がある。君彦は取って手わたす。

「ありがとう」

 女は手首に巻こうとするが、意識がもうろうとしているために上手くできない。

「ボクが」

 君彦は止血のために少し強めに巻く。傷はさほど深くなく、血はにじんだものの包帯だけで止まった。

「ありがとう」

 女はふたたび礼をいうと、よろよろと立ち上がった。

「どこへ?」

「トイレ」

 よろめきながら女は廊下に出ようとする。しかし身体に力が入らず、その場にうずくまってしまう。

「大丈夫ですか」

 君彦は駆け寄る。

「トイレ、連れてって」

 女は焦点の合わないまなざしで君彦を見た。

 女を抱きあげ、君彦はトイレまで歩く。彼女の長い髪が君彦のほほを撫でる。身体は細いが胸の膨らみは豊満で、君彦の腕や背中にやわらかな感触が伝わった。

 興奮があおられるのをおぼえつつ、女をトイレにまで連れ込む。すると女はドアも閉めず、便器にうつぶせになって口に指を入れ、胃の中のものを吐き出した。

「げえ、ぐげえ」

 君彦は背中を向けた。嘔吐の音だけが耳に伝わる。やがて全部を吐き出した女は、部屋に連れ戻すように頼む。

 君彦は再度、女性の柔軟さを感じ取りながら廊下を歩いたのだった。

 部屋に戻ると女は汲み置きの水を飲み、あぐらをかいて目を閉じた。

「じゃあ、ボクは」

 君彦は部屋から出ていこうとした。

「名前は?」

「え?」

「君、名前は?」

 目を閉じたままうなだれた女は、君彦にたずねた。

「山田です」

「フルネームで」

「山田君彦です」

「君彦くん。わたしは由梨花」

「由梨花さん」

「そう。よろしく」

 由梨花はそういって手を挙げる。君彦はどうすればいいのかがわからずにいる。

「握手。おとなりさんでしょ。挨拶の握手」

 君彦は由梨花の手をそっと握った。由梨花は強い力で握りしめ、自分のほうへ君彦を引き寄せる。その力にうながされ、君彦は由梨花の横に腰をおろした。

「君彦、君はわたしの命の恩人だ」

 髪をかきあげ、由梨花は君彦をのぞき込む。ほほ笑みを浮かべた由梨花のまなざしに、君彦は動揺してしまった。

「救急車呼ばないでね。大丈夫だから。また死のうとしたことバレたら、追い出されちゃう」

「初めてじゃないんですか」

「初めてじゃない。わたし病気なんだ」

「そうなんですか」

「そう、死にたい病。夜に一人でいるとさ、すぐに死にたくなるんだ」

 君彦は言葉をなくした。

「だからさ、君彦」

「はい」

「わたしのこと見張っといて。一人にしないで」

「そんなこといわれても……」

「死んじゃってもいいの?」

 寂しそうな目で由梨花は君彦を見つめる。愁いを帯びた表情に、君彦は言葉をなくす。

「きょうは寝る。寝たら帰ってもいい。けど、あした、この部屋にきてね」

 由梨花はそのまま君彦にもたれて寝息を立てた。

 どうすればいいものか、君彦は困惑した。そして、改めて由梨花の寝顔を見る。

 長いまつ毛がまぶたの上で反り、鼻筋はまっすぐ通って小鼻は小さい。厚みのある唇には縦の筋が走り、顔面は蒼白だが肌の艶はいい。

 君彦は由梨花が目を覚まさないのを知ると、その場に寝かせ、部屋にあった毛布をかけて自室へ戻った。

「は~い、みんな元気かな? ごっきげんなグッドミュージックと、ごっきげんなおしゃべりをお贈りする、この番組。DJは……」

 ラジオが流れる。由梨花との出来事があった次の夜、君彦は問題集と格闘していた。

「いるんでしょ! 出てこーい!」

 突然、ドアの取っ手がガチャガチャと鳴り、君彦を呼ぶ声がした。声の主は由梨花だ。君彦は立ち上がり、大急ぎでドアのカギをはずす。

「どうして来ないんだよ」

 君彦の姿を見た途端、由梨花はいう。

「え? けど」

「死んじゃってもいいの?」

 由梨花は呂律が回っていない。呼気からシンナーのにおいがする。

「入る」

 由梨花は無理やり君彦の部屋に足を踏み入れた。

「ふ~ん。受験生か」

 部屋の中を見まわして由梨花はつぶやく。

「どこ目指してるの?」

「目標は……」

 君彦は志望校の名前を挙げた。

「そのレベルか。勉強、教えてあげようか」

「え?」

「あたしさ、こう見えてもさ」

 由梨花は都内でも、いや全国レベルでトップクラスにある私立大学に在籍しているといった。

「本当ですか?」

 口から出まかせではないかと、君彦はいぶかしがる。

「疑ってるんだ。じゃあ」

 由梨花は机の上にある問題集と鉛筆を取ると、畳に座ってすらすらと解きはじめた。

「ほら」

 君彦は由梨花の横にすわって答えと照らし合わせる。すべて正解だ。

「すごい」

「信じた?」

「はい」

「ふふふ、じゃあ明日から勉強、教えてあげる。毎晩、ここにきて教えてあげる」

「いいんですか?」

「いいよ。そうだ、もっといいことも教えてあげようか」

 由梨花は前屈みになり、君彦の顔を見あげた。

「もっといいことって……」

「セックス」

「……!」

「チェリーなの?」

「チェリー?」

「童貞」

 君彦は硬直してしまって言葉が出ない。

「教えたげるよ。遠慮しないでいいよ」

「け、けど……」

「チェリーでチキン。チキンチェリーの君彦くん」

 由梨花はいきなり君彦のほほをおさえ唇を押しつける。君彦は気が動転してしまい、目を見開いたまま由梨花を受け止める。

 厚ぼったい感触が口から全身に伝い走り、身体の熱が上昇しはじめる。血液が股間に集中し、男根がうずいて屹立してしまう。

 由梨花は舌をねじ込み、君彦の歯茎やほほの裏側をなぞる。唾液が流し込まれ、舌が絡まり合う。

「おっきくなった?」

「は、はい」

「どれどれ」

 由梨花はズボンの上から君彦の硬度を確認した。

「もう十分だね」

 由梨花は立ち上がり、ふわりと髪をなびかせて身に着けていたものを脱ぐ。シャツを脱ぎ、ジーンズをおろし、ブラジャーを取ってパンティを脚から抜いた。

「どう?」

 両手を開いて由梨花は裸体を誇示する。腰をおろしたままの君彦は、呆然となって由梨花を見つめてしまった。

「さあ、どうぞ」

 由梨花は全裸で君彦の服を脱がして寝そべる。招かれた君彦だが、女性に対する手順の一切がわからない。

「なにも考えなくていいよ。そのまま上に乗っかって」

 指図されるまま、緊張する君彦は由梨花の身体におおいかぶさる。

「胸にさわって」

「はい」

 君彦は由梨花の乳房に手を伸ばす。つるりとした感触が手のひらいっぱいにひろがり、それと同時に心臓の鼓動も早くなる。

「指に力入れて。そう。乳首立ってるでしょ」

「はい」

「舐めて」

 顔を胸乳に近づけ、舌を伸ばす。吸いついて舐れば、薄く甘い味わいが感じられる。

「右手でお股を触って」

 いわれたとおりに由梨花の陰部を探る。

「そう、やわらかい?」

「はい」

「濡れてきたの、わかる?」

「はい」

 粘り気のある汁が、君彦の指に絡まる。柔軟な肉ビラは熱を持ち、指先に力を込めると内部ににゅるっと埋没してしまった。

「あ……、やん、いきなり」

 由梨花の背中が弓ぞりになる。眉根にしわを寄せ、唇がゆるく開く。

「激しくしちゃダメ。ゆっくりと、そう、ゆっくり出し入れするの。女の子にはやさしく……、あん、ヤダ、感じちゃう」

 由梨花の声は徐々に艶を帯びはじめた。君彦の興奮はピークに達し、肉棒が何度もビクビクと痙攣をくり返す。

「ゆ、由梨花さん……」

「ん? 挿れたいの?」

「はい」

「いいよ、ここ、ここに……」

 由梨花は君彦に手を添えて、膣穴の入り口を示した。君彦は由梨花に導かれるまま、蜜壺の中へ侵入する。

「あ、やん」

 怒張がめり込んだ時、由梨花は大きく口を開けて貫通を享受した。君彦は欲望の赴くまま、腰を律動させる。

「やんやん、いい、うん、君彦、じょうずよ、じょうず」

「ゆ、由梨花さん、ボ、ボク……」

「え? なに? もう?」

「は、はい、もう、ボク」

「ダメ、中はダメ」

 由梨花は腰を引いて一物を抜き取る。そして君彦をあお向けにすると、前かがみになって男柱をほお張る。

 上半身を揺らして抜き差しをくり返す由梨花。君彦は間もなく、由梨花の口腔にほとばしりを放ったのだった。

 翌日から、由梨花による夜の授業がはじまった。予備校から戻って由梨花に勉強を教えてもらい、そのあとは二人で交わる。日曜日は下宿での勉強も休み、朝から晩まで互いに求め合う。

 由梨花の教え方がよかったのか、予備校の成績も上がる。そのうえ性欲も満たされていた君彦は、充実した日々を過ごしていた。

「もう、死にたいなんていわないでくださいね」

「それはどうだろ。でもね、最近は思わない」

「シンナーは?」

「吸っていない。アンパンよりも気持ちいいから」

 一線終えた布団の上で由梨花はいう。そんな毎日が1か月続いた。

 五月の大型連休前、君彦は予備校でできた友だちとの飲み会に誘われた。未成年ではあるが、同じようにアパートで下宿する友人宅で朝まで過ごしてしまう。

「ただいまー」

 酔いと寝不足でふらふらになった身体を持て余しながら、君彦は部屋の扉を開ける。カギはかけていなかった。

「……!」

 部屋の真ん中に布団をひろげ、由梨花が横臥していた。手首からは血があふれ、空の薬瓶が転がっている。

「あ、あ、あああああ!」

 君彦は由梨花を抱きあげ、名前を呼ぶ。

「由梨花さん、由梨花さん、由梨花さん!」

 由梨花は目を開けず、何も答えない。すでに呼吸は止まっている。

「由梨花さん、由梨花さん、由梨花さん!」

 由梨花は自ら命を絶った。たった一晩、君彦が姿を消しただけで、生きていくことを諦めた。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 君彦は悔恨をおぼえて慟哭する。春は終わりを迎え、夏がはじまろうとしていた。

【長月猛夫プロフィール】
1988年官能小説誌への投稿でデビュー。1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作。主な著作『ひとみ煌きの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)/『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)/『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)ほか。

  • 昭和官能エレジー第26回「下宿住まいの浪人生と自殺願望の女」長月猛夫

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