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昭和官能エレジー第25回「生板本番ストリッパーと屈辱の照明係」長月猛夫

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昭和官能エレジー第25回「生板本番ストリッパーと屈辱の照明係」長月猛夫

この官能小説は、現在50代から60代の方々の若かりし時代を舞台背景にしています。貧しかったけれど希望に満ち溢れていたあの頃、そこには切なくも妖しい男と女の物語が今よりも数多く存在しました。人と人とが巡り合う一瞬の奇跡、そこから紡がれる摩訶不思議な性の世界をお楽しみください。 編集長

【生板本番ストリッパーと屈辱の照明係】長月猛夫

 闇の中に浮かびあがる空間を眼下に、浩平は劇場の背後からスポットライトを当てていた。舞台の上には、純白のシースルーをまとった踊り子のカレン。赤や黄色、緑の照明を浴びながら、身をくねらせて艶美な踊りを披露する。

 透き通った肌はきらめきの光沢を放ち、ライトの熱のためか、ほのかな桃色に染まっている。ウェーブのかかった栗色の髪に真紅のルージュ。豊満な乳房の頂にある乳首のピンクが、衣装を通して扇情的にうかがえる。

 場内に流れる音曲に合わせ、カレンは観客の劣情をうながす。登場した時こそ、やんやの喝采を送っていた男たちも、ステージが進むと言葉をなくして注視した。

 潤んだまなざしを妖艶に流し、カレンは惜しげもなく裸体を披露する。重力を感じさせないしなやかな動きは、エロチックではあるが猥雑ではない。

 淫靡でありつつも高貴な姿。浩平は、そう確信する。

 音楽はテンポを増し、カレンの踊りは激しくなる。すべてを脱ぎ捨て、手足を伸ばし、髪を振り乱して躍動する。天岩戸から天照大神を招き出したアメノウズメ命も、こんな様子だったのかと思えるほどの姿だ。

 カレンが最後のポーズを決めると、音が鳴りやみ、静寂の中で浩平は照明を落とす。見とれていた観客は我に返り、惜しげもない拍手を送った。

 大学に合格して上京はしてみたものの、これといった目標も見いだせず、浩平は一日中、下宿の部屋にこもって過ごした。仕送りで食うには困らなかったが、大学に通うどころか、生きている意味すら見いだせない。自堕落な生活が続き、授業にも出ず、2回目の留年が決まった時に退学した。

 学校を辞した通知は親元に届き、仕送りをストップされた上に勘当を言い渡された。食費に事欠き、部屋代も払えずに下宿を追い出される。

 将来への希望どころか、その日の生活もままならない浩平は生きる気力をなくし、死に場所を求めて街をさまよった。そんなとき、ふと目についたのがストリップ劇場だった。

 故郷を離れる時、餞別代りだといって、地元の先輩に連れられて娼家に出向いた。それが浩平の初体験だった。相手をしてくれたのは、一回り以上は年が離れているであろう女だった。

 初めてだと告げると、娼婦は必要以上に手厚くもてなしてくれた。そのときの慈しみと女のやわらかな感触、果てる瞬間の悦楽を浩平は忘れることができずにいた。

 最期を迎えるであろう今、よみがえってくる、あの時の感覚。だが、浩平に女が買えるほどのカネはない。

「今生の思い出に女の裸くらい見てから……」

 そう考えた浩平は、劇場の中に歩を進めたのだった。

 なけなしの金をはたいて入場し、浩平は重いドアを開ける。映画館のように暗い空間には、平日の午後であるにもかかわらず観客の影がある。とはいえ、数十人は入るであろうスペースに、数えるほどしか姿は見えない。

 浩平はもっとも後ろの席に、遠慮がちに座った。

 ステージでは、色は白いが贅肉にまみれた女が全裸でダンスを披露していた。とはいえ、とても踊りといえるような代物ではなく、手足をばたつかせているだけだ。

 最後には客の前で両脚を広げ、股間の割れ目を露出する。男たちは辟易しているのだろう、だれも女の部分をのぞこうとはしない。

「ほらほら、もっと近くによってごらんなさいよ」

 女はいうが、男たちは身動きすらしない。

「なんだよ、もう!」

 機嫌を損ねた女は、曲が鳴りやむ前に奥に引っ込んだ。

「お待たせしました。続いてはカレンさんの登場です!」

 引き続き場内アナウンスが流れる。途端に観客がざわつきはじめる。スポットライトが点灯し、ゆるやかな曲が流れ、カレンが舞台に姿をあらわした。

「よ、待ってました!」

 客の一人が声をかけた。

 まばらな客の全員が、カレンを目当てに足を運んでいるのは明らかだった。それまで背もたれにふんぞり返り、腕を組んであくびをしていた男も、かぶりつきへ移動する。

 カレンは媚びた表情を浮かべることもなく、優美に踊りはじめる。その瞬間から、浩平は魅了されてしまった。カレンの容姿はもちろん、彼女の優雅な演舞にも魅入られてしまったのだ。

 細い指をそらして宙から何かを招き入れようとする手の動き。実りのいい太もももあらわにしつつ、濃厚な空気をかき混ぜる脚のしぐさ。ひとみは半睡で、厚い唇には締まりがなく、反り返った長いまつげがガラスの粉を散りばめたかのようにきらめいている。

 純白の肌はライトの光に溶け込み、胸乳の頂点と股間の茂みだけが鮮やかな彩りを与える。透けた衣装は天女の羽衣に似て、まばゆい神々しさに満ちている。

 浩平はまばたきをするのも忘れ、カレンの一挙手一投足を見つめた。多くの視線を浴びながら、カレンは惑わしの世界へと観客を導く。

 蠱惑的な視線を客席に向けると、だれもが自分にそそがれていると信じ、身体中の血の巡りを早くする。カレンが淫悶の表情を浮かべると、自分が凌辱しているような錯覚におちいる。

 並びのいい歯を見せて舌先を出し、自らの唇を舐める。あお向けになって左手で乳房をつかみ、右手を股間に忍ばせる。

 熱いまなざしがカレンの全身に突き刺さる。刺激が彼女の欲情を駆り立てるのか、眉根にしわを寄せ、何度か身を痙攣させる。そんなカレンの姿を見て、ズボンの中に手を入れている男もいる。

 やがてスローな曲がアップテンポのものに変わる。カレンは飛び起き、すべてを脱ぎ捨てると、人が変わったかのように躍動する。

 細い手足を極限まで伸ばし、頭を振って髪をなびかせる。舞台狭しと駆け回り、脚を高く掲げて宙を蹴る。瞬間、濃色の秘部が垣間見える。

 動きに合わせて観客は手拍子を打つ。浩平もつられて両掌をたたく。客席に出っ張った、通称「デベソ」と呼ばれるステージを回り、ウインクと投げキッスを送る。客の要望を受け、立ったまま指で陰部の肉ビラを開くこともある。

 最後には舞台の中央に戻って床に突っ伏し、カレンのダンスは終わった。

 感動をおぼえた浩平は、死ぬことなど完全に忘れていた。だが、外に出ると現実が重くのしかかる。

「どうしよう」

 ふたたび死が誘惑の触手を伸ばす。

「あ……」

 浩平は、劇場の入り口に1枚の紙が貼られているのに気づいた。それは照明係を募集する貼り紙だった。

「住み込み可能か……」

 浩平はしばらく記されていた内容をながめ、劇場に踵を返す。そのまま面接を申し出、簡単な質問だけで採用が決まり、浩平はストリップ劇場で働くこととなった。

 劇場の舞台には、専属と全国津々浦々を回るフリーの踊り子が登場する。ただ、浩平の働く劇場は経営が芳しくないため、フリーを呼ぶ余裕がない。必然的に専属ばかりに頼る形となるが、フリーになってもお呼びのかからない年増か客の喜ばない体型の女性ばかりとなる。

 カレンは専属の踊り子で、年齢は30代後半だった。それでも、匂うような色香にグラマラスなスタイル、真っ白な肌と妖艶な演技が人気を呼び、劇場のトップダンサーだった。

 裏方の照明係は音響も兼ね、ステージに立つ前の踊り子と打ち合わせをする。ほとんどの踊り子は、裏方に任せるか適当に済ませる。しかし、カレンは違った。

 自分の選んだ曲で練習を繰り返し、浩平には忌憚なく注文をつけた。とくに照明については細かい指示を出し、綿密なリハーサルも行う。

 ほかの裏方たちは、そんなカレンの態度を面倒だと思ったようだ。だが浩平は違った。

 そもそもが、カレンの踊りに魅了されて、この世界に飛び込んだ浩平だ。カレンの美しさを際立たせ、ダンスをより魅力的に見せるのに苦労はいとわなかった。

 そんな浩平をカレンも気に入り、舞台がはけたあとに飲みに出かけたり、休みの日には買い物につき合わせたりすることもあった。

 二人の距離は縮まる。とはいえ、浩平にとってカレンは憧れの存在でしかなく、年齢も離れている。それでも、浩平はカレンとの時間を共有できることに、よろこびをおぼえていた。

 そんなある日の夜だった。眠りに就こうと思った浩平の部屋にだれかが訪ねてきた。

「カレンさん」

 扉を開けた浩平はいう。

「よ! ちょっといいかい?」

 ぶっきらぼうな話し方でカレンは告げる。

「え、ええ、どうぞ」

 カレンが浩平の部屋を訪ねてくるのは初めてだった。緊張しながら、浩平は招き入れる。

「きったねえ部屋だな。掃除しろよ」

 カレンはろれつの回らない声でいう。

「カレンさん、酔ってる?」

「酔っちゃ悪いか。酔わなきゃやってらんねえよ」

 カレンは部屋の真ん中であぐらをかいた。

「じつはさ、浩平にお願いがあってきたんだ」

「なんですか?」

 カレンの向かいに正座して浩平はたずねる。

「アタイのこと、抱いてくれよ」

 いきなりの言葉に、浩平は面食らってしまった。

「か、カレンさん、今なんて……」

「だからさ、アタイのこと抱いてほしいんだよ。それともなにかい、アタイじゃ不満っていうのかい?」

「カレンさん、飲みすぎですよ」

「ああ、悪いか。飲まなきゃ、こんなこといえねえよ」

 カレンの身体は左右に揺れる。浩平は、そんなカレンを真剣なまなざしで見つめる。

「カレンさんはきれいだし、ボクの憧れです。ボクも男ですから、チャンスがあればって思わなくもありません。けど、酔っぱらって、そんなこというんなら……」

「うるせえよ! 説教すんな!」

 カレンはかたわらにあった浩平のシャツを投げつけた。

「てめえに、なにがわかるっていうんだよ!」

「なにもわかんないですよ。いったいなにがあったんですか」

 カレンはうつむき、いきなり泣きはじめた。

「生板しろっていわれたんだよ、明日から」

「え?」

「アタイにさ、舞台の上で客に抱かれろっていうんだよ。館長がさ」

 カレンは涙を流しながら、浩平にことのいきさつを打ち明けた。

 まだまだストリップは斜陽の時代に入ってはいなかったが、カレンの所属する劇場は経営不振におちいっていた。原因は踊り子の質の低さと、劣悪な設備にあった。客席の椅子はボロボロだし、壁はくすんで、ところどころ壁紙がはがれている。トイレも汚れ、しかも汲み取り式だった。

 それでも劇場のオーナーは資金の投入をしぶり、館長にどうにかしろと発破をかける。館長は考えあぐねた結果、巷で広まりつつあった「生板本番ショー」に目をつけた。

「けど、なにもカレンさんがしなくても。ほかの人が……」

「年増や白ブタじゃあ、客がいやがる。外国人を雇うカネももったいない。一番人気のアタイがするから意味があるって」

 カレンは涙ながらにいう。

「断ればいいじゃないですか。もしくは、別の小屋に行くとか」

「アタイ、オーナーに借金があるんだ」

「借金?」

「むかし男と暮らしてて、そいつの借金肩代わりしてやったんだ」

「それは、いくら……」

 カレンは浩平に金額を告げる。とてもじゃないが、浩平がなんとかできる金額ではない。

「ほかに方法はないんですか」

「ない。けどさ、アタイは踊り子だよ。本番を売りにするような女じゃない。それはわかってくれるよね」

「もちろん」

「よかった」

 流れる涙をぬぐおうともせず、カレンは浩平を見つめて笑みを浮かべる。

「覚悟はできてるんだ。アタイももういい年だし、いつまでも踊り子なんてできない。でもさ、汚れた女になる前に、好きな人に抱かれたくて」

「え?」

「浩平、好きだよ。年はずいぶんと離れてるけど、いいよね」

「カレンさん」

 浩平はうなずく。すると、カレンはいきなり浩平に抱きつき、唇を重ねる。浩平に拒絶する理由はない。そのままカレンに押し倒され、二人は身を重ねた。

「さあ、本日よりのスペシャルショー! 当劇場きってのトップダンサー、カレンさんによる生板本番ショーです! ご希望の方は舞台の上にどうぞ!」

 館長がマイクで叫ぶ。客席からわらわらと観客があがってくる。期待に胸をふくらませてジャンケンをし、最後に勝った男はガッツポーズをとった。

 照明が落とされ、紫の明かりが灯された。舞台の奥からネグリジェ姿のカレンがあらわれる。

 手には小さなかご。中にはおしぼりとコンドームが入っていた。

 浩平はカレンにスポットライトを当てた。カレンは神妙な表情を浮かべている。浩平は、そんなカレンを見ながら、昨夜のことを思い出した。

 長い口づけを交わしながら、カレンは浩平の下着の中に手を入れ、股間をまさぐる。

「もう大きくなってる」

「はい」

「アタイが初めて?」

「……」

「初めてじゃないんだ。残念」

「け、けど」

「けど?」

「好きな人とするのは初めてです」

「アタイのこと、好きっていってくれるんだ。うれしい」

 カレンは身体を起こして浩平のズボンと下着をおろし、露出された肉棒をしゃぶる。

「ああ、カレンさん、そんなの……」

「ふうう、んん? 気持ちいいの?」

「はい」

「出してもいいよ」

 前かがみになったカレンは、全身を揺らして浩平を攻めた。経験の浅い浩平は、そのままカレンの口腔へ射精する。

「むうん」

 ほとばしる精液を受け止め、カレンはいったん浩平を抜き取る。そしてたまった粘液を飲み干すと、満面の笑みを浮かべた。

「おいしいよ、浩平のザーメン」

「カレンさん」

「まだ、できるよね」

 浩平を見つめて、カレンは握りしめた一物をしごく。瞬く間に浩平は復活をとげる。

「挿れてあげる」

 衣服を脱ぎ捨てたカレンは、浩平にまたがって胎内に導いた。

 温かなぬるみが伝わり、やわらかな膣襞におおいつくされる。カレンが身体を上下させると、豊満な乳房がタプタプと揺れる。

 カレンは浩平の手を取り、胸乳にいざなった。浩平は指に力を込め、わしづかみにする。

「ううん、気持ちいい、やん、いい」

 のけぞりながら甘い声をあげ、カレンは身を躍らせる。濃厚な香りが狭い空間に充満し、浩平は悦楽の極致に埋没する。

 上半身を起こし、浩平はカレンの乳首にむしゃぶりついた。

「やあん、そこ、あん、いい、変になりそう」

 カレンは浩平の頭をいだき、腰を上下前後に振りながら喜悦の感覚を確かめる。

「カレンさん、カレンさん、だめだ、生板なんてだめだ」

「いいの、もういいの」

「だめだよ、ボクと逃げよう。こんなところとオサラバしよう」

 カレンはうっすらと目を開け、浩平を見つめる。

「アンタはまだ若いんだから、勢いでそんなこといっちゃダメだ。やん……。だめ、ダメダメ。アタイはいいの、アタイのことは……」

「カレンさん」

「浩平、アンタの熱いの、アタイの中にちょうだい。それでいい、もうそれだけでいい」

 カレンの動きが激しくなる。浩平は極限までこらえる。カレンはふたたび浩平をあお向けにし、大きく肉体をバウンドさせた。

 振幅が広がり、くちゅぐちゅと摩擦の音がひびく。締めつけが強くなり、膣内の肉粒が浩平の敏感な部分を探る。

「だめだ、カレンさん!」

「出して、アタイの中に出して、お願い、出して!」

 浩平は怒涛のほとばしりを放つ。カレンは身を震わせて最後の1滴まで受け止め、艶然とほほ笑んだ。

 男のズボンと下着を脱がし、おしぼりで丹念にふく。握りしめて上下にしごき、勃起をうながす。かごの中からコンドームを取り出して男根にかぶせ、カレンはフサッと髪をかきあげた。

 ネグリジェを脱ぎ、全裸になる。男にまたがり、股間に先端をあてがう。腰をゆっくりとおろし、全部を膣内に納めていく。

 客席がどよめく。浩平は思わず目をそらしてしまう。熱い憤りと嫉妬が、嵐のごとく胸に突きあげてくる。

 舞台の上では、カレンが腰を振って客の劣欲をあおっていた。

「さあ、ハッスル、ハッスル!」

 館長の無責任なアナウンスが流れる。浩平は血がにじむほど唇をかみ、照明を照らし続けた。

 カレンは浩平がいるであろう方向へ目を向けた。浩平はカレンの視線を受け止める。今にも泣きだしそうな表情で、カレンは笑みを浮かべる。浩平の視界でカレンの表情はかすんでゆがみ、ほほに涙が伝って落ちる。

「くそ!」

 このまま照明を消し、音楽を止めてやろうか。浩平はそうも考えた。

 だが、浩平は作業を続行させた。

 ステージでは、カレンの中で男が果てた。カレンは男からおり、コンドームをはずして中身をたしかめる。白濁の粘液が詰まったゴムの口を縛り、カレンはひとつ大きくため息をついた。

【長月猛夫プロフィール】
1988年官能小説誌への投稿でデビュー。1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作。主な著作『ひとみ煌きの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)/『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)/『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)ほか。

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