Catch Up
キャッチアップ

このコーナーは官能小説家の長月猛夫氏が一般の中高年男性から寄せられた「性の告白」をご紹介するものです。そこにはシニアである我々同世代が共鳴する「あの頃」の時代背景があり、実体験ならではの生々しい「性の現実」があります。懐かしくも妖艶な古き良き官能の世界をご賞味いただければ幸いです。 編集長
【ウソで固めた親友の恋人の誘惑】東京都在住U・Hさん(60歳)
大学2年まで遊びほうけていたが、心を入れ替えて3年から頑張った。そのかいあって成績はあがり、そこそこ有名な企業に就職することができた。
当時の遊び友だちにTという男がいた。彼はわたしと違い、卒業間近まで放蕩な生活を送っていたので、たいした会社には入れなかった。
Tには同じ大学の恋人がいた。仮に名前をユミとしておこう。背が高く、清楚な雰囲気を漂わせ、端正で品のいい顔立ちをし、背中の中ほどまで伸ばした髪がきれいな女の子だった。
彼女は、われわれ友だち連中の中でもあこがれの的だった。しかし、なんといっても友だちの恋人。モーションをかけることははばかられた。
就職すると、環境の変わった友だちとも疎遠になり、社会に順応するため懸命になって働いていた。
そして、8カ月が過ぎた。
年の瀬も迫ったあるとき、わたしの家に電話が入った。ユミからだった。
Tのことで相談があるという。なんだか深刻そうな声色だったので、わたしは次の日、早速待ち合わせの約束をした。
「お久しぶり」
示し合わせた喫茶店には、ユミが先に到着していた。たった8カ月しか顔を見ていないのに、なんだかすごく大人びた様子で驚きをおぼえる。
「仕事、頑張ってる?」
「まあね」
「大変でしょ。大きな会社は」
「どこでも同じじゃないかな。Tはどうなの?」
彼の名前を出したとき、ユミは瞬時にして顔を曇らせる。
「彼、仕事、辞めたの」
「え、もう?」
「そう。つまらない、オレが本当にしたい仕事はこんなんじゃないって」
「そうかぁ。まあ、それもいいかもしれないな」
「でもね……」
ユミは伏せ目がちになって周囲をうかがい、話す。
「そうも、いってられなくなったの」
「どういうこと?」
「わたしね……、赤ちゃんできちゃったみたいなの」
そのことをTに相談すると、いまはまだ早いし、仕事もないのに結婚なんかできない、それに、オレの子どもかどうかもたしかじゃない、といったらしい。
「なんだそれ」
「わたし、あきれちゃって。それで……」
「わかった。オレが説教してやる」
「違う、違うの」
ユミがいうには、そんな男を父親にしては、生まれてくる子どもが不幸だ。残念だけど今回は堕胎するしかない。そして、これをきっかけにTとは別れる決意をしたらしい。
わたしは愕然としながらも、ユミの決心をくつがえす自信がなかった。
「それでね、子どもを堕ろすには父親の承認がいるの」
迷惑をかけないから、わたしに一時だけ、子どもの父親になってほしいという。釈然としないながらも、わたしはユミの申し出を断ることができなかった。
数日後、わたしは有給を取り、暗うつとした気持ちでユミを待った。
季節にしては温かい陽気に包まれた公園。若い母親が、よちよち歩きの子どもを遊ばせている。あと数年すると、ユミの身体に宿った生命もあんなふうになるのか。そう思うと複雑な心境におちいる。
わたしの心は、厚い雲におおわれたように鈍色に染まっていた。
しばらくしてユミが姿をあらわした。わたしは表情を固くして彼女を迎える。しかし、意に反して、ユミの表情は明るく爽快だった。
「ゴメン、待った」
「あ、ああ……」
「あのね、きょうね、もう、病院に行かなくてよくなったの」
「え?」
「あのね」
今朝、生理がはじまったらしい。妊娠だと思っていたのは彼女の勘違いで、単純に遅れていただけだった。
「え? じゃあ、子どもができたって、医者の診断じゃぁ」
「産婦人科なんて、よっぽどのことがないと行きづらいじゃない」
「そりゃまあ、そうかもしれないけど……」
「ゴメンね。お詫びに食事、おごるから」
わたしは、その場にへたり込みそうになるほどの脱力感をおぼえた。
その後、約束通りユミのおごりで夕食をとり、せっかくだからとワインバーへ出向いた。
「でもね、アイツの本性がわかっただけでも、今回のことは正解だったなぁ、て思うの」
「そりゃ、そうかもしれないけど、オレはヒヤヒヤもんだったよ」
「そこまで心配してくれたの? やさしいんだ」
少し酔ったのか、ユミは潤んだ目でわたしを見る。その妖艶な表情に、わたしは息を呑んでしまう。
「ねえ、これからどうする?」
「え?」
「わたし、帰りたくない。もう少しいっしょにいたい」
わたしの心が、ざわめきはじめた。
かつては友だちの恋人だという意識があったから、大胆な行動を控えていた。しかし、いまは違う。それに彼女はTの冷たい態度で傷ついている。慰めることができるのは、わたしだけ。しかも、長年あこがれをいだき続けた相手だ。
「いいの?」
「うん」
そのまま店を出て、わたしたちはホテルへと向かったのだった。
部屋に入り、お互いにシャワーを浴びて抱きしめ合った。唇を重ね、舌を絡め合い、そのままベッドに倒れ込む。
わたしはユミの乳房を揉み、下半身に手を伸ばそうとする。
「ダメ」
ユミはそんなわたしの手を取って制した。
「きょうは女の子の日だから」
わたしはこの時になって、改めて思い出した。
本当は病院へ出かけるはずだったのだ。それが、ユミに生理が訪れ、その必要はなくなった。
それ自体はよろこばしいことだが、最後の一線を越えることはできない。
「そ、そうだよね」
わたしは白けた気分で伸ばしていた手を引っ込めた。
「うん、だから、お口でしてあげる」
「え?」
「舐めてあげるからそれで我慢してね」
あお向けになったわたしの着衣を取って、ユミは身体を舐めはじめた。そして、股間に顔をうずめると、屹立した一物を手に取る。
「もうこんなになってる」
うれしそうにほほ笑むユミ。わたしは、されるがままになる。
ユミは舌を伸ばして先端をなぞりはじめた。そして、カリ首を探ると茎に絡ませながら上下させ、再び亀頭を舐ると唇の奥へ納めていく。
「ううん、うん……」
小さな鼻から吐息を漏らし、ユミは首を上下させる。温かでなめらかなぬめりが、わたしをおおい、舌のうごめきがツボを刺激する。
モノはビクンビクンと脈打ち、身体がしびれるほどの快感をおぼえる。
「ううん、オッパイ触ってもいいわよ」
ユミは咥えながらわたしの手を誘った。手のひらにすっぽりと収まる乳房は、吸いつくような触感をあたえてくれる。
やがてユミは大きく深くスライドを繰り返した。わたしは我慢に我慢を重ねたが、とうとう限界を迎えてしまう。
「ああ、もう、ダメだ」
「出るの? いいわよ、そのまま出して。わたしのお口に出して」
動きが激しくなり、ヂュブヂュブと淫猥な音がひびく。わたしは腰を揺り動かし、口腔の一番奥に突き刺したとき、濃厚なザーメンを注ぎ込んでしまったのだった。
その日からユミとの交際がはじまった。もちろん、Tのことはお互いおくびにも出さない。あのときは口だけでわたしを満足させてくれたが、普通の日にはもちろん、きちんと納めるべきところへ納める行為を行った。
普段は清楚な素振りのユミだが、二人きりになると乱れに乱れた。
か細い肢体を弓ぞりにし、わたしの上で喘ぎ悶えた。髪を振り乱し、舌なめずりをくり返しながらよがり狂う姿は、これが普段と同一人物なのかと疑いたくなるほど淫靡だった。
そんな付き合いも1年が過ぎたころ、ユミは突然別れを切り出した。
「ど、どうして!」
「親がね、見合いを進めてきたの。乗る気じゃなかったんだけど興味もあったし」
「それで?」
「相手の人はね、超一流大学出の官僚なの。実家もお金持ちだし、だから」
それだけの理由で、わたしは捨てられてしまったのだった。
数年後、ばったりTと再会した。わたしは過去のわだかまりも捨て、飲み屋でグラスを傾けた。そのとき、おそるおそるユミのことを聞いてみた。
「彼女なぁ、突然、オレよりいい男ができたとかいって逃げちまったよ」
「それだけの理由? お前がひどいこといったとか?」
「そんなことない。本当に突然だぜ。まあ、オレも仕事を辞めてフラフラしていたときだし。なんでも今は、官僚の若奥さまに収まってるらしいぜ」
妊娠のことは聞き出せなかった。たぶん、あれはわたしを誘い込む虚言だったのだろう。
したたかな女に振りまわされた、みじめな男二人。いまとなっては笑い話だが、あのときは本当に女の怖さを痛感したものだった。
- 【選者紹介】
- 長月タケオ(ながつきたけお)
- 官能小説家。一般人の中高年男性への取材を通して市井の赤裸々な性のエピソードを紡ぐ。
- 1962年生大阪府出身在住。1988年官能小説誌への投稿でデビュー。
- 1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作受賞。
- おもな著作『ひとみ煌めきの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)
- 『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)
- 『禁断の熟女』(ベストロマン文庫・共著)
- 『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)
- 『誘惑する女 熟女たちの悦楽』(九月堂・電子版)ほか
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- 誘惑する女 熟女たちの悦楽 長月タケオ短編集
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