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昭和官能エレジー第2回「未亡人との夢物語」長月猛夫

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昭和官能エレジー第2回「未亡人との夢物語」長月猛夫

この官能小説は、現在50代から60代の方々の若かりし時代を舞台背景にしています。貧しかったけれど希望に満ち溢れていたあの頃、そこには切なくも妖しい男と女の物語が今よりも数多く存在しました。人と人とが巡り合う一瞬の奇跡、そこから紡がれる摩訶不思議な性の世界をお楽しみください。 編集長

【未亡人との夢物語】

当時、石山の家にはテレビはなかった。昭和30年代の話だ。

販売はされていたものの、日雇い労働で生活費を稼ぐ父親に買えるような代物ではない。仕方がないので、石山は街頭テレビや銭湯に置かれているのを観たり、裕福な友人宅に押しかけたりしていた。

だが、街頭は雨が降ると中止になるし、立ちっ放しで長く観ていると足が疲れる。銭湯も、そうそう長くいるわけにはいかないし、友人宅も毎度毎度押しかけるわけにはいかない。

何度か親にねだってはみたものの、そんな余裕はない、と一蹴されるのがオチだった。

テレビに憧れを抱きつつ、石山は高校2年生になった。

桜の花も散り、風の香りが甘く感じられる季節。石山の近所の一軒家に、だれかが引っ越してきた。ボンネットのある古ぼけたトラックから荷物が運び込まれていく。学校帰りの石山は、それとなく様子をうかがっていた。

荷物は垣間見た程度でも高価とわかるものが多い。荷台からおろす男たちの扱いかたを見ても、それがわかる。タンスや鏡台に毛布をかぶせ、ゆっくり丁寧に運んでいく。

「あ、あれ……」

男の一人が大きな段ボール箱を持ちあげたとき、石山は思わず声を漏らしてしまった。

家電メーカーの社名と中身のイラストが書かれた箱。それは紛れもなくテレビだ。しかも新品に違いない。

石山はうらやましさも手伝い、ぼんやりとテレビの箱をながめていた。

すると、家の中から一人の女性が姿をあらわす。年のころなら三十代半ばくらい。黒くて艶のある髪をまとめ、清楚な着物に身を包んだ、上品なたたずまいが印象的な女性だった。

 数日後、授業を終えた帰宅途中、石山は女性の家の前を通りかかり、足を止めた。なぜなら、その前の夜、両親が彼女について噂話をしていたからだ。

 女性の名前は千鶴という。

千鶴の夫は資産家の実業家だったが、事業に失敗して自殺。家屋敷は借金返済のために売り払われ、貧乏人の多く住むこの街に越してきた。

母親は晩酌をする父親にそう話し、ちゃぶ台をはさんで向かいに座っていた石山は、それとなく耳にした。

 石山は両親の会話を頭の中で反芻していた。そのとき、ながめていた家の玄関が開き、千鶴が姿をあらわした。

千鶴は困惑の表情を浮かべ、あたりを見まわしている。石山は、どうしたんだろうと思いながら、その様子を見つめる。すると、石山に気づいた千鶴は、小走りで近づいてきた。

「すいません、このあたりに電気屋さんはありませんか?」

 控えめで、少し鼻にかかった、耳に心地いい声色だった。

 石山は近くの電気屋を教えようとした。だが、その前に理由をたずねる。すると千鶴は、部屋の蛍光灯がつかないと告げた。

石山は工業高校に通っていた。学力のレベルは近辺でも最低レベルだが、電気のことなら少し知識がある。

「オレ、なおせるかも」

その言葉に、千鶴は躊躇の表情を浮かべる。だが、小柄で痩身、内向的な雰囲気を漂わせる姿に危険性を感じなかったのか、石山を自宅に招き入れたのだった。

 電灯は接触が悪かっただけで、きちんと差し込めば、すぐに明るくともった。

千鶴はよろこび、なにかお礼を、という。石山は固辞したが、それでは気が済まないらしい。そこで石山は、テレビを観させてくれと頼み、千鶴は快く承諾してくれた。

 その日を境に、石山は観たい番組があると千鶴の家を訪ねた。千鶴も力仕事などの雑用があると、石山を頼った。

 千鶴の家は平屋建てで、6畳の居間と4畳半の小部屋があり、台所の流しは小部屋に接している。小さな裏庭があって、赤いツツジが満開に咲いていた。居間には、化粧道具が並べられ、布で鏡面をかくした鏡台とタンスが2棹。そして、脚のついたテレビ。

 石山は、彼女の家を訪れるのが楽しみになっていた。テレビが自由に観られるというのも理由の一つだが、それ以上に千鶴と二人きりの時間を持てるというのがうれしかったからだ。

 千鶴には、石山の知ることのなかった魅力が存分に備わっていた。それは、16、7の同級生にはない大人の色気であり、生活に疲れた近所のおばさん連中にはない気品であり、まばゆいばかりの華麗さであった。

 色白で、首が細く、手足は長い。着物の襟足からのぞく項、裾が乱れたときに見えるくるぶしやふくらはぎ、帯の上を盛りあげる胸のふくらみ。

 仕草が緩慢で、千鶴の周囲は時間がゆっくり流れているように見える。言葉を口にすれば、鼻から切ない吐息が漏れる。

 おぼろげな視線を向けるまぶた。肉厚のある唇の締りはゆるやかで、常にしっとりと濡れていた。

千鶴は石山を歳の離れた弟のように慈しみ、一人っ子の石山は千鶴を姉にように慕っていた――つもりだった。

だが、それは石山の思い込みであって、千鶴の感情は異なるものであったことを知ることになる。

 ある日の夕方、学校から戻ってカバンを家に置き、その足で石山は千鶴の家を訪ねた。

いつものように、テレビに夢中になっていた石山。そんな背中に、いきなり千鶴がおおいかぶさってきた。

「重いよ」

 千鶴は何か冗談をしているのだろう。石山は思う。しかし、千鶴は石山の耳元で、そっとつぶやいた。

「ねえ、助けて」

 石山は驚き、首をねじる。すると千鶴は、いきなり石山の唇をふさいだ。

 千鶴の意図を察することのできない石山は、目を見開いたままやわらかな肉厚を受け止めた。千鶴は石山のほほを押さえ、舌をねじ込んでくる。その温かでなめらかな感触に、石山は陶然となってしまう。

「お願い、助けて」

 唇を離したとき、千鶴は潤んだ目でもう一度訴えた。

「わたしを助けて。もう、我慢できないの」

「な、なにが……」

「わかるでしょ。男の子なんだから」

 千鶴は石山から身を離して立ちあがると、スルスルと音を立てて帯をときはじめる。

「お小遣いもあげる、だから……」

 帯を畳の上に落とし、長襦袢姿になる。千鶴は顔を背けて視線をはずし、腰の細紐もとくと、衣装をフワリと落とした。

 下着はつけていない。華奢ではあるが、乳房の実りと腰の曲線が艶かしい裸身を、石山の前にさらけ出す。

「いつ、わたしのこと誘ってくれるのかな、て思ってたけど、全然、そんな様子見せてくれない。わたしって、そんなに魅力ない?」

「え……」

「いやならいやでいいの。だって、おばさんだし。でも、きょうだけ、きょう一日だけでいいから、あなたの身体をわたしに売って。お願い。わたしのしたいようにさせて」

 千鶴はそういって、石山にしがみつく。何をどうしていいのかわからない石山だったが、千鶴の肢体をながめた瞬間から血液が一点に充満し、股間の一物は隆々と勃起をはたしていた。

 石山にとっては初めての体験だ。千鶴は手馴れた様子で石山を全裸にむくと、あお向けに寝かせ、すべてを丁寧にほどこす。

 すでに大きくそそり立った肉棒をふくみ、舌を絡ませながら欲情を導く。ちゅぱちゅぱと淫靡な音を響かせながら、頭を振り、石山を興奮の極致にいざなう。

「ああ、おいしい。うん、久しぶり」

 口腔の粘膜が石山をおおいつくし、摩擦で全体がとろけてしまう。うごめく舌が螺旋を描きながら、敏感な部分をまさぐる。

「ああ、ダメだ、ダメ……」

 股間のしびれが全身に伝わり、何度も痙攣をくり返す。千鶴の動きは大きく激しくなり、よだれがこぼれて石山の根元を濡らす。

「ダメだよ、出ちゃう」

「うん……、いいのよ、出しても」

「けど」

「出して、お願い。熱いの、濃いの、飲ませて」

 髪の毛がほつれる。ときおり石川を見あげつつ、前かがみの千鶴は全身を揺らして愛撫を加える。 

 やがて石山は我慢の限界を知った。そしてそのまま、千鶴の口の中に、迸りを放ってしまったのだった。

「く、くうん……」

 そそぎこまれるすべてを受け止めた千鶴は、いったん石山をはずし、口にたまった精液を飲み干した。そして、その後も執拗に石山をしゃぶり、舐り、ほお張る。

 石山は、すぐに復活をとげる。それを知った千鶴は、妖しい笑みを浮かべた。

「若い男の子ってすてき。こんどは、わたしも気持ちよくして」

 千鶴は石山の上半身を起こして抱く。もはや石山に迷いはない。あおられた感情の赴くまま、官能的な肉体を堪能するだけだ。

胸に顔面を押しつけられた石山は、豊満な胸乳を揉み、かすかに色づいた乳首を吸った。

「そ、そう、あん、いい……」

 身を震わせながら、千鶴は甘く切ない声を漏らす。そして石山の手を取り、雌穴へと導く。

「こ、ここを、ねえ、ここを」

「どうすれば」

「さすって、そう、そうよ、濡れてくるの、わかる、そう、指、挿れて……」

 ウネウネとした肉唇をいじくり、あふれ出る蜜を感じ取りながら、石川は2本の指を挿入させる。

「そうよ、そう、あああん、そう、もっと、かき混ぜて、中をかき混ぜて」

 いわれるままに、ぐちゃぐちゃと攪拌する。蜜は止めどもなくあふれ出し、千鶴の内ももはおろか、畳すらも湿らせてしまう。

「もう、もう、我慢できない!」

 たかぶる劣情に我を忘れた千鶴は、石山を押し倒して馬乗りにまたがった。そして、天を向く石山を秘裂にあてがい、腰をおろして根元まで迎え入れる。

 一度射精しているので、石山には余裕があった。とはいえ、口の中と膣内ではやはり感触が違う。

うねうねとうごめく肉襞が石山をおおい、窮屈なほどの締まりが与えられる。粘り気のある汁が石山の抜き差しをスムーズにし、坩堝の熱が染みこんでくる。

「いい、あああん、気持ちいい。すごいの、やん、壊れちゃいそう」

 髪をほどいて振り乱し、舌なめずりをくり返しながら、千鶴は自ら乳房を揉んで喘ぎ、悶える。その表情に普段の高貴さはうかがえず、自分の欲求を満たさんがために石山を凌辱するメスと化している。

「いやああん、だめぇ、もう、いやん、だめぇ!」

 千鶴は頂点を迎えそうになっていた。石山も絶頂を間近にする。

「もうダメ、イク、イッちゃう、お願い、いっしょにきて!」

 締めつけが、さらに強くなる。千鶴の全体重が伸しかかっているので、石山は抜き取ることができない。

「出る、また出る」

「いいのよ、そのまま出して」

「け、けど……」

「いいの、出して。あなたの精子、わたしの中にぶちまけて!」

 肌が薄紅に染まり、汗でぬめりの帯びた光沢を放つ。のけぞりながら腰を打ち付け続ける千鶴。石山は、いけないと思いつつも、そのまま内部に射精してしまう。

勢いのある注ぎ込みを受け、千鶴は軽い痙攣をくり返した。

 一日だけと口にした千鶴だが、その後も石山を誘惑した。石山も誘われるまま、行為に応じる。もはや、千鶴の家を訪ねる理由に、テレビは関係なくなっていた。

だれにも話さないという条件と引き換えに、千鶴は石山に小遣いをわたした。石山に他言するつもりはなかったし、カネをもらう筋合いもない。そう思いはしたが、甘美な行為から逃れることもできず、貧乏高校生に支払われる小遣いも魅力だった。

 しかし、そんな関係は長く続かなかった。

ある日突然、千鶴は姿を消した。家財道具もそのままに、それこそ蒸発してしまったという言葉がふさわしい別れだった。

「いったい、どこに」

 カギのかけられていなかった家に入り、主のいない部屋の中で石山は呆然とたたずむ。そのうち戻ってくるかもしれない。そう思って畳に座って千鶴を待ったが、日が沈んでも帰ってこない。

 石山は何気なくテレビのスイッチを入れる。ブーンと音を立てながら真空管が温まり、ブラウン管が明るくなる。やがて画面が映ったものの、石山はすぐにスイッチを切る。

 暗闇の中でひざをかかえ、何も映し出さないテレビの画面を、石山はじっと見つめるだけだった。

【長月猛夫プロフィール】
1988年官能小説誌への投稿でデビュー。1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作。主な著作『ひとみ煌きの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)/『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)/『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)ほか
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