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【昭和官能エレジー】第43回「リリーという名の娼婦」長月猛夫

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【昭和官能エレジー】第43回「リリーという名の娼婦」長月猛夫

この官能小説は、現在50代から60代の方々の若かりし時代を舞台背景にしています。貧しかったけれど希望に満ち溢れていたあの頃、そこには切なくも妖しい男と女の物語が今よりも数多く存在しました。人と人とが巡り合う一瞬の奇跡、そこから紡がれる摩訶不思議な性の世界をお楽しみください。 編集長

【リリーという名の娼婦】長月猛夫

 原色の明かりが灯るホテルの一室。床に敷かれたカーペットは厚みが失われ、ところどころが剥げた壁紙には、あちこちにシミが浮かんでいる。

 そんな空間の中央に置かれたベッドの上で、リリーは男にまたがって腰を振っていた。

 手のひらほどの大きさのヘッドフォンを両手で耳に押し当て、聞こえてくるリズムに合わせて身体をくねらせる。スリムな体型ながらも大きな乳房と腰まで伸びた髪が揺れ、古びた円形のベッドがギシギシと音を立てる。

「ふふん、ふふふん♪」

 リリーは目を閉じ、鼻歌を歌う。リリーを貫き通している男は、そんなことにかまわず下から突き上げた。

「あ、出る」

 男は小さくつぶやくと、ほとばしる精液をリリーの胎内にそそぎ込む。注入の勢いで男が果てたのを知ったリリーは、ヘッドフォンをはずしてから髪をかきあげ、男の上からおりた。

「いっぱい出たね」

 膣口からこぼれ落ちるザーメンを手ですくいながらリリーはいう。

「シャワー浴びてくるから、勝手に帰ってね」

 ベッドからおりて両手で髪をなびかせると、リリーはスタスタと浴室へ向かう。男は、そんなリリーの後姿を見送りつつ、ベッドサイドに置いていたタバコに火をつけた。

 雪が降っていた。安物のジャンバーの襟を立て、ガタガタ震えながらアキラはリリーを待つ。

「遅いなぁ」

 両足を何度も踏みしめ、チカチカとまたたくホテルのネオンを見あげるアキラ。

「あらアキラ、待っててくれたの」

 ホテルから出てきたリリーは、アキラの顔を見ると驚いた顔になる。しかし、すぐに表情は満面の笑みに変わった。

「お疲れ、じつはさ……」

「わかってる」

 リリーは大きめのカバンから財布を取り出し、アキラに1万円をわたす。

「いつもすまない」

「なによ、いまさら」

 薄っぺらいコートに身を包んだリリーは、そういって財布をしまうとアキラの腕にしがみついた。

「お腹、空いちゃった。温ったかいものが食べたいな」

「いつものおでんでいいかな」

「うん、行こう」

 国鉄のガード下にある屋台のおでん屋。赤ちょうちんがぶら下げられ、のれんの向こうにはグツグツと煮えた鍋が湯気を立てている。

 アキラとリリーはベンチに腰かけ、燗酒で満たされたコップをチンと合わせた。

「あー、おいしい」

 こぼれないようにコップに口を近づけてすすり、リリーは感嘆の声をもらす。アキラは無言で一気に飲み干し、店のオヤジにお代わりを告げた。

「アタシねえ、ちくわとはんぺんとダイコン。アキラは?」

「オレも同じでいい」

「あいよ」

 不愛想な親父は短く小さく返事をし、アルマイトのちろりで温めた酒をアキラのコップにそそぐ。そして、菜箸でおでんの具を取り分けて皿に盛ると、二人の前に差し出した。

「おいしい!」

 ダイコンをかじったリリーはいう。

「安いし、おいしいし、ここの屋台はサイコー! 気取ったお店なんかよりずっといい」

 リリーの声を聞き、オヤジはおでん鍋に視線を落としたまま、少しだけ口角をあげる。

「オヤジ、お代わり」

「アキラ、全然食べてない」

「いいよ、リリーが食べなよ」

「食べないでお酒ばっかし飲んでちゃ身体に毒だよ」

 オヤジは酒をそそぐ。アキラは一気にあおる。

「で、リリー。どうだった」

「なにが?」

「きょうの客」

「フツーだよ」

「何が?」

「何がって、全部」

 リリーはダイコンを食べ終え、はんぺんをつまむ。

「相変わらず、カセット聴いてるの?」

「うん、これ」

 リリーはカバンの中から小型のラジカセを取り出した。

「これ聴いてるから、相手がだれでも同じ」

「そうなんだ」

 アキラはコップを空にする。そしてお代わりを告げようとしたとき、リリーがそれを止めた。

「もう、飲んじゃダメ」

「どうして」

「だって」

 リリーはアキラの耳もとに唇を近づけてささやく。

「アキラ、アキラの部屋でシよ」

「え?」

「あんまり飲み過ぎると、アキラ、元気がなくなる」

 アキラはリリーの顔をまじまじと見つめる。リリーははにかみながら、となりに座るアキラの股間にふれた。

 アキラがリリーと出会ったのは半年前。場所は雑居ビルの地下にあるジャズ喫茶だ。「ジャズ」とは銘打っているものの、流れているのは流行りのロックがほとんどだった。

 紫煙のたなびく店内は暗く、間近にならなければ客の顔も判別できない。巨大なスピーカーから吐き出される音響は、会話もままならないほど強烈だった。

 高校を卒業し、仕事を求めて上京してきたアキラは、別段ジャズやロックに興味があるわけではなかった。もちろん、その店の苦いだけのコーヒーを飲むのが目的ではない。

「あの店に行けば、安いカネで簡単にヤらせてくれる女がいる」

 そんなうわさを聞きつけたからだ。

 その女がリリーだった。

 木曜日の午後9時に、店の一番奥のボックス席にいけばリリーに会える。特徴はスレンダーなスタイルに長い髪と白い肌、豊かな胸。

「リリーさんですか」

 情報を得たアキラは、うわさの時間に出かけ、気だるそうに座ってタバコをふかしていたリリーにたずねた。

「そうよ」

「じつはボク……」

 アキラは童貞だった。そのことを正直に告げ、初めての女になってほしいと頼む。

「ふ~ん」

 灰皿に吸い殻を押しつけたリリーは、さほど興味もなさそうな態度で立ちあがる。

「行こうか」

「え?」

「ヤりたいんでしょ。でも、アタシが初めてじゃ、トラウマになっちゃうかもね」

 リリーは口元だけで笑みを浮かべていった。

 リリーのいうように、最初の行為は興ざめに近いものだった。

 リリーは自分勝手に服を脱ぐと、アキラにも裸になるようにうながす。そして、大の字に寝転ぶアキラにまたがり、股間にツバをつけて濡らしてから、勃起する一物を自分の中へ迎え入れた。

 そのあとは、ヘッドフォンをつけて腰を振るだけ。ただし、ゴムは着けず、生での挿入で、最後も中への射精を許してくれた。

 あっけない初体験だった。それでもアキラは感動をおぼえていた。

 自分で慰めるのとはまったく異なる快感を得ることができた。何よりも、生身の人間との触れ合いが、アキラの心を揺さぶった。

 そのことをアキラはリリーに告げた。

「ありがとうございました」

 最後に礼をいうと、ベッドの上に全裸で座っていたリリーはいった。

「ねえ、アタシとつき合わない」

「え?」

「アタシとつき合えば、もっと気持ちいいセックスができるかもよ」

「どういうことですか」

「それは、つき合ってみればわかるかも」

 リリーは声をあげて笑う。その表情は、ジャズ喫茶で見せた笑顔とは違うものだった。

「ねえ、アキラ、アキラぁ」

 密着から離れていたアキラに、リリーは抱擁をねだる。アキラはふたたび前のめりになり、リリーを抱きしめた。

 アキラはリリーの乳房に顔をうずめ、柔塊をわしづかみにしながら肉棒を突き立てる。リリーは両脚を掲げてアキラの腰にまわし、奥に届くよう股間を密着させた。

 蜜の量は多い。締めつけも強く、内部の襞がウネウネとうごめいてまとわりついてくる。

 ただ、アキラはリリー以外の女を知らない。だから、リリーが特別いいのかどうかはわからない。

 リリーと出会ったころ、アキラは失業中だった。カネがなくなれば日雇いのドカチンで糊口をしのいでいたが、その日の食費にも窮する状態だった。

 東京には出てきたものの、何をやっても続かない。周りの同世代を見れば、それぞれが未来を信じて明るく過ごしている。まだ日本が元気のあった時代だ。

 自信をなくし、自暴自棄におちいりそうになったが、男になれば何かが変わるかもしれない。

 そんな気持ちでリリーを求めた。そして、リリーはアキラを特別あつかいした。アキラがカネに困ると、小遣いもあたえた。

 しかし、なぜリリーが自分にそこまでしてくれるのか、アキラにはわからない。自分の何がよくてつき合ってくれるのか。

 そして、なぜリリーが身を売って生活しているのか、何があってそんな仕事をしているのかも知らない。

 リリーは過去を話さない。アキラも詮索しない。知らないことは知らないままでいい。そう自分を納得させている。

「いやああん、ダメぇ、アキラ、もうダメ、イッちゃう」

「リリー、オレも」

「きて、アキラ、きて、いっぱい出して、アタシの中にいっぱい出して」

 アキラは動きを早めた。リリーも呼応して、律動する。二人のリズムが合わさり、激しい刺激がアキラの中芯に伝わる。

「あ……」

「あああん!」

 濃厚な粘液を、アキラはリリーの子宮にめがけて放った。リリーは全部を受け止めながら膣圧を強める。精子を1滴も逃すまいとするように。

「アキラぁ、あん、ステキ、アキラぁ」

 リリーはアキラの肩に顔を乗せ、ほほを寄せながら光悦の表情を見せた。

 日を追って寒さは厳しくなる。その日は雪が積もっていた。

 仕事もなく、生活費もなくなったアキラは、布団をかぶって寒さに耐えていた。

 ストーブは壊れてしまい、役に立たない。リリーに小遣いを無心しようと考えたが、連絡する手段がない。

 アキラはリリーの住まいを知らない。木曜日の夜に、リリーがいつも使っているホテルで待ち伏せしないと会うことはかなわない。

「リリーは、どうして……」

 考えを巡らせる。

 リリーはいつも、アキラとの相性がいいといっていた。アキラとのセックス以外は、気持ちよくなれないともいっていた。

 ならば、自分の家に招いてもいいはずだ。売春以外の方法で、リリーが収入を得ているかどうかは知らない。けれど、自分よりも余裕があるのはたしかだ。

 では、自分はヒモになるのか。リリーに養ってもらって暮らすのか。

「それは……」

 じゃあ、働けばいい。えり好みさえしなければ、仕事はいくらでもある。きちんと生活を成り立たせる手段を得れば、自分の稼ぎでリリーと暮らすことができる。もう、どこの馬の骨かわからない男に身を売る必要もない。

「そうだ、オレはリリーと一緒に暮らすんだ。そうすれば、もうイライラすることもない」

 木曜日なると、リリーはだれかに抱かれている。自分の知らない男の男根を受け入れ、膣内が攪拌され、精液がそそぎ込まれている。

 そのことを考えると、我慢ができなくなる。だから、木曜日になるとリリーに会いに行く。

 けれど、ホテルから姿を見せたリリーは、劣情の辱めを受けた直後だ。ヘッドフォンをつけて感情を殺していたとしても、肉体は翻弄されている。好意が存在しないのなら、リリーはやわらかで心地のいい穴でしかない。

 血の通う、体温のある、極上の快楽をもたらしてくれる肉の穴。

「そうだ、リリーを救えるのはオレだけだ」

 その日は水曜日だった。明日、リリーは仕事をする。

「リリーにいうんだ。オレが養ってあげる。だから、一緒に暮らそう」

 アキラは決心する。その決心が、いままで身体の芯まで凍えさせていた寒気が、少しは和らいだように思えた。

 木曜日になっても雪は積もったままだった。午後9時過ぎ、アキラはホテルの前で待った。

 1時間ほどして、リリーが出てきた。

「アキラ!」

 リリーは飛びつくようにして、アキラの腕にぶら下がった。

「雪だから、きょうはきてくれないと思ってた」

「うん……」

「おでん食べにいこ、あ、その前におカネだね」

「いや……」

 アキラの言葉数が少ない。不審に思ったリリーがたずねる。

「どうしたの?」

 アキラはリリーの顔を見て告げた。

「リリー」

「なに?」

「オレ、きちんと働くよ。だからリリーはこんな仕事辞めて、オレと一緒に暮らそう」

 リリーは真剣なまなざしでアキラを見た。その目には涙が浮かんでいる。

「アタシみたいな女でいいの? アタシ、汚れてるよ。汚いよ」

「汚れてなんかいない。リリーはきれいだ。そして、オレにとって一番大切な人だ」

 リリーの涙はまぶたからあふれ、ほほを伝う。

「もう、いいのね、もう、我慢しなくていいのね」

「うん」

 リリーはアキラの胸に飛び込む。アキラはリリーを固く抱きしめる。

「その前にね」

「ん?」

「きちんといっておかないと」

「なにを?」

「アタシがこんな仕事を始めた理由。それはね……」

 次の瞬間だった。

 ドスっという音とともに、だれかがリリーの背中を押した。と同時に、リリーは苦悶の表情を浮かべて前のめりになり、地面に崩れ落ちた。

「え?」

 わけのわからないアキラはぼう然とたたずむ。リリーの背後には、ナイフを構えた男が荒い息を吐きながら立っていた。

「人をバカにしやがって。淫売のくせに」

 男はそう言い捨てると、ナイフを捨てて逃げ出した。

 うつぶせになったリリーの背中から鮮血が噴き出す。真っ白な雪は、リリーの血で紅に染まっていく。

「リリー……、リリー、リリー!」

 アキラはリリーを抱き起した。リリーはうっすらと目を開けたかと思うと、ほほ笑みを浮かべてふたたびまぶたを閉じた。

「リリー! りりー!」

 アキラの声が、夜の静寂にひびく。

 真っ暗な空から雪が降りはじめた。雪はリリーの顔に降りかかり、涙の中で溶けていく。

 アキラはいつまでもリリーを抱きしめていた。顔面が蒼白となり、体温が失われていくリリーを抱きしめていた。

 
【長月猛夫プロフィール】
1988年官能小説誌への投稿でデビュー。1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作。主な著作『ひとみ煌きの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)/『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)/『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)ほか。

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