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【昭和官能エレジー】第40回「友人の姉の裏切り」長月猛夫

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【昭和官能エレジー】第40回「友人の姉の裏切り」長月猛夫

この官能小説は、現在50代から60代の方々の若かりし時代を舞台背景にしています。貧しかったけれど希望に満ち溢れていたあの頃、そこには切なくも妖しい男と女の物語が今よりも数多く存在しました。人と人とが巡り合う一瞬の奇跡、そこから紡がれる摩訶不思議な性の世界をお楽しみください。 編集長

【友人の姉の裏切り】長月猛夫

入り口のすりガラスのはまった扉を横に引く。玄関の土間にはすのこが敷かれ、その上に乗って下駄箱に靴を入れる。

 低い上がりかまちを越えて廊下を踏むと、黒々とした床板がキシキシと音を立てる。そのまま歩を進めると、右側に共同の洗面所があり、向かい側には4畳半の部屋が並ぶ。

廊下の突き当りにある便所から2つ前にあるのが、大川の部屋だった。

 大川の部屋の奥には、山田という男が住んでいた。大学の2年生で大川と同い年。学校は違ったが、なんとなく馬が合って、よくどちらかの部屋を訪ねては酒を酌み交わす仲だ。

飲むと朝まで政治や日本の状況について語り合い、激論になることもしばしばだった。

「日本は講和条約で独立を果たしたんだ。それなのに、いつまでもアメリカに追従している。安保条約なんか破棄して米軍を追い出し、真の独立を勝ち取るべきだ」

 そう山田はいう。

「でも、米軍が駐留しているから日本の防衛費は低くおさえられる。そのぶんを経済にまわすことができる。まずは復興だろ」

 大川は反論する。

「いや、経済も大事だが、そのために日本人としての誇りを忘れてはならない。国土をアメ公の基地として利用されるなんて我慢がならない」

「山田は右なのか左なのかわかんねぇな」

「オレは右でも左でもない。天皇制も認める。ただ、日本という国が好きなだけだ!」

 二人の前にはトリスの大瓶がデンと置かれている。飲みはじめは水と近所の氷屋で買ってきたカチワリを用意しているものの、やがて氷がなくなって水だけで割り、水もなくなればストレートであおる。

 酔いがまわり、同じことを何度もくり返して話し、夜が明けるころになると泥酔して昏睡してしまう。

 二人は古ぼけた下宿の部屋で、そんな日々を過ごしていた。

 11月が訪れた。そろそろ綿入れのドテラと行火か火鉢を用意しないと寒さがこたえる。

大川は、そんなことを思いつつ銭湯に出かけた。

 帰り際、いつもの酒屋と氷屋に立ち寄ってトリスとカチワリを購入する。

「山田、いるか?」

 そういってとなりの部屋の扉を開けたときだった。

「あ、すまん」

 中のようすを見て、大川はあわてて扉を閉めた。すると、すぐに開いて山田が出てくる。

「どうしたんだよ」

「いや、来客中…………」

 部屋には山田と、もう一人の姿があった。女性だった。

「なんだよ、なに勘ぐってんだよ。姉だよ、姉ちゃん」

「え?」

「紹介するよ。入れよ」

 山田は大きく扉を開く。大川は遠慮がちに、部屋の中に足を踏み入れた。

「姉ちゃん、友だちの大川くん。いつもよくしてもらってるんだ」

「そうなの。初めまして、姉の佐代子です。弟がいつもお世話になってます」

 畳の上に座っていた佐代子は、ペコリと頭をさげた。

「大川です。こちらこそ、山田くんには親しくしてもらってます」

 そういって大川も頭をさげる。そして顔をあげたと同時に、佐代子の容姿を確認した。

 年齢は大川や山田よりも3歳程度上で、長い黒髪を一つに束ねている。肌は濃く色づいていて、健康的な印象をあたえた。ただ、まぶたの重そうなひとみや肉厚のある唇が妖艶な色香を醸し、乳房のふくらみは着衣の上からでも判別できるほど豊満だ。

「今晩から姉ちゃんは、オレの部屋で暮らすから」

 山田はいう。

「え? いっしょに住むのか」

「いや、オレはしばらく実家に行く。じつはな……」

 山田は佐代子が下宿にきた理由を話した。

 佐代子は1年前に結婚した人妻だ。だが夫の浮気が発覚し、3日前に家を飛び出た。そのまま実家に戻ったのだが、両親は「浮気は男の甲斐性。それぐらいで家を出てどうする」といって佐代子をとがめる。

それを耳にした山田は、しばらく姉を預かって両親を説得し、佐代子の夫を糾弾する決心を固めたのだ。

「戦前、戦中じゃあるまいし、民主主義の時代に女性が我慢する必要はない。夫の不貞は妻に対する裏切りだ。そのことを親に告げ、旦那を謝罪に追い込んでやる」

 意気揚々と語る山田を見あげ、佐代子は頼もしそうな視線を向けた。

「だから、オレが帰ってくるまで姉ちゃんのことを頼む。姉ちゃんも、わからないことがあったら大川に聞いてくれ」

「うん、わかった。よろしくお願いします」

 畳に手をついて、深々と頭をさげる佐代子。恐縮した大川も、その場に座って頭をさげた。

 

 その日の深夜、大川は尿意をおぼえて目をさました。寝ぼけまなこで廊下に出て、山田の部屋の前を通って便所に向かう。

すると便所から明かりが漏れているのに気づき、だれかが中にいるのがわかった。

 大川はドアの開くのを待った。しばらくして姿をあらわしたのは佐代子だった。

「あら」

 佐代子は驚いたようすで大川を見る。驚きをおぼえたのは大川も同じだった。

佐代子が身につけているのは、薄いネグリジェとカーディガン。陰影をつくる裸電球の光をとおして、ブラジャーがぼんやりと浮かんでいた。視線をおろせば、下着の線も透けている。

大川は思わず注視してしまう。そんな大川に対し、佐代子は妖しい笑みを浮かべた。

「お先に」

 佐代子は、そういって場所をゆずる。大川は会釈を返し、あわててトイレの中に入った。

 用を足し終え、ホッと息を吐きながら扉を開ける。すると大川は、立っている人影を認める。

佐代子だった。

「どうしたんですか?」

 大川はたずねる。

「なんだか寝つけないの。よかったら、少し話し相手になってくれないかしら?」

 普段は束ねている髪を無造作にたらし、小首をかしげて佐代子はいう。その姿を見るだけで、大川の股間はムズムズとしたうずきをおぼえた。

「ダメかしら?」

「い、いえ……」

「よかった」

 笑みを浮かべてそういうと、佐代子は大川の両手を握る。冷たい指の感触が、大川の感情をいっそう波立たせた。

「大川くん?」

「は、はい」

「弟とは同じ大学?」

「いえ」

「そうなの」

 畳の上で横座りになった佐代子はいう。むき出しになったふくらはぎが目にまぶしい。大川は、よこしまな期待と不安で胸に痛みを感じてしまう。

「弟って、なんとなく変でしょ」

「いいえ、山田くんはボクと違って、しっかりした考えも持っているし、頭もいいし」

「頭はいいわよね、わたしと違って。でも、変な思想にかぶれないか心配なの。運動家になったりしないかって」

「山田くんの考えは左翼でも右翼でもない。いまの学生運動は左翼が中心だから、既存の組織では満足しないはずです」

「ふううん。そんなものなの?」

「ええ、彼は純粋に日本の現状を憂いています。もし彼が活動をはじめるのなら、自分で組織をつくるしか……」

 大川は自分の言葉が、次第に熱を帯びているのを知った。そんな大川を佐代子は潤んだ目で見つめている。視線に気づいた大川は、言葉をさえぎってうつむいてしまった。

「大川くんは、どうなの?」

「ボ、ボクですか。ボクはノンポリです」

「ノンポリ?」

「全学連の連中も右翼の連中も否定しないけど、率先して思想に同調することもない。ポリシーのない日和見主義者です」

「それが一番いいと思う」

 佐代子は徐々に大川との距離を縮めてきた。

 女性特有の甘い香りが鼻腔をつく。ほのかに体温が感じられ、寒いはずなのに汗がにじみはじめる。

視線を向けると、佐代子は上目づかいで大川を見つめ、少し舌の先を出して自分の唇を舐めた。

「わたしね、夫とは別れようと思うの」

「そ、そうなんですか……」

「浮気されるだなんて、わたしには魅力がないのかな」

「そんなことないです!」

 大川は佐代子を見つめ、勢いづいた言葉でいってしまった。

「大川くんは、わたしのこと女だと認めてくれるんだ。うれしい」

「いえ」

「わたしって魅力ある?」

「もちろんです」

「年上の女、しかも今はまだ人妻。それでも?」

「はい」

 次の瞬間、大川の唇がヌルリとした感触でおおわれた。大川は事態が飲み込めず、何が起こったのかわかるまで少しの時間を要する。

そのすきに、唇がこじ開けられて舌がねじ込まれてくる。目の前には、うっすらと目を閉じた佐代子の顔があった。

「驚いた?」

 茫然としている大川を見て、佐代子は髪をかき上げながら悪戯な笑みを浮かべた。

「わたしが離婚を考えたのは、夫の浮気だけが理由じゃないの」

「え?」

「あの人は淡白なの。でも、わたしはそれじゃ満足できない身体なの。だから、夫が疲れていても、シたくなかっても迫っちゃうの。それがいやになって、あの人は別の女に手を出した」

 佐代子はしなだれかかりながら、大川の股間に手を伸ばした。

「あら?」

 佐代子の淫靡な雰囲気とあたえられた口づけの感触で、大川の男は大きく屹立を果たしている。

「もうこんなに固くなってる」

 華麗な顔が間近にある。間近に吐息を感じる。頭がクラクラするほどの芳香が、大川の神経を高ぶらせる。

「キスだけで感じちゃったの?」

「はい……」

「ひょっとして童貞?」

 大川はうなずく。

「ステキ」

 佐代子は大川を見つめながら立ちあがった。そして、艶然とほほ笑みながらカーディガンを脱ぎ、ひざまずく。

「童貞くんは、すぐにイッちゃうから。先にお口でイカせてあげる」

 上目づかいで大川を見つめ、佐代子は前かがみになる。そしてズボンのチャックをおろし、下着の中からすでに固く尖った大川を取り出した。

「ふふふ……」

 佐代子は男根をつまんでしごきはじめる。指の感触とリズミカルな動きが加わり、大川は早くも達してしまいそうになる。

「我慢しなくていいのよ。出したくなったらそのままイッてね」

 ふわりと髪の毛をあげて唇を開き、佐代子は舌を出し、チロチロと先を探った。

 大川は目を閉じ、天をあおいだ。絡みつく舌の感触が心地よく、身体がとろけてしまうような感慨をおぼえる。

佐代子は舌を絡めつつ、熟した花びらのような唇を開いてほお張る。なめらかで温かな感触が、大川の肉棒をおおいつくした。

「ふぅううん、ううん、どう? 気持ちいい?」

 見おろせば、ネグリジェの襟もとから胸の谷間がはっきり浮かんでいる。浮き出た鎖骨にきめ細やかな肌。白磁のようなうなじを見せつけながら、佐代子の首が上下に揺れる。

ちゅぱちゅぱ、ちゅぶちゅぷと湿った音がひびく。吸いつきながらの包皮をスライドさせ、舌でらせんを描きながら、佐代子は愛撫をつづける。

「ああ、ダメです、もう……」

「ううんふぅうん、ううん、いいのよ、出して、飲ませて」

 佐代子の動きが大きく激しくなった。我慢の限界をおぼえた大川は、熱いほとばしりを放ってしまう。

「んく……、ふぅうん……」

 吐き出された精液をすべて受け止め、佐代子は最後の1滴まで搾り出す。大川を抜き出すと、佐代子は口をつぐんで白濁の粘液を飲み干したのだった。

「うん、おいしい。甘くておいしい」

 佐代子はいう。大川は射精後の虚脱で身動きができない。

「どう? 気持ちよかった?」

「はい……」

「今度は、もっとよくしてあげる」

 そういって身体を起こした佐代子は、大川を押し倒し、濃厚な接吻をあたえた。

あお向けになった大川は、佐代子にすべてをゆだねる。そんな大川の手を取り、佐代子は乳房にいざなう。

薄衣の上からでもわかるボリュームと柔軟さ。

「どう? わたしのオッパイ」

「大きくてやわらかいです」

「脱がせて」

 佐代子は大川の手を取って身体を起こす。対座する佐代子の衣裳を、大川はまくりあげる。ネグリジェをはぎ取られた佐代子は、背中に手をまわしてブラジャーのホックをはずした。

露出した佐代子の裸体は、感嘆の声をあげてしまいそうになるほど美しく、扇情的だ。こんもりと盛り上がった乳房、ツンと上を向いた桜色の乳首、くびれた腰に小さな双臀。肌は光を受けて艶を放ち、淡い桃色に染まっている。

「好きにしていいのよ」

 佐代子は乳房を誇示した。大川は飢えたようにむしゃぶりつき、乳首を吸う。

片方の手で乳塊をわしづかみにし、指を食い込ませる。つきたての餅のような感触でありながら、力をゆるめると形を戻すハリがある。

「うふふ、かわいい」

夢中になる大川の頭をかかえながら、佐代子は下着の中に手を導いた。

「ほら、ココ。濡れてるの、わかる?」

 恐る恐る指を伸ばせば、ウネウネした肉裂からネットリとした蜜がにじみ出ている。

「指、挿れてみて。わたしの中、かき混ぜて」

 2本の挿入し、関節を折り曲げる。佐代子は少しのけ反り、甲高い声をあげる。

「そ……、そこ、やあん、いい……!」

 抜き差しを加えながら内部を攪拌すると、蜜はとめどもなくあふれ出し、クチュクチュと猥褻な音が鳴る。佐代子は大川に固く抱きつき、悶える。

「そう、あああん、もう、ううん、我慢できない」

 感極まった佐代子は、大川を裸にし、ふたたびあお向けにした。そして自ら下着を取ると、肉棒を握りしめてまたがってくる。

「挿れるわよ、わたしの中に入るの」

 少し濃い陰毛におおわれた秘部が、パックリと口を開ける。佐代子は大川の先端をあてがい、じわりじわりと腰を沈めていった。

「あ、く……」

 直立する業物は、佐代子の陰唇をかき分けながら完全に埋没を果たした。その瞬間、真綿のような圧力が男柱を締めつける。窮屈な肉筒は内部の襞をうごめかせ、愛蜜のヴェールで包みながら絡みついてくる。

佐代子は、最初ゆっくり、徐々に早く腰を振りはじめた。表情は艶美にゆがみ、開いた唇から舌の先が見える。

「ううん、いい、当たる、先が当たるぅ。どう、気持ちいい? わたしの中、気持ちいい?」

「いいです、すごく気持ちいいです」

「うれしい……。やあん、大きい、大川くん、すごい」

 乳房が上下にタプタプ揺れ、汗がポツポツと吹き出てくる。佐代子の素肌は煌めきと光沢を増す。

「こ、今度は孝君が上に……」

 体位を入れ替え、大川はうつぶせに重なった。

 肉裂を左右に開いて突き入れる。抽送をくり返すと、佐代子は背中を反らせながら首を振って歓喜を示す。

「ううん、もっと、もっとぉ! やあん、感じちゃう! ステキ、もっとメチャクチャにしてぇ!」

 佐代子は自分からも腰を打ちつけてくる。自身の動きと佐代子の律動が合わさり、膣内の陰茎は容赦のない刺激にまみれた。

「ダメだ、だめ、もう……」

「出るの? イッちゃうの? いいよ、出していいよ」

「こ、このままで」

「このままでちょうだい。抜いちゃダメ。やんやん、抜いちゃダメぇ。出して、中にいっぱい出して!」

 佐代子は大川の腰を支えた。もとより、射精の瞬間に抜き出す余裕のない大川は、そのまま数億の精虫を佐代子の子宮に向かって放出したのだった。

 その日を境に、大川と佐代子の関係は深まった。

自分のことを淫乱というほどだから、佐代子の求めは頻繁だ。ただ若さも手伝い、大川は昼夜関係なく佐代子に応じる。

「すごくいい、もう離れたくない」

「ボ、ボクもです」

「うん、ずっと一緒にいて。ずっと、こんなことしよう」

 大川は佐代子に溺れる。大学を辞めて、いっしょに暮らしてもいいと思うようになる。親は猛反対するだろうが、駆け落ちしてでも二人でいたい。

 それは佐代子も同じように思えた。だが、結末は突然訪れた。

「大川、なにしてるんだ!」

 佐代子と抱き合う大川の部屋の扉が開く。驚いた大川と佐代子は声の方向を見る。そこには、顔を真っ赤にして怒りをあらわにしている山田が立っていた。

「い、いや……、これは……」

 大川は佐代子に助けを求める視線を送る。佐代子が二人の関係を弟に告げるはずだとの期待を込めて。

「大川くんと一緒になるの」

 そう伝えてくれるはずだと大川は確信していた。

 だが、佐代子は顔をふさぎ、大きな声で泣きながら告げた。

「こ、この人が突然、イヤだっていったのに無理矢理」

 大川は驚愕する。山田はツカツカと近寄り、大川のほほを殴る。その勢いで大川の身体は弾け飛び、勃起させた一物をむき出しにしてのけ反ってしまった。

「訴えてやるからな、このゲス野郎!」

「違う、これは、お姉さんのほうから……」

「姉さんがお前みたいなヤツ、誘惑するわけないだろ!」

 佐代子はうつむいて泣きつづけた。だが、ちらりと視線を送り、小さく舌を出したのを大川は見逃さなかった。

 佐代子は次の日に弟の下宿を去った。大川と山田の友情は破綻した。いたたまれなくなった大川は、数日後に荷物をまとめる。

 下宿をあとにする日、大川は最後の弁明を聞いてもらおうと山田の部屋の前に立つ。しかし、どうしてもドアをノックするのがはばかられ、何も告げずにその場をあとにした。

【長月猛夫プロフィール】
1988年官能小説誌への投稿でデビュー。1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作。主な著作『ひとみ煌きの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)/『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)/『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)ほか。

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