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※はじめに
この連載は中高年の皆様に素晴らしき日本の性文化への憧憬をさらに深めていただくために、東京・吉原に書店を構える「カストリ書房」の店主・渡辺豪氏に毎回、お勧めの本や雑誌を紹介いただくものです。
カストリ書房は遊郭専門書店として2015年に誕生し、店主の渡辺氏は自らも遊郭、赤線、青線があった地域を巡って聴き取り調査や取材を行なっており、これまでに訪れた場所は約500箇所。現在も書店を運営する傍ら様々な日本の性文化に関する文献の考察やイベントを行なっております。
夕やけ大衆では、そんな渡辺氏が未来永劫残したい「性書」を厳選してご紹介いたします。さあ皆様、知識と誘惑の扉を開いてみましょう。
〈夕やけ大衆編集長より〉
第16回『新・フーゾク魂しょの 1ノ巻』平口広美著(青林工芸社刊)
2000年前後、消えゆく遊廓発祥の違法性風俗を惜しむようにムック本が濫造され、そして消えていったことは以前の記事で触れた。
性風俗のイラスト・ルポルタージュを手掛ける作家として草分けだったのはが、平口広美氏だ。
当時の成人男性誌、ひらたく言えばエロ本に連載していた作品をまとめたものが、同氏の「フーゾク魂」として単行コミック化されている。
内容は当時勃興した新興性風俗(イメクラ、性感など)に加えて、遊廓地帯にあって細々と命脈を保ってきた娼街に体当たりする平口氏の本音レポートが読みどころ。
成人男性誌に掲載されていた漫画なので、あくまでも描写はダイレクト。この手に耐性がない方が読むと抵抗感は決して小さくないかもしれない。
ただし、連載開始時が現在から30年以上も前の1980年代半ばということもあり、もはや民俗史と読んでも差し支えないのではないかと感じ入ってしまう。まして、「低俗」と唾棄される性風俗は、誰も残そうとしない。実地にその土地を訪ね、街に飛び込み、女性にすら飛び込んでいった平口氏のイラスト・ルポは、いまや「エロ」以外の視座から読書アプローチが可能になっている。
興味深いのは、この手の漫画ではともすれば疎かになりがちな街並みも、精緻な筆致で描いていることだ。正直な話、読者が劣情を催したり笑えるドタバタがあれば、この手の漫画は成立するのでは? と、私のような素人はつい浅はかな考えを持ってしまうのだが、平口氏は街並み、働く女性の放言や地域性なども画き込んでいる。
とりわけ遊廓跡を描いたイラストは貴重だ。
風土色というものが急速に消えて行く現代にあって、性風俗を通して、異国情緒をたぐり寄せようとした最後の作家ではないだろうか。
現在でも手に入るのは、シリーズ第2段となる「新・フーゾク魂」(2002年)以降のみとなる。本書を発行しているのは『ガロ』を発行していた青林工藝舎。
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『新・フーゾク魂しょの 1ノ巻』平口広美著(青林工芸社刊)
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