Catch Up
キャッチアップ
※はじめに
この連載は中高年の皆様に素晴らしき日本の性文化への憧憬をさらに深めていただくために、東京・吉原に書店を構える「カストリ書房」の店主・渡辺豪氏に毎回、お勧めの本や雑誌を紹介いただくものです。
カストリ書房は遊郭専門書店として2015年に誕生し、店主の渡辺氏は自らも遊郭、赤線、青線があった地域を巡って聴き取り調査や取材を行なっており、これまでに訪れた場所は約500箇所。現在も書店を運営する傍ら様々な日本の性文化に関する文献の考察やイベントを行なっております。
夕やけ大衆では、そんな渡辺氏が未来永劫残したい「性書」を厳選してご紹介いたします。さあ皆様、知識と誘惑の扉を開いてみましょう。
〈夕やけ大衆編集長より〉
第12回『遊廓に泊まる』関根虎洸著(新潮社)
遊廓とは、場所を限定して売春が認められていたエリアや売春性産業を指すが、今から62年前、昭和33年に施行された売春防止法によって、沖縄県を除く46都道府県では、名目上消滅した。正確に言えば、戦後の売春街は特飲店ないし赤線と俗称されるものだったが、人口に膾炙(かいしゃ)している「遊廓」とは前述の通りだ。
遊廓の消滅から既に半世紀以上過ぎ、当時を知る人たちの多くは鬼籍に入りつつある。仮に昭和33年時点で25歳だったひとは、現在87歳に達しており、既に日本人の平均年齢を上回っている。当時を忍ぶよすがは年々少なくなるばかり。
多くの人にとっては映画や小説といった虚構の世界でしか触れることができなってしまった遊廓だが、今も遊廓に泊まれるという事実を知る人は多くない。
本書は、かつて遊廓として営業していた娼家が現在も旅館業として続いており、一般の人も普通に安心して泊まることのできる旅館を紹介している。
本書がユニークなのは、朝食などの食事風景を大きく取り上げている点。いわゆるダークツーリズム的な切り口ではなく、あくまでポジティブなツーリズムとして取り上げている点が面白い。
こうした元遊廓旅館の多くは、観光旅館ではない。工事などの長期滞在者相手の旅館として営業を続けてきていた旅館が多い。だからこそ、景気の浮き沈みに影響されず、半世紀以上もの間、奇跡のように取り残されてきたのだ。
また立地条件も必ずしも良くない。街の繁華街から遠かったり、風光明媚な名跡旧所からも遠かったりする。これにはちゃんと理由がある。明治後期に日本政府は遊廓に関連する法令を整備していったが、この時、売春産業を街の中心から切り離し、隔離するような位置に営業できる場所を定めたからだ。国際的潮流や国内からも人身売買廃止の機運が高まる中、風紀上の理由からといえば聞こえがいいが、有り体に言えば「臭いものには蓋」をした。
こうした理由から、現在も残る元遊廓旅館に観光旅館と同じものを望むのは難しい。しかし、親から譲られた旅館を残すため、大切に手入れしながら切り盛りする女将さんたちとの出会いは、心温まる。
観光旅館では得がたい体験ができるのは、元遊廓旅館の魅力だ。
【今回ご紹介した書籍をお求めの方はコチラから】
『遊廓に泊まる』関根虎洸著(新潮社)
関連キーワード
Linkage
関連記事
-
カストリ書房の「知識と誘惑の本棚」 第10回『ピンク映画館…
-
【カストリ書房】第9回「マッカーサーの二つの帽子」
-
【カストリ書房】第8回『戦後のあだ花 カストリ雑誌』
-
カストリ書房の「知識と誘惑の本棚」第7回『全国版あの日の自…
-
カストリ書房の「知識と誘惑の本棚」第6回『AV女優』42人…
-
カストリ書房の「知識と誘惑の本棚」第5回『赤線跡を歩く』
-
カストリ書房の「知識と誘惑の本棚」第4回『パンツが見える』…
-
カストリ書房の「知識と誘惑の本棚」 第3回『売春島 「最後…
-
カストリ書房の「知識と誘惑の本棚」第2回『ぽつん風俗行って…
-
カストリ書房の「知識と誘惑の本棚」第1回『図説 吉原事典』…
-
あの週刊大衆が完全バックアップした全国の優良店を紹介するサイト