※はじめに

この連載は中高年の皆様に素晴らしき日本の性文化への憧憬をさらに深めていただくために、東京・吉原に書店を構える「カストリ書房」の店主・渡辺豪氏に毎回、お勧めの本や雑誌を紹介いただくものです。

カストリ書房は遊郭専門書店として2015年に誕生し、店主の渡辺氏は自らも遊郭、赤線、青線があった地域を巡って聴き取り調査や取材を行なっており、これまでに訪れた場所は約500箇所。現在も書店を運営する傍ら様々な日本の性文化に関する文献の考察やイベントを行なっております。

夕やけ大衆では、そんな渡辺氏が未来永劫残したい「性書」を厳選してご紹介いたします。さあ皆様、知識と誘惑の扉を開いてみましょう。

〈夕やけ大衆編集長より〉

第６回『AV女優』永沢光雄著（文春文庫）

本書は、1991年（平成3年）から1996年（平成8年）にかけて、AV女優にインタビューした記事をまとめたものである。

「芸能人は住む世界が違う」などと言われ、実際にそうなのだろうが、かつてメディアで活動する有名人と一般人の間には、今以上に大きな隔たりがあった。だからこそ、暴露本や自伝ないしインタビューの様に、有名人と一般人の隔たりを解消しようとするコンテンツには一定の需要があった。AV女優も同様に、そのひととなりを知りたいという欲求が生まれてくる。

SNSが浸透した現代においては、有名人のひととなりが、生々しく伝わるようになった。何をもって生々しいとするかは分かれるところだが、例えば経済的にも社会的にも恵まれているはずの芸能人が、稚拙な失言や行為で「炎上」する様を幾度となく見る私たちは、「忙しくて疲れてるんだろうな・・・」と、むしろ理解を示し、あけっぴろげに心情を吐露する芸能人に、より愛着を感じるようにさえなった。

「インターネットやSNSは血の通わない世界」などと揶揄されるが、むしろ私は、これほど他人の気持ちが近い時代は、過去のどの時代にも無かったのではないかと思っている。

本書では42人のAV女優が登場し、生い立ちなどを語る。

薬物・シンナー、家庭崩壊、非行、年少での性交経験、恋人との破局、借金。おそらく読者が期待するエピソードがちりばめられている。

しかし、そもそも読者は何を期待して、本書を手に取るのか？

本来、秘め事であるはずのセックスをカメラの前で演じるような女性は、波瀾万丈の人生を経験しており、AV女優になる必然性があったに違いない──

例えばこのように、読者は人生に整合性を求める。

薬物や非行、家庭崩壊など、確かに「人生、谷あり谷あり」といった波乱に違いないが、それらを経験したすべての女性がAV女優になるわけではない。AV女優たちが語る過去には、AV女優になるべき理由は、実はあまり見当たらない。

生い立ちの中には、程度の差こそあれ、読者にも覚えのある行為や体験も多かろう。

本書の読後感の一つに「リアル感」というものがあるとすれば、それはAV女優になった必然性が描かれているからではなく、「AV女優も、さして自分と違わない世界の住人なのだ」と本書を通して気付くからだろう。

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