Catch Up
キャッチアップ
このコーナーは官能小説家の長月タケオ氏が一般の中高年読者から寄せられた「性の告白」をご紹介するものです。そこにはシニアである我々同世代が共鳴する「あの頃」の時代背景があり、実体験ならではの生々しい「性の現実」があります。懐かしくも妖艶な古き良き官能の世界をご賞味頂ければ幸いです。編集長
【若い女の肌に触れたことで取り戻した自信】
H・M 72歳 愛知県在住
この歳になるとあっちの方がさっぱりで、このままあの世へのお迎えが来るまで女体の柔肌には縁がないものと思っていた。そうなると世間に無常を感じ、ぶらりと旅にでも出たくなる。
漱石の『草枕』といった心境か。
山奥にあるひなびた温泉宿。わしは、長い年月に染み込んだ世俗の垢をぬぐい去るため、逗留を決め込んだ。しかし、こんな田舎宿にも温泉ブームとかで若い連中や団体客が訪れてくる。
いったい全体、わしの気分を安らげてくれるところはどこにあるのやら。
そんなことを考えながら、となりの宴会でやかましい部屋を抜けだし、ロビーでぼんやりタバコをくゆらしていると、ひとりの若い女が近寄ってきた。
「お父さん、お一人?」
「あ、ああ」
「さびしくない?」
「いや別に」
「なぐさめてあげようか」
「え?」
「朝まででもいいよ。その代わり」
女はわしの耳もとでそっとささやいた。
「援助して欲しいの。2万円。ううん、1万5000円でいい」
わしは驚いて女の顔を見た。あどけなさの残るその表情から、20歳そこそこだというのがわかる。
「い、いや」
「由美じゃダメなの?」
名前は由美というらしい。すねる顔が、なんとも愛らしい。
「いや、そんなことはないが」
「おカネないの? それなら、もう少し」
「いや、そのくらいのカネは」
口にしてわしは後悔した。
わずらわしい俗世間から逃れようと思っていたはずなのに、妙な見栄とスケベ心がわき起こってくる。そして、ひょっとして、このお嬢さんなら、男として復活できるかもしれない。そんなことも考えてしまう。
「いや、いけない、いけない」
「え? なに?」
「いや……。お嬢さん、わしは見ての通りの老いぼれだ。小づかいがほしいならあげるから、もっと自分を大事にしなさい」
「え~、そんなの悪い。おカネはちゃんと働いてもらわないと。それに」
「それに?」
「若い子ってダメなの。オヤジはもっと嫌い。お父さんくらいの人が、やさしそうでいい」
一人旅を決め込んでいたが、こんなに愛らしい娘さんと一夜を過ごすのもいい。なんのことはない。孫といっしょに、あれこれ話しをしながら、夜がふけるまで時間をつぶすつもりなら悪くはない。
若い女性といっしょにいるからといって、いやらしいことを思い浮かべるのは、まだまだ修行が足りない証拠だ。
「わかった」
「きゃ、うれしい」
軽やかに飛びはねる娘は、さっそくわしの手を取り立ちあがらせた。
「じゃあ、お部屋に案内して」
わしは、たぶん、やにさがっていただろう。いくつになっても枯れることのないスケベ心。
由美の手の感触と、ほのかに香る甘酸っぱい匂いに、幻惑されていたと言っても、いいかもしれない。
部屋に入ると、となりの宴会も終わりを迎えたのか、山間の宿らしい静けさが戻っていた。
「あんた、歳は?」
「いくつに見える?」
「う~ん、20歳」
「やだ、そんな若く見える」
由美は25だと言った。それにしては、本当に幼さの残る顔立ちをしていた。
舌足らずの甘ったれたしゃべりかたも、わしにそう感じさせたのかも知れない。そして、低い背丈とプックリとした体つき。
ほほの辺りがうっすら赤く染まり、薄い目の化粧も歳より若く見せている。
「お父さんは、どうして一人でこんなところへ?」
「わしか、わしは、そうだな」
わしは自分の思いを素直に伝えた。
「へえ、そんなふうには見えない」
「どんな男に見えるんだ」
「どこかの会社の社長さんかなんかでぇ、リフレッシュするためにお忍びでぇ、取り巻きの人たちからも離れてぇ、そんな感じ」
年金生活者のわしが、そんなふうに見えるのかと思うと、世辞でもうれしかった。
「じゃあ、そろそろはじめようかぁ」
「え? なにを」
「ごめんなさい。前金になってるの。その代わり、朝までたっぷり楽しんでいいからね」
パーティーコンパニオンを生業としているが、酒を飲んで車に乗ると悪酔いをする。少しの距離なら大丈夫だが、この宿から里へおりるまでは、かなりのあいだ車に揺られなくてはいけない。
だから、朝になって酒が抜けるまで泊まったほうがいいのだが、空き部屋もないし宿賃は自腹になる。
「それじゃあ、なんのためにここに来たのか、わかんなくなるじゃない。だから、お父さんみたいなやさしそうな人見つけて、お部屋をいっしょしてもらうの」
「それなら、なにもしなくて寝ればいい」
「そういうわけにはいかないの。お父さんも気を使うし、由美も気を使うから。おカネをもらって、することすればさっぱりするでしょ」
言われてみれば、その通りかも知れない。しかい、わしのせがれは言うことを聞かない。そのことを告げると、「まかせといて。大丈夫」と由美は言った。
しかたなく電気を消し、わしは布団にあお向けになった。由美は着ているものをするすると、脱ぎ捨てまっ裸になる。その裸体を見て、わしは目を丸くする。
こんもりと盛りあがった乳房は真円を描き、輪郭はわきからはみ出ている。それでも肉塊はたれることなく、小さな桜貝色した乳首はツンと上を向いている。
抱き心地よさそうな肉付きに、艶があり、張りつめた肌。薄い肌色と言っていいのだろうか、病気のように青白くもなく、日焼けしたような色でもない。
そんな素肌が、窓から指す月の光を受けて輝いている。
「やん、あんまり見ないで」
じろじろ見つめるわしの視線に羞恥をおぼえたのか、由美は両腕で乳房をかくし、恥ずかしげな笑みを浮かべた。
「じゃあ、由美が元気にしてあげる。元気になったら、ぞんぶんに由美をご賞味ください」
そういって由美はわしの股間に顔を埋めた。
由美の舌は力のこもらないわしの全体をしゃぶり、一度口にほお張ると、ふたたび抜き取り、また舐りつくす。ほおの内側で全体を包み、吸い込みながら出し入れをくり返す。
「ふぅうん、うん、うん……」
唾液の湿った音と、なめらかで温かな感触。それでもせがれは元気にならない。
「うんん、うんんん」
「もういい、もういいよ。ダメなモノはダメなんだ」
「あきらめちゃダメ。そうだ、由美のも舐めて、さわって」
由美はそういって、わしの顔面にまたがった。わしは目の前で、むき出しになった陰部を見る。
形が整い、少し黒ずんではいるが、決して醜悪ではない秘所だった。わしはもさぼりつくように吸いついた。すると、由美の身体がかすかに震え、せがれをくわえていた動きが早くなる。
「うんうん、あぅん、イイ、お父さん、じょうず」
若い女の肌を、陰部を舐るなんて何年ぶりのことだろう。とくに由美のような愛らしい乙女の肌を。
冥土のみやげにはちょうどいい。いや、あの世になんて、まだまだいくものか。こんなすばらしいものを、もっともっと味あわずして死んでたまるか。
そう考えたとき、由美の技とハリのある甘い肌の感触も手伝って、わしのせがれはムクムクよみがえってきた。
「うわ、やった、お父さん、大きくなってきたよ」
由美もよろこんでくれる。
わしは由美の部分を舐り倒し、両手を乳房に伸ばす。手のひらにあまる由美の胸乳は、何物よりもやわらかく、重量感と質感に満ちている。
「ああん、由美、もうダメ。お願い、お父さん、お願いしますぅ」
わしは由美をあお向けにし、十分濡れそぼった部分に挿入した。
由美の小さな身体はわしの勢いで伸び縮みし、耳に心地いい喘ぎ声を漏らす。
「あんあん、いい、きゃあん、お父さん、いい、あん、由美、変になるぅ」
由美の内部は窮屈で、わしはその締まりに比例してどんどん大きく固くなる。それと同時に自信がよみがえり、男が復活するのを知る。
世俗のわずらわしさなんて、なんのその。わしはこれからも現役でばりばりやってやる。死ぬまで現役でやってやる。そんな気になる。
そして、由美の許しを得て中に吐き出したとき、わしはくたびれた自分を脱ぎ捨て、新しく生まれ変わった気分になっていた。
それからもわしは、自分自身を取り戻すために風俗で若い肌を堪能している。そのためには仕事もし、カネもためる。
カネというのは、やはり働いて稼ぐものだ。そうすることで自信がみなぎってくる。
それを教えてくれたのは、あの温泉宿のお嬢さん、由美だ。
わしは彼女に感謝しながら、毎日自転車をこいで仕事場へ向かう。このごろは若くなったと、近所の連中も言ってくれる。
働くこと、若い肌に触れること。これこそが長生きの秘訣、元気の秘訣だと信じる今日このごろだ。
- 【選者紹介】
- 長月タケオ(ながつきたけお)
- 1962年生大阪府出身在住。1988年官能小説誌への投稿でデビュー。
- 1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作受賞。
- おもな著作『ひとみ煌めきの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)
- 『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)
- 『禁断の熟女』(ベストロマン文庫・共著)
- 『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)
- 『誘惑する女 熟女たちの悦楽』(九月堂・電子版)ほか
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- 誘惑する女 熟女たちの悦楽 長月タケオ短編集
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