Catch Up
キャッチアップ

このコーナーは官能小説家の長月タケオ氏が一般の中高年読者から寄せられた「性の告白」をご紹介するものです。そこにはシニアである我々同世代が共鳴する「あの頃」の時代背景があり、実体験ならではの生々しい「性の現実」があります。懐かしくも妖艶な古き良き官能の世界をご賞味頂ければ幸いです。編集長
【不幸な娘に憐れみを覚えた買春体験】
H・H 63歳 大阪府在住
40年近くも前のこと。当時まだ童貞だったわたしは会社の先輩に連れられて、大阪は信太山の料理屋にやってきた。
料理屋の看板をあげてはいるものの、じつは売春宿。大阪には松島、今里、飛田と、今でも同じような場所が残っているのはご存知のとおりだ。
とにかくわたしは、会社が終わって1杯飲み、気合いを入れてから国鉄阪和線の駅を降りた。
給料日だったということもあり、懐には1ヶ月分の生活費が納まっている。慣れた先輩は平気な顔で目的の場所へ向かって歩いて行くが、なんと言ってもこっちは初めての体験。心臓がドキドキと鳴りひびき、身体がかすかに震えていた。
路地裏には同じような間口の店が並び、招き婆さんが手を振っている。なじみの店でもあるのか、先輩はわき目もふらず目的の店に向かう。
「おや、Tさん、いらっしゃい。きょうはお連れさんもいっしょ?」
「そや、エエ子、頼むで」
「ウチはエエ子ばっかしやよ。どんな子がエエのん」
「わいよりこいつにとびきりエエ子頼むわ。なんちゅうても初めてやさかい」
「へえ、筆卸し」
婆さんはそういうと、わたしのことをじろじろと見た。その表情には薄い笑みが浮かんでいる。
「よっしゃ、ちょうどエエ子がおるわ。若いしべっぴんやし」
婆さんはそういって、わたしを2階の部屋へ案内する。先輩は別れ際に、わたしの肩をたたいて「がんばれよ」と励ましてくれた。
狭い部屋に薄っぺらいせんべい布団が敷かれ、わたしはそんな中で女の来るのを待っていた。安っぽい化粧のにおいがプンプンしていて、男兄弟の中で育ったわたしには、なんとも異様な雰囲気だった。
しばらくして階段をコンコンとあがってくる音が聞こえた。
いままででもそうだが、風俗に行くと、この瞬間が一番緊張する。とくにそのときは初体験。思い出しても冷や汗が流れるくらいの心持ちだった。
「お待たせしました」
鬼が出るか蛇が出るか。婆さんはあんなことを言っていたけれど、本当はオカメみたいな女があらわれるんじゃないか、とわたしは思っていた。けれど、部屋の引き戸を開けて姿をあらわした子は、本当にどこにでもいるような、素人ぽさを残したカワイイ女の子だった。
「この店は初めて?」
「は、はい」
背は低く色白。声色は鈴を転がすように可憐で、表情に幼さが残っている。
「どうしたん? 緊張してんの?」
そんなわたしを尻目に、彼女はさっさと服を脱ぎながらわたしにたずねた。
「い、いえ……」
「時間なくなるよ、さっさとせんと」
といわれても、女性の前で、しかも二人きりで裸になるなんて母親以来のこと。わたしがぐずぐずしていると、彼女は四つんばいになって顔を近づけ、聞いてきた。
「もしかして、初めて?」
わたしはうなずく。
「そうなんや。ほな、ウチが初めての女になるんや」
全裸の彼女を前にして、わたしはつばを飲み込んだ。
男相手の商売をしているとは信じがたいほど艶のいい肌。乳房はちょうどいい具合にふくらみ、小さな乳首が桜色に勃起している。
そんな彼女はやさしくほほ笑むと、わたしの手を自分の乳房に押しつけた。わたしは身体中に電流が走るような衝撃をえる。
「やわらかい?」
「は、はい」
「ぬくいやろ?」
「はい」
「そやけど、ここは」
股間にわたしの右手を誘う。
「あ……」
「オ×コ、いらうの初めて?」
「はい」
「ここにあんたのチンチンが入るの。すっごい気持ちエエから」
彼女はそういってからわたしを布団に押し倒し、服のボタンをはずしはじめた。
「ホンマはこんなこと、せえへんねんよ。そやけど、ウチのせいで女嫌いになったら困るし。一生にいっぺんのことやし」
そういいながら唇を重ねてくる。
ぬるりとした厚ぼったいベロがわたしの舌と絡まる。わたしの股間は、もうはち切れんばかりにふくらんでいた。
彼女はわたしの服を1枚1枚、ていねいに脱がしながら下着もおろす。
「ふふふ、元気いい。それにカワイイ」
彼女はしごきながら舌を伸ばしてくる。そして、ぺろりと先を舐めると、いきなりほお張ってくるのだった。
「あ、ああ……」
わたしは、その途端に吐き出しそうになった。けれど必死にこらえ、彼女の舌技に身をゆだねる。
ほお張ったまま首を上下に振る彼女も、わたしの頂点を見極めたのだろう、顔をはずすとコンドームをはめ、自らまたがり、中へ導いてくれた。
「いい? 入れるよ」
わたしが答える間もなく、彼女はなめらかで温かな膣内に納める。ヌチャヌチャとした愛液が絡みつき、肉襞がまとわりつくようにわたしを包む。
「うん、固い。奥まで刺さる」
彼女はそういいながら腰を振った。わたしは、ただ伝わる快感に身をまかせる。
「エエんよ、好きなようにしてエエんよウチの身体。乳、揉んでエエんよ。うん、気持ちいい」
わたしは揺れる乳房に手を伸ばす。手のひらにすっぽり納まる白い胸乳は、それまで知った何ものよりもやわらかかった。
「うん、いい、あんあん、ああうん、うん」
悶える彼女の表情は、妖艶で淫靡。可憐さが残っているだけに、そのギャップに興奮はうながされる。
わたしの感情はピークに差しかかる。そして我慢はすぐに限界を超え、そのままコンドームの中へ射精してしまうのだった。
「ふう」
ため息をついて彼女はわたしから降り、ゴムをはずしてくれた。
「どう? 気持ちよかった」
「は、はい」
「これで男の仲間入りやね」
そう話すと、彼女はわたしの横に寝転がり、タバコを吹かしはじめた。
「お客さんは、なにしてる人?」
「え? 普通の会社員です」
「歳は?」
「22」
「へえ、ウチの弟と同い年や」
時間は少し残っていた。彼女は、そのあいだに身の上話をはじめる。
父親は早くに死んだ。莫大な借金を残し、母親は返済のために必死になって働いた。そんなとき弟が自動車事故にあい、手足はおろか、言葉も満足にしゃべれなくなってしまった。相手は保険に入っていなかったので補償ができず、そのままどこかに逃げてしまった。
母親は借金返済と弟の病院費を稼ぐために、それこそよるも寝ずに働いた。もちろん彼女も中学を出てすぐに就職したが、二人の稼ぎではどうしようもない。そのうち母親も、過労で倒れ帰らぬ人となってしまった。
「そやから昼間は工場で働いて、夜はここでおカネ、稼いでんの。そやけど、いったいいつになったら、おカネの苦労せんでエエようになるんか。考えただけで」
それまで明るく振る舞っていた彼女の顔に影が差す。わたしは不憫に思いながら、じっと横顔をながめていた。
「あ、時間や。ごめんな、しょうもない話しして」
もとの笑顔に戻った彼女は言う。けれど、その表情には一抹のさびしさが残っている。
「あの、これ……」
「あ、おカネは下で」
「ち、違う」
わたしは料金以上のカネ、有り金全部を彼女にわたした。
「たいした額とちゃうけど、これで」
「え?」
「なんかの足しにしてや、弟さんの」
「そ、そんなん」
「ええから」
固辞しようとする彼女に、わたしは無理矢理手わたした。彼女は目を涙でにじませながら、大きく頭をさげてくれた。
「アホやな、お前は」
帰りの電車賃も渡してしまったことに気づいたわたしは、先輩に全部を話した。すると、先輩は見下したようにいった。
「そんなん、真に受けてどないすんねん。作り話に決まってるやないか」
「そ、そやけど」
「エエか、相手は玄人やぞ。カネ儲けのために身ぃ売ってんや。お前みたいな若造、だますなんかお手のもんや。それに、よう考えれよ。お前がはした金渡したとこで、どないなるっちゅうねん」
「そ、それは」
「まあ、初めての女やから信じたなる気持ちもわかる。そやけど、相手は日に何人もの男、咥えこんで商売してんねん。こっちもその気でいかな、なんぼカネあっても足りるかえ」
社会勉強の授業料だと先輩は言った。わたしは釈然としないながらも、その言葉にしたがうしかなかった。
生活費を全部使い果たしたわたしの1ヶ月は悲惨だった。けれど、次の給料日、先輩に誘われ、またあの店に行った。けれど、彼女は辞めていた。
婆さんが言うには父親だと名乗る男が来て、無理矢理連れていったらしい。
- 【選者紹介】
- 長月タケオ(ながつきたけお)
- 1962年生大阪府出身在住。1988年官能小説誌への投稿でデビュー。
- 1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作受賞。
- おもな著作『ひとみ煌めきの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)
- 『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)
- 『禁断の熟女』(ベストロマン文庫・共著)
- 『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)
- 『誘惑する女 熟女たちの悦楽』(九月堂・電子版)ほか
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- 誘惑する女 熟女たちの悦楽 長月タケオ短編集
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