柴咲コウ主演の『35歳の少女』は、「目覚めた眠り姫」の物語。

　1995年、10歳の時にブレーキの壊れた自転車で坂道を駆け降りて交通事故にあった少女・望美（柴咲コウ／鎌田英伶奈）は、25年間コンコンと眠り続け、2020 年、35歳で病院のベッドで突如目覚める。

　目の前にいる白髪の老婆が自分の母・多恵（鈴木保奈美）だと気づくのにも時間がかかり、鏡を見せられてなおびっくり。鏡に写っているのは35歳のおばさんだった。少女にとってはまさに「悪夢」そのもの。彼女が眠っている間に、「幸せ家族」を絵に描いたようだった家庭は崩壊。優しかった母からは笑顔が消え、両親は離婚。仲の良かった妹も家によりつかなくなっていた。「心は10歳、体は35歳」という主人公が、この過酷な現実をいかに受け入れ、また逆に周囲にいかに影響を及ぼしていくかがドラマの見どころだ。

　このドラマ、物語の構造的には、昨今流行りの「タイムスリップもの」に分類されるかもしれない。「気がつけば、主人公は〇〇年後の世界にワープしていた」というよくある物語のバリエーションであると言える。しかし、「タイムスリップもの」の場合、主人公だけは歳を取らない。「〇〇年後（あるいは〇〇年前）の世界」に移行したとしても、主人公が「以前いた世界」の年齢のまま活動できるという特権がある。周囲は歳を取ったとしても、だ。例えば『テセウスの船』がそうだった。

　しかし、このドラマが凡百のタイムスリップものと違うのは、25年なら25年間だけ主人公が歳をとっていること。しかも、主観的に主人公の意識は「子供の頃」のままである。

　この難役を柴咲コウは実に巧みに演じている。見た目は35歳だけど、内面は10歳という主人公が現実にそこにいるかのように、見事に表現しているのだ。

　こうした設定を素直に受け入れられるように、作り手はある「仕掛け」を施している。主人公の独白のナレーションを10歳の子ども時代の鎌田英伶奈にやらせているのだ。この効果は絶大で、主人公・望美が内面的に10歳のままであることが強烈に印象づけられる。

　加えて、このドラマを素晴らしいものにしているのが、鈴木保奈美の「怪演」。献身的に望美の看病を続けるがゆえに、家庭崩壊を招いてしまったこの母がいればこそ、望美は今日まで生きながらえ、目覚めることができたわけだが、望美に対する愛情が強すぎて、望美の自立の最大の障壁となるというアンビバレントな存在として描かれている。いささか病的とも思えるこの強烈な母を鈴木保奈美が見事に演じている。母と娘の関係は今後もドラマの主要なテーマとなっていくだろう。

　また、父親の再婚家庭における「ひきこもりの息子」の問題、妹とその上司である元恋人との関係、などさまざまな問題が同時に描かれるが、それらの物事は「望美の世界」と関わりを持つことになるのだろうか。今後の展開が楽しみだ。

『家政婦のミタ』、『純と愛』など一筋縄ではいかないドラマを作り続けている遊川和彦脚本作品だけに先は読めないが、なるべくバッドエンドには終わってほしくない作品だ。今後もしっかり見続けようと思う。

• （文）久慈修人『週刊大衆』専属記者。【Twitter】@SayEach
• （編集）スナイパー神津『週刊大衆』編集部員。【Blog】https://sniperkozu.com/