※はじめに

この連載は中高年の皆様に素晴らしき日本の性文化への憧憬をさらに深めていただくために、東京・吉原に書店を構える「カストリ書房」の店主・渡辺豪氏に毎回、お勧めの本や雑誌を紹介いただくものです。

カストリ書房は遊郭専門書店として2015年に誕生し、店主の渡辺氏は自らも遊郭、赤線、青線があった地域を巡って聴き取り調査や取材を行なっており、これまでに訪れた場所は約500箇所。現在も書店を運営する傍ら様々な日本の性文化に関する文献の考察やイベントを行なっております。

夕やけ大衆では、そんな渡辺氏が未来永劫残したい「性書」を厳選してご紹介いたします。さあ皆様、知識と誘惑の扉を開いてみましょう。

〈夕やけ大衆編集長より〉

第２回『ぽつん風俗行ってきた！』子門仁著（彩図社）

前回の記事では、日本で最も性風俗店が密集するエリア「吉原」を紐解く本を紹介したが、今回はその逆。

性風俗店の立地といえば、「飲む、打つ、買う」の喩えにあるように、アルコールやギャンブルなどを中心とした歓楽性の強い業種の密集したエリアの中に混在するか、あるいは隣接するエリアに建ち並ぶ景色を思い浮かべやすい。

前者の代表例は新宿歌舞伎町であり、後者は吉原（吉原は歓楽街としての浅草に隣接している〈https://taishurx.jp/detail/27169/〉）。

実は、まったく逆の立地条件も、私たちの身近に存在している。

通勤などで日頃から電車に乗る方なら経験があるかもしれないが、住宅街にまぎれて性風俗店の看板が唐突に車窓に表れて、そして消えて行く。大事な打ち合わせを前にして、かえって妙に気になったりするものだ。

本書はこうした、立地の上で群集せず、「ぽつん」と１軒だけと佇む性風俗店に潜入した体験ルポ。内容はいわゆる「プレイ記」なので、そうした記述が苦手な方には不向きかも知れないが、「ぽつん風俗」を集中的に調べたものには類書がない。

東京都北区の某ソープランド。山手線外回りで、駒込駅を出た直後に車窓に入ってくる。「ああ、あのお店」と思い出された方もおられると思う。

ここを訪れた著者は、訪れた杖をつく老人が、「おじいちゃん」と店員に親しみ深く声をかけられるシーンに出くわす。歩行困難にあることから、近所に住んでいるであろう地元ユーザー。

「ぽつん風俗」を通して、「高齢化と性」「地域と性」について、ふと日本の未来を重ねてしまう。

本稿を書いている私は、吉原で遊廓専門の書店を営んでいる。地縁から一般の方より多少は現状の吉原やソープランド産業に触れる機会が多いかも知れない。

昨年、当地のソープランドの全店が加盟する団体にインタビューした際、客層が高齢化していることを知った。

また吉原はソープランドが占める街だと思われがちだが、ソープランドの店舗にまぎれて、NPO福祉団体が支援活動を行っている「福祉の街」でもある。一人暮らしが難しい高齢者を中心として自立支援を行う、とある福祉団体は、売春防止法以前に売春営業していた娼家を福祉施設に転用している。痴呆が進んだ老人が散歩した先で迷子となってしまい、ソープランドのボーイが保護して施設までおぶって届けてくれたこともあるそうだ。

現代の性風俗は、立地の上でも、活動の上でも、福祉と親和性がかなり高いと私は思っている。

ときに「性風俗の王者」と紹介されるソープランドだが、産業としては斜陽となっている。

警視庁がまとめた平成30年の統計に依れば、同庁が管理する性風俗営業5,962軒に対して、62%と最も多くを占めるのがデリバリーヘルス。ソープランドはわずか3%に過ぎない。

ラブホテルなどを営業場所とするデリヘルは、店舗を持たない。こうした無店舗型性風俗が業界のトレンドだが、この事実が意味することの一つは、将来的に「色街が地図上から消える」かもしれないということだ。

本書に依れば「ぽつん風俗」の店舗の多くは、普請が古く、老朽化しているという。このことから「ぽつん風俗」は時代後れとイメージしてしまうが、店舗型性風俗が消えて行く今後にあっては、店舗型性風俗の未来にも繋がっている。

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『ぽつん風俗行ってきた！』子門仁（彩図社）

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