※はじめに

この連載は中高年の皆様に素晴らしき日本の性文化への憧憬をさらに深めていただくために、東京・吉原に書店を構える「カストリ書房」の店主・渡辺豪氏に毎回、お勧めの本や雑誌を紹介いただくものです。

カストリ書房は遊郭専門書店として2015年に誕生し、店主の渡辺氏は自らも遊郭、赤線、青線があった地域を巡って聴き取り調査や取材を行なっており、これまでに訪れた場所は約500箇所。現在も書店を運営する傍ら様々な日本の性文化に関する文献の考察やイベントを行なっております。

夕やけ大衆では、そんな渡辺氏が未来永劫残したい「性書」を厳選してご紹介いたします。さあ皆様、知識と誘惑の扉を開いてみましょう。

〈夕やけ大衆編集長より〉

第１回『図説　吉原事典』永井義男著（朝日新聞出版）

日本最大のソープランド街「吉原」エリア。江戸時代に開業した吉原遊廓を起源に持つ、日本史上、最も有名な売春街。

「なんとなく浅草の北側にある・・・・？」といった漠然としたイメージで、現在の正確な位置を知る人は意外と少ないかもしれない。

浅草寺の雷門から直線距離で約1.3キロ、徒歩約20分の距離にあり、現在の住所に直すと、台東区千束3丁目から4丁目に跨がるエリア。ちなみに「吉原」という住所表記はなく、交差点や交番、バス停の名称に残すのみとなっている。

こんにち、当エリアには147軒（2019年4月時点）のソープランドが林立している。仮に1店舗あたり10人の女性が出勤しているとすれば、1日あたり1,500人近いセックスワーカーが稼働している街である。

また他の歓楽街と異なり、他の性風俗業は一切なく、ソープランドすなわち純粋な売春産業で構成されている特殊性を持っている。

江戸初期1618（元和4）年に吉原遊廓が開業してから、402年を経た令和2年の今も続く、世界にも類を見ない色街である吉原に関する書籍は当然のように膨大な数にのぼる。

試しに国会図書館のデータベースで「吉原遊廓」を含む書籍タイトルを検索すると、138冊の図書がヒットする。タイトルが異なる図書や、雑誌に収録された記事なども含めば、この数十倍の文献が存在するのではないか。

これだけ文献が多いと、江戸時代の吉原が擁していた文化や風俗を知る書籍のセレクトも容易ではない。

時代が下るほど過去は美化され、称揚される。様々な伝説めいた逸話が独り歩きし、虚構はやがて事実に置き換わる。〝本当の吉原〟を知ることは難しい。

著者がはしがきで「光が強ければ強いほど、陰になった部分の闇は深い。吉原は華やかな世界と理解されているだけに、つまり『明』があまりにも光り輝いているだけに、その陰となった『暗』も濃いといえよう」と述べているように、本書は吉原が持っていた〝暗黒面〟にもページを割いており、「吉原の良いところだけでなく、悪いところも知りたい」という向きには良著。

吉原の花魁は３回通わないと肌を許さない──

高級な遊女は通い続けて散財しないとセックスを許してくれない。吉原遊女のプライドの高さや、男心を翻弄させる巧みな手練手管を表すエピソードとして広く知られているが、伝説に過ぎず、事実ではない。加えて、遊女の最高級ランクと理解している人が多い「花魁」だが、これは敬称の一種であって、ランクとして最高の遊女は「太夫」という。

といったように、本書は知っているようで意外と知らない、あるいは勘違いしている知識を正してくれる。

好きになった男へ遊女が斬り落とした自分の小指を渡したという「心中立て」や、コンドームなど存在していなかった当時の避妊法、変わり種では吉原で好まれていたグルメなど、興味のある目次から拾い読みしていくだけでも興味が尽きない構成となっている。

【今回ご紹介した書籍のお求めはコチラから】

永井義男『図説　吉原事典』（朝日新聞出版）

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