このコーナーは関西在住の女性ライター・法善寺灯子さんに関西のシニアの皆様の魅力を語っていただくものです。関西流の笑いと人情味溢れるシニアの生き様はきっとこの世知辛い浮世に一筋の光を与えてくれるでしょう。関西のオジ様とオバ様とお爺さまとお婆さまと、おとんとおかんのパワーが皆様の健康とご長寿の活力になることを切に願います。

編集長

【関西シニア通信】最終回「夕やけ小焼けで日が暮れて」の巻

　関西シニアのどこにでもある日常を報告する「関西シニア通信」。

　最終回は、私が最強の関西シニアだと思っている、亡き父について書こうと思う。

　父は気性が荒くて酒癖も悪く、女性に手が早い超面倒な性格であった。どうにか死ぬまでカタギで済んだが、彼の憧れは「ゴッドファーザー」であった。マーロン・ブランド演じるコルレオーネが大好きで、「マフィアになりたいねん」と無邪気に言っていたものだ。そもそも娘に「マフィアになりたい」という父のメンタルが怖い。

　ゴッドファーザーの音楽も大好きで、私は「ゴッドファーザーのテーマ」をピアノで弾けるようガンバレと頼まれた。

「娘が弾くあの曲の傍らで酒を飲む。俺の夢を叶えてくれ！！」

　とはいえ私はさほどピアノがうまくない。毎回間違えまくるエッチラオッチラ演奏だったが、それでも私がピアノに向かうと

「ヨッシャヨッシャ、父と娘のドリームタイム…」

　といそいそウイスキーやらブランデーやら、わざわざ高そうな酒をグラスに注ぎ、ソファに座って聴いてきたものである。

　想像してみてほしい。関西のド田舎で、猫背のこけし顔の娘がヒーコラ間違いながら弾くゴッドファーザーのテーマ。横にはステテコ姿でグラス傾ける丸坊主で超日本顔のオッサン。家の前の田んぼからはカエルの鳴き声も合奏のように入ってくるという……。シチリアは遥か彼方であった。

　しかし彼のマフィア好きはピアノで終わらなかった。血の気が多く、帰りが深夜になると流血注意報。居酒屋やバーでチンピラっぽい人をわざわざ吟味してケンカを売り、殴り合いに持ち込むのが、彼にとってなによりの「酒の肴」だった。

　上機嫌に帰ってきたので家族全員ホッとして出迎えたら、穏やかな笑顔とは裏腹に、背広が相手の返り血で真っ赤、という事も２度ほどあった。

　外ではオラオラな父だったが、家では酒を飲むとヨワヨワ。

「俺はさびしいんや。お前らもっと俺の相手してくれや。よよよよ！」

　などと号泣し始めるのである。話を聞くポーズだけでも一応取る母と私。それでやっとご機嫌を直す父の笑顔は、甘えん坊のコドモのそれであった。

　父は糖尿病を患っても酒を一滴たりともやめず、大好きなステーキとアイスクリームを食べ続け、出張先で倒れた。慌てて病院に駆け付けた私にこれまた少年の微笑みを浮かべ

「仕事、バッチリやったでー」

　と弱々しくサムズアップを決め、意識が無くなり10日後に死んだ。

　実は仕事はバッチリじゃなかったことが後々発覚し、もう一波乱あったのだが、それも父らしい。思いっきり見栄を張り、命を燃やし尽くした感じ、ゴッドファーザーに認定しよう。

　いよっ、最強の関西シニアだよ、アンタ！

　さて、夕やけ小焼けで日が暮れて。

　全国の頑張るシニアの皆さん、応援しています！

【法善寺灯子さんのプロフィール】

関西在住ライター。性別：女性。好物は串カツとお好み焼きのブタ玉。兵庫、大阪、京都、奈良、三重、滋賀などフットワーク軽く駆け回り、愛すべき関西の面白ネタを探す。