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【昭和官能エレジー】第48回「風俗譲との約束」長月猛夫

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【昭和官能エレジー】第48回「風俗譲との約束」長月猛夫

この官能小説は、現在50代から60代の方々の若かりし時代を舞台背景にしています。貧しかったけれど希望に満ち溢れていたあの頃、そこには切なくも妖しい男と女の物語が今よりも数多く存在しました。人と人とが巡り合う一瞬の奇跡、そこから紡がれる摩訶不思議な性の世界をお楽しみください。 編集長

【風俗譲との約束】長月猛夫

 隆一が部屋に通されると、女が背中を向けて湯船に湯を張っている。

「服を脱いでから、こっちへきてください」

 長い髪の毛を頭のうしろで一つに束ね、ブラジャーにホットパンツという出で立ちの女は、隆一に告げてから振り向いた。

「あ……」

 驚きの表情を浮かべる女。

「先生……、貴代美先生」

 隆一は、かつて自分の家庭教師だった女の名前を口にする。

「わたしは、そんな名前じゃ……」

「ウソつかないでください。先生ですよね。でも……」

 女はぼう然とたたずみ、まばたきもせずに隆一を見る。湯船から湯があふれ出し、女の足を濡らす。

 それに気づいた女は、あわてて湯の出る蛇口を閉めた。

「でも、なんなの?」

 女はふたたび隆一から視線を逸らしてたずねる。

「こんなところ」

「わたしがマッサージ嬢をして、何が悪いの」

「マッサージ嬢って」

 前かがみになっていた身体を起こし、立ちすくむ隆一の前に立って女は笑みを浮かべた。

「さあ、お客さま。服を脱いで、まずはお風呂に浸かってください。そのあとにスチーム。そしてマッサージを行います」

「あ……、はい」

「脱がしてあげましょうか?」

「え?」

「服を脱がしてさしあげましょうか?」

 女の表情は笑顔のまま。しかし、その目がまったく笑っていないことに、隆一は気づいていた。

 父親が開業医ということもあって、長男の隆一は跡を継ぐことを強いられていた。とはいえ、そう簡単に就ける職業ではない。

 日々勉強にいそしみ、父親の出た国立大学の医学部を目指すことになるのだが、いかんせん成績がおぼつかない。とくに英語が伸び悩んでいた。

 そこで隆一が高校3年の秋、父親は家庭教師を雇う。それが貴代美だった。

 貴代美は、カトリック系の大学にかよう3年生だった。英文科に在籍しているうえ、留学経験もあって英語は堪能だった。

 初めて貴代美を見たとき、隆一は彼女のスタイルと顔を見てあ然となった。

 当時、イギリスのファッションモデルであるツイッギーが来日した影響を受け、ミニスカートが大流行していた。ただ、裾の短さはひざ上5センチ程度のものだ。

 しかし貴代美は、いまにも下着が見えそうなほど短いスカートをはき、身体の線がはっきりとわかるTシャツにウエスタンベストという出で立ちだった。

 目鼻立ちがはっきりした面立ちで、化粧は派手。とくにつけまつ毛が大きく反りあがり、長い黒髪を腰の辺りまで伸ばしていた。

「じゃあ、はじめましょうか」

 貴代美は、挨拶もそこそこに、机の前でかしこまった隆一の横に椅子を置き、教科書と問題集をのぞき込んだ。

 隆一はノートを開いて問題の解答を書き込んでいく。しかし、すぐそばにいる貴代美のことが気になって、なかなか正解が出せない。

 簡単なつづりを間違い、単語の意味を誤り、イデオムが思い出せずにいる。

「ほら、そこはinじゃなくてonでしょ。ほら、そこも間違ってる」

 鋭く間違いを指摘する貴代美。そのたびに隆一と彼女の距離はちぢまり、ほとんど密着した状態になる。

 貴代美の胸は豊満で、大きく開いたシャツの襟もとから乳房の谷間がはっきりと目に飛び込んできた。さらりとした髪をかきあげるたびに、甘い香りが鼻腔をくすぐり、流暢に単語を話す唇が艶めかしい。

 緊張と興奮をおぼえながら時間は過ぎ、その日は終わった。

「きょうのところ、しっかりおぼえておいてね。そして次にくるまでには、間違ったところを完璧にしておくこと。OK?」

 貴代美はそういってウインクを返す。隆一はうなずき、貴代美が部屋から出て行くと、大きくため息を吐いたのだった。

 そんな貴代美とのワンツーマンレッスンが週に2回行われた。

 貴代美はミニスカートのときもあったし、ジーンズのときもあったし、ホットパンツのときもあった。上に着ているのはほとんどがTシャツで、常に大きく胸もとを見せつける。

 貴代美の乳房や形よく伸びた脚、白い肌、華麗な表情。そしてかいま見せる色香に翻弄され、その興奮を毎日自慰で解消していた。

 その日も貴代美がくるというだけで妙に興奮してしまい、勉強の用意を終えると一発抜いてしまった。

「じゃあ、きょうもはじめましょう」

 秋も深まりつつあるというのに、暖かな日だった。貴代美はTシャツにホットパンツ姿。しかし、いつもと違って胸の盛り上がりはかすかである。

 隆一は目を凝らす。すると、白いTシャツの上に、小さな突起が浮かんでいる。貴代美はノーブラだった。

 隆一は貴代美の乳首の突起が気になって、とてもじゃないが英語の問題を解く気になれなかった。貴代美も、なにやら鼻をクンクンさせて、問題に取りかかろうとしない。

「ねえ、何かにおわない?」

「え?」

「ええっっと、このにおいは」

 貴代美は机の下にあるゴミ箱を取り出し、中をたしかめる。そこには、吐き出した精液のこびりつくチリ紙が、丸められて捨てられていた。

「ああ、これかぁ」

 貴代美はゴミ箱を持ったまま隆一の顔を見て艶然とほほ笑む。

「したんだ」

「え、え!」

「ふふふ、するんだ」

 妖しい表情で隆一を見る貴代美。むき出しの太もも、胸もとの白い肌、そして浮かぶ乳房と乳首の形に、隆一は血のたぎりを押さえきれず、股間がうずくのを知った。

「ねえ」

「な、なんですか」

「見せて」

「え?」

「見たことないんだ、わたし。だから、見せて」

「何をですか」

「マスターベーションするところ」

 隆一は驚愕し、貴代美の顔をじっと見つめてしまう。唇を半開きにして舌の先を出し、濡れたひとみで貴代美も隆一を見つめる。

「い、いや、そんな」

「見せてくれたら、いいことしてあげる」

 貴代美は胸を反らして隆一に迫り、手を握った。

「わたしのバスト、気になってるんでしょ」

「そ、それは……」

「さわってもいいのよ、ほら」

 隆一の手を取ってシャツの中に忍ばせる貴代美。乳房のボリュームとなめらかさ、そして乳首の感触が隆一の思考を混乱させる。

「気持ちいいでしょ」

「……」

「その代わり、見せて。ネ」

 隆一はうつむいたまま、うなずいたのだった。

 貴代美は隆一のズボンに手を伸ばし、ベルトをはずしてファスナーをおろす。股間の一物は、すでに大きく勃起している。

 美恵子は盛りあがったブリーフの中に手を入れ、肉棒を取り出した。

「大きくて熱い。でも、すべすべしてる」

 妖しい眼差しで、貴代美は隆一に視線を送る。

「女の子、知らないの?」

「はい……」

「そうなんだ、楽しみ」

 貴代美は、隆一を握って二、三度上下にしごく。その瞬間、隆一は全身にしびれをおぼえ、思わずのけ反ってしまう。

「わたしがするんじゃないの。あなたがするの。さあ」

 隆一の手を取り、貴代美は握るように促す。隆一は自分を手のひらで包み、力を加えてこすりはじめた。

 最初はゆっくり、やがて興奮のおもむくまま激しく。

「すごい、そんなにして痛くないの?」

「は、はい」

「そうだ、こうすればもっと」

 貴代美はいきなりシャツを脱ぎ捨てた。

 目の前に露呈される、光沢のある盛り上がり。狭い乳輪の中央で、ピンクの乳首が勃起している。

 18歳の欲情をあおるには、じゅうぶん過ぎるボリュームと輪郭。貴代美が少しでも身を動かせば、空間を振動させるようにプルリと揺れる。

「どう、もう一度、さわってみる?」

「い、いいんですか」

「いいわよ」

 隆一はそっと手を伸ばす。その柔軟さに感情はピークに達し、射精が間近に迫った。

「なんだかすごい。わたしにもさわらせて」

 隆一に胸乳を預け、貴代美は男根を握った。指の冷たい感触に、隆一は何度もビクビクとけいれんをくり返す。

「やだやだ、すごく熱い」

 貴代美はゆっくりと隆一をもてあそんだ。指をリズミカルに震わせ、手のひらは緩急のある圧力を加える。

 先から根元までの往復をくり返しつつ、舌なめずりをし、ウットリとした目で部分を凝視する。

「ああ、ダメ、ダメだ、先生」

「え、出ちゃうの、イッちゃうの」

「イク、もう、イキそう……」

「見せて、出るとこ見せて」

 貴代美は股間に顔を近づけた。その瞬間、精液がほとばしり顔面に飛び散る。

「きゃ!」

 驚いて顔を背ける貴代美。白濁の粘液が目もとから口もとにかけて付着し、ねっとりと糸を引いた。

 隆一は虚脱を感じながら貴代美を見た。罵声を浴びせられる覚悟もしたが、貴代美は指で精液をぬぐいながら微笑を浮かべる。

「すごい、こんなに出るんだ。それに、大人のと違って甘い」

 ぬぐった白濁の粘液を口もとに運び、指をしゃぶる貴代美。

「ありがとう、じゃあ、お礼をしてあげるね」

「え?」

「セックスはできないけど、お口で気持ちよくしてあげる」

 隆一の返答を待たず、貴代美はひざまずいた。そして、体液で濡れたペニスに手を伸ばし、舌を出して舐る。

 しぼんでいた隆一は、貴代美の舌技で力を取り戻す。それと同時に神経が鋭敏となり、快感が身体中を支配する。

「うううん、すごい、うん……」

 口いっぱいにほお張り、頭を振る貴代美。絡まる舌の動きとぬめり、口腔の温かさを感じながら、隆一は思わず天をあおいでしまう。

 そそり立つ一物をおおう口内の粘膜。貴代美が抜き差しをするたびに、濡れた摩擦が包皮をスライドさせる。

 貴代美の動きに激しさが増すと、ぢゅぶちゅぷと唾液のあふれる音がひびく。

「ああ、だめだ、先生、また出る」

「うんん、はううんん、うん……、いいよ、出していいよ。ちゃんと受け止めてあげるから」

 貴代美は髪を振り乱しながら、頭を回転させ、首を上下させた。全身を駆使する愛撫に、胸の柔肉がたっぷりと揺れる。

 視線を隆一に向け、貴代美はときおり薄い笑みを浮かべる。その淫靡でありながら愛らしいともいえる顔面に、隆一の業物がめり込んでいく。

「ああ、先生、先生……」

 隆一は2発目を放った。1発目は顔を、2発目は口腔を汚す。

 貴代美は数回に分かれて注ぎ込まれる精子を受け止め、口の中に溜めながら隆一を抜き取ると、喉を鳴らして飲み干したのだった。

 その後、貴代美は隆一にノルマをあたえた。

 家庭教師の日まで、解いておくべき問題数を指示する。それを貴代美がチェックし、間違っている箇所を指摘。ヒントはあたえるが、答えは教えない。

 自分で考え、すべて正解すると、ごほうびとして口で隆一を迎え入れた。

 そのかいあって隆一の成績は伸び、模擬試験でも志望校の合格ラインまで到達する。

「無事、合格できたら、もっといいごほうびをあげる」

 貴代美はいう。隆一は、それが何なのかわかっている。わかっているからこそ、遮二無二なって勉強にはげんだ。

 冬が深まり、春になって隆一は志望校に合格を果たす。しかし、貴代美との約束は守られなかった。

 受験後、貴代美は忽然と姿を消し、連絡もつかなくなったからだ。

「まだ、家庭教師代も全部払っていないのに。お前が合格してくれたからよかったようなものの」

 父親はいう。

「先生の家は?」

「訪ねてみたが空き部屋だった」

「それは、どこ」

 父親は隆一に貴代美の住所を教える。隆一もたずねてみたが、マンションの一室はもぬけの殻だった。

 湯船に浸かり、スチームで身体を蒸らす。そのあと、タオルを腰に巻いた隆一は、ベッドに寝転んでマッサージを受けた。

「どうですか? 気持ちいいですか?」

 女は隆一の筋肉をもみほぐしながら、事務的な話し方でたずねる。

「はい」

「お客さん、お仕事は?」

「無職です」

 その瞬間、女の手が止まる。

「大学に通ってたんですけど、自分には合わなくて。だから、2年生になる前に辞めました。父親には激怒されて。だから家も飛び出しました」

「そ、そう……、なんですね」

「無職だけどアルバイトをしていて。きょうアルバイト先の先輩に、まだ女性を知らないっていうと、この店に連れてきてくれました」

「そうなの。でも、このお店は、そんなところじゃないわよ」

「そうなんですか……」

 女はマッサージを再開させる。

「そんなことする女の子もいるみたいだけど」

「じゃあ、あなたは」

「わたしはダメ。オスペどまりかな。フルートもやだ」

「それは、なに?」

「手でするか、お口でするか。けど」

「けど」

 沈黙が流れる。

「お客さん、まだ女を知らなかったんですね」

「ええ、ある人のことが忘れられなくて。童貞を捨てるんなら、その女性以上の人じゃないとダメなんです」

「そんなにステキな女性だったんですか」

「ボクにとっては代えがたい人です。1年前の約束を、いまもおぼえています」

「1年前の約束」

「春になれば、ボクが合格すれば……。ボクは合格しました。退学はしたけど、その人のおかげだと思っています。でも、春の約束は……」

 ふたたび沈黙がつづく。

「お客さん」

「はい」

「きょうは暖かかったですね」

「そうですね」

「春……、ですものね。わたしにも、いっしょに春をお祝いしたい人がいたんです」

「そうなんですか」

「ねえ、お客さん」

「はい?」

「いいですよ」

「え?」

「わたしでよければ」

 隆一は身体を起こし、女の顔を見る。

「いいんですか」

「だって、約束だったから。でも」

「でも?」

「きょうだけにしてくださいね。二度とこの店にはこないでくださいね」

「……、わかりました、貴代美先生」

 女は、貴代美は否定しなかった。

 隆一はベッドの上であお向けになった。貴代美は隆一の下半身をおおっていたタオルを取り、股間に手を伸ばす。

「大きくしますね」

 まだ完全に力のこもらない一物を手に取り、貴代美は前かがみになって舌をはわせた。

「ああ、先生……」

 貴代美は答えない。黙ったまま、隆一を舐り、しゃぶる。

 やがて隆一は屹立する。貴代美はコンドームを取り出してかぶせると、立ったままホットパンツを脱いだ。

「本当にわたしでいいの?」

「はい」

「約束も守れない、いつのまにか姿を消した、そんな女でも許してくれる?」

「はい」

 ベッドにあがり、パンティを脱いで、貴代美は隆一にまたがった。

「じゃあ、挿れるね」

 肉柱に手をそえて、肉裂にあてがった貴代美はゆるやかに腰をおろす。

「うん……、入った。わかる」

「はい」

「動くね」

 上体を起こして貴代美は腰を振る。そのまま背中に手を伸ばしブラジャーをはずすと、乳房が姿を見せた。

 隆一の記憶に鮮明に残されている乳房が。

「ううん、うん……、ねえ、気持ちいい? わたしの中」

「いいです、気持ちいいです」

「もっと動くよ」

 腰を回転させながら、貴代美は隆一の興奮と歓喜を導き出そうとする。肉圧で締めつけ、汁をにじませながら律動をくり返す。

 しかし、隆一は夢中になれない自分を知った。

 あこがれつづけた貴代美との行為に、ようやくたどりついた。かつての派手さはなく、人生に疲れた様相でも、貴代美は貴代美だ。

 そう、自分に言い聞かそうとする。だが、どこかで冷めた自分がいる。

「おっぱいさわっていいのよ。好きだったもんね、わたしのおっぱい」

 貴代美は隆一の手を胸にいざなった。手のひらに伝わる素肌の感触が、かすかにザラリとしている。

「うん、わたしもいい、気持ちいい」

 貴代美は表情をゆがめ、よがり声を出す。その声色は、あのころのままだ。

「そうだ、先生は何も変わっていない」

「え?」

「先生はむかしのままだ。むかしのまま」

「……」

 貴代美は隆一の言葉に、いまにも泣き出しそうな笑みを浮かべた。

 貴代美に挿入したままゴムに射精し、すべては終わった。

「お疲れさまでした」

 貴代美はそういって、隆一を抜き取り、ゴムをはずす。

「もう一度、お風呂に入ってください」

 隆一に背中を向け、ブラジャーをはめ、下着とホットパンツをはいた貴代美はいう。

 隆一は湯船で、貴代美の全部を洗い流したのだった。

 慇懃な店員に見送られ、隆一は連れてこられた先輩と一緒に店を出た。

「どうだ、よかっただろ。無事に男になれたか」

 隆一の肩にお背中をまわして先輩はいう。

「はい、おかげさまで」

「いい子に当たったか。また、こような」

「いえ、この店はもう……」

「どうして?」

「約束ですから」

 街路樹のサクラは満開に花を咲かせている。生温かな風が吹き、花びらが舞い落ちる。空に浮かんだ満月は、ぼんやりとかすんでいる。

「約束ですから」

 隆一は小さくつぶやいて、貴代美のいた店から離れていった。

【長月猛夫プロフィール】
1988年官能小説誌への投稿でデビュー。1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作。主な著作『ひとみ煌きの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)/『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)/『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)ほか。

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