このコーナーは関西在住の女性ライター・法善寺灯子さんに関西のシニアの皆様の魅力を語っていただくものです。関西流の笑いと人情味溢れるシニアの生き様はきっとこの世知辛い浮世に一筋の光を与えてくれるでしょう。関西のオジ様とオバ様とお爺さまとお婆さまと、おとんとおかんのパワーが皆様の健康とご長寿の活力になることを切に願います。

編集長

【日進月歩「科学の進歩に恐怖する母」の巻】

　最近はもうネットが使えないと何もできない。「デジタルに疎くて～」などと弱音を吐いているうちにも、新機能が付いたアイテムが続々登場する。

ああヤバイ。世の中から置いていかれてしまう！

50代の私ですらこんな感じだから、シニアは大変だ、と勝手に思っていたが、調べてみるとどうやら「世の中むっちゃ楽になって最高」派もいて、「もうついていけん」派と両極端に分かれるようなのである。

「世の中むっちゃ楽になって最高」派の代表は、世界最高齢のプログラマーとして有名な若宮正子さん、86歳だろう。なんと82歳からプログラミングを学び、2017年にゲームアプリ「hinadan」をアップルストアで配信。しかもそれが米アップル社のティム・クック最高経営者（CEO）の目に留まったというから、ものすごい大器晩成である。

彼女のインタビューも清々しい。「物忘れなんて、どんどんしちゃっていいんです。毎日のスケジュールもだれかとの約束も、全部コンピュータに覚えといてもらえばいいんだから！」。物忘れすればコンピュータに頼ればいいのよ――。パンがなけりゃお菓子を食べればいいのよ的発想！　なんだか気が楽になる一言ではある。

が、全員が全員若宮さんのように柔軟にはいかない。そもそもコンピュータの操作を覚えられない（覚えても速攻で忘れる）という基本的問題が立ちはだかる。ということで、後者の「もうついていけん」派のほうが多数なのは確かであろう。

うちの母も明らかにそっちで、科学の進歩にビクビクしている。これ以上世の中進んだら、使い方がわからないものだらけになり生きにくいこの上ない、というのである。

その恐怖感から、最近では逆に新しいモノっぽい響きに過敏になってしまっている。

この間など、「ちょっとちょっと見てみぃ」と真剣な顔をしてテレビを見つめ、

「これ、人間型ロボットやて。もうここまで進化したんやなあ。ちょっとリアル過ぎて怖ない？」

と言ってきた。私がどれどれと画面をのぞき込むと。

　そこには歌手のAIさんがいた……。

どうやら母はAIさんを「エーアイ」と読み、ロボットと勘違いしたようだ。

オモロイのでそのまま頷いておこうと思ったが、さすがに友人に言って恥をかいたら気の毒である。

私はできるだけ落ち着いた口調で、彼女は生身の人間で、「アイ」というソウルフルな歌手で、「story」というヒット曲があることを説明したのだった……。

しかし本当にそのうち、あのくらい肉感的なAI（エーアイ）も出てくるかもしれないなあ。心の準備をしておこうと思う。

【法善寺灯子さんのプロフィール】

関西在住ライター。性別：女性。好物は串カツとお好み焼きのブタ玉。兵庫、大阪、京都、奈良、三重、滋賀などフットワーク軽く駆け回り、愛すべき関西の面白ネタを探す。