このコーナーは関西在住の女性ライター・法善寺灯子さんに関西のシニアの皆様の魅力を語っていただくものです。関西流の笑いと人情味溢れるシニアの生き様はきっとこの世知辛い浮世に一筋の光を与えてくれるでしょう。関西のオジ様とオバ様とお爺さまとお婆さまと、おとんとおかんのパワーが皆様の健康とご長寿の活力になることを切に願います。

編集長

【大喝一声「ハゲ散らかすというパラドックス」の巻】

怒号――。関西シニアについて語るうえで、これを外すわけにはいかない。

「ケンカは江戸の花」という言葉があるが、ケンカはナニワの草でもある。

雑草の如く日々様々な怒り言葉が生まれ、ときに公衆の面前でそのやり取りが交わされる。

いかに相手に短時間でダメージを与えるか。工夫を凝らした表現は、もはや芸術の域。例えば

「大阪湾に沈めたんぞコラ」。

地域性、具体性、ともに抜群だ。ほかにも

「ド頭カチ割って脳みそチューチューしたろか」。

こちらは、吉本新喜劇の女神、未知やすえ様の定番ギャグ。バイオレンスかつグロテスクなこの言葉を、キャンキャンと吠えるように早口でまくしたてることで、相手の反撃の意欲を萎えさせるのである。

さて、私も実際に、関西シニアのある「怒号アート」な場に出くわしたことがある。明らかにワンカップ酒を乱れ飲んだであろうオッサンが２人、なんやワレ、もう一回言ってみいオラと小競り合いになっていたのだ。

「そこのオバハン何見とんねんコラ」と巻き込まれないよう少し距離を取り、警察を呼ぼうかどうかマゴマゴしつつ、その様子を見守った。

２人は調子のんなや、ちょっとやめろや、など不穏な状態で揉め、ついに小柄なほうのオッサンが大声で衝撃的な言葉を言い放ったのである。

「なんやねんクソコラ、ハゲ散らかしやがって！」

……！？

一瞬「えっ？」と声が出そうになった。というのも、言ったオッサンの方がザビエルの末期で、言われたオッサンの方が明らかにフサフサだったからである。

いや、それ以前に「ハゲ散らかす」ってどういう状態。散らかす毛がないからこそハゲではないのか。なんというパラドックス。いや、数少なく残る毛髪がゆらゆらと風に揺れる現象を「散らかす」と表現したのだろうか。だとしたら風流～！！　

私は「ハゲ散らかす」という言葉自体に感動を覚え、ウットリしてしまっていた。

結果としてはしっかり言ったオッサンが

「ハゲはお前じゃ！」

と返されていたが、私はこの２人はあと１分ほど言い合いをしたら、肩を組んでワンカップ酒を飲んで仲直りをする、という妙な確信を得た。

いい勝負だったよ……。君の頭に乾杯。

心の中でそう呟き、警察に電話をするか迷い上げ下げしていたスマホを鞄にそっと仕舞い、その場を離れたのだった。

【法善寺灯子さんのプロフィール】

関西在住ライター。性別：女性。好物は串カツとお好み焼きのブタ玉。兵庫、大阪、京都、奈良、三重、滋賀などフットワーク軽く駆け回り、愛すべき関西の面白ネタを探す。