このコーナーは関西在住の女性ライター・法善寺灯子さんに関西のシニアの皆様の魅力を語っていただくものです。関西流の笑いと人情味溢れるシニアの生き様はきっとこの世知辛い浮世に一筋の光を与えてくれるでしょう。関西のオジ様とオバ様とお爺さまとお婆さまと、おとんとおかんのパワーが皆様の健康とご長寿の活力になることを切に願います。

編集長

【意気軒昂「泉州弁だよアホンダルア」の巻】

　今年の冬から放送されている朝ドラ「おちょやん」。浪花千栄子さんがモデルで、生まれは大阪・南河内。セリフも「おんどれ」「なにさらす」と河内弁で、荒々しい方言に驚いた人も多かろう。

　いやもう、わかる、わかるぞ。私は、周りに泉州弁の人が多いが、いまだにビックリすることがあるもの。私は、野猿やイノシシが出るような兵庫の山奥が故郷。のんびりした言葉づかいであった。

　が、大阪に引っ越し３０代半ばで転職をし、泉州（大阪南西部）に勤務。当然ながらお客さんのほとんどが泉州弁で一言一言が濃い。質問に応えたり説明をしたりすると、

「ほんまけ！」

　と強めに返ってくる。これは私の言うことを疑っているわけではなく、単に「ふーん」とか「そうなんですね」という感じの相槌なのだと徐々にわかってきたが、最初はギョッとしたものだ。

　現在所属している編集プロダクションの社長も、泉州男である。さきほども、息子さんからお小遣いの無心のお電話がかかってきていたが、彼が返していた言葉は次の通り。

「え？　金？　またかいお前だっきゃよー！　んなもんあるかいアホンダルァ！　なにってんなルルア！」。

（訳：え？ 金？　またかお前という男は。そんなものないぞ、バカもたいがいにしなさい。何を言ってるんだコラ）。

河内弁ほどではないが、泉州弁もなかなかのパンチ。「アホンダラ」ではないのだ。巻き舌を添えての「アホンダ〝ルァ〟」なのである。

「コラ」を意味する「ルルア」の「ルル」は、巻き舌の中でも上級編。舌を口の中でクルンと巻き、勢いを付けて弾かせることが必要。「コラ」の「コ」は心の中で言うだけで発音せず「Ｒ」にシフトする……そんなイメージを思い浮かべることで、パーフェクトな「ルルア！」が発せられるという。

　スペイン人も真っ青の、リズミカルかつ流れるような巻き舌テクニック。別地域の者が軽い気持ちでジモティーになりすまそうとしても、この「ル」で、本当の地元民か否かなど簡単に見抜かれてしまうだろう。恐るべし。泉州弁！

　さて余談。社長は電話でひたすら「アホンダルア」「なにってんな、ルルア！」を繰り返していたが、最終的に

「で、いくらやねん。お前ホンマ返せよ！」

と笑顔で電話を切っておられた。「アホンダルア！」「ルルア！」の応酬は、本気の罵りや叱咤ではなく、仲良し親子のじゃれ合いの一環だったようだ。ビビりながら聞いて損した。

【法善寺灯子さんのプロフィール】

関西在住ライター。性別：女性。好物は串カツとお好み焼きのブタ玉。兵庫、大阪、京都、奈良、三重、滋賀などフットワーク軽く駆け回り、愛すべき関西の面白ネタを探す。