日本のお家芸といえば、今も昔もやはり「モノづくり」だろう。事実、実用的でありながらも細部にまでデザインにこだわり、使う人の気持ちに寄り添った日用品や工芸品は言葉の壁を乗り越えて世界中の人々を魅了し続けている。

　また、そんなモノづくりの精神は数々の副産物も生み出してきた。モノを提供するときの礼節や作法、集団行動における協調性と役割分担、そして様々な場面で見られる「おもてなしの心」などがそれにあたる。

　実は現在、そんな日本人が受け継いできたモノづくりにおける伝統美を、近代的な「ダンス」で表現するアーティスト集団が大きな注目を集めているという。

　それが、女性だけのダンスユニット『シレネ』だ。

　彼女たちの演目の特徴は、華やかな日常の「影」の部分にスポットライトを当て、それをほとんどセリフのないダンスのみで表現しているところだが、特筆すべきはその圧倒的な協調美。秩序が乱れつつあるこの世の中で、これほど統制の取れた集団行動があったのかと腰を抜かすほど息の合った演舞を展開する。

　その様子は、言うなれば陸上のシンクロナイズドスイミング。別の見方をすれば鍛え抜かれた軍隊の集団演舞をも彷彿させる。しかもこれをいかにも物静かで礼儀正しそうな女性たちが演じているのだから、そのギャップは凄まじい。

　はたして、シレネとはいったいどのような団体なのであろうか。記者は脚本や演出を手がける通称・ちょいなさんから話を聞くことができた。

「私たちのユニットのことをざっくりというと、ダンスとアクト中心にしてセリフは最小限のみで物語を展開していくダンス・アクトミュージカル集団です。これまでに５つの作品を公開してきましたが、基本的にはバッドエンド。後味はあまりよくないんですが、観た方々に色々なことを考えてもらいたいと思ってます」（ちょいなさん）

　中高年世代の記者からしてみれば、うら若き女性の演出作品でバッドエンドというだけでかなりの衝撃を受けるが、セリフがない分、観賞した人によって作品への感じ方も違うという。

　なお、彼女たちシレネの新作が直近の7月14日（金）から7月16日（日）に東京・阿佐ヶ谷の『阿佐ヶ谷シアターシャイン』で公開されるが、こちらもかなりの問題作だ。

「ストーリーはアンドロイドと人間が共存する近未来の話です。世界で初めて人間とアンドロイドが初めてダブル主演を務めます」（前出・ちょいなさん）

　演目のタイトルは『キンギョソウ』。これまでのシレネ作品の実績を踏まえれば本作もバッドエンドであることが予想されるが、昨今話題のChatGPTや画像生成ＡＩによる時代の変革期の中で、一石を投じる舞台になるだろう。

「ロボットやアンドロイドにはない人間の魅力は、感情があるところ。中でも喜びの感情は何かに向かって頑張ろうという気持ちの源になっていると思うんです。この作品では人工知能や便利なアプリやソフトに頼らず、自分自身で問題を解決していくことの大切さや、そこから生まれる喜びをテーマに人間の影の部分に焦点を合わせてみました」（前同）

　ちなみにちょいなさんが、普段の生活の中でなるべく使わないようにしているＡＩ機器は「ルンバ」とのこと。新進気鋭のアーティストの顔の裏には、今を生きるごくごく普通の現代女性の姿も垣間見れる。一度、彼女たちがダンスによって訴えかける「現代社会への警鐘」に心を傾けてみてはいかがだろう。舞台が終わった後に皆さんの生活の「何か」が変わるかもしれない。

文責：編集長原田

【シレネ『キンギョソウ』公演情報】

• 日時：2023年7月14日（金）～7月16日（日）
• 　　　7月14日　19時30分開演
• 　　　7月15日　14時00分　18時00分開演
• 　　　7月16日　13時00分　17時00分開演
• 場所：東京・阿佐ヶ谷シアターシャイン
• 　　　東京都杉並区阿佐ヶ谷南1-15-15（東京メトロ「南阿佐ヶ谷駅」より徒歩2分）
• 料金：前売3800円／当日4500円
• 出演：ちょいな、塚本芽衣、小金井亜実、夏波、まや、八木ひかる
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