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岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第37回「目が合っただけなのに」

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岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第37回「目が合っただけなのに」

 田舎町で普通に生きていれば、佑二郎はそこそこ堅実に生きられたはずだ。隣県の大学に進んで夜遊びを覚えた頃から、本来のお調子者の資質が悪い方に花開いた。

 複数の女と交際するだけでなく、兄貴と呼ぶ反社的な男達に女を斡旋し、マルチ商法や違法賭博にハマり、何度か逮捕の一歩手前までいった。大学は退学だ。

 親に泣かれてもさほどこたえなかったが、敵に回った奴らに追い込まれるのはうんざりで、都会に家出した。夜の街に潜り込み、ここではお調子者ぶりが身を助けた。

 一応は反省や後悔ではなく警戒や用心をしていたので、ギャンブルも女遊びも適当に抑えた。そうしていつの間にか三十を超え四十を超え、五十も間近になってきた。

 故郷とは親ごと縁切り状態だったが、人気アイドルと交際したり、ホストになって太い指名客を捕まえ、高級外車を乗り回したこともあった。

 どんどん客がつかなくなって、息子みたいな新入りに爺さん呼ばわりされたり、いっとき女も金もみんな途切れてサウナやカプセルホテルを泊まり歩いたこともあった。

 そうして今は、同世代の友紀と暮らしている。友紀は佑二郎の故郷と近い町に生まれ育った、見た目もだが元々は地味で大人しい子だった。

「うちは、佑二郎くんみてぇなお調子者になりとうて、なれんかった女なんよ」

 都会に憧れて上京し、ちゃんと会社勤めをしていた。ふとしたことで売れない俳優に入れ揚げ、風俗に売られそうになったところで佑二郎と出会い、乗り換えたのだ。

 佑二郎もいろいろ限界を感じ、友紀くらいが手頃だと思えていた。とにかく寂しい友紀は、甲斐性はないが暴力的でもない佑二郎が、恋人としては最適だった。すべてにギラギラが失せた佑二郎は、狭いワンルームでも生活が保障されればよかった。

 友紀は朝起きて夕方に帰宅する会社員で、ときどき知り合いの飲み屋を手伝ったりする夜型の佑二郎とはすれ違いだが、それも長続きの理由かも知れなかった。

 そんなある夜、繁華街に向かう路地で、佑二郎は奇妙なものを見た。前を歩く半グレっぽい若い男に、女が背中から巻き付いている。すぐに、この世ならざるものだ、とわかった。いくら華奢な女でも、成人した人を背負って、あんなに軽々とは歩けない。

 それに女は不透明で、男に半ば溶け込むように体が重なっていた。あまり恐怖は感じず、さりげなく追い越して振り返ると、その女と目が合ってしまった。

 もしかしたら、半グレっぽい男に殺されたのかも知れない。と、妙に同情してしまったのもまずかったと、後々かなり後悔することになる。

 その女はたびたび、佑二郎の前に現れるようになったのだ。あの男に化けて出ることに専念しろよと思ったが、遅かった。霊感の強い知り合いには、新しい彼女できたのか、などといわれる。べったり、お前にしがみついてたよ、と。

 女の幽霊に憑かれたと、友紀にはいえなかった。昔、いや、今も佑二郎がひどいことをしたのを恨んで死んだ女がいるのか、などと疑われるのも嫌だ。

 ふと佑二郎も、もしかしたらあれは見知らぬ女の幽霊ではなく、実は自分が昔、ひどい目に遭わせた女なのかもしれないと感じるときもあった。

 それにさばさば吹っ切れたふりをしているが、友紀も入れ揚げた売れない俳優にはまだ心的外傷というのか、引きずっているものがあるようだった。うかつに、男絡みで死んだ女の話などできない。友紀は、自殺未遂をしたこともあるといっていたのだ。

 しかし、理不尽だなと怒りは沸く。たまたま目が合っただけではないか。それで、死に追いやった男ほどに自分も同等に化けて出られるとは。

 そんなある日、ラーメン店に行ったら、隣にどこかで見た男が座った。あの女に憑かれていた、半グレっぽい男だ。今度は透き通った老女が、隣にたたずんでいる。

 この婆さんも来るようになったら嫌だと、目を合わせないようにして席を変わった。

 そういえばあの女も、このところ出てこないなと帰宅したら、友紀がドアノブで首を吊っていた。テーブルに、「やっぱり彼が忘れられません」と、売れない俳優の名前が入った走り書きの遺書があった。

 友紀は目をつぶっていたので、目は合わなかった。だからか、友紀は幽霊になって出ることはなかった。売れない俳優の所にだけ、化けて出ているのか。そんな友紀の幽霊でいいから会いたいと、初めて友紀をどれだけ好きだったか思い知った。

【岩井志麻子先生のプロフィール】

  • 1964年12月5日、岡山県生まれ。1982年に第3回小説ジュニア短編小説新人賞佳作入賞。
  • 1999年『ぼっけえ、きょうてえ』が日本ホラー小説大賞を受賞し、翌年には山本周五郎賞を受賞。2020年現在、作家のほかタレントとしても活躍するマルチプレーヤーに。夕やけ大衆編集とは長年の飲み仲間でもある。
  • 岩井志麻子先生の「四畳半ホラー劇場」第37回「目が合っただけなのに」

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