※はじめに

この連載は中高年の皆様に素晴らしき日本の性文化への憧憬をさらに深めていただくために、東京・吉原に書店を構える「カストリ書房」の店主・渡辺豪氏に毎回、お勧めの本や雑誌を紹介いただくものです。

カストリ書房は遊郭専門書店として2015年に誕生し、店主の渡辺氏は自らも遊郭、赤線、青線があった地域を巡って聴き取り調査や取材を行なっており、これまでに訪れた場所は約500箇所。現在も書店を運営する傍ら様々な日本の性文化に関する文献の考察やイベントを行なっております。

夕やけ大衆では、そんな渡辺氏が未来永劫残したい「性書」を厳選してご紹介いたします。さあ皆様、知識と誘惑の扉を開いてみましょう。

〈夕やけ大衆編集長より〉

第18回『昭和の禁じられたエロ写真』百々由紀男著

「ダンナ、ダンナ。いい写真がありますよ・・・」

暗がりから近寄ってきた男が、茶封筒に入ったエロ写真をチラッと見せる。

会社の慰安旅行できていたサラリーマン、酒をしこたま呑んだことも手伝い、刺激された劣情を抑えることができず、つい買い求めてしまう。

高度成長期の温泉街ではそうした風景がよく見られたという。

エロ写真が必ずしも温泉街のみで流通していたわけではなかったが、「恥のかき捨て」の場である温泉街では、開放的な気分から、より売り買いが容易であっただろうし、人々の記憶にも強く印象に残ったのだろう。

私は実際にエロ写真の実物というものを、あるコレクターから見せて貰ったことがある。

ザラ紙のような品質の悪い茶封筒には、活版で「ロカビリー」「芽生え」「よし江」「四十八手」といったタイトルが印刷されている。中身は１０枚前後の写真。もちろん白黒だ。

ネット動画はもちろん、果てはVRといった先端技術が否応なく投入されるアダルトコンテンツが流通する現代からすれば、当時のエロ写真はあまりにもチープに映る。

しかし、「チープ」と切り捨てず、よくよく眺めるとこれが意外と面白い。

10枚組の写真は、セックス中のシーンが漫然と収められているのではなく、ある種のストーリー仕立てになっていることに気付く。

軽く愛撫に始まり、攻守交代、体位変化、緩急自在、七転八倒・・・やがてクライマックスを迎える。

学生、ＯＬ、和服（未亡人？）など、女性の職業や年代も具体的だ。

ロケーションも、野外や連れ込み旅館、女性の一人暮らし部屋など手抜かりない、こだわりよう。かなりの職人意識をもって造っていたことが分かる。

「どうせ相手は酔っぱらい。男と女のセックスシーンを撮って写真にすれば売れるだろう」という意識は見られない。この１０枚組の写真から、むしろ作り手のプライドをビシビシ感じてしまった。

１０枚の中に男女のストーリーをどのような封じ込めるか、要求される無駄を一切そぎ落とした

感性に、日本の詫び寂び文化、俳句の精神に通底するものを感じた、と言うと専門家に怒られるだろうか・・・

「たかがエロ」と侮ったコンテンツほど興ざめなものは無い、これはいつの時代も共通だ。

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『昭和の禁じられたエロ写真』百々由紀男著（コスミック・禁断文庫）

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