Catch Up
キャッチアップ
子どものころは小児喘息がひどく、よく医者の世話になった。一度発作が起きると呼吸ができなくなり、朝まで点滴と酸素吸入を受けた。
そのときは、とくに発作が重く、緊急入院することとなった。いまから45年前、ちょうど中学2年の春休みだった。
内科病棟の大部屋に、わたしは1人で横になっていた。発作は治まり、あしたにでも退院できると医者はいう。それでもわたしの肺はヒューヒューと草笛のような音を立て、無理に大きく呼吸をするとすぐに咳き込んだ。
「かわいそうにね。せっかくのお休みなのに」
わたしを看病してくれたのは、まだ年若い看護婦さんだった。つぶらなひとみと白い肌、ポッチャリとした体型が印象に残っている。やさしげな面立ちで、いつもニコニコほほ笑んでいて、わたしはそれとなく好意をいだいていた。
その夜、わたしはいきなり発作を起こした。あいにく母は家に戻っていた。まだ幼かった弟妹の面倒を見なければいけないからだ。
わたしは苦しみながらナースコールを押した。あらわれた看護婦さんは急いで医者を呼び、わたしの呼吸はなんとか平常に戻った。
「また、苦しくなったらこの薬を吸い込みなさい」
医者は吸飲薬をおいて部屋を出ていく。けれど、看護婦さんはわたしの顔を心配そうにのぞき込み、立ち去ろうとはしなかった。
「大丈夫? ちょっとは落ち着いた?」
いつもの笑顔が消え、困惑の表情を浮かべている。
「なんとか……」
「そう。もう少し、そばにいてあげるね」
わたしのひたいをなでながら看護婦さんはいう。甘い香りと手のひらの感触に、わたしの心臓は鼓動を早める。
「ゴホ、ゴホゴホ……!」
「どうしたの? 大丈夫?」
緊張が災いしたのか、わたしはいきなり咳き込んでしまった。看護婦さんは、あわててわたしの上半身を起こし、背中をさする。
「大丈夫? 苦しくない?」
「だ、大丈夫、大丈夫です。もう、平気」
「本当に大丈夫? 胸の調子は?」
看護婦さんはわたしの薄い胸板に耳を当て、呼吸音をたしかめる。
「ヒューヒューいってる、苦しい?」
「いえ、大丈夫」
喘息の方は本当に大丈夫だった。ただ、看護婦さんの感触が身体に伝わり、股間の辺りが大丈夫でなくなってくる。
「なんだか身体も熱くなってきたみたい。熱は?」
看護婦さんはわたしのひたいに、自分のひたいを当てる。ますます興奮は高まってくる。
「あら?」
そんなわたしの様子に、看護婦さんも気づいたようだ。彼女はふくらむわたしの股間を見て、いつもとは違う妖しい笑みを浮かべる。
「もう、心配させて。こんなに元気なら、本当に大丈夫よね」
彼女は部分に視線をそそぎ、盛りあがる部分をさすりはじめた。
「ふふふ、若いんだもんね。でも、今度はこっちが苦しい、苦しいっていってる」
手のひらで包み込むようになで続ける看護婦さん。わたしのペニスはますます固くなり、いまにもパンツから飛び出しそうなほど屹立する。
「よし、わたしがなんとかしてあげる」
「え?」
「大丈夫。まかせといて」
そういって、看護婦さんはいきなりわたしのパジャマをずりおろした。
「すごい、もうこんなになってる」
ブリーフもおろすと、待ちわびたようにペニスが飛び出す。その勢いは、へその辺りをたたきつけるほど反り返っている。
「固くて大きい。でもカワイイ」
看護婦さんはわたしをつまみ、2、3度軽くしごいたかと思うと、いきなり口を開けてほお張った。
「あ……」
ねっとりと伝わる温かな感触。舌が絡まりつき、唾液が塗り込められる。
わたしはそれだけで興奮のピークに至り、ビクンビクンと脈打ちをくり返す。
「ああ、看護婦さん、看護婦さん」
「うん、気持ちいいの?」
「出ちゃう、なにか、出る」
「え? もう? 我慢しなさい。もっと気持ちよくしてあげるから」
身体の弱かったわたしは、その歳まで射精をしたことがなかった。夢精もなかったし、マスターベーションの経験もない。知識はあったが、射精に至る感覚が、どんなものなのか知らなかった。
生まれて初めての体験を、わたしは口戯という形で得ることとなる。腰の辺りがうずき、やわらかで濃密な塊が、いまや遅しと暴発の瞬間を待っている。
看護婦さんは、そんなわたしを咥えたまま首を振りはじめた。クチュクチュと湿った音がひびき、内ほほの粘膜がわたしをおおいつくす。
「ふぅむん、うん、うんうん……」
吐息を漏らしながら、看護婦さんはわたしを攻める。わたしはとうとう限界を知り、そのままほとばしりを放ってしまうのだった。
「う……、くん……」
吸い込みを強め、看護婦さんはすべてを受け止めてくれた。そして、咥えたままわたしの全体を舌でぬぐうと、先を吸い込み残り汁まで吸い出してくれる。その、やわらかでくすぐったい感触に、わたしは全身が震えるような心地よさと虚脱をおぼえた。
「うん、おいしい。なんだか甘い」
濡れた唇をぬぐいながら、看護婦さんはいう。
「初めてだったの?」
「はい」
「じゃあ、セックスも」
キスの経験すらない。わたしの全部が、今はじまる。
「じゃあ、わたしが初めての相手になるんだ」
「はい……」
「なんだか、うれしい」
看護婦さんはわたしに唇を重ねてきた。
「もっとリラックスして。唇を開けて」
力をゆるめた口の中に、看護婦さんの舌がねじ込まれる。そのまま絡み合いながら、唾液がそそぎ込まれる。
「あら」
わたしは、それだけで復活をとげる。
「わたしって、そんなにじょうずかしら」
うれしそうにほほ笑み、看護婦さんは白衣を脱ぎはじめた。
「さあ、今度はわたしをじっくり楽しんで」
上着のボタンをはずすと、白いブラジャーが姿を見せる。彼女はそれをたくしあげ、豊満な乳房をあらわにする。
静脈が透けて見えるほどに白い胸乳と桜色の乳首。わたしは、ぼう然と見つめてしまう。
「さわっていいのよ」
看護婦さんは、わたしの右手を導いた。
「揉んでもいいのよ」
わたしは手のひらと指に力を込める。
「あん……、そう、吸ってもいいのよ」
おそるおそる顔を近づけ、わたしは乳首に吸いついた。柔軟な乳肉の感触と、コリコリした乳首の固さが伝わってくる。
「ああん、もっと好きなようにしていいのよ。うん、もっと、もっと……」
看護婦さんは自分でパンティーに手を伸ばす。わたしに乳房をあずけたまま、自分をいじくる。
「ああん、感じちゃう。もう、我慢できない」
わたしを胸から離し、看護婦さんはパンティーを脱いだ。そして、あお向けになったわたしにまたがると、そそり立つ肉棒をつかみ、ヴァギナにあてがう。
「ココにはいるの、わかる?」
「はい」
「もう、ビチャビチョに濡れてるの、わかる?」
わたしの手を秘部に誘い、そして、ふくらんだ亀頭をめり込ませる。
「うん、入った」
「はい……」
「もっと、もっと入る……」
閉じた肉ビラをこじ開け、わたしは根元まで埋没した。瞬間に伝わるぬめりと熱、そしてなめらかさ。
看護婦さんは前のめりになって、腰をグラインドさせる。最初はゆっくり、次第に早く。腰は上下だけでなく、左右前後に回転する。わたしは看護婦さんの内部を、グリグリとかき混ぜる。
「ああん、あん、いい、気持ちいい。やん、あん、ステキ、こんなの」
ナースキャップの乗った頭を振って、喘ぎ悶える。身動きするたびに乳房が揺れ、白い肌が紅に上気する。
わたしは2度目の頂点を知った。けれど、このまま射精するわけにはいかない。けれど、初めて女性を知ったわたしに、抜き取って外に出す器用さは備わっていない。
「いいよ、このまま出していいよ」
わたしの頂点を察した看護婦さんはいう。
「で、でも」
「いいの、ちょうだい。熱いの、濃いの、わたしの中にぶちまけて」
「で、でも……」
「いいの、ああん、わたしも、あん、イッちゃいそう、ああん、イクイク、あん、もうダメ!」
淫らに震えながら、看護婦さんは達した。わたしも、そのまま中に吐き出した。看護婦さんは、そそぎ込まれるザーメンを全身で感じていた。
「よかった? これで大人ね」
「はい」
「ふふふ、わたしもよかった」
次の日に、わたしは予定通り退院した。そして、その日を境に、わたしの喘息は快癒に向かった。
小児喘息は、ある年齢のある時に、突然発作が起こらなくなるらしい。それからいままで、些少の息苦しさを感じても、病院にかつぎ込まれることはない。
もちろん、あの看護婦さんとも会っていない。わたしにとっての甘い思い出として、記憶に残ったまま。
- 【選者紹介】
- 長月タケオ(ながつきたけお)
- 官能小説家。一般人の中高年男性への取材を通して市井の赤裸々な性のエピソードを紡ぐ。
- 1962年生大阪府出身在住。1988年官能小説誌への投稿でデビュー。
- 1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作受賞。
- おもな著作『ひとみ煌めきの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)
- 『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)
- 『禁断の熟女』(ベストロマン文庫・共著)
- 『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)
- 『誘惑する女 熟女たちの悦楽』(九月堂・電子版)ほか
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- 誘惑する女 熟女たちの悦楽 長月タケオ短編集
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