Catch Up
キャッチアップ

このコーナーは官能小説家の長月タケオ氏が一般の中高年読者から寄せられた「性の告白」をご紹介するものです。そこにはシニアである我々同世代が共鳴する「あの頃」の時代背景があり、実体験ならではの生々しい「性の現実」があります。懐かしくも妖艶な古き良き官能の世界をご賞味頂ければ幸いです。編集長
【初体験の相手になってくれたハイミスOL】
Y・Y 58歳 東京都在住
別段、ポリシーがあったわけでもないが、わたしは30歳を過ぎるまで童貞だった。
単純にきっかけがなかっただけなので、早くどうにかしたいという気はあった。だが、10代、20代ならまだしも、いい年をした男の最初が商売女というのも、なんだか寂しすぎるし、相手から嘲りを受けそうで恐い。
わたしは思い悩む毎日を過ごしていた。
商業高校を卒業してから、中堅メーカーの経理を担ってきた。現在は部下を管理し、指導する立場にあるが、入社後10年ほどは伝票とにらみ合いの日々を送っていた。
そんなわたしには内山加奈子という、2歳年上の先輩がいた。
彼女も商業高校を卒業しているのだが、日商簿記一級という実力の持ち主。また、それを鼻にかけている素振りも多々見せていた。だから、女子社員はもちろん、男子社員にも煙たがられ、とうとう20代後半になっても独身のまま勤務を続けるという、当時では珍しい存在となってしまった。
とはいうものの、彼女に言い寄る男が皆無ということではなかった。
たしかに性格的な部分に難はあるが、その容姿、とくに外国人モデルばりのダイナミックなスタイルは垂涎の的となり、手練手管に長けた営業マンたちが、わざわざ経理の事務所に来てモーションをかけることもしばしばだった。
気位は高いが、まったく男に興味がないというタイプでもなかった加奈子は、社内でも何人かとねんごろになったらしい。だが長続きはしない。うわさによると、あれこれ指図するばかりで、自分から相手に何かをするということがなく、それはセックスのときも同じだという。
そんな状況のまま加奈子は三十路を超え、2年後にはわたしも30歳になった。加奈子よりも年上および同い年の女子社員は皆無となり、後輩連中からは「お局様」と陰口を叩かれる。男子社員も彼女に声をかけるものはいなくなり、加奈子は孤立してしまった。
そんなとき、加奈子は大きなミスを犯してしまった。内容は忘れたが、部長の前でしゅんとなり、うなだれる彼女を初めて見た。そして慰めるものはだれもなく、それどころか侮蔑の視線さえ向けられた。
耐え切れなくなったのか、加奈子は次の日、そして次の日も会社を休んだ。
彼女が休みはじめて2日後、わたしは買い物に立ち寄ったスーパーで加奈子の姿を見た。
「内山さん」
わたしはついつい声をかける。
「あら」
涼しい顔で彼女はわたしを見る。
「お買い物なの?」
「は、はい」
「一人暮らしは大変よね。わたしもだけど」
「ええ、まあ……」
「きみのお宅、この近く?」
「そうです。内山さんもですか」
「そう」
打ちひしがれ、外出もままならないのかと勝手に思っていたが、以前とまったく変わらないハキハキした物言いと、凛とした態度の加奈子を見て、わたしは安堵をおぼえた。
「よかったらわたしの家に来ない?」
加奈子は急にわたしを誘った。
「ここで会ったのも何かの縁でしょうし、一人の食事よりいいかも」
「ぼ、ボクでいいんですか?」
「なにを考えてるの? ただ、一緒にご飯を食べる相手が欲しかっただけよ」
相変わらず高慢な話し方。しかし、私服の加奈子は制服よりも若く見え、そして魅力的だとわたしは感じたのであった。
断る理由もなかったので、わたしは加奈子のアパートを訪れた。女性の部屋らしくない殺風景な雰囲気で、本棚には税金や経理関係の本がずらりと並んでいた。
わたしは脚の低いテーブルの前に正座し、加奈子は炊事場で夕食をつくりはじめる。ほどなくして彼女がわたしの前に座り、料理を並べたとき、わたしはテーブルの上を見て驚きを口にした。
「これ、全部……」
「当たり前でしょ。さ、遠慮しないで、さあ、足も崩して」
ビールの栓を抜き、グラスにそそがれる。わたしは恐縮しながら乾杯をする。
「さ、食べよ、食べよ」
快活な笑みを浮かべ、加奈子は箸を運ぶ。わたしも目の前にあった煮物を口にほお張る。
「う、うまい!」
「ホント?」
「本当です、すごくおいしい」
それはお世辞でもなんでもなかった。加奈子のつくった料理はどれもが絶品で、わたしは久しぶりに心地よい満足を得た。
すべての皿を空にし、何杯ものビールで喉を潤し、わたしと加奈子は少し酔った状態で会話を楽しんでいた。
「わたしのいない会社はどう?」
「みんな心配してますよ」
「ウソでしょ。口うるさいハイミスがいなくなったんで、ホッとしてるんじゃない?」
「そ、それは……」
「ふふふ、ウソが下手ね」
気丈夫を装ってみても、加奈子は寂しそうだ。
「自分でもいやになるの、この性格。でも、女だからって、仕事を腰かけに考えるのは、もっといや」
「そうですか」
「きみはどう? やっぱり女は愛嬌があって、かわいいのがいいの?」
「そうでもないですよ。ボクはリードしてくれる女性のほうが好きかも」
「リード? セックスのときも?」
あからさまな言葉に、わたしは赤面してしまう。そして、改めて加奈子を見ると、妖しい雰囲気をたたえているのに気づく。
「どうなの? 答えて?」
「いや、その、ボクは、その、あまり……」
「あまり? 経験がないの?」
「あまりというか、その、まったくというか……」
「ねえ」
「はい……」
「ひょっとして、童貞?」
わたしはうつむいてしまった。顔が、いや、身体中が熱く火照りはじめる。
「ふーん、そうなんだ。でも、ハンサムなのに」
「そんなこと、いわれたの初めてです」
「そうかなぁ、でも頼りないか」
加奈子はまじまじとわたしを見る。
「リードして欲しい? わたしが全部、教えてあげようか」
わたしは何をいうこともできなかった。それを承諾と受け止めた加奈子は、わたしのとなりに腰かけ、しなだれかかってくる。
「わたしも、あれこれされるより、自分でするのが好きなの」
そういってわたしの手を取り、自分の胸乳へ誘う。
「キスは? したことある?」
「しょ、小学生のとき……」
「ふふふ、カワイイね」
自分の胸の上におかれたわたしの手を、加奈子は強く押しつける。そのやわらかさとボリュームに、わたしの股間は早くも大きく勃起しはじめる。
「なにもしなくていいのよ、全部まかせて」
加奈子は唇を重ね、わたしを押し倒した。そして、馬乗りになると自分で身につけていたものを脱ぎ捨てる。
明るい蛍光灯の下で加奈子は全裸になる。その曲線美に、わたしは夢を見ているような気分にひたったのであった。
わたしの上着を脱がせ、ズボンをおろし、下着も取り去った加奈子は、大きくふくれあがった一物を見て目を丸くする。
「大きい」
「そうなんですか」
「うん、もったいないくらい」
大きく丸く見開かれた眼は、やがてうっとりと潤みはじめ、そしてわたしの顔を一瞥しながら、ふたたび股間に向ける。そして身体をずらして顔面を下半身に置き、厚みのある唇を開けると、すっぽりと部分を呑み込んだ。
途端に伝わるねっとりとした温かさ。舌が絡まり、唾液が塗り込められる。わたしは我慢に我慢を重ね、射精を耐える。
「ううん、どう? 気持ちいい?」
「は、はい」
「イッちゃいそう? でも、まだよ、最初が口でなんて、いやよね」
しばらくわたしを舐りつくしたあと、加奈子はコンドームを取り出しはめてくれた。そして膝を立て、わたしを自分にあてがうと、ゆっくり腰を沈める。
「う、く……」
潤いの少ない部分にめり込ませながら、加奈子は眉間にしわを寄せ、唇をかむ。薄いゴムにおおわれながらも、わたしは彼女のぬるみと締めつけを感じとった。
「うん、入った、全部……」
「は、はい」
「気持ちいい? わたしのヴァギナ」
「い、いいです」
「わたしもいい、動くと、もっと……」
ゆっくりと、やがて大きく舞いはじめる加奈子。部分の蜜があふれはじめ、摩擦でじゅくじゅくと淫靡な音を立てる。
豊満な乳房が揺れ、濃い桜色の乳首が天を向いて勃起している。
「ああん、いい、すごい、いい!」
わたしは手を伸ばして乳房を揉んだ。すると加奈子は、わたしの上半身をかかえあげ、乳房に顔を押しつける。わたしは乳首を吸い、乳房を揉みながら腰を突きあげる。
「あああん、もっと、もっとぉ!」
加奈子の動きが激しくなる。わたしは今にも暴発しそうな射精感をこらえる。しかし、彼女が腰を前後左右に回転させたとき、呆気なくほとばしりを放ってしまったのであった。
次の日、加奈子は久しぶりに出社し、けれど、そのまま上司に退職願を出した。表向きの理由は一身上の都合だが、本当は税理士を目指して勉強にはげむらしい。
「女だからって見くびられるのは、もういやなの。しばらく暮らせるだけのおカネも貯まったし」
彼女はわたしに打ち明けてくれた。
「きみのことは忘れない。でも、一緒には暮らせない。わかってね」
加奈子はそういい残し、わたしの前から姿を消したのであった。
※登場人物の名前は仮名です。
- 【選者紹介】
- 長月タケオ(ながつきたけお)
- 1962年生大阪府出身在住。1988年官能小説誌への投稿でデビュー。
- 1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作受賞。
- おもな著作『ひとみ煌めきの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)
- 『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)
- 『禁断の熟女』(ベストロマン文庫・共著)
- 『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)
- 『誘惑する女 熟女たちの悦楽』(九月堂・電子版)ほか
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- 誘惑する女 熟女たちの悦楽 長月タケオ短編集
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