Catch Up
キャッチアップ
このコーナーは官能小説家の長月タケオ氏が一般の中高年読者から寄せられた「性の告白」をご紹介するものです。そこにはシニアである我々同世代が共鳴する「あの頃」の時代背景があり、実体験ならではの生々しい「性の現実」があります。懐かしくも妖艶な古き良き官能の世界をご賞味頂ければ幸いです。編集長
【夫に頼まれて人妻を抱いた旅の宿】
O・A・58歳・愛知県在住
大学生のころ、わたしは一人旅を趣味にしていた。出かけるのはもっぱら人気の少ないところ。有名な観光地でもシーズンオフを狙って閑散とした町を散策し、旅情を楽しんでいた。
貧乏旅行だったが、客の少ないころを見計らえば交渉しだいで安く泊まることもできたし、気候がよければ駅の待合室や神社仏閣の軒下で野宿することもあった。若いころなので、体力は十分備わっていて平気だった。
それは大学3年の夏のこと、わたしは長い休暇を利用して日本のあちこちを訪ね歩いていた。そして、とある中年夫婦と出会った。
主人らしき男のほうは、中年というよりも初老の域に達した小男で、細君らしき女性は四十路を前にした品のいいたたずまいだった。
男は麻のスーツにパナマ帽をかぶり、ロイドメガネに口ひげというしゃれた出で立ちで、女のほうは白いロングのワンピースドレスに縁の広い帽子を目深にかぶった装い。
時刻は夕方近くで、わたしはとある町の旅館案内所で、その日の宿を探していた。その夫婦もわたしと同じように宿を求めて案内所に立ち寄ったところだった。
「その予算じゃ泊まるところ、ないですねぇ」
案内所の職員は言う。困っていると、その初老の男が、3人泊まれる部屋が空いている宿はないか、とたずねた。
「あることはありますけど、ご夫婦お二人じゃないんですか?」
「いや、この若者もいっしょだ」
わたしと、その職員は驚き、夫婦の顔を見た。男は平然とし、女のほうもうつむきかげんで、かたわらに寄り添ったままだ。
「あなたたち、お知り合いかなにか?」
わたしは否定しようと思ったが、それより早く男は言う。
「あるのか、ないのか? あれば案内してほしい」
静かな口調だが、りんと張り詰めた威厳のある声だった。
職員はひとつの高級旅館を紹介してくれた。宿泊代は、とても学生のわたしに払えるような金額ではなかったが、男は軽くうなずくと、場所を聞いてその場を離れた。
「ちょっ、ちょっと、どういうことですか」
わたしは荷物を担いで、夫婦のそばに駆け寄る。
「君は今日、このあとどうするつもりだったんだ」
男は言う。
「泊まるところがなければ野宿でもしようかと」
「君は学生だな」
「はい」
「どこの大学だ」
わたしは籍を置く学校の名を告げる。
「なら、心配ない。黙ってついてきなさい」
不安に思ったが、断ることのできない力が男の声には備わっていた。そして帽子の陰からちらりとわたしを見る女の表情を見たとき、わたしは胸に突き刺さるような衝撃をおぼえてしまったのだった。
かいま見ただけだが、女の表情にはわたしをとりこにしてしまう魅力をたたえていた。寝ぼけまなこのような切れ長の瞳に、肉厚のある唇。肌の色は透き通るように白く、鼻筋はまっすぐ伸びている。わたしとは20歳近く離れているはずだが、そんなことを意識させない気品のある、そして艶美な雰囲気を醸していた。
品のいい夫婦と、汚れ放題のTシャツに無精ひげ、ぼろぼろのジーパン姿のわたしという、あまりにも似つかわしくない3人を見て、宿の仲居は怪訝な表情を浮かべた。
部屋に入ると、とりあえず荷物をおいて何日ぶりかの風呂につかった。大浴場は貸し切り状態で、身体を洗うと体重が数キロ減ったような気分になる。その後、浴衣に着替えて部屋に戻ると、さっそく夕餉の支度がととのえられていた。
「あなたたちは入らないんですか?」
「わしらは、あとでいい」
ぶっきらぼうに答える男。帽子を取った頭髪は真っ白で、それでも肌艶はいい。かえって女房のほうは……。
わたしはあからさまになった彼女の顔を見て、思わず凝視してしまった。
髪は艶やかにきらめき、うれいを帯びた目もとと、ゆるやかに閉じた小さな唇。わたしの視線に気づいても表情に変化はなく、妖艶なまなざしを向けるだけだ。
「いつまで立っているんだ。ここに座んなさい」
男は床の間を前にして女をとなりにし、わたしは向かいへ座るよううながした。
二人と差し向かいになり、わたしははしを働かせた。料理は感激してしまうほどうまく、無言でがつがつと口に運ぶ。男は酒ばかりを飲み、そんなわたしを見つめている。
「一人旅を楽しんでいるのか」
わたしに男はたずねる。
「はい」
「気楽でいいな、学生は」
「こんなときしか、自由な時間は持てそうにないので」
「それはそうだ。社会に出ると自分の時間というものがなくなる。カネで買えないもののひとつだな」
「そうなんですか」
「ところで」
男の問いかけに、わたしははしを口に含んだまま目線をあげる。
「この女をどう思う」
わたしは答えに困り、言葉をなくす。
「見てのとおり、わしの女房だ。歳は20ほど離れている」
「そうですか」
「抱いてみたいとは思わんか」
わたしは目をむいて、男の表情を見つめた。
「な、なんですって!」
「抱いてみたいとは思わないか。もちろん、こいつも承知のうえだ」
わたしは女の顔も見る。女は相変わらず無表情のままで、視線をあやふやに泳がしている。
「そんな、急に言われても……」
「抱きたいのなら、この部屋に泊まることを許してやる。いやならすぐに出ていけ」
わたしは答えに窮した。童貞ではなかったが、1年以上もごぶさただ。もちろん、旅の途中で相手を調達できる余裕はない。
若いし、体力も精力も有りあまっている。それに、今、この場所から追い立てられるのもつらい。
「なるほど、そういう意味ですか」
若い女房を満足させることのできない男が旅行に出て、ふさわしい男を物色する。自宅では近所の目もあるし、どこで誰かがかぎつけるかもしれない。それほどに、男は地位も名誉もある人間なのだろう。
「わかりました。けど、この料理を食べてからにしてください」
そういってわたしは再びせわしなく、はしを動かし続けるのだった。
時間は過ぎ、寝床がととのえられ、男も女も風呂に入って浴衣に着替えていた。部屋いっぱいに敷かれた布団にわたしは座り、女は対座している。男は、そんなわたしたちを少し離れた場所でながめていた。
「じゃ、じゃあ、遠慮なく」
わたしは女に手を伸ばし、抱きすくめる。女はまったくあらがいを見せない。わたしは女の顔を自分に向けさせ、唇を重ねようとする。女はうっとりとした表情でわたしに身体を預け、薄く目を閉じた。
接吻の感触を楽しみながら、わたしは右手で浴衣の襟を割り乳房に触れる。柔軟でボリュームのある胸乳は、しっとりと吸い付くような感触をわたしに与えてくれる。わしづかみにして指に力を込めると、女はか細い声をあげた。
「うん……」
鼻から抜ける切ない吐息。わたしは唇を離して顔面をずらし、胸もとをひろげ乳房に吸いついた。
そのとき、やおら男が立ちあがり、わたしたちのそばに近寄ってきた。そして仁王立ちになって、浴衣のすそをひろげる。
驚いたわたしは、女から身体を離そうとした。
「そのまま続けろ」
男は言う。わたしは仕方なく、女の胸もとから下半身へ身体をずらす。あお向けに横たわる女。男は、あろうことか女の顔にまたがり、うなだれた一物を口にねじ込むのだった。
女のほお張りで、男の一物は固さを保持し始めた。わたしは動揺しながらも、女の陰部をまさぐり舐る。男は腰をうごめかせ、女の口で抜き差しを続ける。
「君も挿れたいだろう。遠慮しなくていい。下は君にまかせたから」
男は口での愛撫を楽しんでいるようだった。わたしも、びしょびしょに濡れた女の淫部と肌の感触に興奮し、いきり立つ一物を持てあます。
「いいんですか」
「ああ、挿れてもいいぞ。わしはな、口が好きなんだ。口だけで十分なんだ」
男は不能者でも、なんでもなかった。ただ、口で楽しむのが好きなだけであった。しかし、それでは女房が不憫だとでも思ったのだろう。だから、三人戯を思い立ったのだ。
わたしは女の両脚をひろげ、身体を割りいれた。目の前には、女房の口を犯す男の背中がある。けれど、とにかく早く挿れたいわたしは、そんなことお構いなしに、ズブリと根もとまでねじ込んだ。
「むぅううん、ううん」
口をふさがれながらも、嬌声をあげる女。わたしはヌメヌメとした感触を味わいながら、性急に腰を振ったのであった。
その後、男は一度だけで満足し、わたしは男なしで彼の女房を抱いた。女は清楚さと裏腹に、声をあげ、足と手を絡みつけ、自ら腰を振ってよがり悶えた。
朝になり、わたしたちは宿をあとにすることになった。別れ際、男は、旅費の足しにしろ、といくらかのカネをわたしてくれた。
昨日の淫乱さはどこへやら、女はやはり無表情のまま、わたしに軽く会釈をする。ただ、最後の一瞬だけ浮かべた、仄かで淫靡な笑みを、わたしはいまも忘れることができない。
【選者紹介】
長月タケオ(ながつきたけお)
1962年生大阪府出身在住。1988年官能小説誌への投稿でデビュー。
1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作受賞。
おもな著作『ひとみ煌めきの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)
『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)
『禁断の熟女』(ベストロマン文庫・共著)
『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)
『誘惑する女 熟女たちの悦楽』(九月堂・電子版)
ほか
長月タケオ『誘惑する女 熟女たちの悦楽』
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