Catch Up
キャッチアップ

このコーナーは官能小説家の長月タケオ氏が一般の中高年読者から寄せられた「性の告白」をご紹介するものです。そこにはシニアである我々同世代が共鳴する「あの頃」の時代背景があり、実体験ならではの生々しい「性の現実」があります。懐かしくも妖艶な古き良き官能の世界をご賞味頂ければ幸いです。編集長
【ウソでだまして美女をモノにしたわたしの後悔】
D・T・61歳 長野県在住
社会へ出て東京で就職したばかりの頃、同期入社でかわいい女の子がいた。わたしは大卒、彼女は高卒。だから4つ年下ということになる。
目が大きくてグラマラスなボディをした彼女に好意をいだくものは多く、同期をはじめ先輩社員たちも、何かにつけて彼女を誘い出そうと近づいていく。わたしも、なんとかして彼女を自分のものにしたいと考え、あれこれ考えあぐねていた。
そんなある日、給湯室の前で彼女とほかの新人OLが話をしているのを耳にした。
「ねえねえ、同期では誰がいい?」
「そうねぇ、Tさんなんかステキかも」
「Tさんねぇ。でも、あの人の家、貧乏らしいわよ」
「いいじゃない、そんなこと」
「そう言ってられるのは付き合うときだけ。結婚となれば話は別よ」
「やだ、わたしまだ、結婚なんか」
「あら、あなた結婚相手探しに就職したんじゃないの?」
当時はまだ、女の子の就職希望動機ナンバーワンが「おむこさん探し」だった。だから寿退社は当たり前。25歳を過ぎても会社に残っていれば、「お局様」とか「オールドミス」とか呼ばれていた時代だ。
「わたしならS君かなぁ」
「えー、あのメガネの人ぉ?」
「顔はさえないけどさぁ、なんでもお父さんは会社の社長で、社会勉強のためにこの会社に来たらしいわよ」
「でも、見た目がねぇ」
「ぜいたく言わない」
そのあと、いく人かの名前があげられ、良い悪いの評価が下された。残念ながらわたしの名は登場しなかったが、悪いほうに属しなかっただけ幸いかもしれない。
「なるほど、顔はそこそこでも金持ちか」
わたしはあることを思いつき、ほくそえみながらその場を離れた。
ある日、わたしは会社を早退し、タキシードに着替えて駅にいた。そして会社帰りの彼女を見つけると、いかにも偶然をよそおって声をかける。
「いま帰りなんだ」
彼女はわたしを見て、驚きの表情を浮かべる。
「どうしたんですか?」
「え? 何が?」
「会社、早退したんじゃ」
「ああ、今日は父親に頼まれてパーティーに出席したからね」
「パーティー?」
「そうなんだ。田舎の親父は地主で県会議員だから、こっちの用事は全部、ボクにまかせるんだ」
「そうなんですか」
「ウチの会社の社長もね、親父と同郷で大学の先輩後輩だから、ボクが早引けするって言っても、上司はうなずくしか仕方ないんだよ」
デタラメである。親父は尋常小学校卒で、田舎で田んぼを耕しているはずだ。会社にも、急に身体の具合が悪くなったという理由で届けを出した。唯一、本当のことといえるのは、社長がわたしと同じ県の出身くらいのものだ。
「そうだ、よかったら食事でもしない?」
「え?」
「パーティーってさ、立っての食事だし、ほとんどが冷たい料理だろ。それに、あんまりがっつくと親父の顔をつぶすし。なんだかさ、よけいに腹が減っちゃって」
「いいんですか」
「ああ、ここで会ったのも何かの偶然だろ」
わたしはそう言って、なかば強引に彼女をホテルのレストランに連れ込んだのだった。
いままで足を踏み入れたこともない高級レストランにおもむき、わたしは平静をよそおって料理を頼もうとした。けれど、メニューに書かれているのは、見たことも聞いたこともない名前ばかり。仕方がないので、ウエイターに「今日のおすすめ」をオーダーした。
「わたし、こんなところで食事するの初めてです」
運ばれてきた料理を口にしながら彼女は言った。
「そうなんだ。ボクは食べ飽きてるけどね」
「大丈夫ですか?」
「何が」
「お高いんでしょ」
「心配することないさ。このホテルのオーナーも親父の知り合いでさ。ボクも子どもの頃から、かわいがってもらってたんだ」
そういいながら、わたしは次々に運ばれてくる料理に、一体いくらかかるんだろう、と内心ひやひやしていた。けれど、勘定は何とか財布の範囲内で収まり、そのあと彼女をバーに誘う。
「今日はごちそうさまでした」
カウンターに腰かけ、彼女はぺこりと頭をさげる。
「これくらいのことで。逆にボクがお礼を言わなきゃ」
「どうしてですか?」
「君の貴重な時間をボクだけが独占できた。そのことに対するお礼だよ」
彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめる。キザだが『恋愛の手引き』なる本に書かれているとおり、言ってよかったとわたしは思う。
「で、君は一人なの」
「え? 両親と弟と……」
「いやいや、そんなこときいてるんじゃない。特定の彼氏とか」
「そんな人、いないです」
「へえ、じゃあ、同期の中ではだれが?」
「そうですねぇ」
「SとかTとかが人気あるみたいだけど」
「Tさんはハンサムだけど余裕がないみたいだし、Sさんはお金持ちらしいけど……」
「そうだな。Tはカネに汚いところがあって、研修のときボクが貸したカネをまだ返さない。Sは逆に金持ちなのをいいことに、札束で人のほほをはたくようなところがある」
「そうなんですか」
「ああ、けどボクは違う。親父の方針でね、学生時代は仕送りがまったくなくて、学費以外の生活費は自分でかせいでいたんだ」
「へえ」
「色んなアルバイトをしたなぁ。寿司屋の出前、新聞配達、工場でマジックをつくったり。マジック工場なんて工場中がシンナー臭くてさ、最初の頃は頭の中がふらふらになったもんだよ」
多くのアルバイトをこなしたのは本当である。けれどそれは、単なる遊ぶカネ欲しさにほかならない。けれど、彼女は金持ちの御曹司でありながら苦労人でもあると思い込み、尊敬の眼差しを向け始めた。
こうなればこっちのもの。あとはじゃんじゃん飲まして部屋に連れ込むだけだ。ここでも『恋愛の手引き』が役に立ち、わたしは甘口だが度数の高いカクテルを注文して彼女を酔わせた。
計画どおり彼女は酔いつぶれる。わたしは用意してあったホテルの部屋に、彼女を連れ込む。そして、ベッドに崩れる彼女の服を脱がし始めた。
「ダメぇ、結婚するまでシちゃいけないの」
「じゃあ、ボクといっしょになろう」
「ホント?」
「ああ、結婚したらいまの会社を辞めて、親父のあとを継ぐんだ。君は大地主の議員夫人になるんだ」
わたしはそう言いながらブラウスをはぎ、スカートをおろしてブラジャーをはずす。こんもりとした乳房があらわになり、わたしも急いで服を脱ぎ捨てしゃぶりつく。
「やん、くすぐったい」
彼女は身をよじって声をあげる。そんなことお構いなしに、わたしは乳首を舐めて指を陰部にはわせた。
「やあん、そこ、だめぇ」
指を入れると、きゅうくつな締まりでこたえてくる。抜き差しすると、じんわりと液がにじみ出る。
我慢できなくなったわたしは、股間の一物に手をそえて彼女の部分にあてがう。そして、一気に根もとまでもぐりこませた。
「やああん、ううん、だめぇ」
処女ではなかった。少し残念な気持ちになったが、これを機に恋人同士になれるのなら仕方ない。わたしは性急に腰を振る。彼女も清楚な面立ちをゆがめ、悶え喘ぐ。やがて頂点に達したとき、わたしは彼女の腹の上に精を吐き出した。
彼女はうっとりとわたしをながめる。それは、資産家に嫁ぐ自分の姿を思い描いているようだった。
ウソ八百を並べて付き合いだしたとしても、化けの皮はすぐにはがれる。それでも一発してしまえばこっちのものだ、とタカをくくっていた。けれど、わたしが農家の息子であり、社長とも面識がなく、ホテルのレストランなど今まで行ったことがないとわかると、彼女は手のひらを返したように冷たい態度をとりはじめる。
「だましたのね」
「え……、でも、オレは君ことが好きで」
「ダイっきらい。二度とわたしに近寄らないで」
「でも、結婚したい気持ちは本当だ」
「よく言うわね。だまされたと知って、いっしょになろうって女、どこにいるのよ。バカ!」
彼女にはふられた。けれど、誰もがあこがれる身体を堪能できたのだから、それでもいいかと諦めた。けれど、それからが大変だった。
「誰がお前にカネ借りたんだよ。いい加減なこと言うな!」
「札束で顔をはたく? オレにカネの無心をしてきたのは、お前のほうだろうが!」
SやTのほかにも、わたしは彼女に、あらぬ陰口を漏らした連中がいた。それが全部ばれてしまい、わたしはとうとう会社を辞めざるを得なくなった。
その後、なんとか再就職でき、見合いで結婚もしたが、いまでもウソで自分をごまかしたことを後悔している。自分がたとえどういう境遇にあっても、真実が一番。反面教師として、自分の子どもにはそう教えて育て、孫にも言い聞かせるつもりだ。
【選者紹介】
長月タケオ(ながつきたけお)
1962年生大阪府出身在住。1988年官能小説誌への投稿でデビュー。
1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作受賞。
おもな著作『ひとみ煌めきの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)
『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)
『禁断の熟女』(ベストロマン文庫・共著)
『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)
『誘惑する女 熟女たちの悦楽』(九月堂・電子版)
ほか
長月タケオ『誘惑する女 熟女たちの悦楽』
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