Catch Up
キャッチアップ

このコーナーは官能小説家の長月タケオ氏が一般の中高年読者から寄せられた「性の告白」をご紹介するものです。そこにはシニアである我々同世代が共鳴する「あの頃」の時代背景があり、実体験ならではの生々しい「性の現実」があります。懐かしくも妖艶な古き良き官能の世界をご賞味頂ければ幸いです。編集長
【母親のほうが魅力的だった若気の至り】
H・Y 57歳 奈良県在住
初めて女を抱いたのは18のときだった。相手は中学時代の同級生で、名前は由香里。わたしは高校生で由香里は進学せず、水商売で口を糊していた。中学時代は、あまり口を利いたこともなかったが、ひょんなことから再会し、そのまま好いた惚れたの関係になった。学生のわたしと違い、夜の世界で働く由香里は進んだ考えの持ち主で、つき合いだして間もないというのに、肉体関係を持つ間柄となった。
最初の行為は、由香里の部屋でおこなった。わたしは童貞だし、由香里も処女だった。知識は持っていたが、いざ実践となると緊張もあって、なかなかうまくいかない。もちろん、由香里のほうも耳年増ではあるが、自分の身体の仕組みもあまり知らなかったようだ。悪戦苦闘のすえ、なんとか貫通を果たす。
由香里の母親も夜の商売をしていた。つまり彼女の職場は、母親の経営するスナックというわけだ。親の監視があったからかどうか知らないが、誘惑の多い世界であるにもかかわらず処女を守り続けていたのだろう。
「お母ちゃんがいうねん。うちはアホやから、つき合うんやったら頭のエエ男にしいやって。男は力でも顔でもない、頭や。頭さえよかったら、ナンボでもカネは稼げるって」
由香里の父親は博打に狂い、多額の借金をつくって夜逃げしたらしい。その返済をどう工面したのかは知らないが、母親は男とカネに苦労したのだろう。口癖のように「男は頭。カネを稼ぐのは知恵」といい続けてきたらしい。
わたしが通っていた高校は、県下でも有数の進学校だった。わたしはあまり真面目な学生でもなかったが、周囲には地域の精鋭が集まっていた。だから、わたしとつき合っている、しかもK校の生徒だと由香里が母親に告げたとき「離したらアカンで。さっさとやることやって、コッチのもんにしてしまい」といったらしい。
彼女の母親の思惑通り、わたしは由香里にぞっこんになった。彼女は愛らしく、そのうえ大人びた身体つきと雰囲気があって申し分ない。そして、なんといってもやりたい盛りに自由にできる相手がいること、与えられる快感がこのうえなく心地いいことに、わたしは夢中になったのだ。
それこそ、会えば必ず求め合ったし、母親がそんな考えの持ち主だから、家にあがりこんでも文句は言わない。休みの日なんかは、通常、17、8の男女がおこなうデートではなく、朝から晩までくんずほぐれず交わり合った。
しかし、いくらなんでも、いつも同じ相手ばかりというのは、そのうち飽きがくる。わたしは、もっと違うタイプを試してみたい、と思うようになっていた。
そんなある日のこと、わたしはいつものように由香里の家を訪れた。あいにく彼女は留守にしていて、出勤前の母親が身づくろいをしていた。
「もうじき帰ってくると思うから、待っててな」
化粧を済まし、髪の毛を整え、母親は派手なドレスに着替えるところだった。
由香里の母親は早くに子どもを生んだので、そのときはまだ30半ば過ぎだった。当時のわたしにとっては十分おばさんの範疇に入る年齢だが、そういう考えを起こさせない魅力に包まれていた。わたしは緊張から、身を固くして由香里の帰りを待っていた。
「なあ、ちょっとこっちへ来てくれへん」
そのとき、母親がわたしを呼んだ。なんだろうと思って彼女の部屋に入ると、半裸の状態でわたしに背中を向けたのであった。
「うしろのチャック、あげてくれへん?」
わたしはどぎまぎしながら彼女に近寄った。目の前にあるのは、シミひとつない美麗な肌とブラジャーのライン、髪をかきあげあからさまになったうなじ。わたしは震える手でチャックを持ち、あげる。
「ありがとう」
髪の毛をおろした彼女は、わたしを見てほほ笑んだ。
化粧の施された表情は、派手ではあるが心を揺るがす色香を醸している。わたしは、由香里の母親の顔を呆然と見つめていた。すると彼女も顔から笑みを消し、わたしをじっと見つめる。
「シたい?」
「え?」
「由香里みたいなネンネの相手ばっかりやったら、しょうもないでしょ。大人の女、知りたい?」
わたしは何もいえなかった。すると彼女はわたしの手をとって、自分の胸に押しつける。
「エエんよ、好きなようにして」
わたしはごくりとつばを飲んだ。そして、彼女の顔は間近に近づいてくる。
「ただいまぁ」
そのとき、由香里が戻ってきた。わたしは慌てて母親の部屋を出、そのまま何食わぬ顔で由香里の部屋に入ったのだった。
その日も由香里とセックスしたが、頭の中では彼女の母親のことが忘れられなかった。
由香里の身体は、まったく緩みを見せないほど張り詰め、わずかな光でも光沢を放つほど肌は艶やかだった。手のひらにあまる乳房といい、窮屈に締まる陰部といい、甲高く発せられる喘ぎ声といい、贅沢すぎるほどの若さを惜しみなくさらけ出してくれた。けれど、あの母親の妖艶さや淫靡さは持ち合わせていない。とろけてしまうような色気はない。
数日後の日曜日、由香里とは友だちとの約束があるといい、わたしは手持ち無沙汰に町をぶらついていた。なぜかその日は、由香里に会いたくない気分だったのだ。
すると偶然、由香里の母親と出会った。
「よかったら、いっしょにご飯でも食べへん」
誘われるままに食堂へ、そして居酒屋へ。
「もう18やもん、酒ぐらい飲めるやろ」
うちは酒飲みの家系だから、未成年といえども正月や冠婚葬祭で飲まされることは多かった。だから、ビールくらいなら平気で飲み干すことはできる。
「すごい、男らしい! 由香里が惚れるはずや」
互いに注ぎあいながら、ビール瓶はどんどん空になる。酔いが回るにつれ、わたしは大胆に、そして母親も妖しくなってくる。
「この前のこと、おぼえてる?」
「この前?」
「由香里が留守のとき、背中のチャック、あげてもろたときのこと」
「うん」
「続き、シたい?」
わたしに断る勇気はなかった。
由香里の母親に誘われるまま、ホテルへ。そこでわたしは、生涯二人目の女性を相手にした。しかも、一人目と二人目は、血のつながった親子だ。親子といえども、感触や与えられる感慨はまったく違う。
母親はわたしをリードし、挿入も馬乗りになって導いてくれる。触れれば吸いつく肌の感触や、自分が気持ちよくなりながらも相手の興奮や快感を誘ってくれるテクニックに、わたしは夢見心地となる。
「そう、そこ、もっと、そこを……、あん、いい、気持ちいい、すごくいい」
果てても、咥えて大きくしてくれる。舌の絡みつきやほほの吸いつきで、由香里では味わえない、由香里以上の光悦感を与えてくれる。
「ボクは由香里よりも……」
とうとうベッドの中で、わたしは告白してしまった。
しかし、その帰り道、腕を組んで歩くわたしと母親に、由香里はばったり出くわしてしまったのだった。
「お、お母ちゃん……」
由香里は絶句し、そのまま、どこかへ走り出した。
「アカン、最悪や」
そうつぶやいたのはわたしではなく、母親のほうだった。
それをきっかけに、由香里との関係は終わりを告げた。母親も、わたしより由香里を選んだ。
「やっぱり、たった二人の親子やし、あの子に辞められたら店も困るから」
わたしは、その後、大学に進み、それなりの企業に就職した。いま由香里と彼女の母親が、どこでどう生活しているか知らない。住む世界がまったく違うようになってしまった二人との接点は、なくなってしまった。
【選者紹介】
長月タケオ(ながつきたけお)
1962年生大阪府出身在住。1988年官能小説誌への投稿でデビュー。
1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作受賞。
おもな著作『ひとみ煌めきの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)
『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)
『禁断の熟女』(ベストロマン文庫・共著)
『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)
『誘惑する女 熟女たちの悦楽』(九月堂・電子版)
ほか
長月タケオ『誘惑する女 熟女たちの悦楽』
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