Catch Up
キャッチアップ

このコーナーは官能小説家の長月タケオ氏が一般の中高年読者から寄せられた「性の告白」をご紹介するものです。そこにはシニアである我々同世代が共鳴する「あの頃」の時代背景があり、実体験ならではの生々しい「性の現実」があります。懐かしくも妖艶な古き良き官能の世界をご賞味頂ければ幸いです。編集長
【本気で娼婦を愛してしまい散財したわたし】
M・T 79歳 神奈川県在住
初めて女を知ったのは18のときだった。相手は赤線の女郎。勤めていた土建屋の先輩に連れて行ってもらった。
先輩は慣れた足取りで行きつけらしい店に入る。
「あら、お久しぶり」
店の女将らしい中年女は、先輩の顔を見ると愛好を崩した。
「最近、ごぶさただったじゃないの」
「仕事が忙しいんだよ。でな、今日は連れがいるんだ」
「こちらの方?」
女将はわしをじろじろと見る。
「そうだ。現場の新人でな、なんでも女を抱いたことがないらしい」
「あら? そうなの」
「だからだな、手ほどきしてくれる誰かをあてがってやってくれねえか」
「そうね、じゃあ、アケミちゃんかサユリちゃんなんてどうかしら」
わしは一言も口がきけずにいた。先輩と女将の話を聞きながら、物珍しくて店の中をキョロキョロ見まわす。
赤いじゅばん姿に素肌もあらわな女たちが、姿を見せては消えていく。いままで見たこともない玄人女の艶やかさに、身体が風邪を引いたようにカッカしはじめる。
「じゃあ、サユリちゃんでいいわね、サユリちゃ~ん」
女将は店の奥に向かって声をかけた。ほどなくして、長い髪を垂らしたやせ型の女が姿をあらわす。
「はあい」
「サユリちゃん、この子のお相手お願いね」
「この子? どの子?」
「目の前にいるじゃない」
女はつりあがった目でわしを見る。わしは気恥ずかしさと緊張でもじもじしてしまう。
「ふ~ん」
「この子、初めてらしいんだよ。アンタ、初物食いが好きじゃないか」
「好きだけど……」
サユリはわしを見くだしたようにじろじろ見た。
「ま、いいか」
何が「ま、いいか」だとわしは思ったが、18の子せがれが商売女に言い返せるはずもない。
「じゃあ、2階へ」
サユリはわしに背中を向け、階段をあがろうとした。そのとき、奥から別の女が顔をのぞかせたのだ。
「お母さん、アケミ姉さんがお茶をちょうだいって」
その女を見た途端、わしの身体はしびれたように動かなくなった。
歳はわしと同じくらいだろうか。背が低く、ぽっちゃりとした身体つきで、パッチリとした目が愛らしい。
「お、お佳代ちゃん……」
わしは、むかし離れ離れになった幼なじみの名前を思わず口にしてしまった。
「え?」
女は不思議そうな顔でわしを見る。
「アタイはそんな名前じゃないわよ」
「そ、そうだろうけど……」
「なんだ、知り合いに似てるのか?」
先輩は言う。わしは大きく首を縦に振る。
「どうするんだい。あがるの? あがんないの?」
サユリは業を煮やしたようにいう。
「お、オレ、あの子……」
「サヨコかい? あの子はまだ日が浅くて。慣れた人なら別だけど……」
「け、けど」
わしはいまにも泣き出しそうな顔で先輩に助けを求めた。
「そうか……、おい女将、こいつにあの子を頼まぁ」
「まあ、お客さんのご要望とあれば……」
「そうしなよ。アタイも気に入られないで相手すんのもしゃくだしさ」
サユリがいう。
「そうかい。わかった、そこまでいうんなら」
女将はサヨコに耳打ちする。サヨコはわしの顔を見て、それからニッコリ笑ってうなずいたのだった。
つれて行かれたのは3畳の狭い部屋だった。窓はなく、電球式のぼんぼりがほのかな明かりを照らしていた。
「アタシ、そんなに誰かに似てたの?」
部屋に入ってせんべい布団の上に座り、サヨコはいった。
「幼なじみの女の子に」
「はじめて好きになった人?」
わしは驚いてサヨコの顔を見る。サヨコは薄暗がりの中で、かわいい笑みを浮かべていた。
「じゃあ、今日はアタシを、その子だと思って」
「いいのか」
「いいわよ」
サヨコはわしにしなだれかかってきた。化粧の甘い香りが鼻をくすぐる。目を落とせば、着物の襟もとから乳の谷間が見える。
「ホントはね、こんなことしないのよ」
サヨコはそういって、わしの唇を自分の唇でふさいだ。わしはそのねっとりとした感触と温度で、わしは早くも珍棒をとがらせてしまう。
「お、オレ……」
「ふふふ、おっぱい触って」
向かい合い、サヨコは帯をゆるめて襟もとをひろげる。わしは恐る恐るサヨコの乳に手を伸ばす。
「あん……」
指先が触れた途端、サヨコはかすかな声を上げた。わし驚き、手を引っ込めてしまう。
「どうしたの?」
「い、いいや……」
「ふふふ」
サヨコはわしの手を取って、自分から胸に当てた。やわらかでふくよかな感触に、わしの心臓は激しく打つ。
「気持ちいい?」
「あ、あ、ああ」
「もっと気持ちよくしてあげる」
サヨコはわしの服を脱がす。そしてパンツ1枚にすると、今度は自分の着物を脱ぐ。真っ裸になったサヨコの肌は真っ白で、尻が張り出し、乳も大きくふくらんでいた。わしはそんなサヨコをじっと見つめた。
「恥ずかしい」
サヨコはそういって布団の上に寝そべった。
「さあ、きて」
「い、いいのか」
「おカネ、払ってるんでしょ。時間がもったいないわよ」
「けど……」
「おカネのこと、言ったらダメだった?」
「そんなこと、ないけど」
「じゃあ、今日のアタシはあなたのほれた女の子、アタシも……」
サヨコは身を起こし、わしの肩に手をまわして、もう一度接吻した。そのまま二人は崩れ落ち、わしはサヨコの上に覆いかぶさる。
「さあ、挿れて」
サヨコは大きく脚をひろげる。わしはパンツを脱ぎ捨て、あてがう。しかし、一物は大きくふくれ上がっているものの、どこにどうねじ込めばいいかわからない。サヨコも、この仕事をはじめて間もないので、わしをうまく導くことができない。
「そこじゃない、もっと下」
「こ、ここか……?」
「違う、そこじゃない……、い、痛い!」
サヨコの股ぐらをつついて、わしはオ○ンコの穴を探した。しかし、あせればあせるほど、どこにあるかがわからなくなる。
「ほ、ほら、ココ……」
「ここか?」
「もうちょっと、もう……、あ!」
ずにゅりとした感触と同時に、わしはサヨコの中に入った。中はぬるぬるで温かくて、ときおり締めつけてくる。
「は、入った」
「うん、動いて」
「こ、こうか……」
わしは腰を振る。サヨコは甘い声を出し、眉間にしわを寄せてわしを受けとめてくれる。
「そ、そう、そこ、そこ」
「あ、ああ、あああ」
「気持ちいい?」
「いい、あ……」
わしはほどなくして漏らしてしまった。サヨコはあっ気ないわしに不満な顔を浮かべず、やさしくいってくれた。
「初めてだからね、仕方ないよ」
そんなことがあってから、サヨコのことが気に入ったわしは、その後も一人で通うはめになった。
サヨコは、わしが来れば大喜びで迎えてくれた。ときには菓子などのみやげも持参した。なじみになると、サヨコは田舎のことを話したりした。
「おカアが病気でね、だからアタシは……」
「お父さんは?」
「戦争で死んだ」
「そうか」
「もっとおカネがあれば、こんなところから抜け出せるんだけど」
それを聞いたわしは、サヨコに遭うたびにいくらかのカネを渡した。サヨコは遠慮しつつも喜んで受け取り、きちんと貯金しているといってくれた。わしはなけなしの給料を、ほとんどサヨコにみついだ。そんな日が3ヶ月ほど続いたある日。
「サヨコはもう、ここにいないよ」
わしはてっきり、カネが貯まったので、田舎に帰ったものだと思った。しかし、女将は言った。
「酒屋の小僧とできちゃってさ、ドロンだよ。こっちはいい迷惑だ」
なんでも出入りの酒屋の御用聞きにほれて、サヨコは手に手を取って逃げ出したらしい。
「あの子、貯金してたらしいね。それほどウチで稼いでたわけでもないのに」
わしはうなだれてその場を去った。それからはしばらく、女というものが信じられなかった。
【選者紹介】 長月タケオ(ながつきたけお)
1962年生大阪府出身在住。1988年官能小説誌への投稿でデビュー。
1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作受賞。
おもな著作『ひとみ煌めきの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)
『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)
『禁断の熟女』(ベストロマン文庫・共著)
『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)
『誘惑する女 熟女たちの悦楽』(九月堂・電子版) ほか
長月タケオ『誘惑する女 熟女たちの悦楽』
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