いつの時代でも、何かに夢中になっている少女の姿ほど美しいものはありません。

私の目の前にいる「その少女」も無心になって携帯を操っておりました。

もしかしたら、恋人とメールのやり取りでもしているのでしょうか。

窓の外を流れる街の景色などまったく眼中にないようです。

電車が停車駅に着くと、ときどき思い出したように顔を上げて駅名を確認するのですが、すぐに視線は携帯へ戻ってしまいます。

マスクをしているので、ハッキリとはわかりませんが、おそらく年の頃は二十歳前後でしょうか。

パッチリとした瞳とサラサラの黒髪が印象的な娘です。

携帯がない時代だったら、間違いなく『リルケの詩集』が似合うでしょう。

ガタンゴトン、ガタンゴトン……。

電車の振動が彼女の小さな体に心地よいリズムを送っています。

夕暮れ時の車内には夕刻の薄日が差し込み、なんともいえぬ風情を醸し出しています。

嗚呼、なんて美しい光景なんでしょう。

しばらく「その少女」を中心にした空間に浸っていた私ですが、そのうち妙な違和感を感じるようになってまいりました。

何か、この空間には「あってはならないこと」が起きているような気がするのです。

原因はその少女の「指の動き」でした。

携帯をいじりながら、時折マスクの中に人差し指を突っこんでいるのです。

モゾモゾモゾモゾ……。

マスクで隠れてはいるものの、どう見ても鼻クソをほじっているようにしか見えません。

いやはや、まさか。

しかし、それが「疑い」から「確信」に変わるまでに、さほどの時間はかかりませんでした。

なぜなら、彼女が顔の形が変わるほどあからさまに鼻クソをほじり始めたからです。

ひーーーーーーっ！

携帯画面に夢中になっている少女には、目の前で知らないオヤジが腰を抜かしていることなど、知るよしもありません。

それどころか、さらに本格的な「採掘作業」へと移行し始めたのです。

ポテグリポテグリ、グリグリグリ……。

もはやマスクは有って無いような状態にまでひしゃげています。

あわわわわわっ！　ひーーーーーーっ！

トイメンの席にいる哀れな中年男は、もはや脱糞寸前状態。小学生の時以来の暴挙直前にまで追い込まれてしまいました。

しかも、それに輪をかけてオゾマシイ事態が起こったのです。

「パクリ」

おわっち！　た、食べた？　食べたのか？

「モグモグ」

ドシーーーっ！

マスクの下の少女の顎は確実に動いています。

そして妖しく光る指をチラ見すると、まるでナニゴトもなかったかのようにまた携帯を弄り始めました。

ぎゃあああ。

夏だというのに気絶しそうです。

その後、少女は何食わぬ顔をしながら電車を降りて行きました。

後日、このことを知人女性に話したところ、こんな答えが返って来ました。

「それはたぶん、性欲が溜まっているんだと思うわ。そもそも、女の子にとって鼻クソを食べる行為は意外とポピュラーなのよ。性欲が満たされれば治るから、あまり気にしないことね」

本当でしょうか？

いや、絶対に違うでしょう。

しかし、もしこの知人女性の言うことが当たらずとも遠からずの話であるならば、ステイホーム中の女性たちはタイヘンなことになっていたに違いありません。

皆さんも身近な女性が鼻クソを食べ始めたら、それとなく気遣ってあげてください。

文責：編集長原田