Catch Up
キャッチアップ

このコーナーは官能小説家の長月タケオ氏が一般の中高年読者から寄せられた「性の告白」をご紹介するものです。そこにはシニアである我々同世代が共鳴する「あの頃」の時代背景があり、実体験ならではの生々しい「性の現実」があります。懐かしくも妖艶な古き良き官能の世界をご賞味頂ければ幸いです。編集長
【未亡人の貪乱な舌使い】
O・J 65歳 埼玉県在住
日課の散歩に出かける道すがら、つい足を止めてしまう家がある。趣のある古いしもた屋だが、山茶花らしき垣根からのぞく庭には、色とりどりの季節の花が誇らしげに咲いている。
「きっと、高尚な趣味のご婦人が手入れをされているのだろう」
わたしはそう思いながら、その本人を見たくて雨や風の日以外、その見事な庭をながめるために、ぶらっと家を出るのだった。
それは水仙や梅の花が咲くようになった頃。わたしがいつものように足を止めて庭をながめていると、一人の婦人が縁側からおりてきた。年齢はわたしと同じくらいだろうか、和服を身につけた清楚な風情の女性だった。
彼女はわたしに視線に気づき、軽く頭をさげた。わたしも会釈を返す。
「失礼ですが、何か?」
「いえ、あまりにもお庭がきれいなもので、つい見とれてしまって」
その言葉に、彼女は満面の笑みを浮かべる。
「それは、それは。よろしければ、なかに入ってゆっくりご覧ください」
「え、いいんですか」
「はい、なんのおかまいもできませんが」
わたしはちゅうちょしたが、せっかくの誘いを断るのは無粋だと考える。
「では、遠慮なく」
「どうぞ、どうぞ」
彼女は玄関にまわって扉を開けてくれた。わたしはかすかな緊張をおぼえながら、あがりかまちに足をかけたのだった。
縁側に腰かけ、庭をながめていると、彼女がお茶と菓子を持ってきてくれた。
「あ、これはどうも」
「こんなものしか用意できませんが」
「いえいえ、十分です」
わたしのとなりに座って、同じように庭をながめる婦人。その横顔は歳相応のしわやたるみはあるものの、若い頃はきっと美人、いや今でも十分美しいと思わせる気品に満ちていた。
「失礼ですが、お一人でお住まいですか?」
縁側にたどり着く途中、居間に置かれた仏壇に、夫らしき人物の遺影が飾られているのをわたしは思い出す。
「はい、主人は4年前に亡くなり、子どもたちも独立しました」
「おさびしくはないですか?」
「さびしくないといえばウソになります。けど、わたしは一人のほうが好きな性分で」
「ほお、それはもったいない」
「え?」
「いえ、あなたのような美しい方が、家にこもって過ごしているだなんて」
「あら、いやですわ」
ほほに手を当て恥ずかしがる姿は、まるで乙女のようだとわたしは思った。
「でも、本当にきれいな庭だ。手入れされている方の気持ちが、如実にあらわれています」
「わたしは昔から庭いじりが好きで、お花も大好きで。花の世話をしているときが一番幸せなんです」
「なるほど」
「でも時々、このまま老いていくことが怖い日もあります。夜寝るときとか」
「一人寝がおさびしい」
「ええ、まあ」
沈黙がよぎる。わたしは、ひょっとして誘ってくれているのか、という疑問をおぼえる。
「あ、お茶が冷めちゃいましたわね。新しいのと入れかえてきます」
「いえいえ、もうわたしはこれで」
「え? 帰られるんですか?」
「はい、あまり遅くなると、息子の嫁が心配するもので」
「まあ、お子さまのご夫婦とご同居」
「はい、わたしも妻を2年前に亡くしましてね、それからずっと」
「それはそれは」
彼女は急に、さびしそうな表情に変わった。
「ごちそうさまでした。いや、久しぶりに命の洗濯をしたようです」
「いえ、なんのおかまいもできずに」
「では」
わたしが玄関に出て立ち去ろうとすると、彼女が背中に呼び止めるような声をかける。
「また……」
「はい?」
わたしはふりむく。
「また、きてくださいますよね」
まるで、恋人が遠く離れて暮らす愛しい人へ、哀願するような表情。
「え、ええ……、はい、おじゃまじゃなければ」
「では、いつ」
「え?」
「いつ、お越しくださるんですか」
「え、ええと、あしたにでも」
「うれしい、お待ちしてます」
打って変わって、満面の笑みを浮かべる彼女。わたしも40年以上若返ったような気分になり、はずむ心と足どりで、家路をたどったのであった。
その日から、彼女とのつき合いが始まった。名前は佳代子。亡き夫との間には一男一女をもうけたが、息子は母との同居を嫌がる嫁を優先し、娘は外国人と結婚したらしい。
「それは、それは」
「だから、あなたがうらやましくって」
「いえ、同居も気をつかうばかりで、あまりいいものじゃありませんよ。それよりも、楽しい時間を過ごさせてくれる相手がいるのなら、一人のほうが気は楽」
「わたしに、そんな人は」
「わたしがいるじゃありませんか」
わたしは佳代子さんの目をじっと見つめた。彼女もわたしを見つめてくれたが、すぐに恥ずかしそうに顔を伏せる。
「いやですわ。からかわないでください」
その姿に、わたしは欲情をおぼえてしまった。
こう見えても、若い頃はそこそこ女泣かせでならしたわたしだ。いったん春情に火がつくと、もう止まらない。
「佳代子さん」
わたしは彼女の手を握りしめる。
「わたしじゃ、ダメなんですか」
真剣なわたしの眼差しに、佳代子さんも視線を返してくれる。
「わたしのような老いぼれに」
「なにが老いぼれなもんか。佳代子さんには、若い女にない色気と美しさがそなわっている」
「本当に、わたしでいいんですか」
「はい」
わたしは佳代子さんの手を、自分の方に引っ張る。彼女はあらがいもせず、胸の中に飛び込んでくる。
「奥へいきましょう」
佳代子さんはポツリとつぶやいた。
奥の間には布団が折りたたんであった。わたしがひろげると、佳代子さんは背中を向けてその上に座る。
「ふしだらな女と思わないでください。主人以外では初めて…」
わたしはその言葉を封じるように、背後から抱きつき、唇をふさいだ。
「こ、こんな気持ち、初めてです。ついこのあいだ、知り合ったばかりなのに。どうしてでしょう」
「男と女というものは、そんなものです」
「お願い、やさしくしてください」
わたしは佳代子さんの帯をとき、襦袢を脱がす。和装の下に下着はつけていない。わたしも大急ぎで裸になり、佳代子さんにのしかかった。
めくるめく快感が、わたしの身体を走りぬけた。佳代子さんの肌は、艶やかでなめらかだった。そして陰部に手を伸ばすと、生娘のような声をあげる。
「ああ、かんにん」
十分に濡らして、いざ突入。久しぶりの興奮を、佳代子さんの中にぶちまけたのだった。
それがきっかけだった。その日から、身体の火照りをおさめる行為に、佳代子さんはのめり込んでしまったのだ。
どこから手に入れたのか、若い女が肌もあらわに悶え狂う雑誌を見て、わたしに質問する。
「この子、殿方のアレを咥えてますけど、これって気持ちいいんですか」
「いや、気持ちいいかどうかは、咥えたことがないもんで」
「いやですわ、殿方の方です」
「ああ、それなら、口とアソコの構造は似てるといいますから」
「ためしてみます?」
淫猥な眼ざしで、わたしを見つめる佳代子さん。これまでの優雅な品位はそこわれていたが、それはそれで愛しく思える。
わたしは裸であお向けに横たわる。佳代子さんはきちんと足を折り曲げて座り、わたしの股間に顔をうずめる。
「むううう」
舌使いやからめ具合は上手といえないが、久しぶりの心地よさに、わたしは光悦となる。
「ふううんふん、ううん」
頭を上下させ、抜き差しを繰り返す佳代子さん。
「ああ、そんなことしたら」
「出るんですか? いいですよ、出しても」
「しかし」
「女も気持ちのいいものです。初めて知りました。だから」
佳代子さんは激しく首を振った。わたしは辛抱たまらず、その口の中に射精してしまったのだった。
口での行為がよほど気に入ったのか、佳代子さんはその後も、わたしが訪問すると真っ先におしゃぶりをしてくれた。
「あなたの気持ちよさそうな顔、見られるのもうれしい」
そんなことも言ってくれる佳代子さん。庭は荒れ放題となり、花も咲かなくなったが、その代わりをやっと見つけたようだ。
わたしにとっても動きが少ないだけラクチンだし、佳代子さんがこの歳になって淫乱になっても、だれも迷惑するまい。そんなことを思って、毎日通いつづける今日この頃だ。
【選者紹介】
長月タケオ(ながつきたけお)
1962年生大阪府出身在住。1988年官能小説誌への投稿でデビュー。
1995年第1回ロリータ小説大賞(綜合図書主催)佳作受賞。
おもな著作『ひとみ煌めきの快感~美少女夢奇譚』(蒼竜社)
『病みたる性本能』(グリーンドア文庫)
『禁断の熟女』(ベストロマン文庫・共著)
『19歳に戻れない』(扶桑社・電子版)
『誘惑する女 熟女たちの悦楽』(九月堂・電子版)
ほか
長月タケオ『誘惑する女 熟女たちの悦楽』
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【中高年の性告白バックナンバー】
◀【バイブを隠し持っていた女房】
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